「外資BIG5特集」の第3弾は、NPO法人クロスフィールズ(※1)共同創業者・副代表である、松島由佳氏へのインタビュー。
前編では、彼女が「今でも大好きな会社」と話すボストン コンサルティング グループ(BCG)で学んだこと、そしてBCG辞めて、新興国向けNPOを立ち上げるに至った真の理由に迫る。
(※1)NPO法人クロスフィールズは、新興国「留職」プログラムの企画・運営、BOP課題解決ワークショップの企画・運営などの事業を通じて「社会の未来と組織の未来を切り拓くリーダーを創る」というミッションの実現を目指すNPO法人。
外資系だけどウェット。大好きだったボストン コンサルティング グループ
松島由佳氏:
NPO法人クロスフィールズ共同創業者・副代表。大学卒業後、ボストン コンサルティング グループに勤務。通信・消費財業界の企業経営に携わる傍ら、プロボノ活動としてNPO法人TABLE FOR TWO Internationalの新規事業立ち上げにも従事。その後、クロスフィールズを創業。世界経済フォーラム(ダボス会議)のグローバル・シェイパーズ・コミュニティーに2015年より選出。
KEN(聞き手):
ワンキャリアの若手編集長。28歳。博報堂出身、ボストンコンサルティンググループ。ビジネス経験とは別に、学生時代にボランティア団体を設立・プロボノ支援等のソーシャルセクターでの活動経験を持つ。
KEN:松島さんは、お父さんがカンボジアで活動するNPOを運営していた影響もあり、東京大学在籍中から、将来はソーシャルセクター(※2)で働きたいと考えていたそうですね。BCG(ボストン コンサルティング グループ)に就職したのは、当初から起業家になることを想定してのことだったのですか?
(※2)ソーシャルセクターとは、環境・貧困などの社会的課題の解決を図るための持続可能な事業や組織を指す。
松島: 起業までは考えていませんでしたが、学生時代にNPOにインターンした経験から、NPOの世界で働くためには、ビジネスとしてのプロフェッショナルであることが必要だなということを実感していました。新卒として、短い期間でぎゅっと成長させてもらえるような環境で働きたいと考えたんです。
KEN:実は僕もBCG出身で松島さんの後輩に当たるのですが、確かに、みっちり鍛えられる職場ですよね。
松島:BCGには、外資なのにプライベートでの付き合いも多かったり、どこかウェットなところもあって。そういうバランス感覚がすごくいい職場でしたよね。
KEN:確かに。
松島:BCGを卒業してからも、お互いの人生を応援しあったり、気にかけあったり。そういう人間関係を築けるところも含めて、私はBCGが大好きでした。
同期のインターン生から失笑された、それでも内定を獲得した理由
KEN:将来の夢についても、採用選考の場で話したのですか?
松島:そうですね。BCGの入社試験って、何をみているかわからないようなところがありませんか?学生時代にBCGでインターンして、その時にとりくんだ課題の出来が散々で…。同期のインターン生から失笑されるほど酷かったのですけれど、それでも採用してもらえたのは、多分、アウトプットだけでないところも含めて見てくれて、認めてくれていた方がいたのだろうなと思います。
KEN:僕も、BCGの就活面接で「いつかアジアに貢献したい」と熱く語ったら、「面白いね」という反応をもらったことが印象に残っています。BCGには夢を受け入れてくれるような風土があるのでしょうね。
死ぬことはないだろうと思ったら、逆に「何故挑戦しないんだろう?」と感じた
KEN:大好きだったBCGを3年で退職されましたが、そのきっかけはなんだったのですか。
松島:まだまだコンサルタントとしては未熟でしたが、どうしてもやりたいことが出来ちゃったんですね。それでも、道半ばながら自分なりに区切りをつけられたのは、昇進させてもらえたなど、一定の評価を頂くことができたことで、多少なりとも仕事を認めていただけたと思えたからです。
KEN:コンサルから転職すると給料も下がるしリスクも大きいはず。怖いと感じたことはありませんでしたか?
松島:もしも失敗しても、選り好みしなければなんとか働くところは見つけることが出来るはず。死ぬことはないだろうって思ったら、逆に「何故挑戦しないんだろう」って思えたんですよね。いい意味でも悪い意味でも、鈍感だということもあると思います。
このまま居続けると、「辞められなくなってしまう」という危機感
KEN:会社を辞めるって、簡単な決断ではないです。
松島:BCGにいた時は、見合ってない給料をもらっているのではないかと思う気持ちと、このままどんどんもらってしまうと、辞められなくなってしまう、もしかしたらどこかで勘違いしてしまうかもしれないという気持ちを持っていました。
コンサルタントとしての仕事も面白くなってきた一方で、このままでいいのかと考えました。その結論として、NPOを立ち上げようと決めた時点で、お金のために働くのではなく、自分が描きたい世界を描くために働きたい、お金は後からその分だけついてくる、という風に意識を切り替えたのもあります。
BCGで叩き込まれた「プロフェッショナリズム」「クライアントファースト」「事業戦略の建て方」はとても役に立った
KEN:退職後、マッキンゼー出身の小沼大地さんと創業したのが、NPO法人クロスフィールズですね。お二人ともコンサル出身ですが、ズバリ、コンサルティングファームで学んだスキルは、起業の役に経ちましたか?
松島:BCGで叩き込まれた「プロフェッショナリズム」「クライアントファースト」といった考え方や、事業戦略の建て方はとても役に立ちました。実際、クロスフィールズを創業する時もビジョンやミッション、ビジネスモデルや事業計画を作る上でもそれを活かしていますし、団体を立ち上げた時に作った事業計画の大枠は今も活かされています。
KEN:具体的には、どういう部分でしょうか?
松島:留職(※3)という、ビジネスモデルのコアの部分ですね。誰が顧客でどうやってお金を集めてくるか?という留職のビジネスモデルは、最初に作ったときからあまり変わっていません。また、それをどう進めていくのかのプロジェクトマネジメントなどもコンサルのときの考え方を活かすことができています。
例えばゴールから逆算し、「いつからいつまでに何をやるべきか」を明らかにして管理する方法はコンサルティングワークの中で身につけたスキルでした。あるいは、留職を導入してくれそうな企業をターゲティングしてリスト化し、優先順位をつけてアタックしていくようなことなども、コンサルのときの考え方が役に立ちました。
もちろん計画と実行は全然違いますから、当初の計画は振り返ってみると浅かったなと感じますが、ベースとなるものを作れたということは大きかったです。
(※3)留職プログラムとは、クロスフィールズの展開する主力事業。社会課題に取り組む新興国のNPOや企業の元に、日本の企業から人材を数ヶ月間にわたって派遣し、本業を活かして現地の社会課題解決に挑むプログラムで、これまでにパナソニック、日立製作所など約25社が活用。現地のリーダーと共に働くことで、派遣された社員のリーダーシップ育成、現地理解の促進、社内活性化などの効果が高く評価されている。
アンラーニングどころではなく、新たに学ぶべきことが大量にあった創業期
KEN:コンサルで論理的思考や経営知識が染みついていると、その知識に縛られすぎないようにアンラーニング(Unlearning:学びほぐし)することが大変だと言われますが、それについてはいかがでしたか?
松島:アンラーニングどころか、新しいことを学ぶことに必死です。クロスフィールズを経営していく仕事で必要なことのうち、今までの経験から得られたものはたったの5%ぐらいだと思っています。例えば、日系企業の中で具体的にどのように実現してもらうのか、留職先をどう探すのか、そしてこれらを実行するための組織の運営など、NPOを経営する上で必要なことは、まだまだ学ばなければいけないことだらけです。
KEN:具体的にはどんなことでしょうか?
松島:お客さんが実際に使えるように、想像力と覚悟を持って提案するのがコンサルですが、実際に自分たちの足で前に進んでいくことには、コンサルとは全く別の難しさがあります。
KEN:創業して、最初の頃は、お客さんを見つけるのにも大変苦労されたと伺いました。
松島:お客さんがYesといってもやるとは限らないことは往々にしてありますよね。誰にどのタイミングでYesといってもらうか、そのためにどうやって想いを伝えるかまでイメージしないといけません。 クロスフィールズの事業を「いい話」だと思っていただけても、相手の方の心にも情熱がないと、社内を動かしてまでこれに取り組もうとまで、なかなか考えていただけませんでした。
KEN:私も日系大手にいたことがあるので「どれだけ難しいか?」が想像できます。そんな中、クロスフィールズの理念に共感し、社内を説得する程の情熱がある人を、どうやって見つけていったのかが気になります。
松島:最終的にはご縁みたいなものですね。最初はもう、片思いしているような気持ちで営業に行くんです。最初に出会ったパナソニックの方が、私たちの想いに共感して、社内で留職に派遣してくれそうな部門の方を紹介くださって。出会いが出会いを呼んで…という形で社員派遣を決めてくださいました。
もちろん、イベントを開催すれば興味を持ってくれる方は集まってくれますが、物事を動かす上では、お互いの情熱が発火しあうことが大切なんですよね。だから、一緒にやりたいと思ったら、全力で語り合います。
KEN:もう1つ難しいのが、「現地の団体」だと思います。留職の派遣先の、現地の団体の方はどう口説かれているのですか?
松島:もちろん、全力でアプローチしますが、向こうにとって留職の受け入れが負担になってもいけないので「いらないなら、いらないと言ってください」と伝え、向こうがNOと言える余地を残すように心がけています。熱さは大事だけれど、ともすると「支援する側」「される側」という構図に陥り「もらえるものならもらおう」という関係が生まれてしまいかねません。そうならないように、信頼関係を築いていくことが大事です。
もう一度新卒をやり直すとすれば、どの企業を選ぶのか?
KEN:そんな経験も踏まえ、もしまた新卒をやり直すとしたら、今度はどこに入社したいですか?
松島:難しいですね。ビジネス自体に関わる経験も積みたいし、コンサルティングで学べたことも大きかったし。ビジネスのバリューチェーンや経営スキルを短期間で身につけられそうという意味では、商社も面白そうだと思っていました。でも、課題解決の専門職であるコンサルティングの仕事も、とても好きです。
KEN:起業して、人生のフェーズの変化のようなものは、感じましたか?
松島:仕事のフェーズごとに、考えること、視点は変わっていると感じます。コンサル時代は、まだ若かったこともあって、プロジェクトリーダーから言われた仕事にただひたすら打ち込むという感じでしたが、起業してからは、自分たちは社会にどう貢献していきたいのか、そのために仕事をどう創り出していくかということを、具体的に考える立場になりました。
2人で創業しましたが、段々社員が増えてくると、今度はチームの運営を考えることが必要になりますし。視点が変わったから仕事も変わったというより、仕事が変わったことに対応して、視点が変わったという感じでしょうか。
ーー後編「途上国と日本のそれぞれの良さを活かしあって描ける未来もある。「留職」が目指す未来とは?」に続く
【公開スケジュール】14日連続公開の「外資BIG5特集」スケジュール一覧はこちらから
WRITING:今井麻希子/PHOTO:河森駿
松島由佳:
NPO法人クロスフィールズ共同創業者・副代表。東京大学在学中より、カンボジアの児童買春問題の解決を目指すNPOで現地視察型のプログラム開発などに従事。卒業後はボストン コンサルティング グループに勤務し、主に通信業界・消費財業界の企業経営に携わる傍ら、プロボノ活動としてNPO法人TABLE FOR TWO Internationalの新規事業立ち上げにも従事。NPOとビジネスの両方のバックグラウンドを活かし、クロスフィールズを創業。世界経済フォーラム(ダボス会議)のグローバル・シェイパーズ・コミュニティーに2015年より選出。
<外資BIG5特集:記事一覧>
【1】前Google日本法人名誉会長 村上憲郎氏
・「もう一度、就活をするとしたらどこに入るのか?」誰もが予想しなかった意外な会社とは(前編)
・日本人がグローバル企業でCEOを務めるために必要なたった2つのこととは?(中編)
・今の人工知能は、ターミネーターの一歩手前なのか?人工知能の最先端に迫る!(後編)
【2】マッキンゼー出身、一般社団法人RCF 藤沢烈氏
・「この会社の中で一番難しい仕事がやりたい」新卒でそう言った彼が今でも目の前の仕事に全力でコミットする理由(前編)
・「NPO経営はベンチャーが上場するのと同じくらい難しいと感じる」外資・起業・NPO全てを経験した彼が語る経営の本質(後編)
【3】BCG出身、特定非営利活動法人クロスフィールズ 松島由佳氏
・「BCGは今でも大好きです」そう述べた彼女がそれでもなお、新興国向けNPOを立ち上げた理由に迫る(前編)
・途上国と日本のそれぞれの良さを活かしあって描ける未来もある。「留職」が目指す未来とは?(後編)
【4】ゴールドマン・サックス出身、ヒューマン・ライツ・ウォッチ 吉岡利代氏
・「金融業界での経験がなければ、今の自分はない」彼女が今、ソーシャルで働く意義に迫る(前編)
・「息を吸うように仕事をしている」彼女が世界の問題を身近に感じる理由(後編)
【5】P&G出身、株式会社キャンサースキャン 福吉潤氏
・P&GマーケからハーバードMBAへ。キャンサースキャン福吉氏が今、日本の社会で証明したい「社会への貢献」と「リターン」の両立とは?(前編)
・「世界最強と言われるP&Gマーケティングの限界は存在するのか」という問いへの彼の回答とは?(後編)
【6】5人の対談を終えてKENの対談後記
・賢者が持つ「価値観の源泉」に迫る ー5人の共通点と相違点ー
・現代の就活が抱える3つの課題 ー「学生よ、ジョブローテがある会社には行くな」ー
・KENの回想記 ーソーシャル領域との出会いと、天職の見つけ方ー
※ 外資BIG5特集:特設ページはこちら