日本の重要産業の1つである自動車製造業。今回は、自動車産業について、完成車を扱う自動車メーカーだけでなく、それらを支える自動車部品メーカーについて、事業内容・業界構造・今後の動向などについて解説します。自動車産業への就職を考えている就活生は、ぜひ業界理解にお役立てください。
<目次> ●自動車部品メーカーとは ・自動車部品メーカーの事業内容 ・自動車部品メーカーの立ち位置 ・自動車部品メーカーと商社の関わり・違い ●自動車部品メーカーの業界構造 ●自動車部品メーカーの主な職種・仕事内容 ・事務系 ・技術系 ●【機能別】自動車の構造と代表的な企業の紹介 ・エンジン ・駆動系部品(ドライブトレーン) ・懸架・制動系部品(サスペンション・ブレーキ) ・電装品 ・内外装品 ●自動車部品メーカーの展望|将来性についても解説 ・CASEの実現 ・CASEによる業界の変化 ・MaaSの実現 ・若者の車離れ ・高齢化による人手不足 ・EV化による部品点数の減少 ・自動車部品メーカーに将来性はある? ●おわりに
自動車部品メーカーとは
自動車部品メーカーとは、自動車の製造に必要なさまざまな部品を開発・製造し、自動車メーカーに供給する業界です。
一般的な自動車には約2~3万点の部品が使用されており、エンジンや電装品、車体部品など多岐にわたる部品が組み合わさることで完成します(※1)。
自動車部品業界は日本の主要産業の1つであり、輸出需要も高いため国内外で大きな市場を形成しています。ここでは、自動車部品メーカーの役割やその業界構造について解説します。
(※1)参考:日立キッズ「車のひみつ 日本の車づくり」
自動車部品メーカーの事業内容
自動車部品メーカーは、自動車メーカーと直接やり取りを行い、車の構成要素である多種多様な部品の開発と製造を担っています。
このような企業は一般的に「1次サプライヤー」と呼ばれ、自動車メーカーから直接依頼を受け、必要な部品を提供しています(※2)。例えば、新しい車種の開発に伴って必要となる部品の提案を行うのも1次サプライヤーである自動車部品メーカーの役割の1つです。
自動車に使われる部品は、ガソリン車でおよそ3万点、EV(電気自動車)であっても約2万点に及びます(※3)(※4)。この膨大な部品には、エンジン周辺の部品、カーエアコン、さらにはEV向けの電池などが含まれ、多様な機能を支えるためにさまざまな分野の技術が必要とされています。
就職活動を進める上で、志望する企業が自動車のどの機能を担う部品を製造しているのか、またその部品がどのような役割を果たしているのかを調べておくことが重要です。納得感のある企業選びにつながるよう、各社の事業内容や自分の興味との関連度を把握しましょう。
(※2)参考:TCS「在庫の見える化・適正化」
(※3)参考:MITSUBISHI MOTORS「なぜ?なぜ?クルマづくり調査団」
(※4)参考:朝日新聞DIGITAL「電動化進むのにエンジン部品強化 トヨタ系メーカーの『逆張り』戦略」
自動車部品メーカーの立ち位置
自動車メーカーは自社で車全体の設計や組み立てを行うものの、すべての部品を一から開発するわけではありません。そのため、部品メーカーが提供する部品は、車の性能や安全性を左右する重要な要素になっています。
具体的には、自動車メーカーは自社の設計書に基づいて、自動車部品メーカーから供給された部品を組み立て、最終的に完成車を作り上げます。そして、完成した車はディーラーを通じて消費者に届けられる仕組みになっています。
部品メーカーの存在により、自動車メーカーは効率的に車の生産を行うことができ、消費者はさまざまな機能や特徴を持つ車を選ぶことができています。
自動車部品メーカーと商社の関わり・違い
自動車部品メーカーと商社は、どちらも自動車産業に関わる重要な役割を果たしていますが、その働き方や役割には明確な違いがあります。
まず、自動車部品メーカーは自動車の各種部品を設計・開発し、それを自動車メーカーに供給することで直接的に製造工程を支えています。部品メーカーは、自社の技術力を生かして高品質な製品を提供し、自動車の性能や安全性を向上させる重要な役割を担っています。
一方、商社は自動車部品の生産や開発を行うわけではありません。商社の役割は、部品メーカーや他のサプライヤーと自動車メーカーをつなぐ「橋渡し」として、部品の調達や物流をサポートすることです。特に、複数の部品を統合的に管理し、適切なタイミングで必要な部品を供給する役割を担うことで、円滑な生産体制を維持する支援をしています。
自動車部品メーカーが「ものづくり」で自動車産業に貢献する一方、商社は「流通と調整」によってその製造を支えています。それぞれの違いを理解することで、自動車産業の全体像が見えやすくなるでしょう。
自動車部品メーカーの業界構造
自動車部品メーカーの業界構造は、完成車を製造するOEM(Original Equipment Manufacturer)を頂点に、Tier1・Tier2・Tier3と続く階層構造で成り立っています(※5)。
上位のTierほど部品点数は少ないものの、品質や信頼性の高い部品を求められ、下位のTierが基礎素材の提供や加工を担うことで全体が支えられています。ここでは、各階層構造の役割や特徴について解説します。
(※5)参考:TCS「在庫の見える化・適正化」
OEM
OEMとは、通常は他社ブランドの製品を製造することを指します(※6)が、自動車業界では異なる意味を持ち、自社ブランドで完成車を製造するメーカーを指します。つまり、自動車業界におけるOEMは「自動車メーカー」と同義であり、自社のブランド名で車を販売する企業を表す用語です(※7)。
OEMは、部品メーカー(Tier1)から供給されるさまざまな部品を組み立てて、自動車を製造します。完成した車両はディーラーを通して市場に提供され、消費者の手に渡ります。OEMによって部品の調達階層(Tier)構造は異なり、場合によってはTier1の企業がTier2として位置づけられることもあります。
このような階層構造があるなかで、OEMと各Tierの部品メーカーは密接な協力関係を築き、物流の流れが円滑に機能するよう調整が図られます。こうした協力体制により、自動車の生産が円滑に進み、安定した供給が維持されています。
(※6)参考:シャイン「製造業界での基礎知識『OEM』とは?」
(※7)参考:CarLine「自動車業界におけるOEM車とは?わかりやすく解説!」
Tier1サプライヤー
Tier1サプライヤーとは、OEM(自動車メーカー)と直接取引を行う企業を指し、主に自動車のエンジンやモーターなどの重要な部品を提供します。Tier1サプライヤーは、Tier2から仕入れた部品を組み立てて、完成車メーカーに納品する役割を担っています(※8)。
このTier1サプライヤーには、多くの場合、総合部品メーカーが含まれ、複数のOEMと取引を行うことで高い技術力や豊富なノウハウを培っています。そのため、OEMに対して新しいシステムや改良案を提案できる立場にもあり、OEMに対して一定の影響力を持つことが特徴です。
複数のOEMと連携することで、Tier1サプライヤーは業界の技術トレンドに対応した部品開発を進め、自動車産業全体の発展にも大きく寄与しています。
(※8)参考:首相官邸「下請構造のイメージ(自動車産業の例)」
Tier2サプライヤー
Tier2サプライヤーとは、Tier1サプライヤーと直接取引を行い、部品の加工を専門とする企業を指します。自動車部品の生産には、エンジンやモーターなどの大きな構成部品だけでなく、半導体・鋳造・プレス部品といった多くの細かい部品が必要であり、Tier2サプライヤーはこれらの部品を提供する重要な役割を担っています(※8)。
Tier2サプライヤーは、素材メーカーから材料を仕入れて、自動車に組み込まれる部品を加工・製造しています。これにより、Tier1サプライヤーがOEMへ提供する完成度の高い部品を支える重要な存在として、部品の品質や精度に大きな影響を与えています。
半導体のような高精度の電子部品から、金属部品のプレス加工まで、多岐にわたる技術と専門性を持つTier2サプライヤーは、自動車産業全体の土台を支える不可欠な存在といえるでしょう。
Tier3サプライヤー
Tier3サプライヤーは、Tier2サプライヤーと直接取引を行い、部品の基礎となる材料や製品を供給する企業を指します。自動車部品の土台となる素材を提供するため、金型産業や素材産業などが主な業種であり、鉄鋼や化学といった幅広い分野の大手メーカーが関わっています(※8)。
Tier3サプライヤーが提供する材料は自動車産業のみならず、他の多くの産業でも必要とされるため、さまざまな業界と取引しているのが特徴です。このような取引の多様性により、Tier3サプライヤーは安定的に高品質な素材を提供し、Tier2やTier1サプライヤーを支える役割を果たしています。
こうした基礎素材があることで、自動車の部品が高い品質で作られ、最終的に信頼性の高い車が製造されるため、Tier3サプライヤーは業界全体の根幹を担う重要な存在といえるでしょう。
自動車部品メーカーの主な職種・仕事内容
自動車部品メーカーでは、多様な職種がさまざまな角度から製品の開発・製造を支えています。
大きく分けると、顧客との取引や会社運営を行う「事務系職種」と、実際の製品を開発・生産し、品質を管理する「技術系職種」があり、それぞれが製品の完成や品質の向上に貢献しています。ここでは、自動車部品メーカーでの具体的な職種とその仕事内容について解説します。
事務系
事務系の職種は、自動車部品メーカーの運営を支える役割を果たし、顧客対応や企画立案、部品や材料の調達、生産計画の管理などを担当します。
これらの職種では、社内の他部門と連携しながら、効率的かつスムーズな業務運営を目指します。
営業
営業職は、自動車部品メーカーにおいて、自社の製品を自動車メーカーなどの顧客に販売し、関係を築いていく重要な役割を担います。
顧客との取引においては、価格交渉や納期・数量の調整が必要となるため、営業職は社内の製品開発チームや生産部門と連携し、顧客のニーズに応じた最適な提案ができるよう調整を行います(※9)。
また、営業は単に製品を売るだけでなく、自動車メーカーに対して自社の新技術や新しい製品を提案し、次世代の自動車開発をリードする役割も果たします。
市場の動向を把握して戦略を立てることも営業の重要な仕事であり、これにより顧客のニーズに先回りして応え、信頼関係を深めることが求められます。
営業職は、自動車部品メーカーの「顔」として外部と接し、顧客との橋渡し役を果たすことで、会社の競争力を高める大切な存在です。
(※9)参考:トヨタ自動車「国内営業」
企画
企画職の役割は、新たに販売する自動車部品の企画・戦略を立てることです。営業から収集した消費者のニーズを分析し、その情報をもとにどのような製品が市場に受け入れられるかを検討します。このプロセスでは、デザインや機能性だけでなく、コストや製造の効率性についても考慮し、社内の関連部署と調整を行いながら製品を形にしていきます。
このように企画職は、市場のトレンドや顧客のニーズを捉えて製品に反映するため、自動車部品メーカーの競争力を左右する重要な役割を担っています。消費者の要望を製品に落とし込み、自動車部品として具体的な形を作り上げることは、大きなやりがいと責任がある仕事です(※10)。
(※10)参考:日産自動車「商品企画」
調達
調達職は、自動車部品の製造に必要な部品や材料を仕入れる役割を担い、製品の品質やコストに大きく影響を与える重要な仕事です。
調達の仕事では、より良いものをより安く仕入れるため、供給業者との交渉が重要です。コスト管理だけでなく、品質を保つことも求められるため、単に価格だけでなく材料の性能や信頼性を考慮しながら最適な調達を行います。
また、調達職は、グローバルな視点を持って低価格で高品質な材料の供給先を調査したり、必要に応じて国外企業とも取引を行ったりすることもあります。こうした業務を通じて、製品の競争力を高め、企業の利益に直接貢献できる点が調達職の大きなやりがいといえるでしょう(※11)。
(※11)参考:トヨタ自動車「調達」
生産管理
生産管理職は、工場における生産プロセス全体を監督し、効率的かつ安定した生産を支える役割を担います。
具体的には、納期を守るための生産計画の立案や生産ラインの進行管理、製品の品質管理など、製造の各プロセスを統合的に管理します。メーカーにとって納期遵守は重要な責任であり、トラブルが発生した際にも即座に対応し、生産が滞らないよう調整を行うことが求められます。
また、生産管理職はコスト削減と品質の維持を両立させるために生産プロセスの改善を行い、効率を高める役割も果たします。生産の現場を支え、スムーズな製造を実現する生産管理職は、品質と納期を両立させることで会社の信頼に貢献する重要な職種といえるでしょう(※12)。
(※12)参考:トヨタ自動車「生産管理・物流」
技術系
技術系の職種は、自動車部品の設計から生産、品質管理まで、製品の技術的な側面を担当します。製造の効率化や製品の安全性向上など、企業の競争力を高めるための重要な役割を担っています。
技術系の職種には、開発・設計、生産技術、品質管理などがあり、それぞれが専門性を生かしながら製品のクオリティを支えています。
開発・設計
開発・設計職は、自動車部品メーカーのなかでも自動車の性能や安全性に直接関わる重要な役割を担っています。この職種では、市場のニーズや自動車メーカーからの要求に基づき、部品の設計から試作までを一貫して行い、自動車全体の性能向上に貢献します。
例えば、エンジンやブレーキ、電動モーターの部品など、自動車の核となる構成部品を設計することで、車の燃費や環境性能、安全性の向上に寄与します(※13)。
開発・設計職には最新の技術知識が求められ、また新しい技術のトレンドや環境規制への対応も重要な課題です。環境に配慮した素材の選定やエネルギー効率の向上など、次世代の自動車に求められる要素を考慮しながら設計を進めます。
開発・設計職は技術的な専門性と創造性が求められ、メーカーの競争力を支える中枢的な職種といえるでしょう。
(※13)参考:日産自動車「プロダクションエンジニアリング(生産技術開発)」
生産技術
生産技術職は、製造工程の効率化と最適化を図り、製品のコストや品質に直接影響を与える重要な役割を担っています。生産技術者は、製造ラインの設計や改良、製造設備の導入など、効率的な生産体制を構築し、自動車部品の品質と生産性を両立させるために日々取り組んでいます(※14)。
また、生産技術職は、コスト削減だけでなく、環境負荷の少ない製造方法を開発することも大切な任務です。これには、エネルギー効率の高い製造技術や、廃棄物の削減を目指すエコフレンドリーなアプローチが含まれます。
生産技術職は技術的な洞察力と革新性が求められ、製造現場を支える中枢的な存在として、自動車部品メーカー全体の競争力を高める原動力となっています。
(※14)参考:トヨタ自動車「生産技術・モノづくり開発」
品質管理
品質管理職は、自動車部品の安全性と信頼性を保証するために、製品の品質を厳格に管理する役割を担います。自動車は人の命を預かる製品であり、その部品に求められるのは絶対的な品質です。
品質管理職は、製品が設計通りに製造され、規定の品質基準を確実に満たしているかをチェックし、各工程で問題がないかを確認します。
具体的な業務には、製品の検査やテスト、品質データの分析が含まれ、必要に応じて不具合の原因究明や改善策の提案も行います。また、新しい部品の量産開始時には、品質が安定するように支援し、市場での品質課題を調査してフィードバックを行い、再発防止策を講じることも重要な役割です(※15)。
品質管理は、顧客からの信頼とブランドの価値を高める要であり、常に高い専門知識と厳密な管理が求められる職種です。この仕事を通じて、品質管理職は会社全体の競争力を支える大切な存在となっています。
(※15)参考:TOYOTA 新卒採用サイト「アフターサービス/品質保証」
【機能別】自動車の構造と代表的な企業の紹介
自動車は、エンジンや駆動系、懸架・制動系、電装品、内外装品などの多くの機能を支える部品から成り立っています。それぞれの部品には異なる役割と構造があり、専門の部品メーカーが製造を担当しています。ここでは、各機能別に自動車の構造や代表的な企業について解説します。
エンジン
エンジンは、自動車の動力源として燃料を燃焼させ、車を前進させるためのエネルギーを生み出します。
シリンダー、ピストン、クランクシャフト、カムシャフト、バルブなど(※16)、複数の部品が複雑に動作して動力が生成されます。また、燃料供給システムがガソリンをシリンダーへ適切に供給し、燃焼後は排ガスとして車外へ排出されます(※17)。
(※16)参考:リケン「エンジンの構造と機能」
(※17)参考:ソコカラ「エンジンの仕組み・ガソリンとディーゼルの違い」
構造・仕組み
エンジンは、自動車に動力を供給するための内燃機関であり、シリンダー内で燃料を燃焼させることで動力を生み出します。その基本構造には、シリンダー・ピストン・クランクシャフト・カムシャフト・バルブ・燃料噴射装置・点火装置などが含まれます。
エンジンの仕組みは、「吸入→圧縮→燃焼・膨張→排気」の4工程のサイクルで成り立っています。
具体的には、ピストンがシリンダー内で上下することにより、燃料と空気の混合気がシリンダーに吸気され、圧縮されます。その後、点火プラグによって混合気が点火されて爆発が起こり、ピストンが押し下げられる力でクランクシャフトが回転し、この回転が車輪に伝わり車が動きます。この4工程が繰り返され、エンジンが安定した動力を生み出します(※16)。
エンジン内部は非常に高温(約2,000℃)になる(※18)ため、冷却が必要です。冷却水ジャケットと呼ばれる通路を冷却液が循環し、エンジンの熱を吸収(※19)します。熱を持った冷却液はラジエーターで冷やされ、再びエンジン内に戻ります。このプロセスにより、エンジンが適切な温度を保ち、安全に稼働することが可能です。
エンジン技術は、自動車の燃費性能や温室効果ガス排出量に大きな影響を与え、環境への配慮が重要視されています。燃焼効率を高める技術開発が進む一方、エンジンと電動モーターを併用するハイブリッド車(HV)や、完全に電動化された電気自動車(EV)の開発も進んでいます。
(※18)参考:科学技術振興機構「JSTニュース 2018年1月号」
(※19)参考:クルマの修理相談館「クルマの修理Q&A掲示板」
代表的な企業
自動車部品の中でも、エンジンに関連する部品に力を入れている代表的な企業をご紹介いたします。気になるワンキャリアの企業ページから、気になる企業をチェックしてみましょう。
・アイシン ・ヤマハ発動機 ・愛三工業 ・フタバ産業 ・リケン
駆動系部品(ドライブトレーン)
駆動系部品(ドライブトレーン)は、エンジンで発生した動力を効率的に車輪へと伝える重要な構成要素です。
トランスミッションやトルクコンバーターなど、さまざまな部品が連携し、エンジン出力を適切に調整する(※20)ことで、平たんな道や急な坂道でもスムーズに車が動くように支えています。
電気自動車の普及に伴い、駆動系部品の進化と新技術の開発が求められています。
(※20)参考:clicccar13th「車のパワートレイン制御とは? エンジン制御・トランスミッション制御などを解説【自動車用語辞典】」
構造・仕組み
駆動系部品(ドライブトレーン)は、エンジンで生み出された力を車輪に伝え、自動車を動かす(※21)ための重要な役割を担っています。これらの部品は、エンジンの出力を効率よく車輪に伝達し、平地や坂道、速度に応じて力の配分を調整することで、車の走行性能や乗り心地を大きく左右します。
駆動系部品の主要な構成要素には、エンジンのトルクや回転数を最適な状態に変換する「トランスミッション」(※22)、動力を円滑に伝達する「トルクコンバーター」(※23)、そしてタイヤの回転軸にあたる「ドライブシャフト」(※24)などがあります。
これらの部品は精密な技術が求められ、特に歯車や軸受けなどは高精度でなければなりません。そのため、多くの自動車部品メーカーは、駆動系部品の生産を国内で行い、海外へ輸出しています(※25)。
一方、電気自動車(EV)の普及が進むと、モーターによって直接推進力を制御できるため、トランスミッションなどの従来の駆動系部品の需要が減少することが予想されます。これに備え、自動車メーカー各社は、モーターや変速機、差動装置を組み合わせた「eアクスル」など、EVに適した新しい駆動技術の開発に積極的に取り組んでおり、今後の技術革新が期待されています(※26)。
(※21)参考:マネクリ「【日本株】トヨタ自動車が躍進、今後期待される自動車部品関連銘柄」
(※22)参考:新日本油脂工業「トランスミッションの役割」
(※23)参考:日経クロステック「エンジンから変速機に、流体で駆動力伝えるトルクコンバーター」
(※24)参考:DINF「走行装置について」
(※25)参考:JFTC きっず☆サイト「日本貿易の現状と課題」
(※26)参考:AI Think「【5分でわかる】電動車のコア部品eAxle (eアクスル)とは?」
代表的な企業
自動車部品の中でも、駆動系部品(ドライブトレーン)に関連する部品に力を入れている代表的な企業をご紹介いたします。気になるワンキャリアの企業ページから、気になる企業をチェックしてみましょう。
・アイシン ・ジェイテクト ・ジヤトコ ・富士機械 ・明石機械工業
懸架・制動系部品(サスペンション・ブレーキ)
懸架・制動系部品は、車の快適な乗り心地と安全な走行を実現するために欠かせないパーツです。サスペンションは路面の衝撃を吸収し安定性を保つ役割を、ブレーキは減速や停止を確実に行う役割を果たします(※27)。
これらの機能は、車両の性能や安全性に大きな影響を与え、自動車の品質を左右する重要な要素です。
(※27)参考:日立評論「安全・エコ・快適な乗り心地を提供する車両制御技術」
構造・仕組み
懸架・制動系部品(サスペンション・ブレーキ)は、車の安全性と快適性を保つための重要な要素です。
サスペンションは、ショックアブソーバー・スプリング・リンク・アームなどで構成され(※28)、路面からの衝撃を吸収しながら、車の安定性を確保します。ショックアブソーバーは路面からの振動を抑え、スプリングは車両の重量を支え、乗り心地を向上させる役割を果たしています。リンクやアームはタイヤの位置を正確に保ち、走行中の安定性を維持します(※29)。
制動系であるブレーキは、車を減速・停止させる重要な役割を担っています。一般的にはディスクブレーキとドラムブレーキの2種類があり、ディスクブレーキは特に高い制動力を持ち熱に強いため、高速走行でも安定した制動が可能です。タイヤとブレーキの性能は車の安全性に直結するため、定期的な点検とメンテナンスが欠かせません(※30)。
サスペンションとブレーキがしっかりと機能することで、乗り心地と安全性が向上し、車の耐久性も保たれます。これらの部品の品質は、車全体のパフォーマンスを左右する重要な要素といえるでしょう。
(※28)参考:自動車保険の三井ダイレクト損保「車のサスペンションとは?役割や交換する理由、交換費用・工賃などを解説」
(※29)参考:チューリッヒ「車のサスペンションやダンパーとは。種類や交換について」
(※30)参考:JEREV「車好き必見!ディスクブレーキとドラムブレーキの基礎知識」
代表的な企業
自動車部品の中でも、懸架・制動系部品(サスペンション・ブレーキ)に関連する部品に力を入れている代表的な企業をご紹介いたします。気になるワンキャリアの企業ページから、気になる企業をチェックしてみましょう。
・カヤバ(旧:KYB) ・曙ブレーキ工業 ・アイシン高丘 ・日立Astemo ・アドヴィックス
電装品
電装品は、車の照明やスイッチなどの基本機能から複雑な自動制御システムまで幅広くカバーしています。
近年、安全性や運転支援機能の向上に伴い、車に搭載される電装品の数は増加(※31)し続け、車両のシステムは高度化しています。
(※31)参考:富士経済グループ「車載電装システムの世界市場を調査」
構造・仕組み
電装品は、ランプやスイッチなどの基本的な電子部品から車内のさまざまな装置を制御する高度なシステムまでを含みます。近年、車両に搭載される電装品の数は増加しており、安全装置や自動制御技術の高度化によって、車体の複雑な制御が必要とされています。
代表的な電装品には、温度や異常を検知する「センサー類」(※32)、エンジンの燃費向上を制御する「電子制御装置(ECU)」(※33)、車内の電力供給や信号を伝達する「ワイヤーハーネス」(※34)、さらにランプやスイッチ、ウインカーなどがあります。
また、車載半導体の重要性も増しており、先進運転支援システム(ADAS)やバッテリー電圧制御などに活用されています(※35)。自動運転の普及が進むにつれ、画像認識やブレーキ制御などで車載半導体の需要が今後さらに高まる(※36)と予測されています。
特にワイヤーハーネスは、軽量化と高電圧対応が求められており、銅からアルミニウムへの素材変更が進んでいます(※34)。これは、電力消費が増加する電気自動車(EV)に対応するための技術革新の一環であり、今後ますます電装品の高度化が求められていくでしょう。
(※32)参考:アイアール技術者教育研究所「【自動車部品と制御を学ぶ】これで自動車用センサの全貌がわかる!」
(※33)参考:NECソリューションイノベータ「車載ECUとは?クルマの進化を支える
電子制御コンピューター」
(※34)参考:住友電工「アルミハーネス」
(※35)参考:日経クロステック「車載半導体最前線 EVの高電圧化、ADASの高精度化 TIの革新的な半導体ソリューションがクルマの未来を切り拓く」
(※36)参考:KPMG「車載半導体:新たなICEの時代」
代表的な企業
自動車部品の中でも、電装品に関連する部品に力を入れている代表的な企業をご紹介いたします。気になるワンキャリアの企業ページから、気になる企業をチェックしてみましょう。
・住友電気工業 ・小糸製作所 ・スタンレー電気 ・東海理化電機製作所 ・日本特殊陶業
内外装品
内外装品は、自動車のデザイン性と快適性を左右する重要な部品です。ボディやシート、内装トリムなど、外観と乗り心地に影響するパーツは、専門の部品メーカーが製造しています。
内外装品には、耐久性や加工精度だけでなく、車体軽量化の技術も求められるようになってきています(※37)。
(※37)参考:NIPPON STEEL MONTHLY「2005年 10月号」
構造・仕組み
内外装品は、自動車のデザイン性と機能性を支える重要な要素です。
自動車メーカーは車全体のデザインを決定しますが、ボディなどの外装品の量産は板金加工や樹脂成形に強みを持つ部品メーカーが担当しています(※38)。同様に、シートや内装トリムなどの内装品も乗り心地を左右する重要な部分として専門のメーカーが手がけています。
また、車体軽量化は燃費向上や環境負荷の低減を目指す取り組みの1つです。従来、鋼板が中心だった外装部品の材料には、近年アルミニウムや高張力鋼板(ハイテン材)が用いられることが増えてきました(※37)。さらに、スポーツ車や高級車では、炭素複合材を使用することでより軽量で強度の高い外装部品が採用されています。
内外装品の市場は、「脱ガソリン」などの動きに直接影響を受けにくい分野ですが、今後、完成車メーカーの方針や市場の変化に伴い、新たなトレンドが生まれる可能性があります。
例えば、トヨタ紡織はシートやドアトリムにおいて国内トップクラスのシェアを誇り(※39)、機能性とデザイン性の両立に注力しながら市場の変化に対応しています。
(※38)参考:RESONAC「“世界一軽い“自動車外装部品をめざして」
(※39)参考:トヨタ紡織「早わかりトヨタ紡織」
代表的な企業
自動車部品の中でも、内外装品に関連する部品に力を入れている代表的な企業をご紹介いたします。気になるワンキャリアの企業ページから、気になる企業をチェックしてみましょう。
・トヨタ紡織 ・林テレンプ ・豊田合成 ・住江織物 ・日本発条
自動車部品メーカーの展望|将来性についても解説
自動車業界では、CASEやMaaSの実現が進み、これに伴って自動車部品メーカーにも変化が求められています。
また、都市部での若者の車離れや高齢化による人手不足、EV化による部品点数の減少など、国内外で多様な課題が浮上しています。
こうした将来の展望において、自動車部品メーカーは今後どのように進化し、対応していくべきか、具体的なポイントを見ていきます。
CASEの実現
CASEとは、「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared&Service(共有)」「Electric(電動化)」の頭文字をとったもので、これら4つの要素が今後の自動車の進化をけん引するとされています。
自動車部品メーカーは、それぞれの領域で新しい技術と製品を開発し、次世代のモビリティ実現に貢献することが求められています。以下では、それぞれの要素が自動車業界に与える具体的な影響を解説します。
Connected|自動車のIoT化
「Connected(コネクテッド)」は、自動車がインターネットに接続されることで、IoT化が進むことを指します。
自動車に通信機器やセンサーが搭載されることで、車両そのものや周囲の状況、道路情報などのデータがリアルタイムで取得・活用されるようになります。これにより、運転の安全性や利便性が大きく向上します。
例えば、コネクテッド技術によって交通情報や駐車場の空き情報をリアルタイムで取得したり、事故発生時に自動で通報が行われるシステムが実用化されたりしています。また、盗難時の自動追跡や、エンジンの再始動を防止するセキュリティ機能などもコネクテッドの一例です。
この技術の発展により、5G対応の通信半導体や情報通信機器の需要が高まっており、自動車のIoT化は今後も成長が見込まれる分野です。自動車部品メーカーにとっても、コネクテッドカーの実現に向けた技術開発や製品供給が重要なテーマとなりつつあります(※40)。
(※40)参考:Honda Stories「【解説】コネクテッドカーの今とその先、“つながる”で変わるクルマの価値とは?」
Autonomous|自動運転
自動運転の実現に向けては、自動車分野とIT分野の連携がますます重要になっています。グーグル(Google)をはじめとするIT企業も参入し(※41)、自動車メーカーと協力して技術の研究・開発を進めており、業界の枠を超えた動きが活発化しています。
自動運転には、車両周辺の状況を正確に認識するためにミリ波レーダーやカメラセンサー、超音波センサーなどの多様なセンサーと、それらから得られる情報を処理・判断する高性能なプロセッサ(コンピューター)が必要とされ、これらの需要が急速に高まっています。
自動運転技術は、レベル0からレベル5までの段階に分けられます。現在、レベル1~2の技術はADAS(先進運転支援システム)として多くの自動車メーカーで搭載され(※42)、レベル3もホンダの新型レジェンドなどで実用化されています(※43)。
さらに、米国や中国、日本などでレベル4の実証実験も行われており、2021年の東京オリンピックでは、選手村でレベル4相当の自動運転電気バスが運行されました(※44)。しかし、完全自動運転であるレベル5の実現には、まだ技術的な課題が残されています。
自動運転のレベル3までとレベル4以降では大きな違いがあり、レベル4以降では運転の主体が「人」から「車」に変わるため、ドライバーが不要になります。
この段階での実用化には法整備が不可欠であり、日本では2020年の道路交通法改正により、高速道路でのレベル3自動運転が可能になりました(※45)。今後も法規制や技術の進展が進むことで、自動運転技術のさらなる実用化が期待されています。
(※41)参考:東洋経済ONLINE「GMも圧倒する『グーグル』自動運転技術の脅威」
(※42)参考:野村総合研究所(NRI)「自動運転技術の動向と発展のカギ」
(※43)参考:Honda Stories「自動運転レベル3「レジェンド」発売。Hondaが自動運転技術で目指す「事故ゼロ社会」とその先にある「自由な移動の喜び」とは」
(※44)参考:BBC NEWS JAPAN「トヨタの自動運転車、パラ選手村での運行再開 選手との接触事故で一時中止」
(※45)参考:政府広報オンライン「ついに日本で走り出す! 自動運転“レベル3”の車が走行可能に」
Shared&Service|共有
「Shared&Service(共有)」は、車を個人で所有するのではなく、必要なときに共有して利用するという新しいモビリティの形を指します。
カーシェアリングでは、ユーザーが車を借りて自分で運転する一方、ライドシェアリングは運転手付きの車を利用する形態で、いずれも次世代モビリティとして世界的に普及が進んでいます(※46)。これにより、自動車が「所有するもの」から「利用するもの」へと意識が変わりつつあります。
自動車メーカーは個人向けの販売台数が減少するリスクがある一方で、カーシェアリングやライドシェアリングの事業者向けに特化した車両の開発・販売が求められています。
また、日本国内でもカーシェアリング市場が急成長しており、公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団の調査では、2023年3月時点でカーシェアリングの車両台数が前年比約9%増加し、会員数も約19%増加しています(※47)。
このように、自動車の役割が「移動のためのサービス」として捉えられる時代が到来し、メーカー各社は共有型のモビリティ社会に対応した新たなサービスや技術の開発に力を入れています。
(※46)参考:チューリッヒ「ライドシェアとは。日本版ライドシェアの開始。カーシェアリングとの違い」
(※47)参考:公益財団法人 交通エコロジー・モビリティ財団「わが国のカーシェアリング車両台数と会員数の推移」
Electric|電動化
電動化(Electric)は、エンジンを使わずモーターで駆動する電気自動車(EV)の普及を進めることで、CO₂などの有害ガス排出を抑え、環境負荷を大きく低減する取り組みです。化石燃料が不要であるため、持続可能な移動手段として注目されています。
また、電動車はエンジン車に比べて部品点数が約3分の2にまで減るため、製造コストが低減し、より手頃な価格での提供が期待されます。一方で、電動化が進むにつれて電力消費が増加し、その対策が求められるようになっています。
電動化に伴い、自動車部品の構成も大きく変わります。エンジンがモーターに置き換わることで、燃料システムや吸排気機構、トランスミッションなどの部品が不要になり、代わりにインバーターや大容量バッテリー、車載充電器など、電気関連の部品が重要となります(※48)。
電動化の取り組みは世界各国で推進されており、EU(欧州連合)では2035年以降、ハイブリッド車を含むガソリン車・ディーゼル車の販売を事実上禁止する方針(※49)が示され、アメリカ・カリフォルニア州も同年までにガソリン車販売を禁止する方針です(※50)。このような国際的なカーボンニュートラルの動きにより、今後はEVの普及がさらに加速すると見られます。
日本はハイブリッド車の開発に先行して取り組んできた歴史があり、燃費改善技術では他国に先駆けています。例えば、トヨタは2021年に新型EV「bZ4X」を発表し(※51)、2030年までに30車種のEVを展開する計画を明らかにしており(※52)、日本の自動車メーカーも積極的に電動化の流れに対応しています。
(※48)参考:経済産業省「令和4年度 電動化シフトを踏まえた地域自動車部品サプライヤーの技術力・開発力向上に向けた動向調査 報告書(公表版)」
(※49)参考:豊トラスティ証券「欧州議会、2035年にガソリン車新車販売禁止法案を採択!トラックも脱炭素へ!!」
(※50)参考:一般社団法人 環境金融研究機構「米カリフォルニア州、2035年までにガソリン車の新車販売を全面禁止に。電気自動車等のゼロエミッション車(ZEV)に限定。他の17州も同様の規制導入の方向(RIEF)」
(※51)参考:トヨタ自動車 公式企業サイト「新型BEV、bZ4Xの詳細を公表」
(※52)参考:神奈川トヨタ自動車「今後はどうなる?電気自動車の未来とトヨタのEV戦略について」
CASEによる業界の変化
CASEは、それぞれが相互に関連し合い、将来的には「つながる自動運転の電動車がシェアされる」という新しい自動車の形をもたらします。この変化により、自動車部品メーカーには大きな影響が生じます。
まず、電気自動車(EV)への移行でエンジンやトランスミッションが不要になり、部品点数が大幅に減少することが予想されます。また、EVの内部構造は比較的シンプルであるため、部品の汎用化が進み、従来に比べてコモディティ化が進むと考えられます。
これにより、メーカーの競争力の源泉は従来の部品の品質や性能から、ソフトウエアやOS、データ管理といった領域にシフトしています。自動車のシステム開発にはグーグル(Google)やApple、Teslaなど異業種のIT企業も参入し、車載OSや自動運転技術の開発が進められています(※53)。
また、コネクテッド化した自動運転車には、多様な電気機器や半導体部品が欠かせません。具体的には、ミリ波レーダーや赤外線レーダー、5G対応通信半導体、画像センサー、AI(人工知能)処理のための半導体など、高度な半導体技術が必要です(※54)(※55)。
これにより、ソフトウエア、電気機器、半導体が自動車業界の中心的な技術分野となりつつあり、自動車部品メーカー各社もこれらを見据えた製品・システム開発に力を入れています。
CASEの実現が進む時代では、これらの分野での競争が激化し、新たなスキルや技術力がメーカーの将来性に大きく関わることになるでしょう。
(※53)参考:ニッセイアセットマネジメント「クルマは鉄の塊からソフトウェアの塊へ」
(※54)参考:オリックス・レンテック「半導体の塊となった自動車」
(※55)参考:TOSHIBA「半導体が拓く自動車の未来 ~車載半導体最前線~」
MaaSの実現
MaaS(Mobility as a Service)は、「移動」をサービスとして統合し、個人の移動ニーズに応じて最適な手段を提供する仕組みです。
例えば、公共交通機関やカーシェアリング、ライドシェアリングを組み合わせて移動手段を選び、検索・予約・決済までを一括で行うことができます。これにより、観光や医療といった特定の目的に合わせた移動がしやすくなると同時に、地域の交通課題の解決にも貢献する重要な手段として期待されています。
また、MaaSはすでに浸透しているSuicaなどの移動決済の統合手段とも連携し、移動の利便性を高めています。MaaSは、複数の移動手段を活用して最適なルートやサービスを提供するだけでなく、地域住民や観光客にとって使いやすい移動体験を可能にするもので、今後のモビリティ社会の重要な要素となるでしょう。
MaaSの推進は、日本が目指すSociety5.0の実現に向けた取り組みの一環であり、官民が協力して支援体制を整えています。自動車部品メーカーも、MaaSに対応した新しいモビリティ技術の提供を通じ、地域社会や社会全体への貢献が期待されるでしょう(※56)。
(※56)参考:政府広報オンライン「『移動』の概念が変わる? 新たな移動サービス『MaaS(マース)』」
若者の車離れ
「若者の車離れ」が進んでいるとされますが、その実態は一様ではありません。
KINTOの「Z世代のクルマに対する意識調査」によると、都内在住のZ世代の約6割が「車離れ」を感じる一方、車移動が一般的な地方在住のZ世代では、6割以上が「自分名義の車が欲しい」と回答しています(※57)。都市と地方での生活環境の違いにより、車への需要や所有に対する考え方が異なっていることがうかがえます。
また、都市部では高い駐車場代や維持費などの負担から、車を購入する代わりにサブスクリプションやカーリースなどの新しい所有形態が注目されています。都内在住のZ世代の3人に1人が「クルマのサブスク」サービスを知っており、車の保有方法としてサブスクリプションを検討する割合も地方より高い結果となっています。
従来の「所有」から「利用」へのシフトが進み、ライフスタイルに応じた柔軟な車の使い方が広がりつつあるといえるでしょう。そのため、若者が車を必要としないというよりも、ライフスタイルや経済的な要因から、従来の車の所有方法にこだわらない柔軟な選択が増えていると考えられます。
このような変化は、自動車部品メーカーにとっても、車両の利用形態の多様化に対応する製品やサービスを提供するチャンスといえるでしょう。
(※57)参考:PR TIMES「若者のクルマ離れ、都内Z世代の約6割が『自覚あり』一方で地方Z世代は約7割が『自覚なし』に」
高齢化による人手不足
自動車業界は、日本の代表的な産業でありながら、少子高齢化に伴う労働人口の減少によって人手不足が深刻化しています。さらに、若者の車への関心が低下し、職業の選択肢も多様化しているため、自動車関連の職業に従事する人材の確保が一層困難になっています。
国土交通省の調査によると、自動車整備業の従業員数は約53万人で推移しているものの、自動車整備要員の有効求人倍率は急上昇しており、人手不足の影響が顕著です。また、自動車整備学校への入学者数は過去15年間で半減し、整備士の平均年齢も上昇傾向にあるため、次世代の担い手不足が懸念されています(※58)。
このような人手不足への対策として、業界全体での魅力向上や人材育成が急務となっています。さらに、AIやロボティクスを活用した自動化の導入も進んでおり、自動車部品メーカーにとっても技術革新によって効率化を図るチャンスといえるでしょう。
今後、労働力不足を解消するための新たな施策や技術の導入が、自動車業界全体の成長を支える鍵です(※59)。
(※58)参考:国土交通省自動車局「自動車整備分野における外国人材の受入れ」
(※59)参考:asana「日本の自動車産業が抱える課題とは?解決策と今後の動向」
EV化による部品点数の減少
エンジン車には約3万点もの部品が使用されており、その複雑な構造により組立てには高度なノウハウと専門性が求められます。そのため、部品メーカーとの密な連携が必要であり、新しい企業の参入が難しいとされてきました。
しかし、電気自動車(EV)では使用部品は約2万点といわれており、構造がシンプルなため、組み立てが容易であることが特徴です。この部品点数の減少により、EVの製造は従来よりも効率的に行えるため、これまで自動車業界に参入してこなかった新規企業がEV市場に参入しやすくなっています。
さらに、エンジンやトランスミッションといった部品が不要になり、代わりにモーターやバッテリー、インバーターといった電気関連部品が主要な構成要素となるため、自動車部品メーカーも新たな製品開発や技術への対応が求められます。
このようなEV化による部品の簡素化は、自動車産業全体に大きな影響を及ぼし、業界構造の変化をもたらすと考えられています。今後、自動車部品メーカーは、新しいニーズに対応するための開発力と柔軟性がより重要になっていくでしょう。
自動車部品メーカーに将来性はある?
ここまで自動車産業の動向について解説してきましたが、大きな変革期を迎えており、伸びている領域とそうでない領域があることが分かります。そのため、自動車部品メーカーの将来性についても今後の業界動向や製造している部品の種類によって将来性についても差があるといえるでしょう。
自動車部品メーカーを志望する際には、自身の志望する企業が何の部品を作っており、また、今後どんな領域に力を入れていくのか企業研究をすることが重要といえます。
おわりに
今回は自動車部品メーカーについて、業界構造から今後の動向まで解説しました。本記事を読んで、業界研究への理解を深めましょう。
(Photo:Kwangmoozaa/Shutterstock.com)