私が、ある朝、目覚めると就活生になっていた。
さて、その場合、どの企業を目指したいか? 「サイバーエージェント」。私の答えはこれである。
人生100年時代でも金融業界は生き残るが、IT業界に行きたい
私は金融業界でしか働いたことがなく、ここ十数年間はアセマネ(アセットマネジメント)業界にいる。それなのに、なぜ、IT業界に属するサイバーエージェントを選ぶのか?
それは、就活生に戻るということは、人生100年時代とうたわれる中、少なくとも70歳くらいまで働くことを想定せざるを得ないからだ。遠い将来でも生き残っていそうな業界というと、金融とITが思い浮かぶ。事実、この2つの業界は過酷なコロナ禍でも、業績が好調である。アメリカでも日本でもそれは言える。今後、どういったことをやるにしても、お金とテクノロジーは必要なのではないだろうか。
では、なぜ金融ではなくITなのか?
一言でいうと「自由度の高さ」だろう。
金融業界で働いて感じたのは、「典型的な規制業種で、良いポジションに就くには競争が厳しい」ということだ。例えば、高給でスキルが得られることで人気の外銀の場合、内定を取るのが至難の業だ。そして、新卒で入社ができても超激務に加え厳しい競争で、生き残れるのは一部のみ。さらに、今後、日本に参入する外銀が増えるとは思えないため、ポジションの増加は期待できず、延々と厳しい戦いが続く。
また、新規参入が難しいということは、転職は可能であっても、独立して成功するのは非常に難しいということでもある。ネット系個人事業のように、一人で金融業を営むというのは考えにくいのだ。このような理由からIT業界を選びたい。
年収を大事にする私が調べたサイバーエージェントの待遇
私が就活生に戻ったとしても、就活の「軸」は今と変わらない。それは、ある程度「高年収」を得られることだ。
そう言うと、「ちょっと待って。『年収』が軸というけど、サイバーエージェントはそんなに高給の会社なのか?」と言われるかもしれない。
確かに、金融、商社、コンサル、マスコミ、デベロッパーといった他の人気業種と比較して、サイバーエージェントは必ずしもトップクラスの給与水準ではない。新卒採用のホームページを見ると、ビジネスコースの初任給は34万円と高く見えるが、これは見込み残業での金額だ。また、年俸制なのでボーナスが出ない可能性もあるという懸念もある。
オフィスの最寄駅から各線2駅圏内に住んでいる正社員に月3万円の家賃補助が支給される「2駅ルール」など福利厚生的な制度は評判がいいが、これらを合わせても商社や金融に対抗できる金額ではなさそうだ。
将来の転職や独立による「高年収」の途がサイバーエージェントの魅力
それでも「年収」軸でなぜサイバーエージェントを選ぶのかというと、将来の転職や独立によって「高年収」の途が開かれるからだ。
サイバーエージェントの基幹事業はABEMAに代表されるメディアビジネス、稼ぎ頭であるネット広告関連ビジネス、アップサイドが見込めるゲームビジネス、そして投資事業だ。いずれも、将来性があるだろうし、サイバーエージェントの競争力自体も高い。中でも私は特にネット広告関連ビジネスに注目している。
広告におけるネット比率の高まりは今後も継続していくだろう。そして、サイバーエージェントはネット広告営業に強い。この部門で鍛えられると、グーグル(Google)、フェイスブック、ツイッターなどへの転職も可能だろう。外資系金融程ではないが、外資系IT企業の年収水準は非常に高い。
これが、私が現代の就活生に転生したときに目指したい「勝ちパターン」だ。
また、サイバーエージェントからは独立・起業する社員が非常に多い。そして、出身者同士の絆は非常に強いそうで、これは心強い。Webコンサルティング界隈(かいわい)において、成功しているサイバーエージェント出身者は多く、月収数百万円レベルを稼いでいるという話も聞く。
また、サイバーエージェントは伝統的にベンチャー投資に強い。サイバーエージェントでベンチャー投資のスキルを学んで、独立系VC(ベンチャーキャピタル)に転身してパートナーになれば、投資成果次第で年収数千万も実現し得る。今後も、グローバルでの超低金利が見込まれる中、オルタナティブ・プロダクトに対する機関投資家の関心は高いだろうから、こちらの路線も有望なのではないだろうか。
もっとも、転職して高収入を得るには社内でスキルを身に付けておくことが大前提であり、「円満退職」で良好な関係を構築しておくことも欠かせないだろう。
現代の就活生に転生したのに、十把一絡げに扱われるのは不愉快
さて、ここまで年収を軸に就職先を選んできたが、もう1つ重視したいことがある。それは「採用」や「人事」に関するフレキシビリティ(柔軟性)だ。
経済団体連合会(経団連)の就活ルールは廃止になったものの、伝統的大手の国内企業の採用は横並びで、就活生は十把一絡(じっぱひとから)げに取り扱われる。これは非常に不愉快だ。入社できたとしても日本企業特有の悪名高い「配属ガチャ」があるので、配属先が気に食わない可能性もある。
他方、サイバーエージェントの場合は、通年採用で入社時期も個別対応が可能。マルチエントリー採用、数多くのイベントなど、入社する方法が多岐にわたり、就活生にとってはありがたい。また、コース別採用もあり、入社後に部署異動できる社内的な仕組みが充実している。
このあたりは、大手金融機関とは対照的だ。大手金融機関だと希望の部署に行こうとしても、それが叶(かな)えられる可能性が低いのは非常につらい。やりたい仕事に就ける可能性が高いというのは大変大きな魅力である。
サイバーエージェントは、個性が強い会社なので好き嫌いはわかれるだろうが、合えば非常に居心地がいい会社だろう。(とはいえ、自分は年収アップのための転職・独立を前提としているが……)
もしもサイバーエージェントからお祈りされたら……
ここまで散々サイバーエージェントの魅力を語ってきたが、就活は企業側も「採用したい」と思ってもらわなければ、入社できない。ここからは「もしもサイバーエージェントからお祈りされたら」という想定で企業を選んでみたい。
サイバーエージェント以外で、就活生に戻れたら働きたい会社は楽天だ。こちらも、将来性という切り口からIT業界から選んでみた。
楽天の場合、業務範囲が非常に広く、EC、金融、旅行、スポーツ事業から通信事業まであるが、私が注目するのはECだ。ECというのは、メーカー、サービス業に関わらず販売チャネルの1つだ。従って、汎用性が非常に高い。また、昨年のコロナ禍の環境でECが注目され始めたが、大手企業であってもECの完成度が不十分な企業は多いし、個人経営ビジネスであればなおさらである。
楽天でECのスキルを磨けば将来アマゾンジャパンなどに転職したり、中堅企業向けのECサービスのコンサルタントとして独立したりすることも可能だろう。
また、楽天は3食無料のカフェテリアなど福利厚生の制度もあり、英語を学ぶ研修体制も充実している。こう考えると、楽天は実は面白い就職先だと思う。
さらに、もう1社選ぶとすると、こちらもIT業界からKDDIを選択したい。その理由は、ジョブ型採用をいち早く開始し、国内大手企業にありがちな「配属ガチャ」「横並び賃金」の弊害を避けることが可能だからだ。
配属先を確約したコースがあり、初任給も横並びではなくフレキシブル。新規事業の企画・推進に携われる「ビジネスインキュベーション・コース」を狙って、起業経験のガクチカでも手に入れたいものだ。
通信キャリアは規制産業なので、KDDIは業績が非常に安定しており、ワークライフバランスに優れている。給与水準も金融ほどではないが悪くない。副業も解禁しているので、副業によって年収アップを図ることも可能だ。
ここも、楽天同様、総合的に見て非常に魅力が高い就職先だと思う。
年収が大事なのに、なぜ商社は選ばないのか
「金融とITの将来性はわかるが、今、最も人気の高い商社は選ばないの?」という疑問を持たれるかもしれない。もちろん、商社も悪くないだろう。
しかし、商社の場合、そもそも入るのが非常に難しい。だから、就活生に戻れたところで現実的に考えると、内定が取れるかは保証の限りではない。
また、仮に内定が取れるとしても、気になるのは将来性だ。商社は、資源エネルギー、機械、金属、化学品、食品、消費、インフラ、IT、金融、不動産まで非常に幅広い事業に分散投資をしているので、将来も健在だと思う。ただ、どこもITと金融は非常に弱い。
そして、会社としてはポートフォリオ経営で安泰だったとしても、「個人」としての社員の立場はわからない。商社で出世しようとすれば、収益を上げられる部門にいることが重要だ。しかし、そこは配属ガチャがあるし、希望が叶(かな)ったとしてもその部門が将来廃れることはある。個人としての立場では分散投資ができないのだ。
高給・安定だったとしても、社内的に肩身の狭い思いをするのはつらいものである。また、これに関連して、商社マンの転職時における市場価値は必ずしも高いとはいえないことも、不安材料である。
内定先がサイバーエージェント、楽天、KDDIというと、ハイスぺ就活生の間ではドヤれないかもしれない。しかし、ITという業界自体の将来性と、将来の転職・独立による高収入の実現、そして採用プロセスや配属における柔軟性に着目して選ぶとこうなった。
とはいえ、社会人人生は長い。「転職人生で勝ち続けることができるのは就活生の何%くらいなのか」「40歳になったときに幸せか、というのも働く上で大切な要素だ」と私はこれまでも言ってきた。
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もしかしたら、就活生に転生した私自身、40歳になっても新卒で入った会社からどこにも転職できないでいるかもしれない……。さて、今から20年後、この3社はどうなっているだろうか……。
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(Photo:Marian Weyo , Jelena Zelen, Jirsak, Benny Marty, conrado, Iakov Kalinin, Marian Weyo/Shutterstock.com)