就活生から根強い人気の外資系戦略コンサルティングファーム。
在籍中に得られるスキルや成長スピードが注目されやすいですが、ファームを卒業した人たちのその後の活躍ぶりも魅力の一つでしょう。
そこで今回、ワンキャリア編集部は「コンサルの卒業後」に注目。A.T. カーニーの日本法人代表を務める関灘茂さんと、アルムナイ(A.T. カーニーの卒業者)である、ルネサス エレクトロニクス株式会社の執行役員・真岡朋光さん、株式会社クラウドワークスの取締役・田中優子さんの3人にインタビュー。
A.T. カーニー時代の思い出話から、その後のキャリアに生きた経験、アルムナイを大切にする理由──さまざまなお話を伺う中で、A.T. カーニーが考える、アルムナイをも巻き込んだ、コンサルタントの新たなキャリアの作り方が見えてきました。
<本記事の見どころ>
●2回入社して2回卒業。それでも「A.T. カーニーを離れた」という感覚はない
●中国での巨大プロジェクトで受けた衝撃 日本の敗因を知るために「半導体」の道へ
●トヨタから「虚業」だと思っていたコンサルに転職した理由
●ロジック以外の部分にも関わる経営コンサル。10年付き合えば、経営チームの強化に貢献できる?
●未知の問題へのアプローチが分かり、「絶対に解けない問題」も見極められるように
●完コピすべき「ロールモデル」はいない。でもパクれる材料はそこらじゅうにある
●コンサルは1社目じゃなくてもいい。価値観が固まる前に経験しておくのがオススメ
●卒業生をクライアントの役員に。大先輩の知見やネットワークを束ねれば、日本を変えられる
●ファームの中にいながら経営人材に。関灘茂が考える「コンサルの新たなキャリアパス」
●就活はしょせん「運」と「縁」──就活生の特権を十分に生かして楽しもう
2回入社して2回卒業。それでも「A.T. カーニーを離れた」という感覚はない
──まずは、田中さんの簡単なプロフィールを教えてください。
田中:私は新卒でトヨタ自動車に入って、社会人5年目にA.T. カーニーに転職しました。
関灘:田中さんとは、入社日が一緒でした。
田中:関灘さんが新卒で、私は第二新卒のような感じで、2週間くらい一緒に研修を受けましたよね。当時、私が担当したプロジェクトは消費財業界が中心で、梅澤さん(現・日本法人会長)とご一緒することが多かったです。真岡さんと同じプロジェクトに入ったこともありましたね。
約3年勤め、次はA.T. カーニーを卒業していた先輩に紹介いただいて、ジュピターショップチャンネルという会社に転職しました。ユニークなビジネスモデルでしたが、単一事業だったので5年で仕事が一巡した感覚があり、もう少しいろいろなチャレンジがしたいと思うようになりました。同時に、トップマネジメントにリーチするような仕事の仕方を学ぶ必要があるなと。
そう考えたときに、頭に浮かんだのがA.T. カーニーでした。ちょうどそのころ、中国にあるテレビショッピングの会社のビジネスデューデリジェンスを手伝っていて、「この感覚はどこかで覚えがあるぞ」と思い出しました。これをもっと経験することで、自分の成長のカーブをもう一度引き上げられるんじゃないかと思い、5年半ぶりの2011年7月に戻りました。
田中 優子(たなか ゆうこ):株式会社クラウドワークス 取締役 経営企画室長
東京大学法学部卒業。新卒でトヨタ自動車に入社し、高級車・コンパクトカーなどのマーケティングを担当した後、A.T.カーニーに転職。消費財・サービス企業を中心に全社戦略・事業戦略、新規事業開発、組織再編などのプロジェクトに携わる。その後、ジュピターショップチャンネルでの経営企画・事業開発の経験を経て、A.T.カーニーにマネジャーとして再入社。2014年にクラウドワークスに執行役員として参画し、東証マザーズ上場を果たす。2020年より現職。上場企業2社の社外取締役も務める。
──戻ってきたということは、A.T. カーニーから離れている間も接点があったんですか?
田中:メンバーと個人的に会うことももちろんありますし、アルムナイが集まるイベントがあったり、ヒアリングを受けたりといった関わりがありました。関係性はあったので、戻るというオプションは何となく頭にはありましたね。卒業したときはもう戻ることはないと思っていたんですけど(笑)。
関灘・真岡:(笑)。
田中:卒業したときはアソシエイトだったのですが、戻ったときはマネジャー。ブランクがあるし、ロールも違うし、コンサルタントの仕事の感覚を取り戻すのに、半年から1年ぐらいは要したと思います。
戻って3年弱を経て、2014年4月から今の会社です。代表とは20代のころからの知人で、IPOをする上で、中長期の戦略やエクイティストーリーを描いていくところをサポートしてほしいという話があり、20番目の社員として転職しました。
──今の仕事では、A.T. カーニーの方との関わりはあるんですか?
田中:そうですね。今も社員やアルムナイの方に相談することは結構あるんですよ。皆さん面白い仕事をされているので、そういうネットワークがあることも価値だと思っています。
私にとって、どの組織に属しているかはそれほど重要ではないので「A.T. カーニーを離れた」という感覚ではないんですよね。中にいるときに、それぞれがプロジェクトに入って、お互いに情報交換をする関係がそのまま続いている感じです。同じような感覚の人は多いんじゃないかな。
関灘:なるほど、A.T. カーニーに3回目の入社もあり得るということですね。
真岡:完璧なフリになってますよ(笑)。
中国での巨大プロジェクトで受けた衝撃 日本の敗因を知るために「半導体」の道へ
──A.T. カーニーは一度でも属したらずっと「ファミリー」という感じなんでしょうか。新鮮な感覚です。続いて真岡さん、ご経歴を教えてください。
真岡:私は1999年にA.T. カーニーに修士卒で入社し、約6年間在籍していました。2005年に卒業してからはそれきりです。関灘さんと被っていたのは約2年で、今日は10年ぶりくらいですね。
A.T. カーニーにいた当時は通信系のプロジェクトを多く経験し、2002年10月から約1年間は海外オフィストランスファーで中国に行かせてもらいました。印象に残っているプロジェクトが「巨大な更地にどのような産業を誘致すればいいか」というお題です。
──さすが中国、スケールが大きいというか……そんなまっさらな状態から始まるプロジェクトがあるのが驚きです。
真岡:そうなんですよ。先進国では生じ得ない課題について調べる中、「こんなに資源があって、人がたくさんいて、しかも優秀。そんな国の隣で、資源もなく人も減っていく日本はどうするのだろう」と考え始めました。
資源がないなら知的集積性の高い産業で勝負すべきですが、数ある産業の中で知的集積性が高い産業の筆頭格は半導体。一方で日本の半導体産業は負け組の一途をたどっていました。何が負けているのか、非常に興味があったものの、当時の半導体産業はコンサルを使わなかったので中身が分からない。
何となく半導体のインダストリーのポジションがあったらいいな、という気持ちがあったところに偶然スカウトの声がかかり、インフィニオンテクノロジーズジャパンというドイツ本籍の半導体メーカーに転職しました。
その後2011年にレノボ・ジャパンに転職し、2013年から現職のルネサス エレクトロニクスです。最初は経営企画で入りましたが、2019年からは自動車ビジネスのアナログ・パワー半導体を担当し、600人を率いながら年間約1,000億円の売上を見ています。
真岡 朋光(まおか ともみつ):ルネサスエレクトロニクス株式会社 執行役員
東京大学工学部卒業・同大学院工学系研究科修了。1999年、経営コンサルティング会社A.Tカーニーでキャリアをスタートし、2005年よりインフィニオンテクノロジーズジャパンにおいてインダストリアル&マルチマーケット事業本部長などを歴任。2011年よりレノボ・ジャパンにおいて同社とNECとの合弁事業体の統合業務に従事した後、2013年12月より経営企画統括部長としてルネサスエレクトロニクス株式会社に入社。2019年8月より執行役員 兼 オートモーティブソリューション事業本部 副事業本部長。
──真岡さんはなぜA.T. カーニーに入社したのでしょう?
真岡:私は理系だったので、最初は何となくメーカーに行くんだろうと考えていました。当時はコンサルティングファームが理系学生の採用に注力していたので、たまたま目に入り「面接の練習がてら行ってみるか」というのが出会いです。話をしているうちに面白そうだと思うようになりました。
当時、私はボート部に所属していて、年間300日合宿をやるほど熱中していたのですが、チームをどう動かしていけばいいのかという問題意識があったんです。それがコンサルティングの課題意識と一致したことが大きかったですね。
トヨタから「虚業」だと思っていたコンサルに転職した理由
──田中さんはA.T. カーニーにどういうきっかけで転職したのですか?
田中:私はトヨタ自動車で3〜4年経験を積んだら転職しようと最初から決めており、次のキャリアを考えていたときに、エージェントの友人からコンサルティングファームを勧められました。そのときは「コンサルって虚業じゃない?」と返したんですよね。当時は、彼らがビジネスや組織に介入する余地がよく分かっていなかったんです。
──そういう印象を持っている人は少なくないと思います。
田中:しばらくして、「G-Book」という、トヨタが情報端末を初めて装備した車のマーケティングを担当することになったのですが、車両や端末というハードだけでなく、Web的な要素を含んだ商品だったため、従来の新車のローンチプロセスをなぞるだけではうまくいかないことがいろいろ起こりました。
車は完成したものを作って発売するけれど、Webはリリース後も変化するのが当たり前。モノづくりの思想が違うんです。そういう新しい思想の下で仕事を進めるプロセスはゼロから作らないといけない。「そもそもの思想から新しく考えるような、初めての取り組みはトヨタのような強い会社でも難しいんだ」と思い知りました。
誰も答えを持っていない問題にどう対処すればいいか分からない。その力を私が身に付けるには、何十年もかかるんだろう、と途方に暮れたこともあります。
そのときに初めて、「経営コンサルタントならこういう問題にリーチできるんじゃないか」と考えたんです。友人からは「3年の修行だと思えばいいんじゃないか」と言われていたこともあり、未知の物事への解を出すスキルを得るための3年間、と捉えたら納得感が出てきました。
関灘:これは国内外の多くの大企業が抱える課題ですね。大企業はある事業領域で成功し、規模を拡大し、分業化が進み、業務を繰り返し行うようになるからこそ、強くなる。結果として、新しい事業領域を探索し、新しいビジネスモデルを生み出す人財が少なくなる傾向はありますね。
田中:トヨタは本当にすごい会社で、学ぶことはたくさんありましたけれど、10年いたらトヨタに最適化された人材になってしまう危機感がありました。もっと普遍的で、汎用性のある経験やスキルが必要だという思いも強くありましたね。
関灘:既存事業のオペレーションを磨き上げる経験を積んできた経営幹部の方々だけで、大企業が新規事業を創造するのは難しいことも多いです。最近は、大企業でも外部人財を採用、起用することが増えてきました。これからは、真岡さんや田中さんのような複数業界を経験した方々が大企業の経営陣の一員になることで、業界横断で新たな知が結合し、イノベーションが起こりやすくなるとも思います。
ロジック以外の部分にも関わる経営コンサル。10年付き合えば、経営チームの強化に貢献できる?
──実際にA.T. カーニーに入社して、どうでしたか?
田中:日本を代表するような会社のプロジェクトに入って、すごいと言われている会社も悩んでいることが分かりました。会話をする相手がいきなり経営陣になったので、悩みのレイヤーが、これまで自分が見てきた世界とはまるで違う。
また、組織の論理や立場、歴史、人の気持ちなど、コンサルタントは意外と理屈以外の部分にも関わっていくんですよね。正しいことを正しくやれるのであれば、経営コンサルタントは必要ないわけで、正しいことであっても「できない」「やらない」というところに本質的な問題がある。想像以上に、コンサルティングの仕事は教科書的にやるものではないという発見がありました。
関灘:私たちはクライアント企業が持つ歴史、文化、DNA、価値観といったものの理解を深め、どのようなビジョン、目的・目標を掲げるべきか、どのように経営チームを強くするか、といったところにまで関わります。このようなテーマに関わることができるコンサルタントは多くないでしょう。
私は10年単位の長く深いお付き合いをさせていただいているクライアント企業が多いのですが、経営チームをどのように強くできるか、どのような経営リーダーを引き合わせると良いか、といったことをよく考えています。経営チームの強化に貢献できるのも、コンサルタントという立ち位置で、10年単位のお付き合いがあるからこそだと思っています。
関灘 茂(せきなだ しげる):A.T. カーニー代表取締役 マネージングディレクター ジャパン(日本代表)/シニア パートナー
神戸大学 経営学部卒業。 INSEAD(欧州経営大学院)MAP修了。A.T. カーニー入社後は、消費財・小売・メディア・サービス・金融・不動産分野を中心に30社以上のクライアント企業とともに、新規事業創造、既存事業変革(デジタル・トランスフォーメーション)、マーケティング・イノベーション、組織文化・行動改革、M&A・PMIなどを経営テーマに100以上のプロジェクトを推進。グローバル戦略、イノベーション、マーケティング改革、デジタル・トランスフォーメーション、思考法、人材などに関するテーマで主要ビジネス誌への寄稿や主要セミナー、大学での講演多数。
未知の問題へのアプローチが分かり、「絶対に解けない問題」も見極められるように
──A.T. カーニーで学んだことで、今も生きていると思うのはどのようなことですか?
田中:「未知のことができるかどうかは分からないけど、何とかなってきたし、何とかなる」と思えるのは、A.T.カーニーでの経験が生きていると思います。
未経験のプロジェクトに放り込まれて、強いプレッシャーの下で限界を超えていく。そうやって場数を踏んで、乗り越えた経験が自信になっているし、未知の物事にどのようなアプローチで取り組めばいいかも、何となくですが分かるようになりました。
同時に「絶対にどうにもならないこと」を見極める力もつきましたね。プロジェクトは期間が限られているので、その間に絶対に答えを出さなければいけない。論点を絞り、無駄を省き、相手の納得を得る。これはどのビジネスにも共通する話だと思います。
──田中さんはA.T. カーニーに再入社していますが、もう一度戻ってくる魅力はどこにあったのでしょう?
田中:先ほどお話ししたように、難しい課題に携わる中で自分を追い込んで成長できるのが一つ。もう一つは、意識も能力も高い人が集まっている中で働く心地よさですね。仕事の基準や文化が共有できているので、簡素な説明でも理解し合えますし、「最高の結果を出す」という目標のもとに協働できる。これは快適ですよ。
真岡:仕事のクオリティーに対するスタンダードができるのは間違いないですよね。A.T. カーニーのブランドに見合う仕事の質でアウトプットをしていく。それは当然ですけど、卒業してもなお「ここまでできていないと気持ち悪い」「あのとき一緒に働いたあいつなら、こういう仕事をするよな」という想像が働きます。
一方で、A.T. カーニーのリベラルな文化に慣れたために、今でもアジャストに苦しんでいる点もあります。A.T. カーニーでは立場に関係なく、職位が上でも仕事ができなければ指摘されるし、職位が低くても仕事ができる人はリスペクトされる。でも、世の中の感覚は「職位が高い=すごい人」ということが多いから。この感覚はいまだに抜けなくて困っています(笑)。
関灘:リベラルな文化は、お二人がいらっしゃったときよりも強化されていると思います。今では毎週、コンサルタントに共有されるリストから、コンサルタントが希望のプロジェクトを選べるようになり、自分がどの業界で、どのテーマで専門性を蓄積したいのかを選ぶことができます。兼業、副業、時短勤務などの働き方、男女問わず育児休暇の長期間取得など、自由度がより高まっています。
一方で、去年から強化している出向プログラムでは、A.T. カーニーとは異なる組織の文化やルールを知り、企業における創造と変革の現場経験を積んでもらうようにしています。特に、新卒で入社したコンサルタントは、A.T. カーニーがかなり特殊だということに気付く機会にもなっていると思います。
完コピすべき「ロールモデル」はいない。でもパクれる材料はそこらじゅうにある
真岡:私が今でも生きていると思うのは、わりと早いタイミングで「完コピすべきロールモデルはいない」と理解したこと。逆説的なんですけど、優秀な人をどれだけ集めても、完璧な人はいないんです。全てがすごい人は一人もいない。その代わり、良い材料はそこらじゅうに転がっているから、良いと思ったものをパクって自分のものにしていく。この感覚は役に立っているなと思います。
田中:私も「完璧を目指すのは違う」というのは早い時期に気付きました。私は新卒メンバーと同じ日に入ったんですけど、新卒の子は本当にロジカルな人が多かったんです。すごく優秀だし、Excelも使いこなせる。
真岡:Excel! そこですか(笑)。
田中:ただ、同じことを自分がやってバリューが出せるわけではないんですよね。偏差値的な基準の中でいかに優秀であるかを競うことは不毛。むしろ、キャラクターやスキルの多様性がなければチームは成立しません。自分がどうやってキャラ立ちをするのか、意識するようになりました。
特に今の時代は同じ会社でずっと働く人が少数派になりつつありますし、将来を考えると「どんな組織であっても、自分は価値を出せるか」を気にする方が社会全体に対して役立つように思いますね。
真岡:私はA.T. カーニーで中国に行く直前まで、東京でそれなりに調子良く仕事ができていたんです。でも、中国でローカルのめちゃくちゃ優秀なメンバーとチームを組んで、ボロボロに打ち砕かれました。「どうやって仕事をしていったらいいのか」を真剣に考えるようになったのは、そのときからだったように思います。力任せで仕事をするのではなく、自分なりの戦術や技にこだわるようになったことも、A.T. カーニーでの経験を通じて身に付けた考え方の一つですね。
関灘:「これだけすごい人たちの得意な部分を良いとこ取りできたら、自分もすごい人になれるかもしれない」という感覚は、私も新卒入社のときから持っていました。実際、真岡さんと仕事をして「こんな人がこの世にいるのか」と思ったのを覚えています。あるインタビューで「『右脳と左脳をダイナミックに使え』とアドバイスを受けたことがある」と答えましたが、そのアドバイスは真岡さんにいただきました。
コンサルは1社目じゃなくてもいい。価値観が固まる前に経験しておくのがオススメ
──事業会社とコンサルティングファームで悩む就活生は少なくありません。彼らに対して、どういう考え方で選んだらいいか、アドバイスはありますか?
真岡:大前提として、二者択一論はやめた方がいいですね。コンサルティングにも種類があるし、事業会社はそれこそさまざまです。二元論で考えているうちは掘りが甘い、ってことです。
また、いくらファーストキャリアが大事だと言っても、転職したらある程度の確率で、「これまでやってきたこと」を捨てる行為が発生します。運が良ければ、何も捨てずにキャリアを歩むこともできるでしょうけど、基本的には捨てる前提で構えていた方が安全であり安心です。
その上でどうするか。よく言われる話ですけど、新卒採用はガチャなんですよね。ブラックな上司に当たることもある。100%コントロールはできません。その前提に立って、他の条件が変わらないのであれば、私は「コンサルにしたら?」と言うとは思います。
──それはなぜでしょう。
真岡:コンサルティングファームは中途の方もたくさんいて、田中さんもそうですけど、何かしら捨てる経験をしている人がいっぱいいる。それなりの覚悟や構えがある人たちが、どういうマインドセットで働いているのかを学べる環境があります。
また、良くも悪くも人の出入りがあるので、世間一般の感覚の相場観を失わずにも済みます。『進撃の巨人』ではないですが、壁の外に世界があると常に意識できるのは健全なことです。
田中:私自身は最初に事業会社に入ってよかったと思っています。経営コンサルティングの仕事は向き不向きがあるんですよ。コンサルティングファームを希望する学生は増えていますが、「『東京カレンダー』的な世界が待っているんじゃないか」って思っている人もいるんじゃないかな。
田中:関灘さんは入社時から「コンサルティングで一流になる」目標を持っていたと思いますけど、それはレアなケースで、コンサルティングファームに来る人はモラトリアム的な感覚がある人も多いように思っています。
一つ言えるのは、コンサルティングファームも事業会社も、そこが世界の全てではありません。ファーストキャリアの先は長いので、ハマればそこにいればいいし、事業会社に転職する可能性もあるでしょう。少なくともビジネス人生を泳ぐ際に、コンサルタントとしての経験は武器になるとは思います。
多様なクライアントと仕事をするビジネスだからこそ、どこにでも役に立つ普遍的なスキルや経験が得られる。ファーストキャリアではなくてもいいけれど、自分のスタイルが固まる前にコンサルを経験するのはプラスになると思いますね。
卒業生をクライアントの役員に。大先輩の知見やネットワークを束ねれば、日本を変えられる
──真岡さんも田中さんもA.T. カーニーで得られたものが多いのだとよく分かりました。いわゆる「出戻り」もあるなど、A.T. カーニーはアルムナイを大切にしている印象を受けます。
関灘:コンサルティングファームは、どこもアルムナイを大切にする文化があると思います。A.T. カーニーにおけるアルムナイパーティーはこれまで、昔ともに戦った仲間が集まり、楽しくお酒を飲む会でした。これはこれで機能していたと思いますが、A.T. カーニーが発信している「日本を変える、世界が変わる」を実現するのに向かって、アルムナイの皆さんや現役コンサルタントが取り組んでいることを共有する青臭い時間を設けるようになりました。
「日本を変える、世界が変わる」を実現してくれる大企業20社とベンチャーや急成長企業200社に、A.T. カーニーはフォーカスし、世界の時価総額ランキングトップ50に入る企業を2050年までに20社生み出すことに力を注ごうと決めました。これを「20社+200社」と呼んでいます。
ただ、ここにランクインするのは本当に難しい。現在唯一入っているトヨタ自動車ですら、このままでは2050年にランキングから外れる可能性すらあると思います。この現状を本気で変えるのに何が一番大事か、真剣に議論した結果、やはり「経営リーダー、創造と変革のリーダーが大事」という結論に至りました。
──先ほど、経営チームの強化もコンサルティングの範囲だとお話しされていましたよね。
関灘:クライアント企業の中に、創造と変革のリーダーやその候補となる方々がおり、われわれが支援できれば本当に大きな成果が生み出せます。逆にいえば、コンサルタントがどれだけ頑張っても創造と変革のリーダーがクライアント企業内にいなければ、産業・業界・商品・サービスの創造や既存事業の大変革はできません。
われわれは、クライアント企業の中にいる創造と変革のリーダーと出会う、創造と変革のリーダー候補の方々の心に火をつける機会があると本当に幸せです。また、A.T. カーニーのアルムナイの皆さんが、創造と変革のリーダーとして「20社+200社」で大活躍していただけるのも本当にうれしい。2050年までに、「20社+200社」で活躍する創造と変革のリーダー2,000人の輩出と支援をすることに取り組んでいきます。
──確かに卒業生も含めれば、相当な人数になりますね。
関灘:日本の大企業でも年功序列の見直し、若手や女性の抜てきや社外人財の登用など進みつつありますが、現役の30代、40代のコンサルタントが、大企業の経営陣を務めるのは、まだまだ難しいのが現状だと思います。
一方、アルムナイの中には50代、60代で、コンサルティング経験も事業会社での経営経験も豊富な方々がいらっしゃいます。また、30代、40代で創造と変革の経験を積み重ねてきたアルムナイの方々もいらっしゃいます。実際に足元でも、ある企業にアルムナイを推薦し、役員に就任されることになりました。このような事例もますます増えていくと思います。
A.T. カーニーの大先輩であるアルムナイの方々は、現役のメンバーにアドバイスや支援をしてくださる方がたくさんいらっしゃいます。このような大先輩の知見やネットワークをつないでいくことで、「日本を変える、世界が変わる」に近づいていくとも思っています。
そして、こうした大先輩たちの活躍は、現役コンサルタントを活気付けます。「自分も今の仕事で経験を積めば、あのようになれるかもしれない」と大先輩にロールモデルの一端を見られるわけです。
ファームの中にいながら経営人材に。関灘茂が考える「コンサルの新たなキャリアパス」
──A.T. カーニーのキャリアの先が見られるわけですね。
関灘:全社員に毎月頭にメールを送っているのですが、先日も「アルムナイの方々の20社+200社での活躍を紹介し、このような事例を増やしていきたい」というメッセージを送りました。一方で、新入社員の皆さんには、「10年、20年単位で、A.T. カーニーを軸にキャリア形成を」とも伝えています。
──どういうことですか? 「外で活躍する人になってほしい」と伝えているのに。
関灘:ずっとコンサルティングをする必要はなくて、3年勤めたらMBAに行ってもいいし、デザイン留学をしてもいい。もう3年勤めたら、今度は出向して大企業で新規事業創造をリードしてみてもいい。その後に、再びA.T. カーニーに戻ってマネジャーを経験し、その後は事業会社に出向して執行役員になってみる。実際に、大企業に出向して執行役員に就任するという事例も作りました。
このようにA.T. カーニーに軸足を置きながら経験を積むことで、大組織でリーダーシップを発揮できる、影響力のある創造と変革のリーダーを輩出していけるのではないかと考えています。その結果、日本企業や日本社会に貢献できればと思います。
──なるほど! クライアント企業とも共同で人財を育成し、ファームの中にいながら、経営を担うためのキャリアが積めるというわけですか。A.T. カーニーのコンサルタントは、10年単位で日本の経営を変えていく仕事なのかもしれませんね。
就活はしょせん「運」と「縁」──就活生の特権を十分に生かして楽しもう
──本日はありがとうございました。最後に就活生へのメッセージをお願いします。
田中:自分自身を振り返っても、学生の時点で自分のことはまだまだ分からないと思います。明確な目標がある方は突き進んでいただければと思いますが、そうでない方は、自分の興味や可能性を探るような気持ちで、いろいろな方にお会いになってください。そうしてチャンスを見つけられるといいんじゃないかと思います。
真岡:同感ですね。学生にとっては一大イベントでしょうけど、身も蓋(ふた)もないことを言ってしまえば、しょせんは運と縁です。就職活動は「就活生」という身分を利用して誰にでも会える無敵モード。肩肘張らずに、その特権を十分に生かして楽しんでください。その中で、運良く良い人に出会えたり、良い話が聞けたりして開眼することがあればいいし、なくてもそれはそれでエンジョイすればいい。
もはや皆さんが働く期間よりも、企業の寿命の方がよほど短いです。これからはさらに短くなるので、そんなに構えて働き口を探しても、10年後には産業自体が衰退しているかもしれません。そういう前提で気軽にやってみればいい、ということです。
田中:新卒は本当に運ですよね。実力とは限らない。その先で数年働いて、自分のやりたいことや次のステップに進むために必要なことを見つけ出してほしいです。「自分は何ができるか」がアピールできるようになれば、あとは確信を持って生きていけると思うんですよ。そういう意味で、新卒のときは可能性をできるだけ広げられる道に進んだ方がいいと思います。
関灘:私も同意です。私は就活生のとき、外資系消費財メーカーでインターンをさせてもらい、経営コンサルタントと外資系消費財メーカーのマーケターのそれぞれにどのような世界が広がっているか、現在もCMOとして大企業で活躍している方にお話を聞かせてもらいました。
他に外資系コンサルティングファームのパートナーのご自宅に訪問する機会もいただき、「経営コンサルタントの中でもすごい人は何が違うのか」を教えてもらいましたし、半導体製造装置会社やメガバンクなど、とにかくいろいろな人に会って、自分がすごいと思う人を探すことをしていました。
そのプロセスを通じて、就職先を選択する際にポイントだと思っていたのが、真岡さんがおっしゃっていた「ガチャ」です。すごいと思う人がいても、その人と一緒に仕事ができる可能性が低い会社は自分にとってはマイナス。そのため、大企業、大人数の組織は選択肢から消えました。
自分がすごいと思う人、一緒にいるとワクワクする人と一緒に働ける可能性が高い会社はどこかと探った先にあったのが、A.T. カーニーでした。すごい人の出現率が半端ではない──つまり、すごい人と一緒に仕事をできる確率が高いと思い、オファーをもらえたときは本当にうれしかったです。私の選択基準はすごい人の出現率でしたが、もちろん基準は人によってさまざまです。自分が納得できる基準を持って、就職先を選択していただきたいです。
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【説明会動画】100社以上が見放題!企業研究から選考対策まで役立つ『ワンキャリアライブ』過去配信動画
▼前回の記事はこちら
・【関灘茂×若手コンサルタント対談】若手が成長する条件、そしてA.T. カーニーが「少数精鋭採用」を貫く理由
【ライター:天野夏海/撮影:百瀬浩三郎】