最近、就活生と話していると、「受験とか色々今まで頑張ってきたし、正直『安定』したいんですよね~」という声を聞きます。分かります、その気持ち。部活、受験、就活etc……。今まで頑張った分、そろそろ休みたいですよね。しかし、ここで残念なお知らせです。実は日本社会で得られる「安定」とは、意外に高嶺の花なのです。
5年に1回、家族でグアムは贅沢ですか
安定した生活とはどのようなものをイメージしますか? 例えば八王子のファミリーマンションに住み、月に友人と1000円のランチを3回、子供は2人(できれば私立)、5年に1回は家族で海外旅行……といった生活はどうでしょう。
え、それくらいが最低ラインですか? できれば東京23区に住みたい? 5年じゃなくて2年に一回くらいはパーッと派手に海外で遊びたい? 実は、この例は年収1000万円の家庭の例です。
以前、女性向けのサイト「wotopi(ウートピ)」に「『仕事がしんどい』だから専業主婦に逃げようとしている貴女へ」というタイトルの記事が掲載されました。
ここではファイナンシャル・プランナーの人が、具体的に年収1000万円の家庭がどのような生活をしているのかをシミュレーションしています。共働きであれば、500万円ずつの収入でしょうか(税金は除く)。しかし、リアルな平均年収は500万円には届かない415万円。男女別にみると男性は514万円、女性は272万円です(出典:国税庁「平成26年分 民間給与実態統計調査」)。
このような現状において、全国平均年収の約400万円では家族をもつことだけでもかなりハードルが高いことがわかります。特に、何をするにも高くつく都心では尚更です。
安定のイメージがある日系企業、本当に安定?
多くの人が当面の目標に掲げている「年収1000万円」。しかし、実際に30歳で年収1000万円に到達する企業は、上場企業の中でも商社、マスコミ、広告、大手銀行などとかなり限られてきます。
ただ、残念ながら「大手に入れば安定がつかめる!」ということではありません。例えば、今世間を騒がせている東芝はかつては超優良企業として知られ、2012年には就職ランキング理系部門で4位(※1)でした。一時期の東京電力、神戸製鋼所の例などにもあるように、大手日系企業であってもずっと安定して働けるとは限りません。
また、技術革新に伴う社会全体の変化で会社や業界が置かれている状況が一変することも往々にしてあります。例えば経済産業省は、AIやロボットなどの技術革新によって、2030年度には国内雇用が735万人減る(※2)との試算を発表しました。この数字はなんと、日本の労働人口の1割に当たります。また、自動運転技術や電気自動車の普及、そしてUberに代表されるライドシェアサービスは、自動車産業や私たちの生活を一変させるでしょう。
皆さんも少し思い返してみてください。10年前、LINE使ってましたか? Amazonで買い物していましたか? TwitterやInstagramで近況を確認していましたか? そもそも、いま肌身離さず持っているスマホ、その時ありましたか?
ここまでの変化が「たった10年」。これから新卒で社会に出る皆さんは、定年までとすると約40年働くことになります。そのころには「定年」という概念もなくなっているかもしれませんね。
話がそれてしまいましたが、要するに「日系企業に入ったからといって、決して安定ではない」ということです。
(※1)出典:就職・転職ナビ「過去30年の就職人気企業ランキング」
(※2)参考:日本経済新聞「AIやロボ、対応できないと雇用735万人減 30年度経産省試算」
外資系戦略でも、500万円しか稼げない?
このように考えると、安定のイメージがある日系大手企業に入っても「安定」はつかめるとは限りません。それなら外資系企業はどうでしょう。例えばコンサル。確かに、アクセンチュアやデロイトを中心とした総合系コンサルティングファームが最近とても求人を募集しています。若いうちから圧倒的に成長できる(できそう?)な環境やスピード感のある選考に惹かれて、就活業界でもある意味「登竜門」として大人気です。
しかし、ここで忘れてはいけないことは、外資系企業は「成果報酬型」だということです。例えば某外資系戦略コンサルファームの新卒1年目の年収は500万円程度ですが、ずっと500万円にとどまる人も(いずれクビ)もちろんいます。実力主義なぶん評価はフェアで、昇進した人は転職においてもキャリアアップが得やすいですが、単に外資系に入ったからといって、安易に安定は望めません。
「安定」の意外な穴場は新興国?
こうしてみてみると、「安定」なんて存在しないことが分かります。ここで、日本の競争から脱出したい人にお勧めしたいのは、海外(新興国)に出ることです。例えば、私の友人は、日本の日系大手に3年ほどいたあと、ベンチャー企業を経てインドに飛びました。現在は日系企業のインド支社で、現地採用として働いています。現地の大卒平均初任給が年間50~60万円の中、彼の給料は
280万円。生活費(家賃込)は7万円×12カ月で年間84万円です。「インドではプチ富裕層」とのこと。
待遇は、毎日車での送迎がつき、労働時間もほぼ定時上がり。ラッシュや満員電車から解放され、仕事とプライベートを両立させています。インド人から見れば、「サービス残業している日本人はスレーブワーク(奴隷労働)だよね」とのこと。英語も身に付けながら、急成長のど真ん中にダイブし、「安定」をつかんでいます。
転職市場の中でも海外での勤務経験は高くつくので、彼は帰国後にキャリアアップを見込めそうです。確かに日本は住みやすく、言葉も通じるので生きていくことには困りません。料理も美味しいし、好きなテレビ番組も見られるし、友達もたくさんいる「日本」という居心地いい場所。しかし、先のことを考えるとかなり大きなリスクがあることは事実です。今苦労するか、あとで苦労するか。何を「安定」と考えるか──。しっかりと考えて、みなさんが就職活動に臨んでくれることを願います。
※こちらは2018年1月に公開された記事の再掲です。