※こちらは2016年7月に公開された記事の再掲載です。
「就活で、希望の会社や業界に入れなかったら、その後の人生が大きく変わってしまう」と思い込んでいる人、いませんか?
今日は、皆さんのプレッシャーを解きほぐす話をしたいと思います。
「希望の会社に入って、何をしたいのか」を考える
まず、「希望の会社に入って、何をしたいのか」を考えてみてください。
「A財閥に入り、安定と世間体を手に入れ、定年まで勤めあげたい」なら、A社に落ちる=人生の失敗と思い込んでしまうかもしれませんね。
しかし、「A社に入って、◯◯の仕事をしたい」なら、たとえA社に落ちても、◯◯の仕事ができる会社や業界は他にもあります。
例えば「大手出版社Cに入って、雑誌の企画編集をしたい」というケースで考えてみましょう。
一般的に、出版社を受ける人はテレビ・新聞・広告業界も同時に受けると思いますが、どれも倍率が高く、これらだけを受けるのは安全度でいうとあまり高くはありません。
そこで、「やりたいこと」である「雑誌の企画編集をしたい」というところを広げて考えてみましょう。
出版社によっては、雑誌などの編集作業を編集プロダクションに丸投げしている部署も多く、企画編集をしたいなら、C社の仕事を請け負う編集プロダクションに入社するという方法があります。
確かに、編集プロダクションは大手出版社に比べて、給料や福利厚生は劣ります。
大手出版社と編集プロダクションの比較
大手出版社を具体的に見ていきましょう。
東洋経済「最新版生涯給料トップ500社ランキング」によれば上場企業の平均年収はベネッセホールディングスが943万円、カドカワが878万円、学研ホールディングスが696万円、ぴあが722万円です(※1)。これだけをみても2015年の平均年収は440万円といわれていますから、大手出版社の水準が高いことが分かります。
しかも、これは上場企業のみ対象なので、上場していない講談社・小学館・集英社などの大手出版社は載っていません。ですが、この3社は20代後半で年収1,000万円に達することもあるなど高水準といってよい待遇です。
対して、編集プロダクションは、大手なら年収300~400万程度、零細なら(ハローワークで検索すると分かりますが)月収15万といった会社もあります。
この差は、斜陽産業になりつつある出版業の歪が編集プロダクションに押し寄せていることによります。
女性誌などの売り上げが落ち込んだ結果、雑誌の売り上げが32年ぶりに書籍を下回ったという報道がこの6月にあったほどです(※2)。
売上は落ちているのに、大手出版社の正社員は高給を保っているので、そのしわ寄せが下請けの編集プロダクションにいき、激務薄給になっているという構造があるのです。そのため、もし編集プロダクションを選ぶのなら「◯年間で、転職に必要な技術と経験を身につける」と目標をもって働いた方がいいかもしれません。
(※1)出典:東洋経済ONLINE「「生涯給料トップ500社」ランキング2015 1位は6億円超、一生にもらえる金額は?」
(※2)出典:日本経済新聞「雑誌売り上げが書籍を下回る 日販16年3月期、32年ぶり」
「なぜ」それをやりたいの?
「編集プロダクションに入るのでは、(給与や働き方の面で)やっぱり人生ハードモードじゃないか」と考えたあなた。
それなら、「やりたいこと」をもう少し具体的に考えて、その範囲を広げてみましょう。
「なぜ雑誌の企画編集をやりたいのか」について考えてみます。
「面白いものを作りたいから」なら、それは「雑誌」でなくても可能です。
例えば、一般企業の広報部や、自社サイトを持っている会社、他社サイトの制作を請け負う会社を目指すという方法があります。
例えば、コクヨは文房具メーカーですが、「WORKSIGHT 働くしくみと空間をつくるマガジン」というオウンドメディア・雑誌も制作しています。
サイト内の「ABOUT」に編集メンバーの経歴があり、それを見ると幅広く面白そうな仕事をしていることが伝わってきます。
例えば、オフィス家具販売の延長としてオフィスデザインのコンサルティングを行ったり、復興支援のため節電などを考慮したオフィスとワークスタイルをリサーチしたりしています。
さらに、サイト以外にも、「グノシー」などのニュースアプリやキュレーションサイトなど、情報を発信する媒体はいまや紙に留まりません。紙媒体のメディアしか選択肢がなかった(もしくは選択肢があったのにその成長の可能性を見抜けなかった)私にとっては、うらやましいほど今の皆さんには選択肢があります。
このように、やりたいことが「面白いものを作りたい」ことなら、雑誌やマスコミにこだわる必要はなく、サイトやイベント、広告などの「人を動かすメディア」の企画も視野に入ってくるでしょう。また、コクヨのようなメーカーも圏内です。面白い企画を立てられそうな業界は、視野を広げればいくらでも見つかります。
編集プロダクションの激務や薄給が嫌なら、一般企業の中からやりたいことができる会社を探せばいいのです。
今の人気企業が、40年後も人気企業とは限らない
ここまで、マスコミ以外の道を考えてきましたが、「そうはいっても、やっぱり希望の業界にこだわりたい」という人もいるでしょう。
その理由はなぜですか?「人気だから」ということに流されてはいませんか?
しかし、今人気の企業や業界が、皆さんが定年まで働く間もずっと人気とは限りません。
例えば、私が就活をした時代は、新聞社は圧倒的な人気がありました。ですが現在は、就活ではその人気が陰り始めています。産業的に「斜陽産業」といわれていることがその背景です。理由は簡単で、ネットニュースの台頭で、新聞の販売部数が減ってきているからです。
事実、私が就活をした時に新聞社で最も人気があったのが朝日新聞でしたが、2014年に朝日新聞に入社した東大生は「ゼロ」だったそうです(参考:J-CASTニュース「東大生から見放された朝日新聞 今春「入社ゼロ」に幹部ら衝撃」)。
この傾向は海外の方が顕著で、例えば米国のキャリアサイト「CAREERCAST」が、政府の統計データをもとに順位を算出した「人気職業ランキング2016」では、新聞記者は最下位の200位でした(参考:CAREERCAST「Jobs Rated Report 2016: Ranking 200 Jobs」)。
同じことは、やはり、ネットの台頭により売上が落ちてきているテレビ・出版業界にもいえます。マスコミを志望する人は業界が斜陽になりつつあることを意識して、「たとえ業界が沈んでも、やりたいことをやり続けるためには、どのようなキャリアを積んだらいいのか」を考え続ける必要があるでしょう。
逆に、今は小さな会社でも、数年もしないうちに人気企業になることもあります。
少し古いですが、DeNA・グリー・サイバーエージェントが東大生の就職先の「新御三家」というニュース(※)がありました。先ほどの朝日新聞のニュースとあわせて、私の世代には、朝日新聞を蹴ってDeNAを選ぶという選択肢は考えられないものでしたが、今はそのような就活生もいることでしょう。(※参考:東洋経済ONLINE「激変、東大生の就活!新御三家はこの3社! 商社、金融を押しのける 人気のメガベンチャー」)
会社の将来性を見抜くことは非常に難しく、新卒時にはできるだけ大きな会社を選んだ方が無難ですが、会社には成長と衰退があることは覚えておいてください。
自分の理想像を見直し、捨てていいこだわりは捨てよう
ここまで、マスコミ系への就職を例として、下記が大切と述べてきましたが、この考え方は全ての職種・業界に応用できます。
・自分の「やりたいこと」の理由を分析し、それは希望以外の会社や業界でできないか、視野を広げて考える
・会社や業界には浮き沈みがあることを意識し、現在の人気や世間体にこだわらない
会社を選ぶ上で「理想像を持つこと」は大切ですが、中には捨てていいこだわりもあります。
例として挙げた「出版社で、雑誌を作りたい」という志望動機においては、「出版社」「雑誌」は捨てていいこだわりであり、「面白いものが作りたい」は捨ててはいけない理想像でした。
自分が会社を選ぶ上での理想像を見直し、捨てていいこだわりは捨てること。
それができれば、たとえ希望の会社に落ちても、その失敗を即人生の失敗と結びつけるような考えはなくなります。
新卒時の就活では、自分がやりたいことの可能性を最大に広げられる選択をしたいですが、たとえ希望の会社に入れなくても、やりたいことへの道のりは多種多様にあることを覚えておけば、皆さんの就活へのプレッシャーも少しは軽くなるかもしれません。