多くの学生の就職活動がひととおり終了しつつある、今日この頃。最近では、後輩たちから「内定ブルー」に関するメッセージを多くもらうようになった。
内定ブルーになった学生たちが取る行動はさまざまだ。現在の内定先を辞退して、新たに夏・秋採用に応募したり、次年度の就職活動に向けて活動したりする人も少なくない。
先にお届けした前編では、「やりたいことに気付き、最後は自分の気持ちに正直になった人」を紹介してきた。この後編では、反対に「やりたいことからそうでもないこと」をあえて選択した学生たちを紹介していく。
こう言うとネガティブなイメージを持たれるかもしれないが、彼らは「自分のやりたいこと」以上に、さまざまなことを優先し、今も元気に過ごしているのだ。
ちなみに、新卒採用の就職活動では「やりたいこと」が重視されるが、転職では話は別。新卒の就職活動ではNGであった「年収や休みなどの待遇」、「転勤の可否やその範囲」、「人間関係」などといったことを、堂々と志望理由で話せることも頭に入れておいてもらいたい。
<目次>
●パターン5:自分に限界を感じ、「安定」と「堅実さ」を求める
●パターン6:冷静になって、最初の内定先に入社
●「内定ブルー」なんて、イノキの力で吹き飛ばせ
パターン5:自分に限界を感じ、「安定」と「堅実さ」を求める
金融ベンチャー企業→地方銀行
学生時代から金融系ベンチャーでインターンを行い熱中。仕事内容にもメンバーにも魅力を感じ、このままインターン先に就職し、ゆくゆくは起業することを決意する。
しかし、3年の秋ごろにインターンで新人の学生が参加。当初は「就活の実績づくりで遊びにきたのか」と上から見ていたが、その学生はあっという間にさまざまな結果を残した。時を同じくして、自分の担当していた新規事業の立ち上げは大赤字を出して中止になってしまう。
今まで「自分はできる」という自負を持っていたからこそ、安定性よりも成長ややりがいを重視してベンチャー企業を志望していたものの、自信が打ち砕かれたことで迷うようになる。
特に新規事業の立ち上げに関わったことで、自分のインターンを「きれい事のおままごと」のように感じるようになった。
お金の重要性を知り、「安定して長期にわたってお金を稼げる」ことの安心感や、いい意味で、若いうちから結果を求められずに勉強期間をもらえる点に魅力を感じて、地元の地方銀行に入行。事業への興味自体はインターン先のほうが強かったが、悩みながら選んだ道だった。
「『SNSやテレビでは、若いうちから成長することも、起業に挑戦することも最高!』と煽(あお)っているけれど、それができるのは一握りの人であって、自分のような凡人にはできないと感じたのがきっかけだった」と彼は振り返る。
「大企業や中小企業でも、若い時から仕事を任せてもらえることもあるだろうし、成長する機会だってきちんとあると思う。年功序列の制度や、成績に関わらず、みんな同額の給料がもらえることが批判されることがあるけれど、待遇や成績にとらわれず、長期的に仕事ができるというメリットもある」というのが、彼の今の考えだ。
今はインターン時代のように、仕事に強烈なやりがいを感じたり、同僚と志について話したりすることもなくなったが、早々に結婚し、かわいい子供も生まれた。
当時のインターン先に就職していたらどうだったのか。自分のサービスで世界を変える熱狂を味わっていたのかもしれない──と想像するのは楽しいが、想像して憧れるくらいがちょうどいいとも思っている。
人材採用ベンチャー→大手人材サービス
就職活動をする際に「会社に依存しない実力をつける」、「伸びている業界に身を置く」、「自分の得意なことを生かす」ことを考えて就職活動をする。
その結果、(1)若いうちから力を付けられるベンチャー、(2)成長産業の中で関心があった人材採用サービス展開、(3)訪問販売のアルバイトで実績があった営業、の3点から考えて、会社を決定。
本やSNSを見ても「自分の選択は有名な人の主張とほぼ同じだし、やっぱり間違いない」と確認し、つつがなく就職活動を終了。しかし、周囲の反応は散々で、親には「聞いたことがない会社だけど大丈夫?」と心配され、彼女からは「こんなこと言いたくないけど、結婚考えてる? つぶれないの?」と問い詰められた。
極め付きは兄の存在だった。兄は大手自動車メーカーの内定を辞退してIT系のベンチャー企業に就職。在学中から全国展開する学生団体を設立し、起業するなど活躍しており、弟の自分から見ても優秀で、周囲からも「あいつは大物になるぞ」と言われていた人だった。
しかし、兄は就職した企業では結果を出せず、心身ともに疲弊していき、徐々に同級生や社会に対して激しく嫉妬するようになった。
「総合商社に行った友達は、1年目の夏のボーナスで100万をもらっている」、「大学のミスコン出身者やモデルと高そうなワインを開けている」、「広告代理店に行った友達は、見るからに高そうなスーツや時計を身につけていた」、「鉄道会社に行ったあいつも、福利厚生で品川駅前のキレイなマンションに格安で住んでいる」──。
「大企業っていいな」。兄はその後、心身ともに疲弊して地元の商社に就職。「最初から大手に行っていれば俺の人生は変わっていた」とぼやきながら日々を過ごしている。
異様に大企業への憧れと後悔が強くなった兄は、反面教師として弟に就職のアドバイスをしてあげたつもりなのだろう。自分なりに今の内定先を選んだ理由はあるし、兄が自分の経験だけでベンチャー企業を一方的に批判する姿勢にもムッとしたが、「兄のようになるのは怖い」という思いから、安定や待遇を重視して、大手の人材サービス企業の地域採用社員になった。
彼は「挑戦して失敗するのと、挑戦をしないことは、どっちが後悔するのかいまだに分かりません」と話している。
パターン6:冷静になって、最初の内定先に入社
専門商社→専門商社(受け直さず)
総合商社を狙うも残念ながらご縁がなく、金属などの資源を扱う専門商社への内定を承諾。しかし、周囲の総合商社内定者との会話を通じて、周囲の評価や自分の満足度にコンプレックスを感じ、来年もう一度受け直すことを決意した。
親は全力で止めたが、最後には根負けして「好きにしなさい」と何とか了承。就職留年をすべく、ゼミの先生に事情を説明しにいくと一喝された。
「自分のつまらないプライドのために、時間もお金も自分が踏み台にした人の思いもフイにすることなど許しません」
先生は、彼が専門商社ではなく総合商社にこだわるのは、周囲からの賛辞や自分のプライドを満たすのが目的になっていると指摘。
本質である仕事のことを気にするそぶりはないし、たとえあったとしても再チャレンジするほどの違いが総合商社と専門商社にあるのか、来年は今せっかくいただいた内定先にも見向きもしてもらえなくなるかもしれないが、その覚悟はあるのか……。
君が総合商社を志望するように、君が内定をいただいた専門商社も誰かが行きたくてしょうがなかった場所。その人たちの思いをむげにするのかとまくし立てられた。
「当時の僕は、自分の第一志望群じゃないというだけで卑屈になり、内定先の悪いところばかりに目を向けていました」。先生の言葉もあり、冷静になって考えると「こだわるところは所属先じゃなくて仕事の内容。まずは働かなきゃ始まらない」と思い直して入社したという。
このように、内定ブルーになった際、すぐに新たに選考を受けるのではなく、きちんと考え直すことが重要だ。どんな選択をしても、考え直して整理し、後悔しないという経験は、実際に働き始めてから、仕事の理不尽さに耐えるエネルギーになる。
「内定ブルー」なんて、イノキの力で吹き飛ばせ
いかがだろうか。前編でも触れたように、正直、「こういう思考をすれば大丈夫!」、「この業界や企業に行けばいいよ!」というアドバイスができるものではない。
「情報が多くなりすぎて不安になっているだけ」、「内定をもらっているのだからマッチしているはず」、「内定ブルーの時よりも就活中の方が、時間をかけて冷静に企業研究をしているから」という理由で、最初に内定をもらった会社に行くべきという人もいる。
一方で、「迷うということは今の内定先に不満があるということ」、「就活中よりも落ち着いて考えられている内定後に悩むのだから」という理由で、当初の会社を辞退して新たな内定先を勧める人も少なくない。
僕自身も内定ブルーで悩んで会社を選択し、今、働いている。この選択が正解かは分からないが、今は働く忙しさで「別の道」を考える余裕もない。多くの社会人もきっとそうだろう。
Googleで「内定ブルー」と検索すると、「どの道を行けば正解なのかを考えてもしょうがない。どれも正解であって、正解ではない。選んだ道を正解にするようにするのが大事」という文章で締められたサイトをよく目にする。
確かにその通りなのかもしれないが、その言葉はあまりにも「きれい」で、あのころの僕は腑(ふ)に落ちなかった。
そんな僕と同じ感覚の人には、これまたベタですが、ぜひこの言葉を。
この道をゆけばどうなるものか、危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし、踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。迷わず行けよ 行けばわかるさ。アントニオ猪木
ぜひ、動画サイトでご本人の声で聞いてほしい。この直後にお決まりの「いくぞー! 1、2、3、ダーッ!」までワンセットです。物事はいつもシンプル。考え尽くしたら、考えないで決めればいい。
内定ブルーに卍固め、弱気な自分に延髄斬り!
勇気を出して決断してみよう。
皆さんが「悔いのない選択」よりも、「希望を持てる選択」をすることを祈っています。
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(Photo:Jacob_09 , Billion Photos , alphaspirit , oatawa/Shutterstock.com)
※こちらは2019年8月に公開された記事の再掲です。