華やかな世界と同時に激務のイメージのあるマスコミ業界。
「新聞記者」と聞いたとき一番に思い浮かべるのは、24時間ニュースに追われている「激務」な姿かもしれません。しかし、実態は各部署によって異なります。
ただし、共通していることもあります。それは、仕事とプライベートの境があまりないこと。趣味が仕事になったり、仕事で新しい趣味に出会ったりする方もいます。ですので、人によって新聞記者は「天職」となるのです。
新聞社には「本社」と「支局」があり、また本社の部署は業界用語で「硬派」と「軟派」とに大別されます。今回は、「支局」から警察担当を、本社の「硬派」から「政治部」、「軟派」から「文化部」を取り上げます。
「支局」「政治部」は記者を目指す若手が配属される可能性が高く、激務度も高い部署です。一般的な新聞社のイメージ通りといえるでしょう。しかし、新聞社の全ての部署が激務というわけではありません。「意外に知られていない」新聞社の隠れ部署についてもお伝えします。
実態1:支局・警察担当「警察にあわせて深夜の活動が増える」
多くの新聞社で若手はまず地方に飛ばされます。しばらくそのまま修行を積み、東京に戻って来られるのは中堅になってから。
地方だと、その地方で起きたニュースを全てカバーしなくてはならず、必然的に仕事はハードになります。
また、社会部で警察担当になると、その生活リズムに悩まされることも。若手がよく任せられる仕事に「警察まわり」というものがあります。警察に何度も出向き事件の進捗などを聞く仕事です。警察はハードな男性社会で、深夜に会うことへのためらいがありません。そんな乱れた生活リズムに馴染めず、辛い思いをする記者も多いようです。
ちなみに、新聞社でカバーできない情報は、「通信社」が補います。新聞社の社内には、共同通信などの通信社から随時新着ニュースが流れてきます。紙面や写真など、自社で補いきれないものは、こうした通信社のものを使用します。
若手が多く肉体派の「硬派」と中堅が多く穏やかな「軟派」
続いて「本社」の新聞記者の実態について取り上げます。本社の新聞記者は大きく「硬派」と「軟派」と呼び分けられます。社内でも政治や経済など硬い記事を担当する部署のことを「硬派」、文化面や世相を担当する柔らかめの記事を担当する部署を「軟派」といいます。一般に若い記者は「硬派」に送られがちで、「軟派」には年数を重ねた記者が多くいます。業務内容も働き方も「硬派」は肉体勝負の要素があり、「軟派」は穏やかでゆとりがあるのがその傾向です。
今回は「硬派」から政治部を、「軟派」から文化部を取り上げご説明します。
実態2:硬派・政治部 総理番「早朝から深夜まで日本全国総理にあわせて動く」
基本的に「硬派」は「軟派」に比べ拘束時間が長いです。例えば、政治部で総理番(比較的若手)になったとします。基本的には総理と同じ行動を取るため、日本中を飛び回ることになります。しかも総理が会議のときは車や廊下で待つことになるので観光などの暇はありません。また上下関係が強く、新人のうちは書ける記事も少ないです。
全て総理の行動に合わせることになるので、必然的に朝は早く、夜も総理が家に戻るのを見届けてから社に戻るので23時に帰れれば早いほうで、その日中に記事を書く場合、午前2時まで会社に残ることもあります。(帰宅はもちろん、タクシーか、会社のハイヤーです! 電車はありません)
とはいえ、国を動かす総理を追いかけまわすことは、ある意味「総理と同じ生活をすること」になります。普通に生活していたら見えない現場や、出会えない人に会うこともできるでしょう。公のニュースになる以前に情報を仕入れることもできます。
政治部は上下関係が強く先輩に怒鳴られることも日常茶飯事ですが、その中で生き残れば、元総理や時の大臣と電話一本で話ができる仲になれます。政治への興味が強い人にとってはなかなか魅力的でしょう。
実態3:軟派・文化部「働きやすく融通もききやすい」
一方、軟派の代表例である文化部は書評や美術館などの文化的な話題を主に取り上げます。若い記者が送り込まれがちな硬派と違い、肉体勝負ではなく比較的穏やかに仕事が進みます。こちらは、「ニュース」よりも緊急性が高くない話題が多いので、事前に掲載内容を確定することができるのです。執筆期間にも余裕があり、雑誌のイメージが近いかもしれません。
取材がない場合、出社は10時頃です。デスク(記者の取ってきたニュースを編集する担当)だと、出社が昼近くになることもあります。「夜遅くまで働くぶん、朝はゆったり」といったところでしょうか。帰りは、取材先とご飯に行く場合もあり、早い人だと18時過ぎには退社します。
働きやすく融通もききやすいので、女性が馴染みやすいのも軟派のほうでしょう。
とはいえ、「ニュース」という意味では最前線を離れてしまうので、硬派に慣れた人からすると、少し物足りなさを感じてしまうかもしれません。
ネットでググッて書けるような記事は書くな!
以上、地方社員・総務部・文化部と3つのポジションの実態をお伝えしました。
最後に、全ての記者に共通する資質についてお伝えすると、記者の仕事は、基本的には「ネタ」を取ってくることが仕事ということです。おいしい「ネタ」を取ってこないと、いくら編集をかけてもよい記事にはならないからです。よく、デスクに「ネットでググって俺が書けるような記事は書くな」と言われるようですが、現場で見て、感じたこと。その場にいないと分からないような内容でないと、よいネタとはいえないでしょう。
また、社長の退任など「特ダネ」を連続して取れるようになると社内でも「特ダネ記者」として評価が上がります。いわば、年功序列は関係なく、どれだけネタを取ることができるかということが仕事を進める上で重要なのです。
視野の狭さは命取り。「担当」に集中するだけではダメ
ネタを取るためにはコミュニケーションが不可欠です。可能な限り社外の人や取材先と交流を深め、常に情報のアンテナを張っておくことが求められます。自分の「担当」のニュースが他社に先を越されないようにするのも仕事です。しかし、「担当」に注力するあまり他の業界のことは全く知りません、といったようでは良い記者とはいえないでしょう。
ある新聞社の30代の記者と話した時でした。「NewsPicksやSmartNewsに関してどう思いますか?」と聞いた時に、「え? なにそれ? 流行っているの?」と言った記者がいました。正直、その新聞社の未来はないなと思ったくらいです。
「変わるメディア業界」に関しては、また後日書きたいと思いますが、ネタはどんなところから舞い込んでくるか分かりませんが、「この人だったら、信頼したい」「この人は面白いから仲良くしたい」と思ってもらえる記者が、やはり良いネタを取れる記者のような気がします。
面接でも、こうした背景を理解しているかが重要視されます。面接まで、自分が記者になった「つもり」で過ごしてみるのもいいかもしれません。