東大の中でも最難関である法学部は、東大の中でも別格と考えられてきた。その就職先については、官僚・弁護士が王道で、民間企業就職者は「負け組」だと捉えられた時代もあったようだ。
しかし、官僚バッシングに伴う天下り先の激減や官僚の社会的ステータスの低下により、東大生の間でも官僚人気はなくなりつつあると言われている。「年収など構わない。自分が日本を引っ張っていくのだ!」ということで官僚を志望する、昭和を通り越して明治生まれのような価値観を持つ東大法学部生は、もはやマイノリティーなのかもしれない。
他方、若いうちから数千万円の年収を期待できる外銀志望者が徐々に増えてきているという。OB訪問にやってきた外銀志望学生も「東大法学部の学生が多い」と話していた。そこで今回は迷える東大法学部生のために、弁護士と外銀を年収の観点から比較してみたい。
<目次>
●弁護士の年収:四大法律事務所なら1億超えも。独立なら1000万か
●外銀の年収水準:入社3年で2000万円だが、残っているのは2〜3割
●弁護士と外銀を比較するための3つのポイント
弁護士の年収:四大法律事務所なら1億超えも。独立なら1000万か
一口に「弁護士」とは言っても、その年収は働く場所によってピンキリである。以下、弁護士の年収をカテゴリー別に分析してみる。
(1)四大法律事務所の渉外弁護士:パートナーに上がれるかが肝
弁護士ヒエラルキーのトップに君臨するのは、四大法律事務所ではないだろうか。
歴史的には、東大法学部→司法試験合格→四大法律事務所というのは最高の勝ち組ルートだった。司法制度改革によって弁護士が増加したこと、リーマンショック後に2大収益分野である金融業務とM&A業務の単価が下がってきたことにより、以前より収益性は厳しくなってきているが、それでもまだまだ高水準の収入が期待できる。
法科大学院卒業後に司法試験に合格し、1年間の修習を経て、早ければ25〜6歳で四大法律事務所にアソシエイトとして入所することになる(なお、予備試験経由で司法試験に合格するとさらに早く入所することも可能)。
四大法律事務所の初任給はボーナスも含めて1200万円程度が相場だ。その後、毎年少しずつ増額し、5~6年後の年収は2000万円程度になるだろう。
だが、その先が厳しい。一番下のアソシエイトの年収は2500万円位で頭打ちとなり、3000万円の壁を破るのはなかなか難しいという。また、従来であれば30代半ばくらいでほぼ全員がパートナーに昇格できたのだが、今はそういう訳には行かない。事務所によって異なるが、同期入所者のうちパートナーになれるのは5~6人に1人とも言われているし、パートナーに昇格するまでの時間もかつてよりかかる。
しかし、もし四大法律事務所のパートナーまで昇格できれば、4000~5000万円以上の年収は期待できるだろう。そして、事務所に出資しているエクイティ・パートナーになると、年収1億円以上も期待できる。もちろん、ここまで到達するのは至難の業だろうが。
(2)インハウス(企業内)弁護士:ワークライフバランス重視ならオススメ
最初は四大法律事務所に入所し、途中でインハウス弁護士に転身するケースも多い。
インハウス弁護士の年収は業界によって異なるが、その頂点が外銀のインハウス弁護士である。ボリュームゾーンのVPレベルだと年収は2000~3000万円くらいなので、四大法律事務所のアソシエイトと変わらないが、ワークライフバランスは外銀の方が格段に良い。ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、UBSといった大手外銀のMDまで昇格できれば、今でも5000万~1億円程度は期待できるだろう。だがこちらも、リーマンショックの影響を受け、以前ほどの高給は期待できなくなってきているし、優良な空きポジションは少ない。
外銀以外の業界のインハウス弁護士となると、年俸水準は大きく見劣りしてしまう。例えば、外資系製薬会社は好んでインハウス弁護士を採用するが、部長クラスでも年収1800万円というのはザラであり、四大法律事務所の入所3年目位のアソシエイトと同じか、場合によってはそれ以下になってしまう。さらに、総合商社、国内系金融機関にインハウスとして就職する弁護士もいるが、年収水準は普通の総合職社員と変わらず、1200〜1400万円というレベルである。
では、四大法律事務所を辞めてまでも、なぜインハウス弁護士になるのかというと、ワークライフバランスが格段に良いからだ。四大法律事務所のアソシエイトの場合、朝の10時から夜中の2、3時までの勤務は当たり前、土日も片方は出所する。たとえ高給をもらっていても、激務からは抜け出したい人も少なくないのだ。
(3)「町弁」として独立:弁護士数増加により年収は低下傾向
司法制度改革による弁護士数の増加の影響を最も受けたのが、このセグメントではないだろうか。かつては弁護士数が少なかったので、町弁として独立すると年収2000~3000万円は可能というイメージであったが、今ではそういうわけにはいかなくなっている。
とはいえ、たまにメディアで取り上げられる「弁護士なのに年収300万円」というのは極めて例外的だ。たしかに都心での独立開業は難しくなっているものの、都心から少し離れれば年収1000万円以上はまだ可能のようだ。
外銀の年収水準:入社3年で2000万円だが、残っているのは2〜3割
外資系金融は企業によって年収格差が存在するし、相場状況によってボーナスの水準が大きく変動する。このため、一般化は難しいところだが、大体新卒のアナリスト1年目で1000万円、入社3年目のアソシエイト昇格時には約2000万円、30歳くらいでVPに昇格できると年収2500~5000万円くらいが期待できるだろう。そして、最高到達点であるMD(35歳~)に昇格すると、年収7000万円~数億円が期待できる(※)。大変夢のある世界だ。
(※)……いずれも、トレーディング・セールス・IBDなどのフロント部門の話。年収はボーナスを含んだ金額
しかし外銀の場合も、入社3年後のアソシエイト昇格時まで残っているのは2~3割という厳しい世界なので、外銀に入ったからといって上記のような年収が保証されるわけではない。
弁護士と外銀を比較するための3つのポイント
弁護士と外銀の大まかな年収水準は上記の通りであるが、両社の比較においてはいろいろなポイントがある。単純に年収を比較するだけではなく、以下の論点も吟味して検討する必要があろう。
(1)弁護士になるには3年もの時間がかかる
弁護士と外銀とを比較する場合、弁護士になるまでの膨大な負担を考える必要があろう。
弁護士になるには、大学卒業後に法科大学院に2年間通う必要があり、司法試験合格後も1年間の司法修習が義務付けられている。当然ながら法科大学院には学費もかかるため、コストもかさむ。
(2)30代で1億か、生涯賃金で20億か。時間感覚が全く異なる
四大法律事務所のパートナー、外銀のMDまで昇格できた場合、いずれもかなりの高収入が期待できるが、その収入に到達するまでのスピード感は両者で異なる。
とにかく早く高年収を実現したいなら、外銀の方が手っ取り早い。外銀の場合、30歳くらいにVPになった時点で年収4000~5000万円、35歳でMDに昇格すれば1億円に到達する。四大法律事務所の弁護士の場合は、その年齢でパートナー昇格は無理であり、年収はせいぜい2000万円程度であろう。
長期的な視点で考えると、四大法律事務所の方が有利である。弁護士の場合には、ある意味年を取っている方が貫禄(ろく)があって有利とも言えるくらいで、60歳過ぎにエクイティ・パートナーになれれば、年収は億の大台に達する。生涯賃金で言えば20億円の世界だ。外銀(特にフロント職)の場合は、45歳で定年のようなものであり、60歳はおろか、50歳まで働き続けることも難しいため、生涯賃金は弁護士の方が多いかもしれない。
(3)普遍的な転職力を持つ弁護士。ワークライフバランス重視の転職も可能
外銀も渉外弁護士もハードなので、ワークライフバランスについては大きな差はつかないだろう。だが、渉外弁護士の場合、インハウス弁護士に転身すればワークライフバランスの充実は可能である。また、大きく稼ぐことは難しいものの、弁護士は一般民事事件を中心に町弁として独立することも可能である。この点では、資格ビジネスである弁護士の方がフレキシビリティは高い。
このように、同じ東大法学部生でも「時間とコストをかけられるか」「早く稼ぎたいか、長く稼ぎたいか」「ワークライフバランス重視の転職をするか」など、価値観によってどちらを目指すべきかは違ってくるだろう。
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官僚だけでなく弁護士も以前よりは旨味(うまみ)が減ってしまったし、外銀もリーマンショック前ほど羽振りは良くないから、東大法学部生たちも頭が痛いところであろう。しかし、どういった業種・職種が稼げるのかというのは外部環境によって変化するものなので、仕方ないことだ。
東大法学部生が高収入を目指すなら、今のところ「弁護士か外銀か」で悩むだろうが、今後はPEファンド、あるいは、青天井で稼げるヘッジファンドが人気になる可能性もあると思っている。成功確率は低いが、起業家を目指したり、ネットビジネスで稼いだりという道もあろう。
目先の年収とか、周りの学生の動きだけに影響されるのではなく、稼ぐ方法について情報収集を行い、自らの判断でキャリアプランを検討することが望まれる。
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