新卒で就職活動をするまで、機会がなかった人には一切磨くことができないであろうスキルが一つあります。「目上の人とのコミュニケーション能力」です。
高校は帰宅部、大学はヌルーい飲みサークル、アルバイトはとにかく楽なものを選んだ、接客は向いてないからひたすら回避してきた。そういう方は実際問題少なくないですよね。目上の人との緊張を伴う会話を最後にしたのがいつだか思い出せますか。思い出せない人のためのコラムです。
安心してください。「目上の人との雑談」は「同級生との雑談」とか「同期社員との雑談」よりは遥かに簡単です。「守るべきコミュニケーションの型」が存在するからです。大丈夫です。コミュニケーションが苦手な皆さんでも必ずできます。
これから話すのは、僕が20代のガキんちょ経営者として妖怪みたいなおっさんどもと雑談するために覚えた技術です。わりと使えます。
話術はいらない、「敬意」と「傾聴」さえあればいい
そういうわけで目上とのコミュニケーションの最大のコツをお伝えします。
それは「敬意」と「傾聴」です。
動作としての敬意の示し方をソツなく行い、かつ同時に傾聴を心掛ければ目上とのコミュニケーションは大体しのげます。
「雑談」というと、話術の問題だと思い込みがちです。しかし、実際のところ目上との雑談において、「面白いことを喋る」みたいなスキルは全く必要ありません。むしろ、それは捨て去った方が良いものとすらいえます。問われるのは、行動であり作法なのです。
第一声で敬意を叩き込め
まず「敬意」についてですが、「私はあなたを目上と認識して、最大限の敬意を払います」という意思を伝えることが何より重要です。多少受け答えが下手であっても、これさえ伝わっていればそれほど破滅的なことにはならないでしょう。具体的に言えば、第一声で「敬意を込めた声を出す」こと。これに全力を注ぎましょう。
例えばOB・OG訪問。あなたはカフェで先輩を待っている。やってきた先輩に気づいた瞬間、すかさず席を立って早足で駆け寄り「~さんですか、本日はお忙しいところ本当にありがとうございます」と感情のある声を出す。これはそれほど簡単なことではありません。
今、ちょっと物は試しに「本日はお忙しいところ本当にありがとうございます」と声に出してみてください。「自分のために時間を割いてくれて嬉しい」という敬意を伝える自然な声は思った以上に出なかったのではないかと思います。
声を出せ、リミッターを外そう
我々の身体には意識されざるリミッターが搭載されています。体育会系の部活や接客系のアルバイトには「声だし」というトレーニングがありますよね。「いらっしゃいませ」とか「ありがとうございます」のような基本の発声を大声で繰り返すあの訓練は、声を出すべき時に出せない我々のリミッターを解除するための訓練です。
思い出してください、あなたは学芸会で与えられた役の台詞を、練習なしで上手く発声できましたか。多くの人はできませんでしたよね。「きちんと声を出そう、伝えよう」という意識そのものがリミッターになるのです。「やろうと思ったらできない」のです。まずこれを外しましょう。声を出せば外せます。脊髄反射で自然な発声ができるまで練習しましょう。
また、不意に目上の人との雑談が発生した時もこれは有効です。「~さん、お疲れ様です」のような敬意を滲ませた声を自然に出せれば、その後のコミュニケーションは非常に楽になる。逆に、ここをトチると非常に苦しい。目上の人に声を掛けられて、思わず「あ……ども……」みたいな応じ方をしてしまった経験ありませんか。あれは雑談の入り口として最悪です。
「おはようございます」「こんにちは」「お疲れ様です」「ありがとうございました」この4つの発声練習は最低限、しておいて損がありません。
喋るな、喋らせろ。人は自慢したい生き物だ
人間は大抵の場合、話を聞くよりも話す方が楽しい。皆さんだってそうですよね。「目下」の人間が相手なら尚更です。もう分かりますよね、雑談において皆さん下の立場は「とにかく相手に気持ちよく喋らせる」ことに特化すればいいのです。ファーストコンタクトで「敬意」を叩き込んでいれば、相手の警戒心は緩んでいるはずです。敬意ある動作で迎えられて嬉しくない人間はいません。
OB・OG訪問などの機会であれば、これはそれほど難しくありません。「質問」するのが当然だからです。人間は、問われて答えた結果承認されるのが大好きです。このテンプレにハメれば勝ちです。「あなたに興味があります、あなたの話を聞かせてください」そういう風に求められるのは、人間にとって非常に強い快楽です。ジャブジャブ打ち込んでやりましょう。「自分が収集したい情報」ばかり質問するのはいけません。「相手が語りたいであろうこと」を予測するのが大事です。情報収集の質問はその中に織り込みましょう。
では、「相手の語りたいこと」とは何か。あなただって機会があれば喋りたいけれど、そうそう機会は与えられないものがありますよね。そう「自慢話」です。「仕事をしていて一番達成感を感じることはなんですか」とか「仕事の上で心掛けていることを教えてください」みたいな質問は良いですよね。
突破口は「苦労自慢」と「心境インタビュー」
しかし、世の中には自己抑制の強い人も存在します。「そうそう乗せられてホイホイ喋るかよ」みたいな雰囲気を感じた時は逆アプローチです。「仕事の上で一番辛いことはなんですか」みたいな苦労自慢をさせてみましょう。上下左右前後からホッケをほじくりまわすみたいにつついてみましょう。どこかにツボがあります。色々考えてみてください、思いつくと思います。
相手が首尾よく自慢話を吐き出したなら、後は承認を返す作業です。しかし、ここでもう一つ重要なことがあります。心から「すごい」とか「素晴らしい」と思えたらそのまま発声すればいい。しかし、あまりピンと来なかった時、説得力ある相槌が口から出そうもない時の技があります。「その時あなたはどんな気持ちだったのですか」のような、掘り下げた心境を問う質問です。
「最もやりがいのある仕事」「一番大変だった仕事」これらを尋ねた時の答えを想像してみてください。ニュアンスの微調整は必要でしょうが、どちらも「その時あなたはどんな気持ちだったんですか」はハマりますよね。あとはその「気持ち」へ寄り添う言葉を投げ返せばOKです。人間は感情に寄り添ってもらうのが大好きです。共感されるのが大好きです。「今どんな心境ですか」はインタビューの定番ですが、自分の内心に興味を持ってもらって嬉しくない人間はいないでしょう。
エラい奴ほど転がしやすい
「目上」は「上」なのです。彼が語り、私が傾聴して当たり前なのです。通常、人間はノセられてペラペラ気持ちよく喋らないようにしようという自己抑制を働かせますが、明確に相手が目下の時、このタガが緩みます。ガンガン緩めてやりましょう。それだけで勝てます。相手の目上度合いが高ければ高いほど、このテクニックは有効です。エラい奴ほど転がしやすい、ビビる必要はありません。
だからこそ、どんなに話が弾んでも決して相手をナメてはいけません。あなたが「こいつチョロいな」と認識した頃に大コケが有り得ます。
最初のうちは緊張や強張りが「敬意」に真実味を与え、「傾聴」にそれらしさを付与しますが、あなたが油断してくると容易に化けの皮は剥がれます。経営者や企業の重役などの責任ある立場に立った人間は、組織内での立場が重ければ重いほど人間観察力に優れています。あなたの油断を見透かした瞬間に、彼らは警戒態勢に入ります。皆さんが彼らに「喋らせる」ことが可能なのは、明確な立場の差があり、相手から見ればあなたは警戒に値しない人間だからです。
経営者や企業重役なんてのは基本的には全部妖怪です。少なくとも、一度警戒心を持たれてしまったら、最早皆さんが転がせる相手ではありません。それくらいの戦力差があることを心得てください。絶対に「ナメる」ことのないように心掛けましょう。
ですから、相手にノセられて気持ちよく喋ってしまうのは最悪のケースの一つです。質問された時は問われたことだけをシンプルに返答し、なるべく早く相手に会話のバトンを返すことを意識してください。もちろん、自己アピールとなるエピソードなどを求められた時は語るべきですが、明瞭かつシンプルを意識しましょう。「面接」なら語りの技術も必要ですが、「雑談」でそれは必要ありません。
型を身に付ければ怖くない
敬意を示せ、声を出せ。喋るな、喋らせろ。
細かいテクニックは無数にありますが、この2つを意識するだけで劇的に変わると思います。
「目上の人との雑談」は上下のヒエラルキーが明確に存在します。ヒエラルキーがあるところには、マナーとルールが発生します。それゆえに、対応の仕方さえ身に付けてしまえばある程度の対応ができます。
逆に、冒頭に述べた「親しくない同級生との雑談」のような、同格の相手とのコミュニケーションには定型がありません。それ故に難しい。なので、「同級生と雑談できないのに目上の人と話せるわけない」という人こそ試してみてください。
必ずできます。やっていきましょう。
※こちらは2017年8月に公開された記事の再掲です。