こんにちは、ワンキャリ編集部です。
今回スポットを当てるのは、世界13カ国23拠点で事業展開するグローバルITベンチャー、モンスター・ラボ。国内外の企業におけるデジタル・プロダクト開発から、創業事業である音楽配信プラットフォーム、さらには近年注目度の高まるRPAまで、その事業領域は多岐にわたります。これらの事業を通じて、モンスター・ラボは何を実現しようとしているのか、また毎年50%以上の事業成長を続けられるのはなぜか、CEOの鮄川宏樹さんにお話を伺いました。
鮄川 宏樹(いながわ ひろき):株式会社モンスター・ラボ 代表取締役社長
プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現:日本IBM)、イーシー・ワン、モニター・グループを経て、2006年2月、株式会社モンスター・ラボ設立と同時に代表取締役社長就任。
デジタル・プロダクト開発で世界一を目指す
──鮄川さん、本日はよろしくお願いします。まずは、モンスター・ラボがどのような事業を行っているか、教えていただけますか。
鮄川:モンスター・ラボの中核事業は、グローバルソーシングです。世界で1,000名を超えるエンジニアやクリエイターの人材プールから開発チームを構成し、主に中堅〜大企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)(※1)を支援しています。例えば家庭教師のトライ様と開発したスマホアプリ「Try IT(トライイット)」は、いつでも無料で映像授業を視聴できるサービスです。このアプリによって、家庭教師が不足する地方のユーザーや、経済的な理由で家庭教師を雇えないユーザーでも、教育サービスを受けられるようになりました。
(※1)デジタルトランスフォーメーション(DX)……ビジネス環境の変化に対応するため、企業がデジタル技術を活用して、製品やサービス、ビジネスモデルを変革し、同時に組織や業務プロセス、企業文化を変革すること
──DX支援事業を行う企業は数多くありますが、他社と比較したモンスター・ラボの特徴はどこにあるのでしょうか。
鮄川:業務系などの企業内システムではなく、一般ユーザー向けのデジタル・プロダクトにフォーカスしていることです。また、多国籍の開発チームが世界の最新技術を常にキャッチアップしているため、革新的なプロダクトを開発できることも大きな特徴といえます。
──顧客のプロダクト開発だけでなく、自社プロダクトも多数展開していますよね。
鮄川:店舗向け音楽配信サービス「モンスター・チャンネル」のほか、RPA(※2)ツールなどを展開しています。 DX事業同様、世界中の人材を活用しているため、新規事業を起こすときも、日本で開発して海外に広げるだけでなく、最初から海外でプロダクトを開発したりローンチしたりできるのが強みです。また、グローバルソーシングを補完する事業として、仕事をする場所を提供するコワーキングスペース事業「Monstar Hub」や、IT・デザイン留学事業「Monstar Academia」も展開しています。
(※2)RPA……Robotic Process Automationの略称。ソフトウエアロボットによる業務自動化の取り組み
──こうしたさまざまな新規事業は、どういった発想から生まれてくるのでしょうか。
鮄川:自分たちが世界で仕事をしている中で見つけたニーズや課題からスタートしています。例えばRPAは、フィリピンで感じた課題を元に開発されました。フィリピンはBPO(※3)センターの設置数が世界2位なのですが、業務の自動化・IT化が進んでいない実態があったのです。そこでRPAをフィリピンで提供し始め、その後、日本でも展開しました。
(※3)BPO……Business Process Outsourcingの略称。企業が自社の業務(主にバックオフィス業務)の一部を外部委託すること
──革新的なプロダクト開発によるDX支援と、世界各地のニーズに合った自社プロダクトの展開が、モンスター・ラボの成長を実現させているんですね。
鮄川:そうですね。加えて、日本国内における深刻なIT人材不足も成長の背景にあります。経済産業省のデータによれば、2030年には約60万人のIT人材が不足する見込みです。また、人口が減少していく日本では必然的にITの担い手も減っていくでしょう。一方で、企業のDXはまだまだこれから。需要が伸びているにもかかわらず、供給は減っている状況です。そうした状況で、今後は世界中の優秀なエンジニアやクリエイターの活用が必要になるでしょう。このように、市場が拡大している分野で事業を展開していることも、モンスター・ラボの継続的な成長を可能にしているのです。
──具体的にはどのようなスピードで成長しているのでしょうか。
鮄川:モンスター・ラボは過去5年間、毎年50%以上の事業成長を実現しています。2025年には現在の10倍の売上高を目指していて、デジタル・プロダクト開発では世界一の企業になるのが目標です。システム開発と違い、プロダクト開発にはグローバル展開する巨大企業が少なく、世界一は決して夢ではないと思っています。
ガザ地区に雇用を創出。世界中のクリエイターに活躍の機会を与える
──グローバルソーシングを基盤としたこれらの事業は、どのような想いから生まれたのですか。
鮄川:根底にあるのは「情熱を持った多様な人材に、活躍の機会を提供したい」という想いです。創業時は、才能を持ちながらも音楽を売り出していく手段がないアーティストのために音楽配信サービス「MONSTAR.FM」を始めました。また、当時から日本だけでなく、中国のエンジニアやクリエイターと開発チームを構成するなど、世界の優秀な人材を活用していくことも意識していました。現在ではアーティストのほか世界中のエンジニアやクリエイターに対して、新しい仕事や成長の機会を提供するために事業を展開しています。
──事業の幅が広がっても、根本的な理念は変わっていないのですね。既存の事業に加えて、今後新たに注力していきたい分野はありますか。
鮄川:まず、人の生産性を向上させ、人がよりクリエイティブな仕事に携われるようになるための事業に力を入れていきたいと考えています。RPAもその一環ですね。
そして、才能を生かす手段を持たない世界の人たちに仕事を提供していきます。昨年、国際協力事業団(JICA)のSDGsビジネス(※4)公募事業に採択され、パレスチナのガザ地区で雇用機会を創出・提供する取り組みに着手しました。紛争地域であるガザ地区は人や物の出入りが制限されていて、若者の失業率は60%。移動もできず仕事もなければ、生きている意味すら見いだせません。そこでガザのクリエイターが中東諸国から仕事を受注できる仕組みを構築し、彼らの強みであるアラビア語を生かした仕事の提供を目指しています。同時に、ソフトウエア開発ができる人材を育成するため、現地法人やNGOとの連携を進めている最中です。
(※4)SDGsビジネス……2015年に国連が定めた「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」に関連した、社会課題解決型のビジネス
──政治的な問題を抱えるガザ地区に民間企業が進出する例はなかなか聞きません。なぜモンスター・ラボはガザ地区に進出するのでしょう。
鮄川:民間企業がアクションを起こすことで乗り越えられる困難も多くあると考えているからです。長い時間がかかる政治的解決を待っていては、今困っている人たちは一生同じ環境で生きていくことになるかもしれません。チャレンジングではありますが、「できる/できない」というより、「できるようにする」という発想で取り組んでいますね。そうした課題解決型ビジネスの先行事例を作り、グローバル社会に光を与えられる会社を目指しています。
新卒1年目で海外赴任も。「グローバルが前提」の環境で急成長できる
──成長を続けるモンスター・ラボに学生が新卒入社する魅力は何だと思われますか。
鮄川:入社直後から急速に成長できるところですね。その理由は二つあります。一つ目は、半年程度という短めのスパンでさまざまなプロジェクトに携われることです。多くのプロジェクトは15人くらいのチームで進められており、誰もが何らかの役割を持ってプロジェクトを動かすことになります。実際、新卒2年目の社員でも、一部の業務で海外メンバーとのブリッジ役を担当したり、小さなチームのリーダーになったりしているケースはよくありますね。
──大手システムインテグレーターの新入社員は、数百人規模のチームの中で長期にわたって一定の仕事しかできないケースも多いですから、それとはまったく違った経験ができそうです。成長できる二つ目の理由は何ですか。
鮄川:二つ目は、グローバルが前提となっている環境で働けることです。新卒1年目からベトナム、バングラデシュといった成長著しい国に赴任することもあり、非常に貴重な経験ができると思います。また、日本拠点でも日本人だけでプロジェクトを組むことは基本的になく、多くの外国人がチームに加わります。さらに、日本拠点主導で仕事を進められるのもモンスター・ラボの特徴です。海外の本社からの指示を受け、日本の中だけで仕事をすることも多い外資系企業の日本支社とは対照的かもしれません。
──グローバルな職場環境というと、最近では多くの企業でダイバーシティが推進され、さまざまなバックグラウンドを持った人たちが働きやすい職場づくりが進められています。モンスター・ラボでは、どのような取り組みをしているのでしょうか。
鮄川:制度を作ることでトップダウン的にダイバーシティを実現しているというより、カルチャーとしてダイバーシティが根付いているという感じです。外国人社員比率の目標などはありませんが、「日本語ができなくても採用する」という基準を設定していれば、自然と外国人社員は増えますよね。また、イスラム教徒の社員向けに、お祈りができるプレイルームを設置したり、社内交流パーティーでハラール料理を出したりといった配慮もしています。性別についても、例えば中国拠点とデンマーク拠点の社長はそれぞれ女性ですが、あえて女性を登用したわけではありません。誰もが「多様性」を会社の土台として考えていれば、自然とそうなっていくんです。
入社前のスキル・経験は不問。会社を担う中核人材に育って欲しい
──実際に新卒入社した社員は、どのようなキャリアパスを描いていくのでしょうか。
鮄川:キャリアパスを制度的に定めてはいないのですが、よくあるパターンは、最初にプロジェクトのサポート的な役割を担い、早い場合は3年目にはプロジェクトの中間的な責任者であるディレクター、5年目には営業責任者や開発責任者などプロジェクト全体の責任者になる、といった具合です。同時に、入社5年目くらいからはプロジェクトの範囲を超え、会社の中核的なポジションで活躍する社員がほとんどです。事業部の責任者になったり、新規事業・海外拠点を立ち上げたり、全社的な経営企画に携わったりしていますね。
──新卒入社5年で、社員1,000人のグローバル企業の幹部ポジションというのは驚きです。では、モンスター・ラボに入社するとどのような力が身につくのですか。
鮄川:「グローバルに働く感覚」「最新のテクノロジーへの理解」「ビジネスセンス」の三つです。今の学生のライバルは、もはや大学の同級生や国内のビジネスマンではなくなってきています。世界を相手に戦っていくこれからの時代において、この三つの力はどんなフィールドで仕事をするにしても不可欠です。最初に入社する会社で一生の働き方が決まるといわれますが、モンスター・ラボに新卒入社すればそれらを最速で身につけることができます。
──グローバルな働き方を前提としているならば、やはり学生時代に海外経験を積んでいた方がいいのでしょうか。
鮄川:いいえ、入社前の海外経験やスキルは誤差の範囲です。僕は新卒で米国系コンサルティングファームに入社しましたが、それまで海外経験も語学力も全くありませんでした。それでも、アメリカで3カ月の新人研修を受けたり、その後グローバルな環境で仕事をしたりして、今は世界を相手に仕事ができています。大切なのは目標を自ら定め、その達成のために必要なものを逆算し、成長意欲を持ってそこに打ち込んだ経験です。例えば、僕は大学時代アイスホッケーに没頭していましたが、そのときに培ったマインドがあったからこそ、社会人になってからも目標に向けて努力を続けられたのだと思います。
──必要なのはグローバル経験よりも目標に打ち込むマインドセットということですね。そのほかに、学生に求めるものはありますか。
鮄川:「事業を通じて社会を変えたい」という情熱です。「社会を変える」といっても、規模の大きいことでなくてもいいのです。ひとりの職業人として社会に対して何ができるか、自ら考えられる人と一緒に働きたいと思っています。
──最後に、この記事の読者に向けてメッセージをお願いします。
鮄川:モンスター・ラボは成長期にある会社です。海外展開、新規事業の立ち上げ、既存事業の拡大が続いていく中で、幹部人材の数が足りていないのが現状です。新卒社員には、会社の中核を担う人材になることを期待しています。自分の手で事業を作り社会にインパクトを与えたいという学生は、ぜひモンスター・ラボを見に来て欲しいです。そして、成長に伴う困難にぶつかったとき、その壁を突破して進んでいける人材に育って欲しいですね。
──鮄川さん、ありがとうございました。
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【インタビュアー・ライター:西東美智子、YOSCA/編集:辻竜太郎/カメラマン:塩川雄也】