ここは日本有数の歓楽街。Googleにさえも載っていない、とある会員制バー。多忙なエリートたちのために、今宵はどんなボトルを開けようか。
今夜のお客様:外資系投資銀行MD(マネージングディレクター)
<今宵の6杯はこちら>
●そもそも外資金融マンとは?
●年収はどれくらいもらうんですか?
●「外資夏の時代」はいつまで
●日系となにが違うの?
●どういう子が欲しい?
●どんな人が向いているのか
ライター紹介:アサキヒロシ
知る人ぞ知る某会員制バーに勤務する大学生。学生ながら、政財界の大物や芸能文化人たちに今夜もお酒を注ぎ続ける。
——外国の資本に系列して金を融通する人間
「外資系金融マン」。アサキヒロシ辞典を引くと、この言葉はこう説明されているはずだ。
——日本国外に拠点を置く金融機関に勤務する人間。比較的新種。多くの人間は意味は知っているものの、実際に存在を頻繁に見かける者は多くはない。
新卒や30代までの脂の乗った彼らは皆、銀座や西麻布などで豪遊しているらしい。飛んでいくシャンパンコルクは、きっと彼らの年収の天井までは届かんばかりなのか。僕自身は数年前までゴールドマン・サックスは、イヴ・サンローラン的な服飾ブランドだと思っていたし、バークレイズはイギリスのサッカー、プレミアリーグでしか知らなかったレベルだ。
そんな僕でも、この手の外銀マンの話は、かなり表面的なものだと確信している。なぜそう思うか? それは学生のOB・OG訪問などには、絶対に出てこないマネジメント層に酒の相手をしているからに他ならない。これから語る話はあくまでも酒席での発言だ。しかし、ここにあるエッセンスを未来ある読者の皆さんが生かしてくれたのならば、僕は彼らから大量のチップをもらった、あの瞬間以上に嬉しい。
そもそも外資金融マンとは?
初めて彼に会ったのは3年前。聞いたこともない会社、肩書もカタカナ、どうも怪しい男だと思った。自分が就活を意識するようになり、やっと気づいた。彼は世界的にも有名な外資系投資銀行の重役であったのだ。「世界的にも有名な会社じゃないですか。月並みな話ですけど、どうやって入ったんですか?」このおじさんは、オリンピアンか? アイビーリーガーか? もしくは前前前世から徳を積みまくった人なのか。純粋に興味があった。答えは予想外なものであった。彼の出身校は、「高学歴」とは言い難い大学出身、部活どころかサークルも行かずにマージャンに青春を注いだ男だというのだ。はっきり言って、世間で名の知れた企業に行くことすら難しいように思えた。案の定、お世辞のフォローする言葉を思案していると、「君の思っている通り、ダメな学生だったから就活も悲惨だったよ(笑)」と温かい言葉が返ってきた。話を聞いてみると、彼は新卒の就職活動では第一志望を、それこそ外資の解雇宣告のようにズバズバと落とされたらしい。ここなら受かるだろうと、地元の地方銀行を受けるもあえなくお祈り。当時はバブル期、面接に「行けば」内定をもらえ、企業も拘束するために内定者を海外旅行に無料招待するような好景気だ。彼のような就活失敗組は、当時人気であったSONYや松下電器産業(現パナソニック)の内定者より珍しかったという。困り果て、景気の良さから追加募集をしていた中小証券会社に「気合いの土下座」を捧げることで、何とか内定を得られたらしい。お情けで入った彼は、案の定仕事ができなかった。数字が全ての証券界で、結果もでなければ、顧客の罵倒にも耐えられず、うつ病になり休職した。紆余曲折があるらしく割愛されたが、彼いわく「これだけ失敗すれば後は成功しかないべ!(笑)」と思えるようになり、復職後は抜群の成績をたたき出し、某ハウスメーカーからヘッドハンティングされた。その後は、日系大手証券、外資保険を渡り歩き、50代目前で外銀にスカウトされ、今の立場にあるという。僕の「一流大学上がりの一流企業で力をもてあましたエリート異分子が入社する」というイメージが完全に裏切られた。
年収はどれくらいもらうんですか?
外銀で稼ぎが2000万円の人間は負け犬だと聞かされていた僕。ここで磨いてきた「さりげなく相手の富裕度を探るテクニック」を今こそ使うとき! と探りをいれてみた。彼はそれを察したのか、少し怒気を含みながらこう言った。「世間で言われるほど、若手はもらってないよ。最近の子はイメージ先行で受けているから、それで入った若手が女の子や友達に大げさに言っている弊害がここにきたんだね」彼の部下は入社3年目の20代らしいが、年収1000万にはとても届かないという。前職では、月給23万の人間もいたという。「結果次第で稼ぎはすごい上下するし、日本の金融や商社、ディベロッパーのほうがよほどもらえるよ」彼いわく、圧倒的な稼ぎをイメージ戦略として、優秀な若手を手に入れてきた経緯もあるため、世間の誤解は自分たちベテラン層の責任でもあるらしい。
「ちなみにあなたは……?」急にニヤッと笑って彼はこう言った。「1億以上とだけ言っておこうか」。真偽は分からない。数々のビッグディールを成し遂げた彼の発言の真偽など、僕には読み切れる訳がない。
「外資夏の時代」はいつまで
僕らバーテンダーは顧客を気持ちよく酔わすことが仕事だ。そのために一番効率的な手法は、褒めることに尽きる。「昔のエリートは官僚、今は外資系ですね。本当に勝ち組ですね」この瞬間、彼は今までの中で最も笑った。「もう終わりだけどね。既に過去! 過去!」彼レベルの職務は企業の経営層に「これから伸びるモノ、廃るモノ、起きるであろう変化」を教えることだという。未来を探るプロである自分が言うのだから間違いないと断定したのだろう。「何年も前からウォールストリートではディーラーは飯を食えなくなっている。そしてMBAホルダーなんかよりも、理系のドクターの需要が高まっている。日本でもネット証券なんかが勢いつけてきているけど、これ一昔前まで考えられなかったからね」「俺の見立てだと、5年たてば5000万なんて誰も貰えなくなるよ!」彼はお酒が入ると話を大げさにするきらいがある。それを差し引いても、外資金融にも大きな波がくることは確かなようだ。当時は何を言っているか分からなかったが、最近メガバンクなどが一斉に人員や店舗の縮小とフィンテックへのさらなる注力を発表し、彼のしたり顔が想像できるようになった。
日系となにが違うの?
僕は当時日系金融を多々受けており、確固たる「日系金融」のイメージを持っていた。例えば日系の証券会社場合は、接待を重ね、電話に追われ、時には土下座も辞さず、靴をつぶして飛び込み営業をする体育会上がりというものだ。外資系のイメージは、正反対であり、大手町や六本木あたりでスタバ片手に英語でスカイプしながらパソコンカタカタな男前女前帰国子女の巣窟という印象そのもの。彼はこれを聞くなり一笑に付した。「おまえ馬鹿だなぁ(笑)」。本気であきれつつ、丁寧に説明してくれた。どうやら本質的には両者は変わらないらしい。外資系も日系同様であり、非常に泥臭いようだ。「昔いた日本の証券会社の3倍は膝ついて謝ってるなぁ(笑)」そして、あえて違いを挙げるとすればホールセール部門。外資系金融のほうが、ホールセールに強みをもっており、なおかつ会社によって強みがさまざまなため、多様な企業のニーズに対応できるという。彼いわく「海外M&Aや株式の転換などが最たる例だ。とりあえずデケェ案件は外資じゃねえとできない場合多いって覚えとけ!」とだけ言ってきた。そして最後にこれだけは知ってほしいと言われた。「外資が日系より全部優れているとか全くないからな。日本の富裕層への信頼や安心感、徹底的なまでに顧客に尽くすカルチャー、世界最強とも言えるチーム力とかは絶対日系のほう強い。というか俺も結構負けてるもん」頑張れ金融サムライたち。
どういう子が欲しい?
「俺の時は新卒採ってなかったし、新人とか興味ないからなぁ……」求める人材を彼に聞いたところ、こういう答えが返ってきた。ただ、彼の話を聞く限り「獰猛(どうもう)さを感じるほどの積極性」が求められていると感じた。これは彼がインターンで学生を受け入れた話だ。日本の某一流大学から来た男子学生は、インターン内容に雑用があっても文句一つ言わない。志望理由をランチの際に聞くと、論文のような言葉が並び、要約すると「世界経済のダイナミズムを感じたい」に帰結するというものであった。しかし、もう一人の韓国の大学から留学してきた女子学生は全く違った。お茶の手配やコピーに対しても、「インターンで、こんな行為は断固拒否する」と言い放ち、志望理由を聞いても「I Want Money」の一言。普通の企業であれば、ES提出後に即お祈りレベルのように思えるが、彼は「あの女の子ぐらいにアグレッシヴな方がいいよなぁ」と担当社員にプッシュしたらしい。
面白いと思った方はぜひマネをして結果を編集部まで教えてください。なお、アサキヒロシは一切の責任を負いかねます。
どんな人が向いているのか
「新卒で入る難しさは俺にはわからん!」彼が連れている部下は、身長180cmで竹野内豊似の男前。彼のほほえみが、この門戸がどれだけ難関なのかを物語っている。そう言った彼に、「では中途で入る難しさは?」と投げかけてみた。すると、「キーエンス、リクルート、電通、野村證券など営業の猛者が切磋琢磨(せっさたくま)する企業で5年連続1位を獲ること」という160kmのストレートが顔面近くにビュンと飛んできた。(実際には金融経験者以外は厳しい事例もあるらしく要注意)これらの企業で5年連続1位を獲れるか? 獲りたいか? と聞くと、「自分には無理だ」、「そんなものはナンセンスだ」と言う学生が多いのではないか。しかし、外資系金融に入りたいか? 入れるか? と聞くと、「狙える位置にはいる」、「目指さない理由はない」という学生のほうが多い印象を受ける。彼の言葉はアルコールで多少メッキ加工されているかもしれないが、そう外れてもいないはずだ。
僕は、志望者の皆さんが、当店でお酒を飲みに来られる日を願って止まない。憧れの「外資金融マン」として。
※こちらは2017年12月に公開された記事の再掲です。
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