日本の今後の経済発展において、海外市場への挑戦が企業成長の鍵になることは、間違いありません。現在、日本政府も全力を挙げて、企業の海外展開を支援しています。
しかし、海外取引にはリスクがつきもの。取引先の債務不履行や倒産、さらには紛争、疫病、自然災害……といった国全体を揺るがす出来事まで、世界にはさまざまなリスクが潜んでおり、海外でビジネスを展開する妨げとなっています。
そんなさまざまなリスクから企業を守るのが、日本貿易保険(以下、NEXI)。国内で唯一、海外取引での輸出不能や代金回収不能をカバーする「貿易保険」を提供している政府系の金融機関です。
今回はNEXIで働く安田さん、田中さん、山内さんにインタビューを実施しました。仕事内容と醍醐味(だいごみ)などを伺っていくうちに、政府系機関とは思えないベンチャー気質の一面が見えてきました。
<目次>
●民間保険会社とはカバー範囲が異なるNEXI
●入社3カ月目に、「日本代表」として国際会議で発言の機会も
●発電所建設、政策立案など、壮大なミッションに携わる日々
●最も重要なのは、企業の海外展開を支えたいという思い
民間保険会社とはカバー範囲が異なるNEXI
──まずは、NEXIが手がける事業について簡単に教えていただけますか?
山内:NEXIは、大手から中小までさまざまな企業に対して、貿易や海外投資で生じるリスクをカバーする「貿易保険」を提供している会社です。企業が貿易や海外投資を行う際に抱える「取引先はきちんとお金を払ってくれるだろうか?」「戦争や自然災害などによってビジネスがうまくいかなくなってしまわないか?」といった不安を解消し、日本企業の海外展開を後押しする役目を担っています。
──民間の損害保険会社と、NEXIとの違いについて教えてください。
山内:NEXIは、民間の損害保険会社では救済できないリスクまで引き受けているのが大きな特徴です。海外取引で生じるリスクには、取引先の経営不振や破産などが起因の「信用リスク」と、戦争や自然災害などが起因の「非常リスク(カントリーリスク)」という2種類があるのですが、前者は相手企業に責任を問える一方、後者は当事者には責任を問うことができません。
また非常リスクは、発生を予測することが難しい上に、その国や地域と取引している企業が軒並み影響を受けることになるため、損失の金額も膨大になる可能性があります。この非常リスクまでカバーする保険を扱っているのは、国内ではNEXIのみとなっています。
幅広いリスクを引き受けられる理由は、NEXIが政府100%出資の金融機関だからです。貿易保険はもともと経済産業省(以下、経産省)が運営していた事業で、2001年に独立行政法人日本貿易保険が設立され、その後2017年に株式会社化されて現在の形になりました。株式会社にはなりましたが、依然として「通常の保険では救済できないリスクをカバーする」という公的な使命は変わりません。
山内 凌(やまうち りょう):営業第二部管理グループ(併)ソリューション営業グループ 主任
新卒でNEXIに入社。企画部の政策連携グループ(現:企画グループ)に配属され、政府関係のイベント運営などを担当。債権業務部査定グループに異動し、保険金の査定・支払業務を1年半経験。その後、経済産業省に出向し、貿易保険制度に関わる政策立案に携わる。営業第二部の管理グループとソリューション営業グループに所属。
安田:加えて、NEXIが日本の政府系機関であるからこそ、外国政府へ直接アプローチができるのも大きな特徴です。
例えば、お客様が代金回収不能に陥った際、NEXIが保険金をお支払いした後、支払い責任のある国や相手企業からの代金回収を図ります。相手が政府の場合などは、代金回収を日本の民間企業が行おうとしてもなかなか取り合ってもらえない可能性があります。
しかし、われわれは日本国の代表者として物事を伝えることができるため、交渉に応じてくれやすくなるのです。「現地の日本国大使館に協力を仰いで、相手国の財務省や中央銀行と直接話をつける」といったこともできるのは、政府系機関ならではの強みですね。
入社3カ月目に、「日本代表」として国際会議で発言の機会も
──これまで携わってきた業務と、現在の仕事内容について教えてください。
田中:NEXIには輸出保険や投資保険を扱う営業第一部と、融資保険を提供する営業第二部という2つの営業部があります。私はまず営業第二部に配属され、そこで3年半ほど日本の商社やメーカーが主導するビジネスに関連し、銀行などへ保険を提供していました。
その後、1年半ほどシンガポール支店にトレーニーとして駐在し、アジア・オセアニア地域に事業展開している日系企業やその取引先、また他国の政府や輸出信用機関との連携強化を行いました。
現在は日本に戻り、審査部の審査グループに所属しています。お客様と保険契約を締結する前に、リスクを引き受けて問題ないか与信審査を中心に、総合的な審査を行うのが私の役目です。特に融資や投資関連の保険商品は、場合によって数十億~数百億円規模の保険金支払いに至る可能性もあるため、慎重に審査しています。
田中 瑞紀(たなか みずき):審査部審査グループ グループ長補佐
新卒でNEXIに入社。営業第二部に配属され、3年半、日本の商社やメーカーが主導するビジネスに関連し融資組成と銀行などへの保険提供を経験。その後、シンガポール支店駐在を1年半経験。現在は、審査部の審査グループに所属し、保険契約締結前の与信審査業務を担当。
安田:私は入社後、審査部のカントリーリスクグループという部署に配属されました。カントリーリスクの高さは国によってそれぞれ異なるため、われわれは各国をA〜Hでランク分けし、それに応じた保険料率を設定しています。
とはいえ、保険料率は勝手に決めていいわけではなく、OECD加盟国と協議しなければなりません。私は入社3ヶ月目でその国際会議に「日本代表」として参加しました。そのときは発言者の前にフランス語のネームプレートが置かれていたのですが、そこには「Yasuda」でも「NEXI」でもなく「Japon」と書かれており、身が引き締まったのを今でも覚えています。
次に配属されたのは、保険金の査定・支払や債権回収を行う債権業務部でした。私は主にカントリーリスクによって保険金を支払った案件を担当し、相手国から債権を回収する役目を担いました。債務国政府からの債権回収は、主要先進国の債権国間で足並みをそろえる必要があるため、「パリクラブ」と呼ばれる国際会議を開き、返済スケジュールなどを議論します。特にコロナ禍は債務国がお金を払えないケースが増え、約20年ぶりにパリクラブが白熱しました。
現在は営業第二部にて、天然資源分野の融資保険を扱うグループに所属しています。プロジェクトのスポンサーとレンダー(貸し手)との間の条件調整や交渉を行うため、毎月のように海外へ出向いています。
安田 桃生(やすだ ももい):営業第二部資源グループ 主任
新卒2期生としてNEXIに入社。審査部カントリーリスクグループにてアジア・大洋州地域やトルコ・アンゴラのリスク分析を担当した後、債権業務部査定グループにて保険金の査定・支払業務に従事。その後、同部回収グループにて外国政府などの債務者からの債権回収に従事。現在は営業第二部資源グループにて、資源セクターの海外大型プロジェクトに関わる保険引受業務に携わる。
山内:私はまず企画部の政策連携グループに配属されました。前提として、NEXIは貿易保険法という法律に基づいて運営している公的機関です。政策連携グループは、NEXIの取組をアピールしてもらうために情報提供を行ったり、一緒に貿易保険に関わる新政策を考えたり……など、経産省などの日本政府との連携・調整を一元的に担う部署です。
その次に異動した、債権業務部査定グループでは、保険金支払いの査定業務を1年半担い、NEXIの細かい制度や国際ビジネスにおける事故事例をたくさん学ぶことができました。
社会人4年目に経産省に出向し、2年半、貿易保険に関わる政策立案を担当しました。NEXIの機能強化のため、さまざまな新しい政策を立案しましたが、中でも「国内貸スキーム」の創設に携われたのが印象的です。NEXIがこれまでできなかった海外事業を行う国内企業への融資に対してかける保険を、関係法令の改正を通じて実現したもので、NEXIの歴史の転換に立ち会うことができました。
現在は、営業第二部の管理グループとソリューション営業グループに所属しています。ソリューション営業グループでは、自分が立案から創設まで携わった「国内貸スキーム」の案件を担当しており、不思議な縁を感じています。
発電所建設、政策立案など、壮大なミッションに携わる日々
──みなさん非常に重要な任務を担っていらっしゃいますが、特にやりがいを感じるのはどんな瞬間ですか?
安田:国家レベルの案件に携わることも多いため、映画の登場人物になったような気分のやりがいを感じることがありました。
詳しくは話せないのですが、とある国向けに軒並み保険事故が起きてしまい、かつてないほど巨額の債権回収に当たったことがありました。相手国政府内でも混乱している最中、社内の人にも一切漏らせないような秘匿性の高い情報を抱えながら、現地の日本国大使館や日本国内の関係者と連携して指揮をとり、かなり短い期間でミッションクリアを目指す……という、非常にタフな案件でした。
関係者が多い大変な仕事もよく発生しますが、自分の力でうまく交通整理ができて問題解決に導けた瞬間は、本当に大きな達成感を味わえます。経験を積むごとにその嗅覚は研ぎ澄まされていくので、成長も実感できますね。
田中:さらにNEXIは扱う金額が非常に大きい一方で、人員規模は非常に小さいのが特徴です。そのため、安田がお伝えしたように早い段階から壮大なミッションを背負える面白さがあります。
個人的に印象に残っているのは、初期配属された営業第二部でインドネシアに発電所を建設するプロジェクトに携わったときのことです。そのプロジェクトへの融資に保険をかけるということで貸し先との条件交渉やリスク精査を行ったのですが、ベテラン銀行員の方々がバックシートに座る中、当時入社2年目の私が交渉のテーブルにつく場面がありました。
他の金融機関では考えられないスピードで重要な仕事を任せられるので、圧倒的に成長できる環境だと思います。
インドネシアでのプロジェクトは無事に契約締結に至り、関係者として着工式に参加させてもらいました。そのときはまだ何もない広大な空き地でしたが、数年後には大勢の暮らしや産業を支える立派な発電所が建ちました。保険は目に見える商材ではないけれど、最後はこんなにも大きく形あるものに変わるのだと、改めて実感した瞬間でした。
山内:経産省に出向して新しい政策を立案し、それが世に出たときは、やはり言葉にならないほどのやりがいを感じました。どんな制度にするか企画段階から自分で考え、ニーズを拾い、賛同を得るために片っ端から企業ヒアリングを行い、省内関係者に説明して……と、プロジェクトのすべてに携わることができたため、本当にいい経験になりました。経産大臣にご発言いただき、メディアにも取り上げられたので、思い出に残っています。
世界情勢の変化に伴い、国際ビジネスのリスクも多様化していく中、NEXIにはそれに対応し、日本企業を守り続ける使命があります。その度に、時代の変化に合わせて、法制度を改正したり、新たな保険商品や仕組みを取り入れたり……と新しいチャレンジができるのは、他社にない醍醐味ではないでしょうか。
最も重要なのは、企業の海外展開を支えたいという思い
──最後に、どんな人がNEXIに向いているか教えてください。
田中:NEXIは部署異動が転職のように感じられるほど、毛色の違うさまざまな仕事が存在します。その分多様性が重要だと思うので、どんな学生さんにも来ていただきたいです。
あった方がいいだろうなと感じるのは、「日本企業の海外展開に貢献したい」という思いです。事業内容が明確である分、会社とベクトルの向きがあっている方のほうが、働いていて楽しいのではないかと思います。
安田:確かにどんな方でも活躍できる会社だと思いますが、知的好奇心が強い方や、一つのことを突き詰めて考えられるタイプの方だと活躍しやすいのではないでしょうか。
なぜなら、NEXIは一つ一つの仕事の専門性が非常に高いため、分からない用語や概念を検索してもなかなか答えが出てこないから。関連資料や過去の経緯を調べて、その道の専門家から生の声を聞いて、ようやく分かってくるような世界です。そこに面白さや興味を感じられる方におすすめです。
山内:NEXIは少数精鋭の組織である上、それぞれのバックグラウンドも職務内容もみなバラバラです。つまり、いわゆる出世争いや同期バトルのようなものは存在しません。そのため競争が好きな方よりも、仲間思いの方や、チームで助け合う仕事がしたい方に向いていると思います。
そして何より、「世界で活躍しようとする日本企業を支えたい」という思いを持つ方と一緒に働けたら、こんなにうれしいことはありません。
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【制作:BRIGHTLOGG,INC./撮影:是枝右恭/編集:山田雄一朗】