今、あらゆる産業・業界が求めている経営ポジション。中でも重要性が増しているのがCDO(最高デザイン責任者)だ。
「デザイナー」と聞くと表層的な見た目の美しさを追求する仕事のように思えるが、求められているのは、ビジネスを成功に導く経営パートナーとしての役割。日本ではまだ希少なこのポストに就くためのキャリアを探るべく、トップを走る2人に集まってもらった。
1人は、自動車とITとの融合を目指すトヨタグループの中核企業「トヨタコネクティッド」のシニアエキスパート長沼耕平氏。デザイナーとしてキャリアをスタートした後、さまざまな企業のコンサルティングにも携わり、現在は同社で新たなサービスの創出に挑んでいる。
もう1人はデザイン会社初の上場を果たしたグッドパッチ(Goodpatch)の代表、土屋尚史氏。同社はトヨタコネクティッドのデザインパートナーでもあり、さまざまな企業のビジネスをデザインの力で成功に導いてきた。
彼らが考えるデザイナーの真の価値とは何か。ワンキャリア取締役でベストセラー作家でもある北野唯我が聞く。
<目次>
●まるで、課題解決の道具が1つ多いコンサルタントだ
●創業時のデザイナー不在は致命的。それはもはや、世界の共通認識
●「デザイナーは年収1000万円が当たり前」の時代が来る
●コンサルタントとの差別化要因は知覚と実装力
●ハードからソフトをデザインするトヨタの新しい軸
●課題解決は人の感情に寄り添うことから始まる
●ビジネスの本質は、本気かどうか。真剣勝負の数でキャリアは決まる
まるで、課題解決の道具が1つ多いコンサルタントだ
北野:トヨタコネクティッドは、あらゆる自動車がインターネットにつながっている未来を見据え、ビッグデータを活用した新規事業や街づくりにも挑戦しています。10年、20年先の価値を生み出そうとしている点で、自動車産業の枠に収まらない国内有数の面白い仕事だと感じていました。
そこにデザイン畑の長沼さんがシニアエキスパートとしてジョインしたということは「100年に一度の大変革の時代」と呼ばれる自動車業界において、トヨタが新たな才能を必要としていたということだと思います。どのような経緯でトヨタから声がかかったのですか。
長沼:僕は美術科のある高校を出てすぐにフランスの大学に行き、在学中にデザイン会社を立ち上げました。フランスには11年ほど滞在し、帰国後は顧客の経営課題の解決やマーケティング、ブランディングの支援などコンサルタントのような役回りでも仕事する機会が増えました。レクサスの日本上陸時にアートディレクションをしたのがトヨタグループとの出会いです。
ですから、バックグラウンドは自動車と関係ありません。トヨタグループが解決したことがない疑問や課題が急に出始め、ソフトウエア開発の領域でいろいろなバックグラウンドを持つ人が、僕以外にも続々と入っています。
長沼 耕平(ながぬま こうへい): トヨタコネクティッド株式会社 先行企画部 技術企画室 特命推進グループ シニアエキスパート。美術科高校を卒業後、渡仏。11年間の在住中に現地で起業し、広告、出版、テレビ番組からデジタルまで幅広い分野で活躍した。帰国後は制作会社や大手ウェブエージェンシーにて多くの大規模案件でアートディレクションに従事し、起業を経て2018年10月より現職。クルマとテクノロジーを結ぶ新たなサービス開発に取り組んでいる。
北野:もともとデザイナーチームがあったわけでもなく、入社時はお1人だったとお聞きしました。そこから、グッドパッチと一緒に仕事をすることになるのですね。
土屋:弊社のクリエイティブディレクターが長沼さんと縁があったのがきっかけで、2018年に直接連絡をいただきました。
長沼:普通のデザイン会社だと、いきなり「どういうものを作りましょうか」となるところですが、グッドパッチさんと話したときは「トヨタコネクティッドで、どうやってデザイン組織を立ち上げていきましょうか」という話になりました。僕らが一番困っていることに対してソリューションを提示してもらえたと感じましたし、そういった話を堅いトーンではなく、カジュアルに話せたこともよかった。グッドパッチさんに引っ張ってもらうのではなく、一緒に走るためのコーチ、トレーナーとしての提案で、一緒にやりたいなと思えましたね。
土屋:一般的なデザイン会社は「良いクリエイティブで驚かす」ことの優先順位が高くなり、クライアントのビジネス理解がおざなりになるケースが多いです。グッドパッチは「デザインでビジネスとユーザー体験をいかに紐(ひも)づけるか」を重視しています。
長沼:「グラフィックしかやらない」という会社だと、要件を聞いてその通りにすぐ描きますが、グッドパッチのデザイナーは事前にクライアントの事業に関してものすごく学んできて、初めから意見を持ってくる。「なんでそんなことまで知っているの?」と思うくらいです。こちらが伝えた情報が10倍になって戻ってくる感じは、コンサルティングファームのようでした。そこにデザインの強さを知っているので、デザインという課題解決の道具が1つ多いコンサルタントのような印象です。
土屋:実際に、コンサルティングファームからも内定をもらっていて、最終的に弊社に入社を決めた社員もいます。デザイナーと聞くと美大出身のイメージですが、グッドパッチは新卒入社の80%が総合大学出身です。
創業時のデザイナー不在は致命的。それはもはや、世界の共通認識
北野:コンサルティングファームのようなデザイン会社。グッドパッチがそのような会社になっているのは、なぜでしょうか?
土屋:僕は27歳だった2011年にシリコンバレーに渡り、帰国後にグッドパッチを起業しました。
土屋 尚史(つちや なおふみ):2011年9月に株式会社グッドパッチを設立。「デザインの力を証明する」というミッションを掲げ、さまざまな企業の事業戦略からUI・UXまでを支援し、企業価値の向上に貢献。ベルリン、ミュンヘンにもオフィスを構え、世界で200名以上のデザイナーを抱える。2020年6月、デザイン会社として初の東証マザーズ上場。
日本でデザインというと、表層的な部分だけが認識されがちですが、渡米して感じたのは、どうユーザーに使ってもらうかというUI・UX(※1)の重要性でした。クライアントと並走・伴走し、UI・UXの領域にフォーカスしていることは創業時から一貫しています。
(※1)……UIはユーザーインターフェース、UXはユーザーエクスペリエンスの略。UIはアプリやウェブサービスの画面のように、ユーザーとサービス・プロダクトをつなぐ接点。UXは、そのサービス・プロダクトを使うことでユーザーが得られる体験を指す
北野:今でこそ日本でもUI・UXの重要性が認識され始めていますが、シリコンバレーでは2011年にもう認識されていた、と。
土屋:僕がアメリカにいたときは、Airbnb(エアビーアンドビー)やInstagramが創業したばかりで、その後の急成長を目の当たりにしました。2社に共通するのは、共同創業者にデザイナーがいること。他にもTwitterやYouTube、Slack、Pinterest(ピンタレスト)など共同創業者にデザイナーがいたサービスが世界を席巻しています。起業するときにチームにデザイナーがいないと「成功する気はあるのか」と問われるくらい、世界ではデザイナーの必要性が共通認識になっています。
Amazonは創業してから20年ほど出した利益の多くを顧客体験の改善に使っていますし、FacebookやInstagramはビジネスモデルを設計するよりも先にユーザーがいかに心地よく使えるか、すなわち顧客体験の改善に投資し続けてきました。ビジネスモデルよりもUXの方が明らかに優先度が高かったのだと思います。
北野:土屋さんのお話を聞くと「グッドパッチで育ったデザイナーは将来CDO(最高デザイン責任者)としてさまざまな企業に参画する。それだけの価値がデザインにはあるんだ」という熱を感じます。
土屋:その構想は最初からあります。「これからグッドパッチはCDOがたくさん生まれる会社になるから君も来ないか?」と学生を口説き始めたのが今から4年前。そして、実際にスタートアップでCDOに就任する卒業生が出てきています。
テクノロジー領域ではCTO(最高技術責任者)として経営層に入り込むことが増えましたが、同じくらいデザイン領域も重要なのにポジションが低い。デザイン領域全体の価値を上げるには、投資を増やさないといけない。そのためには、デザインの視点で意思決定できる人が必要です。
「デザイナーは年収1000万円が当たり前」の時代が来る
北野:CDOが増えてくると、ビジネスが分かるデザイナーの市場価値も変わるのでしょうか。分かりやすい数字を例に出すなら「年収1000万円を普通にもらえる時代が来ますか?」という話です。
土屋:断言します。来ます。グッドパッチは将来デザイナーの平均年収を1000万にしますし、世の中の流れは確実にそうなっています。スマートフォンが普及してから、人とソフトウエアの接点が圧倒的に増え、どの企業もソフトウエアを使った体験に投資せざるを得なくなりました。
その結果、世界の時価総額ランキングにおいて、平成元年には多くの日本企業がランクインしていたにもかかわらず、平成31年に残った日本企業は50社のうち1社、トヨタ自動車のみ。そのほかは海外のソフトウエアの会社がランキングを占めています。
今、僕らが扱っている「デザイン」の影響力の大半は、ソフトウエアなんです。突き詰めると、ビジネスの本質的な価値を知覚して抜き出し、顧客が価値を感じられるようにソフトウエアに落とし込む技術こそがUI・UXデザインだと考えています。
戦略を描くだけではなく、顧客価値をソフトウエアに実装することができる人材は希少で、市場価値も高い。ですから、UI・UXデザイナーの平均年収が1000万になる時代は必ず来ます。
長沼:年収は、何もしなくても上がっていくのではないでしょうか。統計で見ても世界的には、ソフトウエアエンジニアと同じくらい上がっています。企業がデザイナーを採用しようと思ったら、AI(人工知能)エンジニアやプロダクトマネージャーと同等の報酬を払わないと、もう転職してくれないマーケットになっています。
コンサルタントとの差別化要因は知覚と実装力
北野:とはいえ、僕が学生なら「デザインが分かるコンサルタント」を目指すことも考えそうです。コンサルタントと比べたときのデザイナーならではの強みはどこにありますか?
土屋:2つあります。1つは、ロジカルなアプローチだけではなく、対話や洞察を通して価値や課題を「知覚」すること、2つ目はユーザーが価値を実感できるようにプロダクトを「実装」できる点です。価値を知覚することや戦略を描くことはコンサルティングファームにもできますが、グッドパッチの強みはそれをユーザーが心地よく使えるものにするまでを一気通貫で担える点です。
北野:前回の記事でも、コンサルタントとの違いを「具体まで作れること」と話されていました。
・未来の成長企業は、人の感情価値へ投資する。危機から前進できる企業の見つけ方【グッドパッチ 土屋尚史】
この具体まで作る力が「実装」ですね。「知覚」はどのような力でしょうか?
土屋:顕在化していない「まさかそんなところに」というニーズを洞察して見つけ出す力です。Airbnbが最たる例です。今でこそ誰もが知るサービスになっていますが、アイデア自体は「人の家にお金を払って泊まる」というものです。
北野:確かにアイデアだけ聞くと「わざわざ人の家に、お金を払って泊まる?」と批判されますね。
土屋:でも、デザイナーでもあるAirbnbの創業者たちはそこにニーズがあると気が付いた。ニューヨークで大規模イベントがあるとホテルの部屋数が不足し、宿泊料も高騰するので「お金を払ってでも他の人の家に泊まりたいニーズがあるはずだ」と思ったんです。
そしてサービスを始めてからは、実際にサービスを使ったユーザーにヒアリングをする。話を引き出し、部屋の写真撮影をユーザーに任せていては魅力的に見えないと分かれば、プロのカメラマンに撮ってもらった写真に変える。それだけで同じ部屋の売上が倍になったというデータがあったそうです。そうやってユーザーを増やしていき、最終的にAirbnbはホテルを脅かす存在にまで到達したのです。
このように、誰も気がつかなかった「n=1」のニーズを見つけ出す洞察力と、ユーザーが価値を感じるところまで改善する力の両方がデザイナーの価値です。
長沼:デザイナーって、妄想するのが好きなんですよ。「自分が思いついたアイデアが実装できたらひょっとしたら世界を変えるかもしれない」と、うぶな心でずっと思い続けています。
現代はアイデアに対するビジネス的な裏付けがしやすくなったので、うぶな心を持った人たちの背中を押せる世の中になってきました。それがいち早く花開いたのがアメリカのスタートアップの土壌です。
だから、もしグッドパッチ出身の人たちがさまざまなスタートアップにCDOとしてジョインし「自分たちは背中を押してもらって、このまま妄想を駆け上がっていってもいいんだ」と思い続けることで、日本が変わっていったら面白いなと思いますね。
ハードからソフトをデザインするトヨタの新しい軸
北野:長沼さんは、デザイナーならではの強みは何だと思いますか?
長沼:全ての仕事は基本的には課題解決だと思っているのですが、その中でもデザイナーの強みは、ユーザー(消費者)の視点を持っていることではないでしょうか。営業や技術開発の領域と違って、デザインはユーザーが購入した後もどんどん価値を上げていけるんです。
北野:どういうことですか?
長沼:営業だと、やるまでのハードルがすごく高いし、技術もやる手前ですごく研究が必要なことがありますが、デザイナーなら「自分だったらこうする」「これに困るはず」と考え、解決法を脳内で何度もシミュレーションができます。
僕は「やることと、みることがセットになってデザインだ」と言っているのですが、「作ってみて、評価して、フィードバックする」という流れを一日に何回も繰り返せるのはデザインならではです。課題解決の手法として、アップデートが可能なソフトウエアが中心の今の時代にフィットしています。
北野:面白い! 長沼さんはどんな社会課題を解決しようとしていますか?
長沼:車に関わる社会課題だと、高齢者の免許返納があります。交通事故を起こさないためには必要な制度でしょうが「移動したい」という根源的なニーズは全ての人が持っています。年老いたときに安心して移動できる手段をどう手に入れるかは、社会で取り組む課題ですよね。
北野:確かに。一方で、トヨタは自動車というハードで大きくなった会社です。今後、社会課題をソフトウエアやデザインで解決しようとすると障壁もありそうですが、どう乗り越えていきますか?
長沼:これからの取り組みです。自動車は、企画から発売まで4年から5年という時間がかかり、時代の流れに追いつくのが非常に苦手な、複雑なプロダクトです。業界も「モノ」としての価値を見いだしてきたけれど、車の中で何をするかという「コト」にシフトして、もっとソフトウエアに投資しないといけない時期に差し掛かっています。
土屋:一緒に仕事をさせてもらって感じるのは、トヨタはデザインに本気だということです。そもそも、デザインが重要ではなかった時代は一度もないです。あたかも「日本では昔デザインが軽視されていた」という風潮がありますが、そんなことはない。自動車や家からPC、スマホと時代とともに新たな製品が出てきたのに伴い、デザインの潮流も変わってきて、今はUXデザインが大事になったということに過ぎないと思います。
長沼:一方で、今起きている変化でいうと、ずっとソフトウエアをやっていたグーグル(Google)のような会社が、自動運転のようなハードの分野にも投資するようになりました。物理的な価値は人間が物理的に存在する限りはなくならないわけで、そこを提供していこうとチャレンジするソフトウエア会社がたくさん出てくると、ハードを量産できるトヨタが強みを発揮できる世の中になるかもしれません。
自動車産業の中でも、ハードウエアを通じてどうソフトウエアを提供するかを考え、新しい発明がどんどん出てくるでしょう。そうなればGoogleやFacebookらが形成してきたネットが基軸のソフトウエアの在り方に対し、トヨタが新しい軸を作れます。これからはソフトとハードの両方を持っている方が強いかな、と思います。
北野:すると、デザイナーの仕事の領域もますます広がりそうです。
長沼:世の中で新しいアイデアが生まれてくる背景には、次から次へと生まれる社会課題があって、それを追いかける限りデザイナーの仕事はなくならないです。Facebookが人気になった時点では米国大統領選の政治的公平性が求められるとは思わなかったし、iPhoneが登場したときにスマホ依存症が問題になるなんて誰も想像していなかった。
社会課題が次々と生まれる中で、具体的なデザインを考え、それを通して何か新しく生まれた社会課題をつぶすことができるのは、デザイナーの価値だと思います。
課題解決は人の感情に寄り添うことから始まる
北野:きょうの対談でお2人にお聞きしたかったのが、デザインと哲学の関係性です。最近聞いた考え方で「偉大なブランドには哲学、造形、機能という3つのフレームがある」というものがあり、秀逸だなと思いました。
その中でも重要だと思ったのが哲学です。Appleが分かりやすい例だと思いますが、世の中に「本当に格好いい」と受け入れられ、人々が心を動かすには、哲学がないといけない。
世の中のデザインに対するイメージは、造形の部分だと思うのですが、哲学ってデザインにおいてどれくらい重要だと思われますか?
土屋:めちゃくちゃ重要で、むしろそこからしかデザインはできません。哲学とは、その会社が古くから大切にしている一貫性みたいなものだと僕は思います。その企業らしさ、哲学があるからアウトプットを出せる。
根底にある大切にしているものがあるならば、ユーザーからするとプロダクトやサービスを使うときの体験が一貫しています。一貫性を感じたんだったら、確実に哲学があるということですね。
北野:グッドパッチだと、それは「Why」ですよね。
土屋:そうです。グッドパッチは常にWhyから考えることを大切にしています。入社前からそれを持っている人を採用しています。
Whyって文脈によって本質になったり、目的になったり、大義になったりします。すごく曖昧さを含んでいるんですが、感情があるのがいい。
目的から考えることはすごく大事ですが、「目的」と言ってしまうと「達成するために頑張ろう」となります。でもWhyだと「なぜやりたいのか」になり、突き詰めるとその人の感情に行き着きます。言葉に感情が乗っかるというのがいいんです。
グッドパッチとしてはWhyがない仕事、誰かが言うことを鵜呑(うの)みにして言われたままやる仕事は最も価値がありません。自分がなぜ、それをやりたいのかという芯を持っていてほしいです。
長沼:グッドパッチはどうやってそれを新入社員に教育しているんですか?
土屋:「デザインの力を証明する」というミッションや「Whyが人を動かす」という考え方、バリューをどう解釈して行動に落とし込むか、すべきこととすべきでないことを考えてもらって、自分で言語化するという研修をしています。毎月、新入社員が入る際に僕が4時間かけて直接行う社長研修の中でもやっていますし、普段の仕事上でも必ずWhyについては問われます。
長沼:トヨタでも似た取り組みはあります。トラブルがあったときに、表層的なものではなくて、真因を探すような。土屋さんの話を聞いて改めて重要性を感じたし、ちゃんと自分たちはできているのかを考えさせられましたね。
土屋:「なぜ」を考えることはどの会社にとっても重要だと思うんですが、突き詰めたときに残るのが感情であることが、デザイン会社であるグッドパッチの「らしさ」です。コンサルティングファームのように理由をロジカルに考える会社だと、感情をそぎ落としたものを抜き出そうとするのでしょうが、僕は「やりたいか、やりたくないか」というその人の感情が残ることを重要視しています。
なぜなら、デザインというのは最終的に、人の感情に訴えるものだから。人がどう感じるかというところをグッドパッチのデザイナーはちゃんと感知しないといけないし、そこから洞察しないといけない。
北野:そうやって感知・洞察できるデザイナーになるために大切な素養は何ですか?
長沼:先ほど話題に挙がった哲学のようなもの、「良いこと」「悪いこと」を分けられることは大切ですね。そして何より「誰かの困りごとを解決したい」という思いを、当事者以上に持てるかどうかです。
広島県福山市でオンデマンドバスの実証実験をやってくれることになり、現地視察に行ったんです。その場所は2018年7月に洪水の被害に遭っていて、のり面(※2)が崩れ、バスが通れたのに軽自動車しか通れなくなった道路を見ました。道の先の人が困ってしまう、生活が壊れてしまう、と気付かされました。
(※2)……道路建設や宅地造成などの工事の際につくられる人工的な斜面のこと
北野:現場に行ったからこそ分かった「n=1」のニーズですね。
長沼:人口の大変少ない地域なので、ここだけで事業になるとは言えませんが、おそらくスケールしていくと、社会課題の1つは解決できるようになるだろうとは考えました。
ただ、ビジネスを大きくしようとは一瞬も思いませんでした。考えたのは、いかに救うかだけ。現場を見て、住んでいる人と言葉を交わして、バスに乗ってみて、妄想の力を働かせて「まずここの人を助けたい」と思いました。そういう思いを自分自身の中に持てるか、現地の人の思っていることを翻訳して、社内やステークホルダーに伝えられるかが重要だと思います。
ビジネスの本質は、本気かどうか。真剣勝負の数でキャリアは決まる
北野:「困りごとを解決したい」という思いのほかにデザイナーに必要な素養はありますか? センスは不要でしょうか。
長沼:センスは後天的なもので、育成できると思います。センスがあるからグッドパッチに入れるとかトヨタの仕事ができるとかではない気がします。土屋さんはセンスという言葉、どう思いますか?
土屋:センスや美意識は磨くことができると思いますが、真剣勝負の中でしか磨かれません。こんなもんでいいかなと思うような人たちが回りにいる環境では、当然ながらこんなもんでいいかなくらいのアウトプットしか出ない。
本気で目の前のクライアントやユーザー、社会にどういう影響を与えたいかを考える。そんな仲間と真剣に意見をぶつかり合わせる中で、感覚が研ぎ澄まされていきます。グッドパッチはそういう環境にしてきました。
北野:2020年6月には東証マザーズに上場しましたが、会社のフェーズが変わったことで成長のチャンス、真剣勝負が若手に回ってこないことはないですか?
土屋:よりチャレンジングで難易度が高く、面白い仕事が増えています。新卒で経験を積めば、難易度の高いプロジェクトを回したり、マネジメントしたり、新規事業の立ち上げを任されたりと、多様なキャリアパスがあります。入社から3年たてば、UI・UXデザインのカテゴリーで最も求められる人材になっています。長沼さん、メンバーがどんどん優秀になっていると感じませんか?
長沼:感じますね。
土屋:採用のハードルも明らかに上がりました。
北野:どこを重視して採用しているのですか。
土屋:本気かどうかを最も重視しています。「デザインの力を証明する」というミッションに対して本気であってほしい。入社することがゴールの人は厳しいですね。
北野:長沼さんも「本気かどうか」は大事だと思いますか?
長沼:仕事で本気じゃなかったことはないので、本気じゃない人の気持ちは分からないというか……。答え方が難しいですね。
土屋:長沼さんがこうおっしゃるのは必然の部分もあって、僕らは一緒に仕事をするクライアントに対しても、本気かどうかを重視します。意思決定者か担当者から鬼気迫るものを感じたら、その会社の仕事は受けます。
それを判断軸にしてきたから今のグッドパッチがあります。初期に仕事をしたグノシー、マネーフォワードといったスタートアップは「本気で世界を変える」という強い意志がありました。結果的に本気のところが成功していますね。
北野:土屋さんにとっての本気とは何ですか?
土屋:僕のマインドセットは「絶対に諦めない」。組織が崩壊したときもありましたが、僕が諦めていないことは他のメンバーから見ても明らかでした。どんなに苦しいときも絶対に諦めないで、泥のように粘って成果を出してきたのがグッドパッチ。「なぜ『泥のように粘る』というバリューがないんだろう」と思うくらいです(笑)。
北野:「泥のように粘る」はすごい(笑)。でも、僕も本を書いていて思うのですが、本気で作ったものを届けないと絶対に売れない。
土屋:これはビジネスの本質だと思います。現にこの10年、社会を変えてきたのは、ほとんどがスタートアップ。何もないけれど、本気で世界を変えるという気持ちだけはある会社です。それを感じられない仕事からは、何も感じない。武骨でも本気なら、気合いみたいなものを感じるし、人の心を変えます。デザインは人の感情を揺さぶるもの。投資すべき価値があるものだと、本気で証明していきます。
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