今後、国内系アセマネの注目度が高まり、内定獲得が難しくなるのでは──。
これは最近、現役東大生の知り合い数人から聞いた話だ。
金融業界において、アセットマネジメント(アセマネ)は決して華やかとはいえない業界である。
国内系アセマネの大半は、銀行や証券、保険会社の子会社であることが多いし、外資系アセマネは、一部の投資銀行系を除けば、基本的に新卒採用を行わないところが大半だ。
それなのになぜ、アセマネの注目度が上がっているのだろうか? あくまで私の推測だが、まずは外資系アセマネの魅力(まったり高給)が浸透してきたためだと思う。以前書いたこの記事も、マニアックに思えるがかなりの人に読まれた。
・定時帰りでも年収3,000万!? The「まったり高給」な外資系運用会社、あなたは興味ある?
さらに、外銀や国内系証券の専門職への就職が難化した影響も大きい。外資系アセマネへの転職も見据え、国内系アセマネに学生が流れているのだろう。
そこで今回は、外資系アセマネへの転職という観点も含め、アセマネの各職種を紹介していこうと思う。
<目次>
●運用成果は関係ない!? アセマネは「ストック型」のビジネスモデル
●「運用部門」「営業部門」「ミドル・バックオフィス」 それぞれの業務内容を徹底解説
●外資系運用会社への転職でオススメの部門は? 知られざる年収の目安も大公開
●あなたはアセマネ向き? 高まる注目度とアセマネの魅力
運用成果は関係ない!? アセマネは「ストック型」のビジネスモデル
職種を紹介する前に、まずはその前提となるアセマネのビジネスモデルを説明しよう。その仕組みはいたってシンプル。基本はこれだけだ。
(1)投資家からお金を集める
(2)集めたお金を運用する
(3)運用サービスの対価として運用報酬(フィー)を受け取る
ここでいうフィーは、大きく「成功報酬」と「運用報酬」の2種類に分けられる。ヘッジファンドの場合は前者の成功報酬が、一方のアセマネは後者の一般的な運用報酬が主な収益源であることが多い。
・成功報酬:一定の運用成果(パフォーマンス)が実現したときにのみ得られる
・運用報酬:運用成果に関わらず、運用資産額に応じて固定フィーをもらえる
運用報酬は「ストック型」のビジネスモデルと言える。運用成績が悪くて解約されない限り、運用資産に応じた報酬が得られるのだ。このため、何もしなくても運用資産というストックさえあれば、収入が得られるありがたいビジネスという見方もできる。
例えば証券会社のように、株や債券の仲介をしたり、IBD(投資銀行部門)で案件を獲得したりして、何らかのビジネスを生み出さないと報酬が発生しないモデルとは異なる。この違いが、社風や働き方の差にもつながるのだから興味深い。
「運用部門」「営業部門」「ミドル・バックオフィス」 それぞれの業務内容を徹底解説
アセマネの部署は大きく「運用部門」「営業部門」「ミドル・バックオフィス」の3つに分けられる。ここからは、各部門の組織体制と業務を紹介していこう。
運用部門:アセマネが扱う案件の多くは「再委託」。運用をやりたいなら要注意
運用部門とは、その名の通り、運用会社のメインの仕事を担う部門だ。株、債券、為替、不動産、オルタナといった、運用対象資産に関する情報を収集し、PM(Portfolio Manager)が投資の意思決定を行うという役割を持つ。
ややマニアックな話かもしれないが、運用には、自分自身で運用する「自家運用」と、「再委託運用」の2種類があることを知っておくといい。
・自家運用:自らの拠点にリサーチ要員とPMが存在し、銘柄選択と発注まで完結する。通常、運用と聞いて多くの人が思い浮かべるのがこの形態
・再委託運用:リサーチと銘柄選択を行う組織が社外に存在し、そちらに運用権限を委託する形態。再委託運用の中でも、運用権限の委託先が他社(グループ会社以外)である場合は「外部委託」という
就活生が気を付けるべきは、国内、外資に関わらずアセマネにおいて、運用の多くは再委託運用であるという点だ。
日本で運用できるのは、日本株、日本の公社債、そして日本の不動産(J-REIT含む)のみ。外国株式や外国債券、外国不動産については、リサーチと銘柄選択は海外の拠点で行われるため、再委託運用という形になる。
基本的には個人、機関投資家を問わず、外国のプロダクトの方がニーズが高い。そのため、運用部門に配属されたとしても、再委託運用に関わる仕事が多くを占める。自分自身は直接リサーチや銘柄選択に関与できず、海外拠点や他社で行われた運用を管理する形だ。「運用をやりたい」と思っているならば、特に注意した方がいい。
営業部門:一攫千金(いっかくせんきん)が狙える「リテール営業」、プロを相手にする「機関投資家営業」
運用会社の営業は「リテール営業」と「機関投資家営業」の2つに分けられる。
まずはリテール営業から。営業といっても、証券会社のように、自らが雑居ビルを上から下まで訪問したり、住宅地にチラシを配ったりするわけではない。
販社(販売会社)と呼ばれる、証券会社や銀行などの金融機関の営業企画部門を訪問して、自社の投資信託を販売してくれるようお願いするのが仕事だ。
めでたく取り扱いが決まった後は、営業社員向けの勉強会の実施や、その金融機関が主催する投資家向けのセミナーへの参加、といった販売支援活動をすることになる。
言葉にすると単純に見えるかもしれないが、規模が大きく販売力のある大手証券会社やメガバンクには、当然、国内・外資を問わず販売依頼が殺到する。自社の投資信託を取り扱ってもらうのは、そう簡単なことではない。
しかし、たとえ小さな運用会社であっても、大手金融機関に自社の投資信託が採用されると、メガヒットにつながることがある。それゆえ、特に外資系運用会社にとっては、かなり妙味のあるビジネスといえるだろう。
一方の機関投資家営業だが、こちらはさらに「年金営業」と「金法営業(金融法人向け営業)」の2つに分類される。
・年金営業:企業年金や公的年金に対し、自社での一任運用をお願いする営業
・金法営業:自社資金で運用を行う金融機関や、彼らの顧客(地銀などの地域金融機関や事業会社)に自社プロダクトを案内する営業などを指す
一般的にリテール営業と機関投資家営業は、どちらが上ということはない。各運用会社がどちらに比重を置いているか(競争力を有するか)によって異なるからだ。
機関投資家営業の担当者の中には「自分たちはプロの投資家を相手に取引をするので、リテール営業よりもエラい」と思っている人もいるが、リテールには特有のスキルが求められるし、自社投信が大ヒットすれば収益は大きく上振れするという強みもある。
また、小規模な外資系運用会社の場合、一人の営業社員が機関投資家営業とリテール営業を兼任していることもある。
ミドル・バックオフィス:外資系へ転職したいなら「企画・広報部門」は避けるべき
運用会社の組織はシンプルで、収益に直結する、いわゆるフロントオフィスは運用と営業だけだ(証券会社のIBDに相当する部門はない)。したがって、運用と営業以外はミドル・バックオフィスということになる。
ミドルオフィスはオペレーション部門(業務部門)が中心で、ファンドの基準価額(NAV:Net Asset Value)を算出するファンド計理業務などを行う。
バックオフィスは、他の金融機関や事業会社と同じで、経理、人事、法務コンプライアンス、ITなどの部門を指す。
なお、基本的に外資系の場合はないが、国内系のアセマネには、総合企画・経営企画や広報の部門が存在し、社内的にはエリート部門とされる。
「エリート」というと憧れを抱く人もいるかもしれないが、社内での出世しやすさ(ステータス)と、転職における市場価値は全く別物である点は留意しておきたい。すなわち、外資系への転職に際してはあまり評価されないということだ。
フロント部門のみならず、経理やコンプライアンスといったバックオフィスと比べても転職しにくかったり、好条件での転職が難しかったりするのが現実だ。外資系への転職を考えるのであれば、基本的にフロントオフィスを狙うのがいい。
外資系運用会社への転職でオススメの部門は? 知られざる年収の目安も大公開
さて、ここからは就活生の皆さんが気になるだろう「年収」と、外資系運用会社への転職のしやすさについて、部門別に説明していこう。
運用部門:大きく稼ぎたいなら「ヘッジファンド」狙いもアリ
前述した通り、運用には自家運用と再委託運用とがある。あくまで自家運用にこだわるのであれば、日本株がメインプロダクトとなるだろう。
PMとして外資系に転職をした場合、日本株を扱うポジションになることが多い。しかし、外資系が強みとするのは、もちろん、外国株式や外国債券といった外国のプロダクトだ。全ての外資系運用会社に日本株の運用部門があるわけではないため、どうしてもポジションは限定されてしまう。
他方、再委託運用に関わる運用業務は、基本的には外資系各社に存在する。自らがPMとして銘柄を選択する立場ではなく、運用管理的な仕事でも良いということであれば、それなりにポジションはあるだろう。
なお、これは固定的な運用報酬をメインとする伝統的な運用会社のケースである。成功報酬がメインとなるヘッジファンドの場合、日本株のPMのポジションもあるので、腕に自信があるなら、ヘッジファンドのPMを目指す手もある。
伝統的な外資系運用会社の運用部門の場合、ヘッジファンドのような極端な業績連動報酬ではないため、年収1億円を超えるようなケースは限られる。大きく稼ぎたいのであれば、ヘッジファンドを狙うしかない。
・30代、年収1億円プレイヤーはどんな仕事をしている? 知られざるヘッジファンドの世界
営業部門:外資系運用会社に転職するなら一番オススメ。50歳を過ぎても働ける
外資系運用会社へ転職をするなら、実は営業が一番オススメだ。運用会社というと、運用部門のPMが花形のように見えるかもしれないが、外資系の場合、日本株の自家運用を除き、ほとんどが海外にある親会社やグループ会社によって運用される。
そのため、親会社やグループ会社で運用されたプロダクトを、いかにして日本の金融機関や投資家に案内できるかが主なミッションとなるのだ。優秀な営業マンはどんな会社でも必要とされるのである。
営業はポジションも多くて流動性も高い。また、日本の金融機関や公的年金、企業年金の幹部と関わるので、年功序列型の企業が多い日本においては、若手よりもベテランの方が入り込みやすいのもポイントだ。そのため、シニアのポジションであれば、50歳を過ぎても働けるというメリットもある。
逆に20代前半など、あまりに若いと客先に出しにくく、内勤にされてしまう場合もある。20代後半の少し早いタイミングでアソシエイトポジションで外資を狙うか、30歳前後でVP(ヴァイス・プレジデント)のポジションで外資への転職を考えるのが、1つの成功パターンだろう。
年収のイメージとしては外資系の場合、企業、業績、タイトルなどによって差が大きいため、一般化するのは難しいが、アソシエイトであれば1500万円、VPであれば2000万円以上、というのが1つの目安になるだろう。
アソシエイト |
1500万円 |
VP |
2000万円以上 |
VP(営業職) |
3000万円以上の場合もある |
Director/SVP |
3000万〜5000万円 |
もっとも、営業職でVPの場合だと、ボーナスの変動幅が大きいので年収が3000万円くらいになるケースもある。
VPよりワンランク上の「Director/SVP(シニア・ヴァイス・プレジデント)」になると、ベースが2000万円を越える。ボーナス次第で変動幅はあるが、年収3000万~5000万円がターゲットになると考えられる。先ほども書いたように、運用会社の場合、外銀とは異なり、年収1億円超えはかなりのレアケースになるだろう。
ミドル・バックオフィス:年俸水準は低め。国内企業で定年まで勤める方が手堅い?
新卒で運用会社を目指すような学生であれば、最初からミドル・バックオフィス志望という人はまずいないだろう。
それでもミドル・バックオフィスはどんな運用会社にもあるため、転職という視点で見れば、それなりにポジションはある。しかし、全般的に年俸水準は低めで、終身雇用ではないというリスクを考えると悩ましいところだ。
マネージャークラス |
1500〜2000万円 |
ヘッドクラス |
3000〜4000万円 |
なぜなら、ミドル・バックオフィスのマネージャークラスだと、基本給が1200万~1500万円、ボーナスで300万~500万円で、合計1500~2000万円というレンジが一般的。それならば、国内系の信託銀行やアセマネの運用・営業部門で働き、同等の年収で定年までいた方が手堅いという考えもあるためだ。
ミドル・バックオフィスでも、ヘッドクラス(4~5人位のチームの長)であれば、年収3000~4000万円のケースもあるが、誰もがなれるとは限らない。本社、拠点、営業部門のヘッドクラスからいかに気に入られるかも出世のカギとなる。
商品部門:連絡調整が中心。部署がない会社もあるので注意
では、「商品開発」や「商品企画」といった商品関係の部署はどうだろうか?
実は商品部門というのは運用会社に必須ではなく、商品部門がない会社も少なくない。また、商品部門があっても、営業や運用に近い役割であることもある。
基本的には、本社の運用部門と東京の拠点との間をつなぐ、リエゾンオフィス的な位置付けの部署が多いと思われる。新規ファンドや一任運用案件が決まった際に、新規案件をプロジェクト化して、各部署間を連絡調整して、進めていく役割を担うのだ。
プロジェクトや新規案件の推進というと聞こえは良いかもしれないが、言い換えれば、連絡調整の部署ということだ。事業会社における、経営企画や事業開発と似たところがあるかもしれない。
いずれにせよ、運用会社で最初から商品部門を狙うより、運用あるいは営業部門を狙うのが主流だろう。
あなたはアセマネ向き? 高まる注目度とアセマネの魅力
冒頭でも記したように、ここ最近、アセマネの注目度も高まってきているという話を聞く。
確かに、アセマネはグローバルな相場という日々変化に富む環境で働く仕事であり、世界中のプロダクトに接することができる。
オフィスには、経済誌や業界誌があふれており、日頃から堂々と相場の話ができるため、従業員の証券投資は大幅に制限されているとはいえ、投資や相場が好きな人にとってはとても魅力的な職場だろう。
もし記事を読んで、この世界に興味が持てそうであれば、応募してみてはどうだろうか。
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(Photo:katjen , l i g h t p o e t , anek.soowannaphoom , Stuart Monk , everything possible , Day Of Victory Studio, TimeShops/Shutterstock.com)
※こちらは2020年6月に公開された記事の再掲です。