こんにちは、ワンキャリア執行役員の北野唯我(KEN)です。
皆さんは、「コピーライター」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべますか。金髪で奇抜な髪型で、スーツなんか着ない人? 今回お会いした、電通のトップコピーライターの梅田悟司さんはジョージアのCM「世界は誰かの仕事でできている」という誰もが知っているあのコピーを考えた人です。最近では、著書『「言葉にできる」は武器になる。』が15万部のヒットを飛ばすなど、いま日本一のコピーライターといっていい人だと思います。前編ではコピーライターとしての梅田さんの仕事論に迫り、後編ではエントリーシートの考え方をお聞きします。
読み終えた時に、あなたは言葉に対しての意識がきっと変わっていると思います。
コピーライターは「言葉の魔術師」なんかじゃない
北野:著書『「言葉にできる」は武器になる。』が大ヒットしていますが、どういう経緯で出版したのでしょうか、本の内容のおさらいも含めてお願いします。
梅田:コピーライターをやっていると「言葉の魔術師」って言われるんですが、僕はこれに対して違和感があって。表面的な「言葉」ではなくてもっと「本質」を見ようよと思ったのが根本です。
コピーライターの仕事とは、法人という『人』の本心をあぶりだして言葉にする仕事だと思っているわけで、本ではそのあたりを僕なりに紐解いてみたんです。
さらに、コピーライターの思考法である「頭の中を整理して、言いたいことがはっきりした上で言葉にするプロセス」は実生活に応用できることだなと。
北野:雑談力とか、表現方法のハウツー本は今までたくさんありましたし、売れてきたと思うんですが、その流れへのアンチテーゼもあってこの本が生まれてきたんですか?
梅田:多少はありますね。世の中って簡単なものに流れていくし、大事な部分は常に軽視されてしまう。でも、その手のハウツー本を読んで「実際何かが変わった」「もう話し方・伝え方は完全にマスターした」ってなりましたか? って問いたいわけです。
北野:確かに、一切ないですね(笑)。
梅田:なのでアンチテーゼというよりも、もっと本質的なところを捉えていかないと「話し方」というテーマに関しては決着をつけられないと強く思っているというのが本心ですね。
「世界、誰か、仕事、できている」。全て簡単な言葉の組み合わせでできた「究極の言葉」
北野:なるほど。「本質的なことを追求しないと、長期的には価値は出せない」という思いがあるんですね。こう思ったきっかけはあったのですか?
梅田:2つの転機がありました。1つ目は2011年に「東北六魂祭」というイベントに関わった時です。震災直後の東北を盛り上げるために何ができるかをチームで考えていたんですが、東北のことを世の中に伝えるためにできることは、東北の価値の新発見ではなく「再発見」だと気付いたんです。
これって一般に思われるクリエイティブではないですよね。なぜなら「新しいものを生み出す」わけではないから。全く新しいアウトプットだけが重要なわけではなく、地域や企業が元々持っているルーツを見直して、新しく形を与えていくというプロセスの方が世の中に伝わると感じたんです。
北野:興味深いですね。では、もう1つのきっかけはなんですか?
梅田:ジョージアの「世界は誰かの仕事でできている」というキャンペーンです。
北野:山田孝之さんのCMでお馴染みですね、自動販売機でもよく拝見します。
梅田:ありがとうございます。
この「世界は誰かの仕事でできている」というコピーは、「世界」「誰か」「仕事」「できている」という全て簡単な言葉の組み合わせでできています。何ひとつ「目新しい言葉」がない。でも、この言葉を通して、言葉づくりよりも文脈づくりの方が大事だということを実感したんです。
このキャンペーンでは、「ジョージアは今までも労働者の皆さんとともにあって、これからも支えていきたいと思っている」という確固たる歴史を、理解しやすい文脈に落とし込むことができたと思っています。その文脈はクリエーションではないし、かと言ってヒアリングをそのまま言葉にすればいいというわけでもない。僕が行った仕事は「高い視座」を持って、言葉に変換しただけです。これが2つ目のターニングポイントでした。
僕はクリエイターじゃない、手段として「コピーライター」を選んでいる
北野:新発見よりも再発見、言葉づくりよりも文脈づくりをという2つの気付きが、「長期的には本質的なことを追求しなければ価値は出せない」という思いに結びついた、と。
しかし、それはコピーライターならではの視点ではないと思います。というのも、やはり「言葉の魔術師」のような書き方をするコピーライターもいるように思います。ハウツー的な表現を駆使して、上手にバズらせているコピーも世の中に多くある。
なので、「本質的なことを追求する」という視点の持ち方は梅田さんならではだと思うのですが、ご自身ではご自身のことを「どういうコピーライター」だと考えていらっしゃいますか?
梅田:僕が他のコピーライターと違う点があるとしたら、自分をクリエイターだと思っていないっていう大前提を持っていることかもしれません。
僕は新卒でマーケティングの部署に配属されたんです。だから企業の課題を解決するために広告があるという思考回路を持っていて、クリエイティブは手段に過ぎないと思っています。
今はコピーライティングという言葉に責任を持つ仕事をしていますけども、あくまでもマーケティングの一環と捉えています。企業のパートナーとしてクリエイティブ領域のコンサルテーションを一緒にやっているというイメージですね。
何でもいいからインパクトを追うみたいなものではなく、世の中の分脈と広告の分脈を丁寧にすり合わせることを大切にしています。それで、世の中が少しでも前向きになるためには、どういったストーリーを作っていくべきかを常に考えていますね。
「当たり前のようにやっているそれって、すごいことですよ」そう言ってあげるのが広告業界、コピーライターの存在意義
北野:面白い。先ほど、コピーライターの仕事は「法人という『人』の本心をあぶりだして言葉にする」といっていましたが、私が個人として思うのは、まさに今一番生活者が聞きたいのは「広告業界の声」なのではないかと思います。つまり、「何のために、電通・博報堂、もっというと広告業界は存在しているのか」ということです。
梅田:そうですね、例えばですが、僕の育った場所である千葉県の我孫子市について考えてみましょう。地元の人たちって「我孫子市って何にもない」って皆思っているんですよ。でも、外の人から見たら「こういうとこ魅力的なのに」ってものはあるんです。
こういう風に、外から絶賛されても中の人からすれば「どこがいいの?」という事はよくある話です。そのギャップに気付かせてあげることが重要だと思うんです。
これは僕らの仕事にもいえることで、企業の人は企業内の出来事に慣れてしまっているし当たり前だと思いがち。そこに外部の会社が入って「当たり前のようにやっているそれって、楽しそうですよね」とか「あなたはそう思っているけど、世の中はこう見てますよ」といった第三者の目で見ながら、生活者の一人としてソリューションを作っていくのが大事というわけです。
北野:当たり前になってしまったものの価値を外部から再発見していくわけですね。
梅田:補足すると、広告業界の存在理由は何を代理していくのかという変遷ですべてが片付くと思っています。もともと広告業界はメディアの代理をしていましたが、今は企業の宣伝部の代理をしています。これからはもっと引いた目線で生活者の代理をしながら世の中の流れを一緒に見ていくようになる。何を代理するかによって僕たちの仕事の価値は全く変わってくるんじゃないかなと思います。
それから、法人という人格が何を発言するべきなのかを、第三者の目を通じて規定するお手伝いをすることが大切になってくると思っています。企業が社会に対して何かを主張したい、それが広告です。例えば「これおいしいよ」というのか「とっても丁寧に作ったのできっと口に合うと思います」というのかで全く違いますよね。そこを設計させていただくのがより企業に対して第三者の目を持つコピーライターとしての、クリエイティブに近い業務領域です。
北野:私は広告って経済的にいうと「販売管理費の最適化ツール」だと思っているので、これは非常に興味深い視点です。
コモディティ化していく就活生は自分の広告作りをしよう
北野:話は変わりますが、梅田さんにとって就職活動がどんなものだったかお聞かせ願えますか。
梅田:「就職活動は自分の広告である」と思っていましたし、今も思っています。
企業にとっての採用活動は僕たちが日々行っているブランド選択と同じではないかと思うんですよ。例えば、iPhoneは指名買いしますが、日用品はなかなか指名買いしない。今までに全く存在しなかったモノには興味を持つけど、商品が発売してから時間が経ってしまうとコモディティ化が起きてしまう。就活生って、このある種コモディティの中でどうやって自分というブランドを選んでもらうのかを考える、「かなりマーケティング的な活動」をしているはず。
北野:その通りですね。ちなみに梅田さんはどういうマーケティングをしましたか?
梅田:そうですね。今でこそ電通は理系枠を設けていますが、僕らが採用された13~4年くらい前はなかったのでそこを売りにしました。理系で、クライアントの立場、つまりものづくりが多少なりとも分かっている人と、何も分からない人では、やっぱり違いますよねという話をしましたね。当時広告業界がいわゆるメディア会社から課題解決企業へと業態を変えようとしているタイミングだったので、そういう課題感をもったマーケティングソリューションを必要としているタイミングだったのだと思います。
大腿骨の研究から異色の電通、そしてマーケティング経験
北野:就活生の時点でそこに気付ける人はなかなかいないなと思うのですが、梅田さんがそれの視点を持てていたのはなぜなんでしょう。
梅田:僕は昔から「あるべき論」で考えるタイプなんですよ。「自分という人間は、社会を通じて何をするべきなのか」というのを考えがち。僕の場合、理系の大学院で大腿骨の研究していたんですけど、そこで共同研究をしている先生方が「こんなに素晴らしい技術があるのに世の中に広まらないねぇ……」とボヤいていて。それを見て僕、愕然としたんですよね。これじゃアカンと。最先端のモノを作っている人がいれば、最先端のモノを作っている人の気持ちを理解し解釈してあげて世の中に出す人もいなきゃいけない。自分がその役割になるべきなんじゃないかと思ったんですね。「あるべき論」過ぎますかね?
北野:僕の勝手なイメージですが、電通の人っぽくないなと思いました(笑)。僕も視座の高い考え方は大好きなのですが、実際に入社されて、当時の仮説、「理系だからクライアントのことを理解できる部分がある」という仮説は正しかったと思いましたか?
梅田:必要だと思いました。実は缶コーヒーを作っているのは理系出身の研究開発の方ですし、アルバイト情報はITエンジニアの方々の手によってスマホやウェブサイトに表示されている。その意味でも、クライアントが言っているところも分かるし、広告にもならないところまでちゃんと理解して、そこに込められたディテールと、思いをちゃんと汲み取ることによって過不足なく広告が作れている。僕の仮説は正しかったと思います。
正直者が馬鹿を見ない世の中であってほしい。
北野:お話を聞いていると梅田さんは技術を持って、労働集約的に頑張っている「普通の人達」のポジションを正しく伝えたいと強く感じているような気がします。どうでしょうか?
梅田:そうですね。正直者が馬鹿を見るって言いますけど、僕そうじゃないと思っているし、思いたい。本当に自分が正しいと思ったことを続けていくことが社会を生き抜くための一番の力になるはずです。世の中のすり合わせは多少必要ではありますが。本当に自分がやりたいことを形にする1つの方法として、言葉の側面から就活に前向きになってくれる人が1人でも多くなるといいなと思います。
いかがでしたか? 梅田さんのコピーライティングや言葉に対する「あるべき論」は。「コモディティ化する就活生」に対して「就職活動は自分の広告である」という言葉を引き出せたのは収穫だったでしょうか。次回は言葉の扱い方を熟知した電通のトップコピーライターに、小手先のテクニックではないエントリーシート作成術をお聞きします。
ーー後編:『エントリーシートは意外性と納得性を8対2で織り交ぜよう』はこちら
・梅田悟史『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社、2016年)
梅田悟司(うめださとし)
上智大学大学院 理工学研究科修了。広告制作の傍ら、製品開発、雑誌連載、アーティストへの楽曲提供など幅広く活動。カンヌライオンズ、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。著書に『「言葉にできる」は武器になる。』『企画者は3度たくらむ』(日本経済新聞出版社)など。メディア出演歴に、NHKおはよう日本、TBSひるおび!、Yahoo!トップなど。CM総合研究所が選ぶコピーライターランキングトップ10に2014年~2016年連続選出。横浜市立大学国際都市学系客員研究員。
北野唯我(きたのゆいが)
株式会社ワンキャリアの執行役員 兼 HR領域のジャーナリスト(旧KEN)。事業会社の経営企画・経理財務、米国・台湾留学、外資系戦略コンサルなどを経て現職。一方で23歳の頃から、日本シナリオ作家協会研修科で「ストロベリーナイト」「恋空」「トリック」などを執筆したプロの脚本家に従事。主な記事に『ゴールドマンサックスを選ぶ理由が僕には見当たらなかった』『田原総一朗vs編集長KEN:「大企業は面白い仕事ができない」はウソか、真実か』『早期内定のトリセツ(日本経済新聞社/寄稿)』など。
Twitter:@KEN_ChiefE