いよいよサマーインターンが本格化する7月。特にコンサルティング業界を志望する学生は、選考対策に大忙しの時期だ。
コンサル業界は早期に内定が出ることもあり、多くの学生が受ける業界の1つである。6月に発表した東大・京大就活人気ランキングでもTOP10のうち8社がコンサルティングファームだった。
ただ、一言に「コンサル」といっても業態も得意分野もさまざま。特に近年は顧客ニーズの変化や各ファームの領域拡大により、業界の全体像が変わりつつある。
一体、どのような変化が起きているのか。次の図を見ていただきたい。
「コンサル=戦略 or 総合」に潜む盲点
これは、ベンチャー企業や中堅企業向けのコンサルティングを行うリブ・コンサルティングが作成した「コンサルティング業界カオスマップ」だ。まず目に付くのは、カテゴリーの多さだ。就活生に特に人気なのは「戦略コンサル」と「総合コンサル」だが、ここだけを見ていると、抜け落ちてしまう企業もあるだろう。
また、マップ内にはないが電通がコンサルティング領域に進出したり、富士通がDX(デジタルトランスフォーメーション)専門のコンサルティングファームを設立したりと、異業種の動きも盛んになっている。コンサル業界は群雄割拠の状態だ。
背景にあるのは、デジタル化の流れだ。スマートフォンのアプリやデジタルツールを使うことが当たり前になった時代、プロジェクトを成功させるには戦略を描くだけでは不十分で、実行できるかが重要になっている。「『アプリを開発して新規会員を獲得する』という戦略を立てたとき、そもそもアプリが作れなければ絵に描いた餅で終わってしまう」と説明すると分かりやすいだろうか。
その際に注目したいのが、マップの右下にある「デザイン」のカテゴリーだ。
コンサルティングとデザインが融合する時代に
コンサルティングとデザイン。一見すると全く違う仕事に思えるが、先程のデジタル化の流れを受け、近い領域になっているのが近年の傾向だ。
実際に、2010年代にはマッキンゼー・アンド・カンパニーやデロイト トーマツ コンサルティングなどのコンサルティングファームがデザイン会社を傘下に入れる動きがあった。これは、デザインを「見た目を美しくすること」ではなく「課題解決に不可欠な要素」と考えているからだ。先程のアプリの例だと「『アプリを開発して新規会員を獲得する』という戦略を立ててアプリを作ったとしても、ユーザーが『使いにくい』と感じるデザインだと、結局使われずに絵に描いた餅で終わってしまう」ということだろう。
マッキンゼーは「なぜ今、日本に『デザイン』が必要なのか」というレポートで、次のようにデザインの価値を説明している。
デザインとはもはや、審美的な意味合いにとどまるものではない。顧客ニーズを新商品やサービスに反映させるための、多くの実績で裏付けられた科学的な手法であり、ビジネスにおける規律と言える
デザインとは、企業と顧客をつなぐ橋渡し役となるものである。だからこそ、デザインがテクノロジー中心主義を顧客中心主義にシフトさせ、価値を創出し、日本のイノベーションを加速することができるのである
コンサルティングとデザイン。どちらも企業の課題解決に重要な手法であり、両者は融合し始めているといえるだろう。
デザイナーは「課題解決の道具が1つ多いコンサルタント」
では、マップの「デザイン」のカテゴリーにある企業は、どのような特徴を持っているのだろうか。国内でデザイン会社として初の上場を果たしたグッドパッチ(Goodpatch)を例に見ていこう。
グッドパッチは、大企業からスタートアップまでを顧客に持ち、新規事業の立ち上げ、既存事業のリニューアル、企業のデザイン戦略立案、デザイン組織構築支援などを行っている。代表の土屋尚史氏は、ワンキャリアの対談記事で自社を次のように説明している。
一般的なデザイン会社は「良いクリエイティブで驚かす」ことの優先順位が高くなり、クライアントのビジネス理解がおざなりになるケースが多いです。グッドパッチは「デザインでビジネスとユーザー体験をいかに紐(ひも)づけるか」を重視しています
土屋 尚史(つちや なおふみ):株式会社グッドパッチ 代表取締役社長 CEO
2011年9月に株式会社グッドパッチを設立。「デザインの力を証明する」というミッションを掲げ、さまざまな企業の事業戦略からUI・UXまでを支援し、企業価値の向上に貢献。ベルリン、ミュンヘンにもオフィスを構え、デザイナー向けキャリア支援サービス「ReDesigner」やオンラインホワイトボード「Strap(ストラップ)」など数多くのサービスを自社で立ち上げる。2020年6月、デザイン会社として初の東証マザーズ上場。
「ビジネスとユーザー体験を紐づける」という観点は、先ほどのマッキンゼーのレポートに出てきたデザインの役割そのものでもある。デザインを「見た目を美しくすること」と定義していないのは、コンサルティングファームと共通の認識である。
そうした認識は顧客側にも広がっている。先程の記事の対談相手であり、グッドパッチにデザイン組織の立ち上げなどを依頼してきたトヨタコネクティッドの長沼耕平氏はグッドパッチを次のように説明している。
「グラフィックしかやらない」という会社だと、要件を聞いてその通りにすぐ描きますが、グッドパッチのデザイナーは事前にクライアントの事業に関してものすごく学んできて、初めから意見を持ってくる。こちらが伝えた情報が10倍になって戻ってくる感じは、コンサルティングファームのようでした。そこにデザインの強さを知っているので、デザインという課題解決の道具が1つ多いコンサルタントのような印象です。
コンサルタントとの共通点として、もう1つ挙げられるのは、経営者とディスカッションする機会だろう。土屋氏は次のように述べている。
視野と視座、視点は圧倒的に磨かれます。企業の中で最も多角的に情報を持っているのが経営者であり、彼らの視座の高さと、見ている視点の多さと、視野の広さをデザイナーは理解し、価値を提供しなくてはいけません。
当然、デザインに関する武器だけでは彼らと対等なやり取りはできないわけで、デザイナーには勉強が必要ですが、経営者の考え方を翻訳する力は非常に身に付きます。
コンサルタントとデザイナーの決定的な違い
では、コンサルタントとデザイナーの違いは何なのか。土屋氏はワンキャリアのインタビューで「経営者の思いや抽象的なビジョンを具体的なプロダクトに落とせること」と話す。
例えば、コンサルが当社と似たような案件を請け負うなら、実際の開発はシステム開発会社やSIer(※)に任せることがあります。
ただ、コンサルは経営者と向き合うので「ユーザーがどう使うか」という肌感がないまま戦略を策定してしまいがちです。そしてSIerや開発会社は決められたプロダクトの概要に対して、どう開発していくかというプロセスを考えるので、前提を疑うことはほとんどありません。ここに「分断」が生じています。
(※)……システム開発に関する業務全般を請け負う会社。システムインテグレーターの略
上の図を見ても分かるように、戦略策定だけでなく「どうすればユーザーに喜んでもらえるか」という一歩踏み込んだ部分まで関われるのが、デザイナーの醍醐味(だいごみ)といえる。そうした課題認識がコンサル側にあるからこそ、デザイン会社の買収なども起きているのだろう。
デザイナーのキャリアの現在地は?
ここまで、変化するコンサル業界の現状と、その中で注目されているデザイン領域に焦点を当ててきた。転職市場を見ると、コンサルタントの経験を生かしてデザイナーに転職する人も出てきており、キャリア的にもコンサルティングとデザインの垣根はなくなりつつある。
一方で、就活生からすると、知りたいのは新卒でデザイナーを選ぶメリットやキャリアパスだろう。
その点に関してはこちらの記事で説明しているので、興味を持った人は読んでいただけると幸いだ。
・市場価値急騰の希少人材。なぜ優れたデザイナーが経営に求められるのか
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グッドパッチ(Goodpatch)
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【執筆:吉川翔大】