仮に私が就活生だったなら、ゴールドマン・サックスの投資銀行部門(IBD)へ行く。
理由は2つ。私が職業人生において仕事に求める点を満たしているからだ。
(1)プロフェッショナルとして生きる人と仕事ができる環境
(2)企業経営に対して切り込む武器を持てる環境
ちなみに、私が生業とするコンサルティングもこれらに当てはまる稀有な仕事だが、ここでは、「もしも」の話として、私がなぜIBDで働きたいかを話そう。現在の仕事に不満があるわけではないが、ここではあえて私の「妄想」にも近いキャリア観に付き合っていただきたい。
得意でなくても仕事にできるのは、日本の新卒採用だけ
MBAのキャリアプログラムなどにおいて、たびたび挙げられる天職の条件がある。
それは、「やりたいこと」「需要が強いこと」「得意なこと」の全てを満たすものであるということだ。
これら3つを満たす上で、日本は恵まれた国だろう。就活という文化がなく、学生でも就業経験などで「得意なこと」を証明する必要がある海外とは違い、新卒就活においては、得意でなくても職を得られてしまうからだ。
就職活動時点では、英語を話せなくともグローバルメーカーの駐在候補になることができる。また、プログラミングの経験がなくともシステムエンジニアとして内定を得られる機会がある。
得意なことであるかどうかは求められないため、やりたいことと需要が強いことを優先できる。キャリアを真剣に考える一部の人間にとっては恵まれた市場なのだ。
だからこそ、「やりたいこと」「需要が強いこと」の2つに特にフォーカスした職選びが求められる。
ただし、これは「得意なこと」を無視しろという意味ではない。「得意なこと」が既に固まりつつあり、それが残る2要素と重なるのであれば申し分ない状態だ。
では、私にとって「やりたいこと」「需要が強いこと」とは何か。
それこそ、「プロフェッショナルとして生きること」「企業経営に対して切り込む武器を持てること」だと思っている。
この2つの観点は、1つが「やりたいこと」を満たすために必要で、もう1つは「需要が強いこと」につながるわけではない。そうした1対1の関係性ではなく、どちらか1つでも「やりたいこと」「需要が強いこと」を同時に満たせ、天職に就くためには極めて重要な観点なのだ。
プロフェッショナルの世界は新卒こそ価値を享受できる
プロフェッショナル、と聞くと何かの専門家を想像するかもしれないが、私の中では「プロフェッショナルとして生きること」は専門家になることを意味するわけではない。自立した仕事人として生きることを意味する。
「自立した存在として生きたい」というのは、私の根っからの思いである。仕事においても、何物にも依存せずに(≠頼らずに)、自分の足で立って価値を出したい。私の「やりたいこと」には、常にこうした思いが反映されている。
同時に、プロフェッショナルとして生きれば、需要の高い人材にもなれる。
目の前の仕事に対してオーナーシップを持てる人間は実はそういない。オーナーシップを「やるべきことである一方、やろうとする人が少ないことを進んで行う姿勢」と言い換えれば、いかにプロフェッショナルとして生きることが大変で、需要が高いかが分かると思う。
では、これを行い得る職業とはどのようなものか。私は「特定高度専門業務・成果型労働」対象の職業だと思っている。つまり、研究開発職やコンサルタント、投資銀行、などの「高プロ人材」に該当する職業だ。
これらの職業は労働時間ではなく、アウトプットのクオリティによって価値が評価されるシビアな世界である。
このシビアな世界に身を投じ、上司や同僚からプロフェッショナルとは何たるかを学び続けることで、自身の変化を促すことができる。特に、新卒という「手垢がついていない時期」こそ、最も変化が容易い。プロフェッショナルの世界は、熟練者が優位なイメージを持つかもしれないが、実は新卒こそその価値を最も享受できるのだ。
企業経営に切り込める人材は、ますます需要が顕在化する
もう1つの条件は「企業経営に対して切り込む武器を持てること」だ。
これは「プロフェッショナルとして生きること」に比べるとイメージしやすいのではないだろうか。
私は個社の企業経営、特に事業面についてあれこれと考えることが好きだ。これらの中で何かを以て企業経営を前進させることができる職業は等しく「やってみたい」と思う。
最もこれに近い仕事の1つにはやはり経営コンサルタントという現職が挙がるが、他にもさまざまな職種が存在している。企業経営が常に接しているいわゆる「ヒト・モノ・カネ」(+情報等々)のエキスパートたちだ。
定性的な評価が多く、最適化が難しい人事戦略について考える人事コンサルタントや、サプライチェーンの複雑な自社・市場データを取り扱うデータサイエンティストなど、どれも非常に興味深い。
特に、その中でも私の興味を引くのが企業財務(コーポレートファイナンス)の側面から企業を眺めるという仕事、つまり投資銀行の投資銀行部門(IBD)だ。
垣間見た世界の話ではあるが、企業財務の世界は非常に魅力的だ。
「カネ」は会社の血液のようなもので、とめどなく会社内外を回り続けることで企業は存続し続けられる。一方で、回るペースは企業によって異なるため、その状態を正確に把握し、企業経営のために行うべき活動を導き出す必要がある。そう考えると、投資銀行の仕事は非常にエキサイティングだ。
また、企業経営に対して切り込む武器を持てる人材は需要が高い。これは以前からそうであったが、さらに需要が顕在化すると思っている。背景にあるのは、昨今の個人商店化・フリーランス化の流れ。企業が個人とタッグを組んで仕事を進めるケースが増える分、経営者に対して何かしら切り込める(≒提言できる)武器を持つ人材のニーズが高いことが、ビジネスの現場で表面化していくのだ。
投資銀行の業務自体は多くの会社では行わないものなので、その経験をそのまま応用する機会は少ないかもしれない。だが、その業務によって培った企業財務に関する知識・経験という武器は、企業経営の中でも最も重要な要素の1つであり、今後も高い需要を維持し続ける代物だと思っている。
新卒就活を「最後の機会」と捉えているか
冒頭、日本は「得意なこと」でなくても職を得られてしまう、恵まれた国だと伝えたが、これは新卒就活に限る。転職活動において「得意なこと」であるかは当然求められる。しかしながら、そのことをすっかり忘れて新卒就活と同様に転職活動を行う人間は非常に多い。
例えば、転職市場において、面接で真っ先に聞かれるのは「あなたはこの会社にどのような価値を発揮できるのか」という点だ。そしてその根拠として「あなたは今まで何の仕事をしてきたのか」という点を深掘りされる。つまりあなたが「得意なこと」は何か、それが求人案件に適うものなのかを突き止めようとしてくるのだ。
求職者にとって、最初の職業選択の機会である新卒就活は、実は最後の「色のない職業選択の機会」であり、入社をした時点であなたの「得意なこと」(≒経験したこと)は市場から吟味され始める。
離職率の激しい営業職が合わなかったからといって、研究職や企画職に移ろうとしても、現実は厳しいのだ。
そうならないためにも、新卒就活の時点で「得意なこと」かどうか、もしくは「得意になれそうか」くらいには、職業を見ても良いのかもしれない。
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