読者の皆さま、はじめまして。あしながおじさんです。
今回、元戦略コンサルの採用担当をしていた経験を生かしてワンキャリアで連載を始めることになりました。よろしくお願いいたします。
私のキャリアをざっと説明すると、大学卒業後、日系の大企業に就職して経営企画になり、その後、戦略コンサル(MBB)に転職。コンサルタントとしてマネージャーまで経験しながら、採用のチームリーダーも務めました。今はスタートアップの経営企画をやっています。
私はこれまで、面接やジョブで数多くの学生を見ており、コンサル人気の異様な高まりを肌で感じていました。「優秀な学生がたくさんいる一方で、ミスマッチになりそうなケースも増えたな」というのが偽らざる本音であり、連載を始めようと思ったきっかけでもあります。
この連載では、微力ながら、皆さんがより良いキャリアを歩んでいくための情報やアドバイスを発信できればと思っています。
さて、記念すべき第1回のテーマは「コンサル人気、2つの誤解」。「成長するため」「やりたいことを見つけるため」にコンサルを志望する学生は少なくありませんが、安易に目指すとちょっと不幸な未来が待っているかもしれません。その上で、コンサルタントとして成功する人材の条件についても、お話ししたいと思います。
異様なコンサル信仰に思う 「成長できる」「やりたいことが見つかる」への誤解
まずは、2020年6月にワンキャリアが発表した「東大・京大生の就活人気ランキング」を見てみましょう。
驚くことに、上位10社中7社をコンサルが独占しています。先ほどもお話ししたように、採用担当の身からしても、コンサルの認知や応募者が異常なまでに増えている実感はありました。
ただ、一方でミスマッチが増えたのも事実。その理由は、学生の中で形成されているステレオタイプなイメージと実態がかけ離れてしまった点にあると思っています。
実際、面接などで志望動機を聞くと「成長できそう」「多様なプロジェクトを通じて、やりたいことが見つかりそう」と話す学生の多いこと。しかし、これは両方とも誤解をしている可能性が高いです。順番に考えてみましょう。
戦略コンサルがなれるのは「経営の専門家」 あなたのキャリアは本当にそれでOK?
まずは「成長できそう」について。多くの学生が使う言葉ですが、私自身は、成長というものを以下の3要素の掛け算だと定義しています。
(1)方向性:自分が成長したい方向性とその仕事がマッチしている
(2)組織・周囲の能力の高さ:周囲が優秀、または組織に知見が蓄積されており、そこから学ぶことができる
(3)フィードバックループの回数:学んだ内容を実行する試行回数が多くあり、周囲からフィードバックを得られる
これをコンサルタントの仕事に当てはめて考えてみます。特に戦略コンサルの場合、(2)と(3)については文句なしの環境だと言えるでしょう。
極めて優秀な人員が集まっているし、知見はグローバルで組織として集約されている。その集団の中で日々(本当に1日単位で)難度の高い業務をしながら、成長のために周囲からフィードバックを受けられます。
一方で(1)はどうでしょうか。
例えば、戦略コンサルで働いたからといって、年間何億円も売る営業力が身に付くわけではありません。プロダクトを作る・伸ばすノウハウ・経験が蓄積されるわけでも、人事・組織や会計といった専門性が付くわけでもないでしょう。
戦略コンサルで身に付くのは「経営の専門性」と「問題定義・解決力」の2つです。前者は、経営陣や経営企画として、全社戦略やその資源配分、さまざまな自社の課題を発見し周囲を巻き込んで解決するという点について高い価値を出せます。
一方、後者については汎用性こそ高いですが、これだけでは単なる「器用貧乏」になってしまうので注意が必要です。厳しい言い方かもしれませんが、「経営の専門性がほしくなければ、戦略コンサルに行っても意味がない」と言っても過言ではありません。
当たり前の話ですが、「コンサルの先に見据える自身の方向性とのマッチ」がなければ、コンサルで望む成長は得られないということなのです。
モラトリアムの罠(わな)──数カ月かけて1業界しか見られないのは「非効率」
次に「やりたいことが見つかりそう」について考えてみましょう。
戦略コンサルでは、ジュニアのうちは特定の業界に特化することなく、数カ月単位で異なる業界・企業のプロジェクトにアサインされます。確かに、その中でやりたいことを見つけられる人もいるかもしれません。
しかし、これは逆に言えば、1つの業界を知るのに数カ月、5つの業界を見るのに2〜3年の時間をかけるということでもあります。
業界への関心を確かめるだけならば、企業説明会に参加し、顧客としてその業界を体験し、業界の本を1〜2冊読み、その業界の社会人に数人話を聞けば、十分すぎるほど分かるでしょう。本気でやろうと思えば、1週間でできることです。
そう考えると、プロジェクトのアサイン(割り振り)に運を委ね、何カ月もかけてその業界を知ることは、相当な回り道だと思いませんか?
また、総合コンサルなどではそもそも入社時に「業界」や「機能(IT、人事など)」がほぼ固定されるため、やりたいことを見つけるどころか勝手に決められる、ということもよく起こります。
皆さんには、こうした事実を踏まえ、ぜひ盲目的にコンサルを志望するのでなく「人生やキャリアの先を見据えたときに、コンサルで働くことにどんな意義や意味があるのか」について、改めて考えてみてほしいと思います。
「成長したい」だけで働く人間の限界。コンサルで大成する人の条件とは
最後に、ここまで読んでいただいた上で「やりたいことがあり、それが戦略コンサルで満たせる!」と思った方に向けて、コンサルタントとして成功するための条件をお話しします。
戦略コンサルは大きな責任の伴う仕事です。経営とは「決めて断つ」ことであり、コンサルタントはその中でも特に大きく難しい決断に携わります。
コンサルタントの分析やメッセージ1つで、例えば、事業売却やリストラなど多くの方の人生を左右することだってあるでしょう。
そのような厳しい環境の中で、「成長したい」という独りよがりなモチベーションだけでは、クライアントの納得できる答えを出すことや、仕事を続けること自体が難しいこともあるのです。
これまでの経験から考えるに、活躍する戦略コンサルタントにおける仕事のやりがいやモチベーションの源泉はいくつかのパターンに分けられます。
(1)好奇心の塊:とにかく考えることが好き
(2)インパクト志向:自身が携わることで、クライアントを通じて世の中を良くしたい。自分が携わった案件がメディアに出るとうれしい
(3)ヒト志向:クライアントに自分が感謝される、自分が働いたクライアントの特定の方が社内で認められ登用される、などの人間関係
長期的に成果を出し続けるコンサルタントは、上記のうち、複数を持ち合わせていることが多いように感じます。こうした点に共感できるなら、コンサルタント向き、と言えるのかもしれません。
*
いかがでしょうか。ドキッとした方も多いのではないかと思います。
ちなみに私自身にとっては、戦略コンサルで働いた期間は、やりたかったことができ、極めて多くのことを学び、人間としても成長でき、多くのかけがえのない方々に出会え、間違いなくベストの環境だったと今でも確信しています。
これもまた当たり前の話なのですが、結局「人次第」なのです。
兎(と)にも角にもコンサル信仰、というのは一部の方にとって不幸なキャリアとなる可能性がある。これを知ることが、コンサル就活の第一歩なのだと考えています。
【連載:あしながおじさんのコンサル信仰「七不思議」】
・「成長したい」だけでは働き続けられない──元MBB採用担当が明かした「コンサル人気、2つの誤解」
・自己分析は意味がない?コンサル的アプローチで取り組む「やりたい仕事の見つけ方」
(Photo:Worawee Meepian/Shutterstock.com)
※こちらは2020年9月に公開された記事の再掲です。