こんにちは、ワンキャリ編集部です。
日本だけでなく世界に名を轟かせているトヨタ自動車。
今回はそのトヨタ自動車の調達本部 川下俊輔さんへのインタビューを行いました。世界のトヨタが果たす使命から新卒へ求めることまで多岐にわたる内容をお伝えいたします。
川下俊輔氏:
2000年にトヨタ自動車に入社し、調達本部に配属。入社5年目で中国天津の経済開発区に工場/生産拠点を立ち上げに従事。2回の天津駐在を経て、2014年1月より人材開発部での業務に携わり、2017年より再び調達本部へ異動。
KEN(聞き手):
ワンキャリアの執行役員 CMO。新卒で博報堂経営企画局・グループ経理財務局にて中期経営計画推進・M&A・組織改変業務を経験後、University of Pennsylvania、台湾師範大学へ留学。その後、ボストン コンサルティング グループを経て現職。
何もなかった「天津」に、街が創出された
KEN:本日はお忙しいところ、ありがとうございます。早速ですが簡単に川下さんの経歴を教えていただけますか。
川下:2000年にトヨタ自動車に入社して以来、部品・資材・原料などを調達する調達本部の業務に14年ほど携わり、2014年から人材開発部にて全社的な採用や人材教育を行い、今年から再び調達本部で業務に取り組んでいます。
KEN:ありがとうございます。川下さんの中で印象に残っている経験はありますか?
川下:やはり天津(中国)での工場の立ち上げですね。現地にある工場の経営者のもとに何度も足を運び、自分たちが提案する工場の改善案を1つ1つ実行しました。工場を中心として雇用が創出され、人が住むようになり、その周りに商業施設や病院ができて、最終的に「街そのもの」が出来上がった経験は今も印象に残っています。先日久しぶりに天津に足を運んだ時、「十数年前は何もなかったここに、街ができた」と感動しました。
KEN:トヨタの力が、天津に街まで作り出したと。そのプロセスで特に印象的だったエピソードや言葉はありますか?
川下:あります。先に挙げた経営者の方から「こんなに足を運んで真摯に取り組んでくれたのはトヨタが初めて。トヨタと組むことは必ずプラスになると思っていたが、ここまで本気で向き合ってくれる会社だったから、私も決断できた。こんなに頑張れたんだ」という言葉をもらいました。
「トヨタと組むと必ずプラスになる」:経営者が唸った、KAIZENの文化
KEN:「トヨタと組むと必ずプラスになる」というのはどういうことでしょうか?
川下:実は工場の監査に行った際、その工場はトヨタの水準では、取引できないレベルの現場管理でした。ですが我々としては地域貢献のため、このメーカーを発展させていく必要があると考えていました。この工場は当時、他の自動車メーカーと取引をしていたため、100以上の改善案を持っていったトヨタに対して「要求が多い」「小うるさい奴が来た」「他の自動車メーカーではここまで細かく言われない」と目標が合意できない時期が続いていました。そこで私は片道6時間くらいかかる道を週3日通い、自分で提案した案を実行していきました。改善策を実施していくと、工程途中の品質不良製品が日に日に減っていくため、経営者も「トヨタの言っているKAIZEN(改善)とはこういうことか」と肌で理解してくれ、信頼を獲得できました。
KEN:トヨタと仕事すること自体が、その企業にとって改善につながると。もう一つ、トヨタは必ず現地に工場を作りますよね? 短期的な経済性だけ考えると日本の工場や、もっと安い工場に発注したほうが良さそうですが、背景はなんでしょう。
「桜の木のような存在になりたい」トヨタが目指す、グローバル企業の姿
川下:トヨタが大事にしているのが、「共存共栄」です。これを社長は「桜の木のような存在になりたい」と表現しています。
KEN:「トヨタが桜の木」……その意味は?
川下:桜ってルーツは日本にありますよね? でも全世界の地に根付いていて、どの国の人にも愛されています。トヨタも同じです。トヨタの車は全世界で走っています。だとすれば、その国に根付いて、雇用を生み出し、現地の企業としてその国に貢献することが役割だと思っています。それを「桜の木」と表現しています。
KEN:自動車産業を通じてその国・地域まで発展させているんですね。ですが、少し意地悪な質問すると、世界を強くしていったら、一方で日本が負けてしまうのではないでしょうか?
川下:確かにそのような見方もできますね。日本の産業としては現状を更に凌駕する勢いで成長していかないと、廉価な輸入品に負けてしまうので、トヨタとしては、他の国を育てつつも、日本の自動車産業を常に世界1位の競争力を保てるようにする必要があると思います。世界に負けないように日本の産業を強化する動機が生まれ、結果的に日本の産業や雇用を守ることができていると考えています。
海外・世界各地で聞く「TOYOTA!」という言葉が与える勇気
KEN:すなわち、「現地の産業を生み出しつつも、それを凌駕するスピードで日本がもっと頑張る。そこまで含めてトヨタの責任である」ということですね。視座が高いです。僕は「日本のために」とか「世界のために」という言葉が大好きなので、共感する一方で、自分のような考えがややマイノリティであることも痛感しています。話を聞いていると、川下さんには特別な想いがあるように感じるのですが、なぜそこまで熱く考えられるのですか?
川下:1つは個人的な経験です。私は1999年に就職活動を行っていました。いわゆる就職氷河期で、バブル崩壊後の経済停滞が続き、日本が暗くなってしまっている時代でした。その時代、バックパッカーをやっていて、世界各地で呼ばれる「TOYOTA」という言葉に非常に元気付けられました。日本の特徴を聞くと「サムライ」「寿司」「忍者」と同じくらいの頻度で「うちトヨタなんだよ」と言われました。そのレベル感で日本を代表しているのだと感じ、暗い日本を元気づけたいと思いトヨタに入りました。
「日本特有の農耕民族的な企業であっても、世界に通用する」と証明したい
KEN:なるほど。少し抽象的な話になるのですが、僕は「トヨタという会社は何かを社会に証明しようとしているのではないかな?」と感じる時があるんですね。先ほどの「桜の木」もそうですが、企業が存続する上での「思想」のようなものがある気がします。川下さん自身が感じることはありませんか?
川下:会社としての考えは分かりませんが、個人としては、「日本特有の農耕民族的な考え方をする企業であっても世界に通用すること」を証明したいと感じています。
KEN:農耕民族、すなわち、「狩猟民族ではない」ということですね。これはすごく面白いです。
川下:トヨタは短期的な目線で考えるのではなく、100あるものに時間をかけて101、102……と成長させていき、世界中のステークホルダーに支えられて着実に成長させていただいた会社です。100のパイの奪い合いではないため、拡大スピードこそ遅いものの、確実に成長していく、そういった農耕民族的な考え方を持った企業だと思います。今の時代、なんとなく「誰かから奪う。誰かに勝つ」といった狩猟民族的な考えがもてはやされていますが、トヨタのような愚直な会社が世界に1社ぐらいあってもいいのではないか、と思います。
KEN:面白い考えです。狩猟民族は、自分の取り分を50から60に増やすためには、差の10を誰かから奪う必要があります。一方で農耕民族は、もともとの100を120にして、それを実現しようとする考え方ですもんね。
内定を出している学生の多くは、自動車産業の可能性に興味
KEN:話を少し変えますが、トヨタに適性のある人物はどのような人でしょうか? 車への興味関心は必須ですか?
川下:入社時に必須というわけではありませんよ。私自身も、内定してから車の免許をとったぐらいですし、入社後は自然とクルマ好きになる環境があります。もちろんクルマ好きの方は大歓迎ですが、クルマに興味が無くても自動車産業の可能性に魅力を感じてもらえる人にも受けていただきたいです。自動車産業は日本だけでなく、世界中で基幹産業であり、その国の産業を牽引している産業であることを理解して、そこに面白さを感じてもらえる人が実際に多く入社しています。
KEN:なるほど。他にも要素はあります?
川下: そうですね、愚直に頑張れるだけでなく、素直に受け入れ学んでいける人でしょうか。トヨタは成果だけでなく人間性を考慮して、プロジェクトチャンスを与える会社なのでそういった点はすごく大切です。社員の心構えとしても、素直・正直、謙虚・感謝を大事にしてほしいといっています。
KEN:ありがとうございます。最後に、これから就活を迎える学生に一言いただけますか?
川下:トヨタ自動車というと「安定している」と思われがちですが、私は安定している企業であるとは感じていません。社長も「我々は前例のない道を歩むことになる」「バッターボックスに立て」と言っています。だからこそ1から100にできる素養を持ちながら、スピーディーに吸収して0から1を生み出していける、そういった学生さんと一緒に働きたいですね。
KEN:本日はどうもありがとうございました。