企業が学生に対して、他社の内々定を辞退するよう強要したり、選考を受けられないように妨害したりする「オワハラ(就活終われハラスメント)」。最近では、就活生の間や世間でもこの言葉が浸透してきたように思います。
ワンキャリ編集部では、これまで2年にわたってオワハラ調査を進めてきましたが、その中には「無理やり手帳を確認される」「いきなり終日拘束を宣言する」といったものから「内定を辞退しようとした学生に脅しをかけ、暴力を振るう」といった信じがたいケースまで報告されています。
参考記事はこちら
・【実録】就活市場からオワハラを根絶するまで、辞めません。「オワハラ調査2019」開始
この記事にも書いた通り、「オワハラ」は職業選択の自由を奪う卑劣な行為ですが、企業側が圧倒的に有利な立場にあることから、その実態は、なかなか表に出てこないのが現状です。
総合商社「三井物産」が一斉送信したメールの衝撃
就活生にとっては悩ましい問題ですが、最近はその風潮も変わりつつあります。先日、総合商社の「三井物産」が選考候補者に送信したメールが、SNSなどで話題に上がっているのをご存じでしょうか。こちらが、編集部が独自に入手した実際のメールの文面です。
三井物産株式会社人材開発室長の古川です。
いよいよ面接日程が近づきつつあり、期待や不安が入り混じった心境かと思います。このタイミングで皆さんに改めてお伝えしたいことがあり、メールさせていただきました。
三井物産の面接は、当社や総合商社の理解度を問うものでは無く、皆様のこれまでに取り組んできたことや、思いをそのままピュアにぶつけていただくことで、三井物産で充実した社会人生活をスタートできるかどうかをお互いに確認しあう場です。ぜひリラックスして、面接選考に参加いただければと願っております。
なお、6月を迎えるにあたって、他社から内定と引き換えに就職活動を終えるように指示(いわゆるオワハラ)を受けたり、6月初旬に拘束されるといった相談が複数寄せられております。
皆さんが「他で内定を貰えないかもしれない」という不安心理を利用し、将来の選択肢を捨てさせる行動が良識ある企業としてすべきかどうか、ということに非常に疑問を感じます。
自分が社会に出て働く会社を選ぶことは憲法で保障されている皆さんの職業選択の自由と言う権利です。一度もらった内定を断るのも同様に皆さんの権利です。
「指示通りに就職活動を終えなければ裏切りになる」といったことを心配される場合もあるかもしれませんが、そもそも皆さんの権利を奪っていること自体が、問題視されるべきことだということを冷静に認識してもらいたいと思います。
就職活動を行っていると色々と辛いこともあると思います。ただ、このような選択の機会は人生にそうあるものではありません。皆さんがオワハラを受けたり、内定をもらったからと言って就職活動を中途半端に終わらせるのではなく、是非最後まで就職活動を全うし、選択肢を持った中で、自分が行くべき企業を見つけて頂きたいと思います。
三井物産では、日本の採用を変えたいという思いをもとに、当社の採用選考に関連する他社拘束・オワハラに対応するため、相談窓口を開設させて頂くことといたしました。もし当社の面接選考の参加にあたってお困りのことがございましたら、以下の2種の方法からご相談ください。
■お問い合わせフォームへの連絡:✕✕✕✕✕✕✕✕(※URL)
■オワハラ相談ホットラインへの電話連絡:○○○-○○○○-○○○○
※上記電話番号は5月23日(木)から6月28日(金)まで、平日8:00-20:00の間に応対が可能です(6月1日・2日は対応いたします)。
なお、不在着信(番号通知有)の場合は、折り返しご連絡いたします。
皆さんの就職活動が納得のいくものになることを心から願っております。
6月に皆さんにお会いできることを楽しみにしております。
三井物産株式会社 人材開発室 室長 古川 智章
オワハラ相談ホットラインはなぜ生まれたのか? メールの真相を古川氏に直撃取材
オワハラに悩む就活生を救う「オワハラ相談ホットライン」。企業としては画期的な取り組みですが、その背景について、メールの差出人である、三井物産の古川氏にお話を伺いました。
──今回、「オワハラ相談ホットライン」を設置したきっかけを教えてください。
古川:オワハラというのはバブル期からあったように思いますが、「内定をもらった企業から、選考解禁日付近を拘束されて困っている」という相談が毎年寄せられていました。こうした、就活生の不安な心につけ込む方法には昔から違和感があったんです。
最近では、経団連の「就活ルール」が形骸化し、選考解禁日の前に内定を出す企業も増えたこともあって、相談の件数は増え続けています。こうした背景から、ホットラインの設置を提案しました。
──実際のところ、オワハラに対する相談というのはどれくらいあるものなのでしょうか?
古川:特に今年は多い印象があります。確認できているもので17件(5月24日時点)。これから6月1日にかけてさらに増えていくでしょう。企業が有望な学生に電話をかけるのはこれからが本番です。
──ホットラインの設置に対して、社内ではどのような反応が出ていますか?
古川:上司である役員も快諾してくれましたし、部署のメンバーも皆賛成してくれました。採用広報でいつも最後に話す内容でもあり、三井物産の立場がどうこう、というよりも就活生に「当たり前」のことを伝えているという認識です。不安な就活生を拘束し、脅して企業に入れるって、好きになった人を監禁してしまうような話ですよね。大人として恥ずかしい行為だと思います。
確かに優秀な人には来てほしいですが、内定を断られたとしても、私たちは彼らを怒れる立場にないんですよ。当社を辞退する人も当然いますが、彼らの判断であり、われわれとしては受け入れざるを得ない。採用チームのメンバーが「頑張ってね」と送り出すようにしています。
また、私自身、同僚から「自分の息子がオワハラを受けている」と相談されたことがあります。内定を断った企業の人事から「日本の各企業の人事部はつながっているから、他の会社に共有して、他社で働けないようにしてやる!」と凄い剣幕で怒られ脅されたとか。あり得ないですよね。
──オワハラ相談ホットラインには、どのような相談が寄せられているのでしょう?
古川:メールにも書いているように、日程の拘束に関するものが多いですが、中には弊社の選考と全く関係ない話もありました。内定を辞退しようとしたら「訴訟を起こす」と迫られたというんですよ。
──それは厳しい……。とはいえ、三井物産の選考には直接関係ない話ですよね? そういった相談にはどう対応するんですか?
古川:彼らも苦しんでいるので放ってはおけません。弊社の顧問弁護士さんに相談し、どのように対処すればいいか、一般的な意見として参考にしていただけるよう、アドバイスを送っています。
──それはすごい。オワハラの解決に注力している覚悟がうかがえます。学生からの反応はどうでしょう。SNSでは「神対応」や「他社の人事にも見てもらいたい」といった発言がありました。
古川:そうですね。クチコミサイトを中心に、ポジティブな反応が広がっていると聞いて安心しています。
──古川さんから見て、今後オワハラはなくなると思いますか?
古川:すぐには難しいでしょうね。人事側も採用は必死ですから。しかし「職業選択の自由」というものは、憲法で保証されている権利。また、労働者には辞職の自由があり、「内定」辞退も自由であることは民法にも規定されています。自ら決めるものであって、企業が決めるものではありません。ホットラインなどの活動を通じて、オワハラに対して一石を投じられればと思っています。
学生にとっては人生の一つの岐路。最期まで就職活動を全うし、悔いのない結果を得てほしいです。
就活の透明化は、日本を代表する企業が主導しなければ進まない
ワンキャリアは常に「フェアな就活メディアであろう」と、多くのコンテンツを掲載してきました。最近では、事実やクチコミを基に踏み込んだ内容を発信することもあります。こうした情報は、就活が透明化し、ウソがバレる時代へと移っていく中で、どんどん増えていくでしょう。
古川さんの力強い言葉からは、オワハラという問題、そして学生に対して真摯に向き合っていることがうかがえました。
三井物産のような、日本を代表する企業が採用に対するスタンスを明示することは、フェアな就活の実現に向けた大きな一歩になるでしょう。こうした情報を学生に、そして企業の人事へと届けることがメディアの使命なのだと信じています。
今年も「オワハラ調査2020」スタートします
もちろん、全ての企業でオワハラが起こっているわけではありません。「オワハラを受けた」と報告されている企業はごく一部。しかし、そのオワハラを根絶するまでワンキャリアの戦いは続きます。
今年もワンキャリアでは「オワハラ調査」を実施します。昨年に記事を公開した際は、就活人気ランキングの上位にある、JT(日本たばこ産業)、三菱商事、野村総合研究所(NRI)の人事担当の方々から、就活生へのエールをいただきました。
オワハラを終わらせるには、まずは就活生が声を上げることが重要だと考えています。あなたが受けたオワハラのエピソードをぜひ、こちらのフォームにお寄せください。
この悪しき風習を次の世代に引き継がないためにも、ご協力いただければと思います。よろしくお願いします。
(Photo:Maria Savenko、Nesterov/Shutterstock.com)