※こちらの記事は2016年5月に掲載された記事の再掲です。
前回まで「コネ作り」と「自己分析」に重点を置いてアドバイスをしてきました。
第1回:就活はコネがすべて!?ーコネ就活の実態編ー
第2回:「大学時代に頑張れたことはない」でもいいー自己分析とは自己肯定であるー
「いっしょに働きたい人がいるか」「自分のやりたいこととあっているか」は、ESや面接の選考を突破するためにも重要だし、そこから生まれる内発的なモチベーションは入社後も大事です。
しかし、現在の就活はそこに偏りすぎています。それは、「人・やりたいこと」アプローチが企業分析と比べて楽だからではないでしょうか。
企業分析の重要性は高まっているのに、目を背ける人は多い
自分の過去を振り返るため友達から話を聞いたり、社風・やりがいについて知るためOB訪問に行って人と話したりするのは、多くの人にとって大した負荷ではありません。会話とは基本的に楽しいものだし、特に聞くのは受動的だからです。
ただし、そこには大きなリスクがあります。頑張って受かっても、その業界・企業そのものに先行きがなく、市場価値の低いスキルしか身につけられない場合は、その後のキャリアが行き詰まってしまうのです。
JALや東電、東芝、シャープなど、かつて「超優良」とされ就職人気ランキングが高かった企業の経営が苦境に陥ることも今や日常茶飯事です。
そのような状況を踏まえると、「自分のやりたいこと」を考えるという内発的なモチベーションと対になる、「この企業はこれからどうなっていくのか」という外部環境の分析が必須になります。
といっても、どうすれば能動的な企業分析ができるのか分からない人が大半でしょう。
企業分析 = 未来を予測すること
僕が、『進め‼︎ 東大ブラック企業探偵団』というライトノベル形式のビジネス書を上梓した背景にはこうした現状があります。
企業分析のやり方、目のつけ方を簡単に解説し、その楽しさを伝えられたら、「やりがい」一辺倒の就活が少しでも変わるのではないかと思ったのです。
企業分析で大事なのは、数年後の未来を分析することです。
近年は好景気だから、売上高や利益の推移だけ見れば好調な企業も多いです。
でも、ここ数年伸びてきていることと、これからどうなるのか? は全くの別問題。
例えば拙著でも取り上げたテレビ業界は、ここ数年景気回復で企業が広告宣伝費を増やしているので業績は好調ですが、視聴率は落ち続けています。そのため、景気が悪くなった途端大きく落ち込むはずです。
新卒で入社する会社には「とりあえず3年」いることがオススメされることが多いかと思います。流行り廃りの激しいこのご時世で、「10年先」を読むことは誰にもできませんが、「3年先」なら、頑張ればギリギリ読めます。
では実際に、どうやって調べればいいのか。
投資家たちのチェックの目は「情弱」である就活生よりはるかに厳しい
やめておいたほうがいいのは、「企業の新卒採用ページを見ること」や「企業の説明会に行くこと」です。企業が就活生に向けにするこれらのプレゼンテーションは、基本的に「広告」であり、企業にとって都合の悪いことは書かれません。基本的に人生で1回しか新卒の就職活動を経験しない就活生側と、毎年採用活動をする企業側とでは、構造的に情報の非対称性が生じています。企業から見ると就活生はある意味非常に「騙しやすい」存在です。
オススメなのは、「投資家向け資料」を読みこむことです。上場企業は、四半期ごとに決算報告書を開示することを義務づけられており、売上や利益といった数字はもちろん、部門ごとの利益の増減や、経営上のリスク、今後の課題などもつまびらかに書かれています。
企業の株を売り買いする立場の投資家たちのチェックの目は「情弱」である就活生よりはるかに厳しいので、投資家向け資料はより厳密に書かれています。
ただし、あまりにも詳細に、百数十ページにもわたって書き込まれている資料もあり、全てを読むのは難しいと感じるかもしれません。
「決算説明会資料」なら読むハードルが少し下がる
そこで、「決算説明会資料」で検索してみましょう。これは、読んで字のごとく投資家向けの説明会で使われたプレゼン資料のことで、パワポもしくはPDF形式でアップされています。併せて説明会の動画も載っていることもあるので、それと照らし合わせて読んでみましょう。グラフもふんだんに使われているため、読むハードルが少し下がるかと思います。
全部しらみつぶしに調べる必要はありません。現在の企業の業績は、数年前の投資の成果なので、「3年先」の予測に必要なのは「現在何に投資しているのか」と「どれだけ投資する余力があるのか」という観点です。これに基づいて企業分析を行います。
特に注目すべき指標は「キャッシュフロー(=お金の流れ)」です。決算報告書に必ず記載されている「キャッシュフロー計算書」を見ると、投資の増減と、借金の増減が一目瞭然です。
「デジタル領域を伸ばす」「海外売上高比率を高める」「多角化する」など、決算報告書や説明会資料の最初の方のページで掲げられている目標と照らし合わせて、順調に目標達成に向けた投資が行われているか、その無理がたたって財務状態が悪化していないかを調べましょう。財務状態の変化は、総資産のうち負債以外が占める比率を表す「自己資本比率」からも調べることができます。
広報担当社に電話で「いじわるな質問」をぶつける
ただし、投資家向け資料は就活生向けよりも厳密とはいえ、基本的にはなるべく企業を良く見せようという広報的な意図が入ります。そのため、業績が好調な場合はその成果は強調され、苦境にあっても、事業転換があたかもうまくいきそうに書かれます。本当にうまくいくのかどうかを見抜けたら、立派に企業分析できたといえるでしょう。
そのための奥の手は、担当者に電話することです。
上場企業は、投資家対応の広報担当を必ず置いています。ホームページから代表者番号を調べて電話し、「IR(インベスターリレーションズ)担当の方に代わってください」と言えばつないでくれます。
企業説明会のように時間の縛りがあるわけでもなく、わざわざ遠くまででかける必要もなく、心いくまで広報担当者に「これからどういう分野を伸ばすのか」「そのためにどういう工夫をしているのか」「本当に新規事業を開拓したり、事業転換する余力はあるのか」などなど、徹底的に聞くことができます。企業が資料に掲載している理想の成長ストーリーが本当にその通りに行くのか、自分の都合がいい時間に心ゆくまで「いじわるな質問」をぶつけることで暴き出しましょう。
おわりに
このように、情報の探し方を少し変えれば、有益な情報を簡単に得ることができます。投資家向けの企業データをうまく活用して、企業の将来性をきちんと見極めて就職先選びをしましょう。
▼ブラック企業探偵の就活塾:記事一覧▼
【第1回:コネ作り】就活はコネがすべて!?ーコネ就活の実態編ー
【第2回:自己分析】「大学時代に頑張れたことはない」でもいいー自己分析とは自己肯定であるー
【第3回:企業分析】「3年先を読む企業分析」ができる、簡単な方法