こんにちは、ワンキャリ編集部です。
今回は戦略コンサルティングファームにおいて独自の地位を誇る経営共創基盤(IGPI)にてパートナー/マネージングディレクターを務める塩野誠氏にインタビューを行いました。多彩なキャリアを歩み、経営の最前線で活躍を続ける塩野さんに、コンサルタントのキャリアと仕事の魅力を語っていただきました。
「コンサルタントの仕事は心臓外科医」企業の一大事を救うことは、プロフェッショナルとして果たすべき日々の職責
――塩野さん、本日は宜しくお願いします。早速ではありますが、塩野さんの現在に至るまでのご経歴を伺えますか。
塩野:はい。私は外資系金融機関のシティ・バンク、およびゴールドマン・サックスに勤務した後、インターネット領域で起業しました。ITバブル崩壊後はべイン・アンド・カンパニーにて主に自動車業界のコンサルティングに従事しましたが、再度インターネットやテクノロジーに魅力を感じ、当時誰も知らなかった「オン・ザ・エッヂ」という会社に、ネットの求人を見て入社します。その会社はライブドアと呼ばれる会社の前身でした。ライブドアでは、まだ一般的ではなかったコーポレート・ベンチャーキャピタル業務を手掛けたり、ライブドア証券取締役副社長としてフジテレビ・ニッポン放送の買収を担当したりしました。いわゆる「ライブドア事件」の後は米国のロースクールに留学し、2008年に帰国後、設立1年目のIGPIに参画しました。
塩野 誠:経営共創基盤(IGPI)パートナー/マネージングディレクター。国内外の企業に戦略立案・実行、M&Aのアドバイスを行い、政府系審議会委員も務める。ゴールドマン・サックス、ベイン&カンパニー、ライブドア、起業などの職務経験からキャリアに関する執筆や講演も多い。主な著書に『リアルスタートアップ~若者のための戦略的キャリアと起業の技術~』、『20代のための「キャリア」と「仕事」入門』など
――ありがとうございます。非常に多彩なご経験をもつ塩野さんですが、これまでIGPIで手掛けた多くのプロジェクトの中で、苦労が大きかったりと、印象に残る仕事はありますか?
塩野:敢えてお答えするのなら、その観点で印象的な案件は「特にない」です。
――意外なお答えですね。その意図を教えていただけますか。
塩野:我々IGPIが手掛けているコンサルティングは、企業が抱えるあらゆる経営課題を解決する仕事で、時にはM&Aや企業再生など企業の存亡がかかった案件も多々あります。 そうした案件には困難がつきものと思われるかもしれませんが、これらは我々が「プロフェッショナルとして当たり前に果たすべき職務」です。
例えるなら心臓外科医のようなものです。患者は一生に一度の手術でも、医師にとっては日々の手術の一回ですよね。医師はプロフェッショナルとして、モチベーションの有無や苦労という感情に左右されることなく、手術を成功させようと力を尽くすわけです。
基本理念に立ち返れば、コンサルタントの価値はジェネラルであること
――コンサルタントは、経営者が直面する重要課題に日常的に取り組んでいるわけですね。その領域は非常に幅広いという印象です。
塩野:コンサルタントはそもそもの成り立ちから非常にジェネラルな職業です。具体的に言うと、コンサルティングファームは「業種を問わず、戦略、財務、法務など、CEOが抱えるあらゆる経営課題にアドバイスを行うプロフェッショナル集団」というのが基本概念です。これはコンサルティングの父と呼ばれるマービン・バウワー*が掲げたコンセプトであり、経営に関わる「法律を使わない法律事務所」という立ち位置に端を発しています。監査法人を出自とするファームやIT系コンサルティングファームが登場し、領域ごとにチームを分け、ファームとしてワンストップソリューションを提供する現在の形態が一般的になったのはその後のことです。
*マービン・バウワー(1903-2003):マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーを務め、現在のコンサルティング概念を確立したと評される
――IGPIの特徴であるハンズオン*は、コンサルタントが支援先に常駐し、事業会社のあらゆる経営課題を解決する窓口になるという点で、コンサルティングの基本形に近いといえますね。
*ハンズオン(常駐協業):コンサルタントが事業会社に常駐し、総合的な経営支援を行うこと
塩野:おっしゃる通りです。特にハンズオンの現場では、コンサルタント個人もジェネラリストであることが必要です。CEOの隣に座るプロフェッショナルとして、経営戦略からファイナンスやIT、その業界に固有な領域まで幅広く見渡せる人物が求められます。
MBAはスタートポイント。コンサルタントは「広く深いジェネラリスト」だ
――コンサルティングは、組織としても個人としてもジェネラルであることが必要なのですね。反面、一部の就活生からは「コンサルタントという職業は幅広い業界の案件に携われる一方、専門性が身につきにくいのではないか」という懸念も聞かれます。コンサルタントは「器用貧乏」というイメージについて、塩野さんはどう思われますか。
塩野:まず問いたいのは、「専門性をどう定義するか」ということです。例えば金融機関で営業担当になるとして、弁護士レベルでM&Aの法体系に精通できる保証はありませんよね。厳しい言い方ですが、自分が身に着けたい「専門性」の要件が曖昧なままでは、虚像を追うことになりかねません。
コンサルタントの場合、MBAレベルの広さ・深さの知識を持つことがスタートポイントです。我々の仕事は、企業や産業の未来を予見し、「この道20年、30年」の経験のある経営層に提案を行うことです。ならば、彼らと同じ目線で議論できることは、コンサルタントとして価値を発揮する以前の最低ラインといえます。
――コンサルタントは「広く深いジェネラリスト」であることが前提条件なのですね。
塩野:そういうことです。ただし、「ジェネラルなファームに所属すること」と「広く深いジェネラリストとして成長すること」は、必ずしもイコールではありません。巨大なファームでは事業領域が細分化しており、若手の担当業務が小さいモジュールに留まる――つまり「決められた業界の決められたテーマのプレゼン資料を作る仕事」に配属され続ける可能性もあるからです。その点、IGPIは少人数のチームで変化していくテーマのプロジェクトを一貫して担当するため、ジェネラリストが育ちやすい環境だと思います。
活躍し続けるコンサルタントの要件は、分刻みのCEOを立ち止まらせる力
――それでは、MBAレベルの知識を前提とした上で、活躍し続けるコンサルタントに共通する資質とはどのようなものでしょうか。
塩野:スキルとマインドの観点からお答えします。まずスキルの面では、大きく2つのフェーズに分かれると思います。入社から20代前半までの数年間は、定量的な知識と正確性が求められます。ところが、20代後半を過ぎると、次のフェーズとしてクライアントとのコミュニケーション能力が問われるようになります。このギャップに対応できるか否かがコンサルタントのキャリアにおける分岐点かもしれません。
――ここでいうコミュニケーション能力とは、具体的にどういうことでしょうか?
塩野:クライアントに名指しでプロジェクトの依頼をいただく力ではないでしょうか。個人的に、コンサルタントはバイネームで売れなければならない、芸人のような存在だと思います。常に魅力的かつ新しいコンセプトを示し続け、予定が分刻みに詰まったCEOに「この人の話を15分聞かなきゃいけないな」と思わせる人が、プロフェッショナルとして活躍しています。これらの能力があれば、人材ニーズはいくらでもありますよ。その点で、コンサルタントは、女性にとっても続けやすい仕事だと思います。結婚や出産などのライフイベントがあって1年半くらい留守にしても、すぐ別のプロジェクトで働き始めることができます。
――能力の高い方であれば、非常に柔軟にキャリアを設計できるということですね。マインドの面ではいかがでしょうか。
塩野:一種のジャーナリスト気質を持っていることです。好奇心を持ち、「人生はすべて取材のようなものだ」と思える人は、苦しい局面も自分の糧にできますね。したがって、学生の皆さんの中でも、知的好奇心を持ち続けられる人はコンサルタント向きだと思います。
――なるほど。一方で、スキル面に関しては、MBAレベルの知識を短期間で習得し、定量的なスキルとコミュニケーション能力を両立するのは容易ではありませんよね。IGPIでは、どのような育成プランを設計していますか。
塩野:手厚い研修制度を設けています。IGPIでは、入社1年目から経営・財務・法務・定量分析・ロジカルシンキング・プレゼンテーションといった基礎スキルを1か月程度でみっちりと叩き込みます。研修の講師は、各分野におけるエキスパートの社員たちが交代で務めます。その後は現場に出ながらも長期的・継続的に研修を行います。
――非常に充実した制度ですね。それらのスキルを、どのように実践可能なものにしているか伺えますか。
塩野:研修後のOJT期間は、短いスパンで濃密なプロジェクトを経験するため、様々な事業領域で学習内容を実践に移せます。事業領域だけでなく仕事の内容も多岐に渡るため、OJTを通して、さらに幅広い知識やスキルを身に着けていくことになります。また、先ほどハンズオンについて話した通り、IGPIでは年次にかかわらずクライアントの現場に常駐することもあります。海外案件を含め、経営層と単身で渡り合うチャンスは思いの外早く巡ってきますよ。
IGPIは日本が困難に直面したとき、最初に声が掛かるファーム。「あるべき論」を語れる理由は強固な組織体制にある
――今までコンサルタント全般のキャリアについてお聞きしてきました。ここからはIGPIならではの魅力を伺います。塩野さんにとって、IGPIで働く醍醐味を一言で表すなら何でしょうか?
塩野:「IGPIは我が国の産業が困難に直面したとき、最初に声が掛かるファームだ」という自負があることです。普段から政府委員会や国家的な事業に参画する機会も多くあります。
――その理由は何故だと思われますか?
塩野:IGPIが持つ強いパブリックマインドにあると思います。「競争の中で産業はこういう方向に進むべきだ」というビジョンを語り、短期的利益ではなく、価値を出すべきことに注力する組織です。私の場合、長らく担当したクライアントとのお取引をこちらから終了させていただいたことがあります。それはクライアントが成果を出し、我々が対価に見合う価値をこれ以上提供できないと判断したからです。
――国の難局に求められるのは、「あるべき論を語れる組織」ということですね。興味深い反面、こうした姿勢は時に採算の面でリスクになりませんか。IGPIでそのような意思決定を下せるのはなぜでしょうか。
塩野:その理由は、IGPIの組織体制にあります。特長は2つで、(1)パートナー制を採用していることと、(2)自社で強固な資本があり、かつキャッシュフローが安定していることが挙げられます。
まずパートナー制について、IGPIでは現在18名の共同経営者(パートナー)だけが自社の議決権のある株式を保有し、経営の意思決定を行っています。それゆえ「ファームとして正しい」と思うことに極めて広範に取り組むことができます。
――具体的にはどういうことでしょうか。
塩野:株式を公開している大企業型コンサルティングファームでは、株主や海外のヘッドクオーターの意向を汲む必要がありますが、IGPIの場合は、先に述べたようにプロジェクトの意思決定をパートナーの自己責任に基づいて判断できます。
もう一点、我々は100億円以上の資本を有し、自社で安定的な事業も保有しています。ですから、日々の資金繰りに困ることなく、必要と判断すれば事業にリスクマネーを投じることも厭いません。
一般にコンサルティングファームやアドバイザリーファームは、クライアントにリスクの伴う判断を委ねます。「調査の結果、提案できる選択肢はこれです。最終決定権は御社にあります」というスタンスです。対する我々は、自分たちの戦略に確信を持ち、提案から実行までクライアントとリスクを取って伴走する覚悟があります。その点、商社の事業投資やプライベートエクイティファンド*にも似ていますね。
*プライベートエクイティファンド:未上場企業への投資を行うファンド。
――IGPIの投資事業でいえば、100%子会社である、みちのりホールディングスによる東北のバスや湘南モノレールの事業経営が好例でしょうか。資金やノウハウだけでなく自社から役員を派遣するなど、「ヒト・モノ・カネ」全てを投じた経営参画といえますね。
リーダーに必要な力を鍛える、本気のインターンシップがそこにある
――インタビューも終盤ですが、塩野さんから全国の学生にメッセージをお願いします。
塩野:今の日本に不足しているのはリーダーです。これは経営者に限らず、意思決定を行う人材を指します。学生の皆さんにはリーダーを目指していただきたいです。そのための知識と教養――具体的には、「コンテクストを読み解く力」と「実践的な経営知識」の2つを備えてほしいと思っています。
まず前者について、ビジネスの世界では「コンテクストを読み解く」、つまり共通認識をもとに会話を成立させる力が求められます。例えばグローバルなビジネス環境では、地政学リスクを考える際に、経済、歴史、文化、地理的なコンテクスト(文脈)を理解し領域横断的に考察する必要があります。この能力は、学生時代に一つの学問を集中して修める中で得られる構造化、体系化の力が活きてきます。
――後者の「実践的な経営知識」についても、具体的に教えてください。
塩野:ここでいう「実践的な経営知識」というのは、事業だけでなく財務や法務も含めた経営の意思決定ができることです。IGPIのインターンシップでは、4日間でそのエッセンスに触れられるプログラムを用意しています。事業立案の課題では、実際に財務3表を作り、最終日には弊社CEOの冨山へプレゼンテーションをしてもらいます。ワーク中はメンター社員と議論を交わしながらプランをブラッシュアップしていくので、自分の力を存分に試していただけますし、それに対して個人別にフィードバックを行っています。大学のどの経営学の講義にも負けない学びを提供します。
――4日という短期間でどこまで実力が身につくか、学生の皆さんにはぜひ確かめてみてほしいところです。
塩野:私達は国籍・年齢問わず「自分より優秀な人を仲間に加えたい」という思いで採用活動をしていますし、学生の皆さんのポテンシャルに非常に期待しています。弊社のインターンシップには、「我こそは」という人に是非挑戦して頂きたいです。
――塩野さん、本日はありがとうございました。
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