「帰国子女や体育会系のような、もともとスキルのある人しか内定できない」
就活生に根強い人気を誇る総合商社に、そんなイメージを持つ人も多いでしょう。
今回取材したのは、7大商社に内定したAさん。帰国子女でも体育会系でもない、いわゆる「普通の学生」です。新型コロナウイルスの影響で、希望していた留学にも行けず、ガクチカも作れなかったといいます。
さらに商社の内定をもらうまで、内定はゼロ。抜きん出たスキルがあるわけでもなく、苦境に追い込まれながらも、どのように内定を獲得したのでしょうか。逆転内定までの経緯から、商社の選考にまつわる疑問・内定の秘訣(ひけつ)まで詳しく伺いました。
<目次> ●「事業領域の広さ・高収入・海外駐在」全てそろっていたのが総合商社 ●「強い憧れ」を支えに、7大商社に逆転内定。無い内定でも妥協しなかった理由 ●体育会系でも帰国子女でもない。「一緒に働きたくなる」人柄が私の武器 ●印象は自分でコントロールする──あえて黒スーツを着ない選択肢
「事業領域の広さ・高収入・海外駐在」全てそろっていたのが総合商社
──はじめに、どのような軸で就活をされていたか教えてください。
Aさん:就活の軸は、事業領域の広さ・収入の高さ・海外駐在の多さの三つです。
──その軸にした理由はなんでしょうか?
Aさん:一つ目の事業領域の広さは、一つの商品やサービスに捉われたくなかったからです。例えば、メーカーなどですね。飽き性なので、さまざまなフィールドに携わりたいと考えていました。
──なるほど。年収や海外駐在に関してはどうですか?
Aさん:二つ目の年収については、母子家庭で育ったこともあり、「絶対に親孝行をしたい」「経済的な理由で何かを諦めたくない」という強い思いがありました。選考を受ける前には、必ずその企業の年収を調べていたほどです。
三つ目の海外駐在の多さは、海外に興味があるからです。コロナの影響で大学時代は留学に行けなかったので、社会に出てから挑戦しようと思っています。
──その軸に当てはまる業界は他にもあると思いますが、どのように業界を決めたのですか?
Aさん:就活サイトや新聞社が公開している「海外駐在が多い企業」や「年収が高い企業」のランキングを参考にしました。そこで上位に入っていたのが、7大商社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅、豊田通商、双日)でした。
──確かに、ランキングは分かりやすい指標ではありますね。では、商社に絞って就活していたのでしょうか?
Aさん:正直にいうと、大学4年の4〜5月まで商社以外に受からなかったんです。夏インターンでは50社ほどエントリーしたものの、実際に参加できたのは数社しかありませんでした。「ああ、こんなにも受からないんだ」と選考の厳しさを知りました。本選考でも20社ほどエントリーしたのに、ほとんど落ちてしまって。最初にもらえたのが商社の内定でした。
──50社も応募されていたんですか……! 本選考のエントリーも少なくはないですよね。
Aさん:自分が知っている有名企業にはとりあえず応募しました。商社は選考倍率が高く、落ちることも十分考えられます。一度さまざまな業界を幅広く受けて、それでも本当に商社に行きたいと思ったら、最後まで就活を頑張ることにしたんです。
──商社のインターンにも参加されたのでしょうか? 優遇があると聞いたことがあります。
Aさん:参加していません。商社のインターンは冬に実施されることが多く、その時期はサークルが忙しかったのでそちらに専念していました。優遇については、企業によっては早期選考や一部選考ステップの免除などの優遇ルートがあると聞いています。
ただし、インターンの参加は必須ではないです。実際、私は参加しなくても内定できていますし。志望度が高いのであれば、参加して損はないと思いますよ。
「強い憧れ」を支えに、7大商社に逆転内定。無い内定でも妥協しなかった理由
──商社に内定をもらうまで内定はゼロだったんですよね。モチベーションを維持するのは、大変だったのでは?
Aさん:そうですね、内定がなくて本当に不安でした。落ちるたびに自信もなくして。ノイローゼになるほど自分を追い詰めてしまい、家族にも心配されました。それでも、自分の1番やりたいことは商社にあると確信があったので、「もうやるしかない」と覚悟を決めて選考に臨みました。そのかいあって、7大商社に内定をもらえました。
──「絶対商社に入る!」という強い意志がないと、なかなか就活を続けられないと思います。どのように乗り越えていたんでしょうか。
Aさん:落ちても必ず学びがあると考えて、次の選考に気持ちを切り替えました。特に落ちることが多かった面接では必ず振り返りをしましたし、「もっとこう言えば良かった」と感じた部分は、次の選考で表現を変えるなど工夫をしました。その結果、立ち振る舞いや回答の精度も上がったと思います。
──面接で落ちやすかったんですね。原因はなんだったんでしょうか?
Aさん:商社以外の企業を受けていたとき「うちに向いていないよね」「優秀なのは分かるけど、多分他社に行くでしょ」と言われて、最終面接で落ちることが多かったです。最終面接では志望度の高さを重視されるにもかかわらず、面接官に「本当は商社に行きたい」という本心を見抜かれていたんだと思います。
──商社に入りたい意志が強いからこそ「他社に行きます」と建前を伝えるのは難しいですし、葛藤もありそうです。最終的にはいくつかの内定をもらえていますが、どの企業にするか迷いませんでしたか?
Aさん:興味のある商社業界の企業は、ひととおり応募して自分に合うかどうかを確認しました。結果的に、就活を始めた当初第一志望だった企業とは、別の企業に入社を決めました。どの企業にするか迷う人もいると思いますが、時間をかけて決めるといいのではないでしょうか。内定後に懇親会に参加して決める人も多かったですね。
──今の内定先に決めた理由は何でしょうか?
Aさん:商社の中でも、その企業に強い憧れがあったからです。決定打になったのは、内定先の人事に初めてお会いした合同企業説明会です。説明会が終わったあとの質疑応答で、学生の質問が終わるまで残ってくれたり、しっかりと学生の目を見て話したり、一人一人の質問に丁寧に答えたりと誠実な姿勢が印象的でした。他社は「はい、ここまで」と早々に切り上げてましたね。
体育会系でも帰国子女でもない。「一緒に働きたくなる」人柄が私の武器
──ただ、商社に行きたくてもハードルが高いと感じている人は多そうです。体育会系の部活に入っていたり、帰国子女だったり、何か優れている点がないと内定は難しいのでは?
Aさん:そんなことはないですよ。私は、体育会系でも帰国子女でもありません。もちろんそういうスキルを持った人もいますが、それ以外の人の方が多いと感じています。私の採用理由を内定先から教えていただきましたが、「明るさ、実直さ、コミュニケーション能力、負けず嫌いな性格」を評価されていました。
──スキルがあるかどうかは、あまり関係はないんですね。周りに優秀な人が多いと不安になりませんでしたか?
Aさん:確かに引け目を感じていましたが、私は「一緒に働きたい」と思ってもらえることが一番大切だと考えました。その人ならではの魅力があると思うので。
例えば面接では、負けず嫌いで粘り強い性格を裏付けるエピソードとして「アルバイトをしていたとき、上司に毎日怒鳴られながらも辞めずに続けた」話をしていました。すると面接官に「その精神ならどこでもやっていけるし、うちに来てほしい」と実際に言われたこともあります。
──「一緒に働きたい」と思ってもらうことは大事ですね。とはいえ、商社は海外勤務の機会も多いので、Aさんはある程度英語力があるんじゃないでしょうか?
Aさん:英語は、正直全くできないです。TOEICも点数があまり高くないので、伝えていません。「英語ができます」という雰囲気だけで乗り越えました。大学の国際交流が盛んなイメージと「留学に行きたかった」思いなど、語学に興味があるエピソードを話しました。
──え、それで乗り切れるんですか?!
Aさん:はい、英語で答える面接もなかったですし、海外経験についても修学旅行の思い出話をしていましたね。面接官は「英語できるよね?」と、できる前提で話してくるので、あえてできるかどうか聞かれることもなかったです。
──スキルも英語力も必須ではないと。コロナ禍で目立ったガクチカを作れなかった人も多そうですが、不利になるわけでないんですね。
Aさん:ガクチカは伝え方次第だと思っています。どんなに弱いエピソードでも、いかに面白く伝えられるか。面接では留年したことを伝える人もいました。捉え方によっては、内定の可否に響くのではと考えてしまいますが……。周りには、そういった経験まで正直に話している人が多かったですね。
──留年のこと、私なら絶対言いたくないです……。面接では優れたエピソードだけ伝えるといいと思うのですが、あえてマイナスなエピソードを話す理由はなんでしょうか?
Aさん:商社が求めているのは、「コミュニケーション能力」だと考えています。そういう意味で「大会で優勝した」のように、ただ目立つエピソードを求めているのではなく、どんなエピソードでも相手が興味を持つように伝える見せ方が問われているんです。そこで私が使ったのは、面接官が気になるようなオチを用意することです。
──内容ではなく伝え方なんですね。オチというのは?
Aさん:具体的には、強いエピソードと弱いエピソードの使い分けをすることです。例えば、一つ目が強いエピソードで「大学の成績でGPAが◯◯だった」話。二つ目が、弱いエピソードで「所属していたサークルでは、役職はなく、イベントの準備などサポートに徹することが多かった」話です。
後者の話をするときは、少しネタっぽく話すのもコツです。面接官のウケはすごく良かったですね。
──その方法はなぜウケが良かったのでしょうか。
Aさん:ギャップがあるといいのかもしれません。一見優秀だと思わせておいて、他ではダメダメだったような。そのおかげで好感を持ってもらえたのかなと。自分のさまざまな一面が見えるエピソードを話すことで、どんな人間かを理解してもらいやすかったと思います。
印象は自分でコントロールする──あえて黒スーツを着ない選択肢
──他にも面接で気をつけていたことはありますか?
Aさん:Web面接のときだけ、黒スーツを着ないことにこだわっていました。
──黒のスーツを着ない!? それは思い切りましたね。
Aさん:理由としては、スーツの色味で表情や印象が暗くなってしまうためです。ベージュや白などの明るい色を選ぶことが多かったです。「なんでその色のスーツを着てるの?」と話しかけられることもあって、いい意味で面接官の印象に残っていたと思います。
──確かに印象に残るには、効果的な方法ですね。少し勇気が必要ですが……。
Aさん:他にも、OB・OG訪問をおすすめします。社員と話して受けた評価が人事に伝えられるためです。評価次第で、選考を有利に進められることもあると思います。実際、私は企業理解を深めることができましたし、選考前にはエントリーシート(ES)の添削や面接練習も手伝っていただきました。
──OB・OG訪問はメリットも多いですね。いつ始めたらいいでしょうか?
Aさん:秋冬から本選考前まで、何回か行うといいんじゃないでしょうか。私は、2〜4月の本選考直前にOB・OG訪問をしたので、選考や対策の時期と重なりスケジュールがいっぱいになって大変でした。早めに行動することが大切だと思います。
──ありがとうございました。
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