大企業を3年で辞めていく人の感覚は就活生の皆さんには理解しづらいかもしれません。
その3年間には、どのような心境の変化があるのでしょうか。
自身も大手広告代理店を3年半で退職し外資コンサルへと転職した執行役員の北野唯我(KEN)が解説します。
「なぜ、大企業に就職した人でも、たった3年で辞めるのでしょうか」
東京大学4年 ♂ 小森さん
RPGの主人公は、なにを求めて旅にでるのか?
北野唯我(KEN)です。突然ですが、皆さんは、RPGゲームをやったことがあるでしょうか。RPG(ロールプレイングゲーム)とは、主人公がある特定のゴールを目指して敵を倒しながら成長していくゲームです。私はRPGよりは「ぷよぷよ派」だったのですが、たまにRPGをしながらも、いつも疑問に思うことがありました。
それは
「この勇者はなぜ、こんな旅にでかけるのか?」ということ。
主人公は旅にでかけます。外の世界には危険がいっぱいです。自分より強い敵がいます。命を落とす可能性もあります。しかし、それでも勇者は旅にでかけ、自分を鍛え、仲間を集めながら、ラスボスを倒しにいくわけです。
私は幼いながらも「変な人だなー」と思っていました。
主人公は、人間としての「根源的な強いモチベーション」に基づき飛び出す
社会人になった今。私は、同様の感覚を覚えることがあります。それはGoogleや、マッキンゼー・アンド・カンパニーといった大企業をわざわざ飛び出し、ベンチャーに飛び込む彼らと話しているときです。私は素直に感じます。
「こんな有名な企業を飛び出し、なぜ彼らは、わざわざ危険な旅にでかけるのだろうか?」と。
理由は簡単です。
彼らは根源的なモチベーションに基づき動いているだけです。自らの奥底からわくモチベーションの源泉に忠実なのです。他人の目や評価に惑わされず、自分がありたい姿や、やりたいことに正直に生きる。本当は誰もが心の奥底で持っている情熱です。それに従っているだけです。
その正体は「知らない世界を知りたい」という知的好奇心や、「自分の人生を、自分の手で決めたい」という自分の人生に対する想いなどでしょうか。いずれにせよ、彼らはRPGの主人公と同様に自らの人生を自らの手に戻すために、旅にでかけるのです。
主人公は、新卒では「何者でもない」と知っている
では、彼らはなぜ、わざわざ新卒では大企業に入ったのでしょうか?
結論からいうと「タイミングを待っていたから」です。
映画やドラマの主人公は、大体「仕方ない理由」によって旅にでかけます。ロード・オブ・ザ・リングの主人公である、フロド・バギンズは、全く思いかげない形で「指輪を破壊する宿命」を背負います。最初はなにもできない彼が、成長していくにつれて「自分の役割」を強く認識しはじめます。
それは現実の世界でも同じです。「自分を変えたい」や「知らない世界を知りたい」というモチベーションで旅にでた彼らが、ラスボスを倒すことに本気になれるのは、いつもクライマックス終盤です。22歳のときには「自分は何者でもないこと」に気づいている私たちは、いずれ力をつけ、新たな目的を見つけていくのです。まだ未熟な主人公にとって、最初の3年はそのために必要な時間であるのです。
予言:「社会人1年目はきっと楽しくて、楽しくて仕方ない」
社会に飛び込もうとしている学生のみなさんに、私は、1つ予言します。
それは「社会人1年目のあなたは、きっと楽しくて楽しくて仕方ない」ということです。学生と社会人では多くのものが変わります。お金の使い方、出会う人、住む場所の全てが変わります。全てが新鮮で、できることが増えていく感覚。もともと、東京には全てがあります。大企業でお金を得た皆さんは、自分が欲しいものはなんでも買えるようになります。出会いの場も爆発的に増えます。
仕事でも学ぶことが多く、自分が成長していく感覚を覚えていきます。
予言します。きっと、1年目は楽しくて仕方ないはずです。
旅で大事な「進んでいるという感覚」を失い始める3年目
しかし、それも次第に変わっていきます。
そもそも冒険や旅に必要なものは、「自分が進んでいる感覚」です。日々変わる風景がなければ、自分がゴールに向かって進んでいる確信をもつことは難しい。進んでいる感覚を急に覚えられなくなっていくのが、平均すると3年目。早い人だと1年で気づきます。
これまで毎日が新鮮だったにも関わらず、急に「自分が進んでいない感覚」を覚えます。「若い遊び」にも飽き、そもそも自分がなんのために戦っているのかを知りたくなります。主人公は、真の目的、ラスボスを求めにいくのです。
成長がない産業で働くということ=ラスボスがないRPGで遊ぶようなもの
しかし、成熟産業においてラスボスは存在しません。日本の大企業の多くは、「成熟産業」です。産業自体に成長がありません。成長がない産業で働くことは、「ラスボスがいないRPGをプレイすることと同じ」です。
みなさんは、オンライン型のRPG(MMORPG)をやったことがあるでしょうか。
私は中学のとき、プログラミングにハマった時期があり、そのときにMMORPGにどハマりしたことがあります。MMORPGのゲームとしての最大の特徴は「ラスボスがいないこと」です。そして、ラスボスがいないことは、ユーザーの行動に決定的な影響を与えます。
ゲーム終盤になるにつれて、ユーザーは2つのことを求めて行動するようになるのです。2つとは
1. プレーヤー同士で仲良くなること2. 他の勇者を倒すこと
これをビジネスの文脈でいうと「職場の人と仲良くなること」と「競合を倒すこと」です。しかし、主人公はいずれ、冷静になって考えてみます。
他の主人公を倒すこと、それ自体に意味はあるのか? と。
例えば、国内市場において、ホンダ自動車がトヨタ自動車にシェア争いで勝ったとして、それが社会にどんな意味をもたらすのでしょうか。ホンダも、トヨタも本来はそれぞれが主人公であり、何かしらの大義があったはずです。しかし、その本来の目的を失い、お互いにシェア争いをする。市場自体が伸びていない中、企業が成長するためには、シェアを奪うしかないからです。
RPGで例えると、「勇者が他の勇者を倒しにいくということ」です。
そのとき、きっと気づきます。
「自分がやっていることは、本質的に意味がない」と。暇つぶしの手伝いでしかないなと。
これが、彼らが3年で辞める理由です。
単なる好奇心や、他者から与えられたきっかけによって旅が始まった主人公が成長し、いずれ自分がやるべきことに気づいていく。まさにRPGと同じ物語を辿っていきます。
「では、勇者が幸せか?」は、別の話
最後に、ここまでいうと「ベンチャー推しかよ」と思われそうですが、全くそんなことはありません。私は新卒では大企業に入ったほうが無難だと思います。(参考:「ベンチャーか大企業か?」と悩むのは「赤いりんご」が好きか、「青いりんご」が好きか?で迷っているのと同じ)
なぜなら、上記の話と「それがその人にとって幸せかどうか?」は全く別次元の話だからです。皆さんはロード・オブ・ザ・リングを見て、主人公になりたいとシンプルに思うでしょうか。多くの人は「勇気のある人だな」とは思うものの、自分がそうなりたいか? そうなったときに幸せか? というとイエスとは言えないのではないでしょうか。漫画で例えると、ルフィをかっこいいと思っても、ルフィになりたいかは別というのでしょうか。
私はこの記事が、すぐに皆さんの行動や思想を変えるとは思っていません。しかし、ここで読んだ内容が皆さんの血肉となり、いずれ皆さんが旅にでかけたいと思った瞬間に勇気を与える存在になったとすれば、これ以上幸せなことはありません。ではまた次の機会に。
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Vol.2【志望動機】面接とは「自分がその会社で活躍できること」を面接官にイメージさせるプロセス。人を軸にした志望動機の欠点とは?
Vol.3【就活法】「就活って、何社エントリーすべき?」 by東京外国語大学井上さん
Vol.4【企業選択】「ベンチャーか、大企業か?」と悩むのは「赤いりんご」が好きか、「青いりんご」が好きか?で迷っているのと同じ
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