コロナ禍の外出自粛期間中、多くの人が「おうち時間の楽しみ方」を模索したと思います。
そんな中で躍進を遂げたエンタメの一つが、ラジオです。2020年3月以降、ラジオ番組が聴けるアプリ「radiko(ラジコ)」のユーザー数は約750万人から100万人以上増えました。昨今は、ポッドキャストやオーディオブックをはじめとする音声コンテンツに注目が集まっています。
今回、ワンキャリ編集部はニッポン放送の人気番組「オールナイトニッポン」を担当するプロデューサーの冨山雄一さんに直撃インタビュー。
なぜ今、オールドメディアであるラジオの人気が高まっているのか。そして苦境にあえぐラジオビジネスの活路とは──。
取材で飛び出してきたのは、「テレビもYouTubeも音声コンテンツ化している」という驚きの言葉。冨山さんの言葉からは、エンタメコンテンツにおける未来の一端が見えてきます。
連載:「アフターコロナ」の業界研究
新型コロナウイルスの感染拡大により、打撃を受け、変化を余儀なくされる業界は少なくありません。この連載では、各業界の企業を取材し、ビジネスへの影響と復活へのシナリオ、そして各業界の「ニューノーマル」の姿を浮き彫りにしていきます。
<目次> ●「リモートでもラジオ番組は放送できる」という大発見。業界の慣習も変わった ●コロナ禍でラジオの聴取者が激増、オールナイトニッポンはこの20年で一番の人気に ●ラジオは「知る人ぞ知る深夜のお祭り」からオープンメディアへ ●テレビ番組もYouTubeも。多くのコンテンツが「音声コンテンツ化」している ●BtoBからBtoCへの転換期? 各放送局が新しいビジネスモデルを模索中 ●「今のラジオがどう楽しまれているか」を身をもって知る20代への期待 ●ラジオは圧倒的に場数が踏める。そして、好きなものを仕事につなげられる ●「エンタメをつくる」ベースはどのジャンルもほぼ同じ。やりたいことをかなえる道は一つじゃない
「リモートでもラジオ番組は放送できる」という大発見。業界の慣習も変わった
──まずはラジオ業界における、新型コロナウイルスの影響を教えてください。
冨山:テレビなど他のメディアに比べて、実はラジオはそれほど強い影響を受けていません。
テレビ番組は大人数のスタッフや演者が関わる一方、ラジオ番組はパーソナリティと放送作家、ディレクターといった最小限の人数で放送します。また、テレビ番組だとスタジオとリモート画面では明らかに違いますが、ラジオは音声だけなので、場所の違いも問題になりませんから。
冨山 雄一(とみやま ゆういち):ニッポン放送 コンテンツプロデュースルーム オールナイトニッポン プロデューサー
2004年新卒で日本放送協会に入局。ラジオセンターにてラジオ番組の制作、新潟放送局でテレビ番組の制作を行う。2007年にニッポン放送に転職。制作部ディレクターとして、オールナイトニッポンなど夜帯の番組や昼のワイド番組などを担当。2013年に株式会社エル・ファクトリーに出向後、2016年にニッポン放送に復帰。エンターテインメント開発部にてイベントプロデューサーとして数多くの番組イベントや、アリアナ・グランデ、ブリトニー・スピアーズなどの来日公演を担当。2018年にオールナイトニッポンのプロデューサーに就任。現在は「オールナイトニッポン」「オールナイトニッポン0(ZERO)」「オールナイトニッポンX(クロス)」など、オールナイトニッポンブランドの番組を担当するほか、オールナイトニッポン55周年の企画なども手掛ける。
──確かに最初の緊急事態宣言のころ、オールナイトニッポンをパーソナリティの自宅や事務所から放送したこともありましたね。
冨山:従来のラジオ番組は、スタジオでパーソナリティと打ち合わせをした上で放送に臨んでいました。放送局に来なければコミュニケーションが取れず、リスナーからのメールもリアルタイムで読めなかった。それは「ラジオはスタジオでやるもの」という固定観念が強くあったからだと思います。
ところが、なるべく人との接触を避けようと思ったら意外にもできちゃったんです。
パーソナリティの自宅や事務所に機材を渡せば、放送環境は整えられる。スタジオとパーソナリティの手元の端末を連動させれば、リスナーから届いたメッセージをパーソナリティがタブレット端末を更新するだけで表示できます。
──なるほど。インターネットをフル活用すればできると。面白いですね。
冨山:裏でチャットなどをつなげば、打ち合わせ回線も確保できますから、現場にスタッフがいなくても大丈夫。リモートでもスタジオとほとんど変わらない環境で番組ができると気付いたのは大きかったですね。
他局では再放送に踏み切ったり、生放送を中止したりしたこともありましたが、おかげでオールナイトニッポンに関しては、緊急事態宣言下でも生放送を維持できました。
──特に深夜ラジオの場合、何か起きたとしても、リスナーが面白がってくれるのもありそうです。
冨山:やはりコロナ禍なので、放送当日にパーソナリティが出演できなくなるケースも多々ありました。そうした場合でも、関係各所と連絡をとりながら柔軟に対応できるようになったのは、良い変化だと思っています。
──そういった柔軟さは、今後も残りそうですか?
冨山:そうですね。ほとんどの打ち合わせはリモートになりましたし、宣伝用の音声も以前はスタジオまで来てもらって収録していたのですが、今では原稿をこちらから送り、スマートフォンのボイスメモで録音してもらうケースが増えました。音声のクオリティも問題ないと分かったので、そのあたりの簡素化は進みましたね。
象徴的なのは、2021年3月〜2022年3月にレギュラー放送していた「ENHYPENのオールナイトニッポンX(クロス)」です。1年間の番組は全て、ENHYPENの活動拠点である韓国で収録していました。
──そんなことができるんですね。驚きました。
冨山:現地で収録チームを組み、日本にいる僕やディレクターとはリモートでやり取りをしていたので、実はレギュラー放送中にパーソナリティとは一度も直接会っていないんです。
オールナイトニッポンは2022年10月で55周年を迎えましたが、海外在住のレギュラーパーソナリティが初めて誕生しました。コロナ禍じゃなかったら、海外で番組を作るという発想にはならなかったと思います。
──歴史的な出来事ですね……!
冨山:以前は海外からの出演だと、国際電話をつなぐなど手続きが煩雑だったのですが、オンライン回線ならそのまま放送局とつなげられます。国をまたぐ放送のハードルも下がりました。
コロナ禍でラジオの聴取者が激増、オールナイトニッポンはこの20年で一番の人気に
──コロナ禍でラジオリスナーが増えたと聞きます。実際はどのくらい増えているのでしょう?
冨山:コロナ禍で「radiko」全体のユニークユーザーは約750万人から900万人以上にまで増えました。
オールナイトニッポンだけでいうと、今は21世紀に入ってから最も聴かれている状態です。radikoで生放送を聴いている人も、タイムフリー(1週間の聞き逃し配信)を聴いている人も、どちらも非常に増えています。
──凄まじい伸びですね……考えられる要因はありますか?
冨山:あくまで僕の推測ですが、radiko全体の数字が伸びたのは、昼間に会社や学校で過ごしていた人たちが在宅になったことで、それぞれradikoにアクセスするようになったのかなと。あとはコロナ禍であらゆる対面で会うコミュニティが崩れる中、ラジオのコミュニティ化が進んだことも影響していると思います。
──ラジオのコミュニティ化、ですか。
冨山:ラジオは一対一のメディアで、基本的にはパーソナリティがしゃべっているのを自宅の部屋やそれこそベッドで聴いて、その楽しさを共有することはほとんどなかったと思います。そこから2010年代中盤以降、感想をツイートしたり、イベントで集まったりする動きが出始めた。
さらにコロナ禍で夜の予定がなくなり、外にいたり、人と過ごしたりする時間が激減したことで、生放送のラジオ番組をリアルタイムで聴く良さが再認識された気がします。
人との会話は減ったけど、ハッシュタグでツイートしながらリアルタイムで聴けば、友達と感想を言い合っているような感覚になれる。ラジオ番組を通じて、毎晩全国ネットでオフ会をしているというか。また、リスナーからのメールやSNSを見ていると、パーソナリティに親近感を持つ人も増えているように感じています。
──どういうことでしょう。
冨山:コロナ禍初期は朝から晩まで、テレビもネットもコロナの情報一辺倒でした。一方のラジオは、どちらかというとパーソナリティの「困ったね」という話が中心です。
これまでのパーソナリティの話は別世界の出来事で、例えば俳優やアーティストは、ドラマや音楽活動の話をしていました。それが自宅待機になったことで話すことがなくなり、話のベクトルが生活に向いたんです。
パーソナリティもリスナーと同じように自宅待機をしていたわけですから、「自分の生活と地続きなんだな」と共感する人は多かったのだと思います。結果的にリスナーに寄り添えたのかなと。
──パーソナリティの話がグッと身近になったわけですね。
冨山:最近では、パーソナリティが結婚や子どもの誕生を報告することも増えました。これまでは事務所から書面を出したりブログやSNSで報告したりしていたけど、「まずはリスナーに伝えたい」というパーソナリティの気持ちはここ数年で高まっているのだと思います。それだけ、パーソナリティとリスナーの目に見えない信頼関係が出来ている印象です。
ラジオは「知る人ぞ知る深夜のお祭り」からオープンメディアへ
冨山:そうやってSNSで拡散されたり、Webニュースになったりする機会が増えたことで、それを見た人が放送後にradikoのタイムフリーを聴いてくれるようにもなりました。さらに「Spotify」などで番組のアーカイブを無料で聴けるようになったことで、より間口は広がっています。
その結果、「ラジオはマニアックなもの」ではなくなりました。従来なら、生放送が終わればコンテンツは完結し、内容は残らない。ある種「Instagram」のストーリーのようなものであり、その場で聴いている人だけが楽しめる「深夜」のお祭りのようなものでした。
一方、今のラジオはオープンメディアです。「リスナーしか聴いてない」状態から、「書き起こしされて拡散される」ようになりました。
──確かに生放送を聴いていない人でも、内容の一端が分かるようになりましたよね。
冨山:僕はラジオの良さは「わざわざ感」にあると思っています。ラジオって、ちょっと面倒くさいんですよ。音声だけで理解しないといけないし、番組を全編通して聴かないと文脈が分からない。そういう意味では、オープンメディアといいつつ、聴く人を選ぶメディアであると思っています。テレビやインターネットほど開かれていないんですが、オンラインサロンやファンクラブほどクローズドでもない、その間に存在している特殊な空間です。
テレビ番組もYouTubeも。多くのコンテンツが「音声コンテンツ化」している
──良くも悪くもラジオ番組の内容がネットで拡散されるようになったことで、結果的にラジオリスナーが増えているのですね。
冨山:そうですね。それに伴い、オールナイトニッポンでは広告の売り上げが非常に増えています。従来のように単に協賛を読み上げてCMを流すだけでなく、タイアップのコーナーを設けるなど、広告の形式も変わりつつあります。
スポンサー企業も、ラジオ番組特有の仲間意識のようなところに価値を感じてくださっているのだと思います。「あの番組のスポンサーといえばあの企業」とイメージできるほど密接に結びついています。一緒に番組を盛り上げることで企業への親近感が醸成されるのは、ラジオならではです。
──一方、名古屋や新潟のラジオ局が閉鎖されるなど、ラジオ業界全体では暗いニュースも耳にします。
冨山:残念ながら、ラジオ業界そのものはずっと前から縮小し続けています。従来ラジオは時計代わりに、それぞれの地域の情報や交通情報、天気予報など、つけっぱなしで聴くのが当たり前だった。ところが、今やコンテンツの選択肢は無限にあります。
radikoやSpotifyなどの音声サービスのほか、YouTubeやNetflixといった動画サービス、スマホゲームなど、スマホ内の可処分時間の取り合いにラジオ業界も参戦せざるを得なくなりました。「とりあえずつけっぱなしで聴く」という要素に加えて、わざわざラジオ番組を選んで聴いてもらう、という要素が加わったわけです。
──たくさんの選択肢の中から「ラジオを聴く理由」が必要になったのですね。
冨山:ラジオというコンテンツにたどり着いたとしても、今度はradikoのタイムフリーで過去1週間の番組の中から好きなものを選べます。
今までだったらリアルタイムで放送されているものを聴くしかなかったけれど、もはや朝の車で前日深夜のオールナイトニッポンが聴ける。いわばラジオ番組同士での「共食い」のような事態が起きているわけです。
──今は音声コンテンツ自体が人気ですよね。コロナ初期は「Clubhouse」がバズり、「Voicy」などの音声プラットフォームサービスもユーザーが増えています。最近ではオーディオブックも注目されていますよね。
冨山:僕はテレビやYouTubeなどの動画コンテンツも含め、「最近のコンテンツのほとんどが音声コンテンツ化している」という仮説を立てています。
──どういうことですか?
冨山:テレビの中心は少し前まで、ひな壇に大人数が並ぶようなバラエティー番組でしたが、近年はスタジオで数人でトークする番組が増えました。例えば、テレビ朝日の「バラバラ大作戦」が顕著ですが、2〜3人でのスタジオトークがメインです。
テレビ東京の「あちこちオードリー」など、じっくりとゲストの話を聞く番組となると、ラジオのゲストトークやYouTubeのコラボトークなどと差異がなくなっていると思います。僕は「TVer」や「YouTube」を音だけ聴いていることも多いです(笑)。
──テレビ番組なのに(笑)。でも、それでも十分楽しめるという。
冨山:YouTubeの生配信も、1人ないし少人数でカメラに向かってしゃべるスタイルが多いですが、そうなるとほとんどラジオブースでしゃべっているのと変わりません。雑談するだけの配信など特にそう。
一方、「オールナイトニッポンX(クロス)」は「smash.」で、「オールナイトニッポン0(ZERO)」は「HAKUNA Live」で映像を同時生配信しています。つまり、テレビもYouTubeもラジオも、アウトプット先が違うだけでコンテンツ制作の方法論は均一化しつつあるんです。
──なるほど……。
冨山:各コンテンツが音声コンテンツ化しつつあるのであれば、圧倒的に面白いのはラジオだと僕は思います。オールナイトニッポンであれば55年間、生配信の音声コンテンツを作り続けているわけですからね。
BtoBからBtoCへの転換期? 各放送局が新しいビジネスモデルを模索中
──2022年6月にはオールナイトニッポンのアーカイブが聴けるサブスクリプション型サービス「オールナイトニッポンJAM」がリリースされました。このタイミングでサービスを開始した理由を教えてください。
冨山:背景にあるのは、広告を主体としたビジネスモデルからの転換です。これまでの民放ラジオは、スポンサーからお金をいただいてリスナーに還元するという、BtoBのビジネスモデルでした。
ただ、ラジオ業界全体の広告の売り上げは右肩下がりです。さらにコロナ禍でテーマパークやショッピングモールなど、外出を促すような広告が打てなくなってしまった。BtoCの領域に打って出るアイデア自体は以前からありましたが、それがコロナ禍で加速したという形です。ラジオイベントやグッズ制作もその流れの一つですね。
「オールナイトニッポンJAM」で配信されているラインアップの一部
──イベントがオンライン配信できるようになった影響は大きそうですね。
冨山:象徴的なのは、2021年1月に東京国際フォーラムで開催を予定していた『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』のイベント『リスナー大感謝祭2021~fanfare~』です。
感染拡大によって中止になりましたが、同じ時間帯に急きょニッポン放送のスタジオから生配信のオンラインイベントに切り替えたところ、約1万7,000人が見てくれました。これだけの人が集まるだなんて、もうびっくりですよ。
──東京国際フォーラムは約5,000席ですから、1万7,000人は3倍以上ですね。すごい数……!
冨山:『あの夜を覚えてる』というリアルタイムの生配信演劇も、コロナ禍でなければあり得なかったと思います。ニッポン放送を舞台に、お客さんの来場が一切ない中で生配信をした結果、約2万3,000人が視聴してくれました。
そうやって番組周辺のコンテンツ量が増えたことで、番組制作チーム以外にもイベントチームやSNSキャンペーンのチームなど、オールナイトニッポンにひもづくチームは増えています。
「今のラジオがどう楽しまれているか」を身をもって知る20代への期待
──ここまでラジオ業界の変化を聞いてきましたが、ラジオ局で働く人の変化はありますか?
冨山:今の20代の社員はものすごくラジオを聴いていますね。そこは大きく変わりました。これまではマスコミや大企業志望の人が入社することも多く、必ずしもラジオ局を第一希望に入ってくるというわけではなかったと思います。ところが、今の若手は他にいくらでも良い企業がある中で、わざわざニッポン放送に入ってくる。
それだけラジオが好きなわけで、ラジオに対する理解度は非常に高いです。営業のタイアップ企画やグッズ制作なども「筋」がいいアイデアを出してくる。翌朝に若手社員と昨晩のラジオ番組について話す機会も増えた感じがします。
──自身がリスナーだったからこその強みですね。
冨山:やはり「今のラジオがどう楽しまれているか」を実感として理解できるのは大きいです。
僕は40代ですが、radikoやSNSでのラジオの楽しみ方を本当の意味で理解するのは、僕より上の世代では難しいところがあります。新聞の「ラテ欄」を見ていた世代とSNSで情報を得ている世代では、やはり感覚が違いますから。
そもそも今の若い人たちは、ほぼテレビやラジオに触れていません。僕の子どもは小学生ですけど、見事にYouTubeばかり。中にはオールナイトニッポンをYouTube番組だと思っている中高生もいるんですよ。ラジオ番組自体を知らないんです。
──ええっ!?
冨山:例えばお笑い芸人やアーティストのファンが、Wikipediaでオールナイトニッポンの存在を知り、ネットを通じていろいろな方法でコンテンツにたどり着く。そして、聴いているうちにラジオで生放送をしていることを知る。その結果、radikoで番組を聴くようになった……というような人が一定数いるんです。
──驚きました。本来の順番と真逆で、最終的にたどり着くのが正規のラジオ番組だなんて……。
冨山:結局、スマホ以外でラジオを聴いたことがある若い人はほとんどいないのだと思います。アンテナを立てて電波を受信してラジオを聴いた経験がない。そういう世代と同じ視点に立てるという意味で、今のラジオ業界は若手が活躍できるチャンスがたくさんあります。
オールナイトニッポンも僕がディレクターだったころは30代半ばのスタッフが中心でしたが、今はほぼ20代。radikoのリスナーのボリュームゾーンは20代ですから、リスナーに近い感性で、リスナーが聴きたいものを作る方がいいと思っています。
ラジオは圧倒的に場数が踏める。そして、好きなものを仕事につなげられる
──就活でメディア業界を志望する学生は多いですが、ラジオならではの魅力はどこにあると思いますか?
冨山:大きく二つあります。一つはタッチポイントの多さ。僕は新卒で日本放送協会に入りましたが、テレビは基本的に大人数で作ります。テレビ制作の場合、3カ月取材をして30分番組を作ることもあり、しっかりした完成品を世の中に出すイメージです。
一方、ラジオは最小限の人数で、毎日生放送をしています。僕がニッポン放送に転職した当初、ADとして2時間の生放送番組を週6日、さらに録音番組を12本持っていました。
──恐ろしい……テレビとの差がすごいです(笑)。
冨山:だいぶ目まぐるしいですよね。他のメディアに比べて場数が多く踏めるのは間違いありません。もう一つは、好きなものが仕事に直結しやすいことです。僕は本が好きなので、小説家の朝井リョウさんと歌人で小説家の加藤千恵さんにパーソナリティをお願いしたり、大学生のときに聴いていたバンドNUMBER GIRLの特別番組を作ったりしました。
特にNUMBER GIRLは2002年に解散してしまったので一生仕事をすることはないと思っていたのですが、2019年に復活して(※)。2022年9月に一夜限りで『NUMBER GIRLのオールナイトニッポン』を実現できました。
(※)……2022年12月11日(日) に再び解散
──それは思い入れが強そうですね。
冨山:他にも自分が好きな『新世紀エヴァンゲリオン』の映画公開に合わせて『シン・エヴァンゲリオンのオールナイトニッポン』という特番をやったことがあります。この1年でも映画『呪術廻戦 0』『ONE PIECE FILM RED』、ゲーム『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』などと連動したオールナイトニッポンの特番を実施しています。
ラジオなら「映画」「アニメ」「ゲーム」など人気のIPコンテンツともすぐに連動ができる。フットワークが軽く、かつダイナミックさがあるのはラジオの魅力ですね。本当に面白い仕事ですよ。
「エンタメをつくる」ベースはどのジャンルもほぼ同じ。やりたいことをかなえる道は一つじゃない
──今後、ラジオ業界はどう変化していくと思いますか?
冨山:ラジオはパーソナリティがリスナーに向かって語りかけ、それに対してリスナーがメールやハガキ、SNSで反応し、一緒に楽しむものです。そのベース自体はずっと同じですし、これからも変わらないでしょう。
──考えてみれば「生放送を聴いている人がリアクションをする」というラジオの構造は、SNSやYouTubeの生配信と同じですね。親和性が高い分、さまざまな展開が考えられそうです。
冨山:そうですね。固定観念に囚われず、出演者のバリューや制作スタイルなど、55年間積み上げてきたオールナイトニッポンの老舗の味と、さまざまなガジェットやメディアなどの新しい味を組み合わせていきたいです。
──最後に、コロナ禍で就活をする学生へメッセージをお願いします。
冨山:今の時代は極論、ラジオ局に入らなくてもYouTubeの生配信やポッドキャストでラジオ番組に近いものが作れます。さらに、コンテンツという括りで考えれば、究極的には「エンタメをつくる」というベース自体はどのジャンルでもほぼ同じです。
佐久間宣行さんの例が分かりやすいですよね。テレビ東京からキャリアが始まり、現在はラジオパーソナリティにYouTubeチャネル、Netflixでの番組制作など、ボーダレスに活躍しています。
──ラジオやテレビなどのコンテンツの種類に関わらず、どの業界に入っても自分のやりたいことに近づく方法がありそうですね。
冨山:実は僕、就活をしていたころはフジテレビの『めちゃ×2イケてるッ!(以下、『めちゃイケ』)』の制作がしたかったんです。
結果的にフジテレビとは縁がなかったですが、ニッポン放送でイベントの部署にいるときに『ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン歌謡祭』という、当時ナインティナインの岡村さんの番組が年に1回、横浜アリーナで開催する番組イベントを担当し、岡村さんと毎週、生放送前にイベントで挑戦する企画などを打ち合わせしていました。
『めちゃイケ』のディレクターにはなれなかったけど、「岡村さんと一緒にクリエイティブなことをする」という目標は達成できたわけです。今もナインティナインのお二人と生放送で毎週顔を合わせるのは感慨深いですよ。
──別の形で夢をかなえたと……ちょっと感動しちゃいました。
冨山:『エヴァンゲリオン』もそうです。仕事で関わるなら、角川書店かアニメ会社に入るしかないと思っていたけど、なんとラジオでご一緒できた。つまり、やりたいことをかなえる道は一つではありません。目標をしっかり持っていれば、いつか思わぬかたちで縁が巡ってくることもあるのだと思います。
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