「真に賢い人は、理系的に考え、文系的に表現できる」
1冊の本で出会ったフレーズ。とても印象的だった。確かにビジネスの世界でも、仕事のできる人ほど、「論理的に考え、文学的に表現できる人が多い」と感じる。
そこで今回、ワンキャリアでは、大学院時代に「爆薬」を研究し、あえて新卒で電通に入った新進気鋭のCMプランナー・山本友和氏へのインタビューを敢行した。
「電通は理系の会社になってきた」発言から、ヒットCMの裏側まで、インタビューの全貌をお伝えしていきたい。
山本友和:CMプランナー、コピーライター。大学院で爆薬を研究後、なぜか電通に入社。主な仕事に、ダイハツ「WAKE兄弟」、キリン「淡麗侍」、午後の紅茶「オール・マイ・ティー」、カゴメ「高性能爆薬でつくる野菜ジュース」。TCC最高新人賞、ACCシルバー、広告電通賞最優秀賞、毎日広告賞最高賞など多数。
変貌する電通、理系出身が増加している
——私が新卒市場全体を見ていて感じるのが、「電通の採用戦略の変化」です。我々の調査では、「電通内定者に占める理系学生の割合が、半数に上る」という声も届いています。こういう声が上がること自体、数年前には考えられませんでした。山本さんは「電通は、理系が活躍できる場になってきた」と感じますか?
山本:「理系の会社になってきた」と思います。私は大学院時代に「爆薬」を研究していたのですが、業務の進め方に院生時代と非常に近いものがあると感じます。研究も広告も、制約の中で仮説をベースに業務を進めていく点です。
CMは「思いつき」で、生まれていない
——そうですよね、よくある勘違いの1つに「広告って、なんとなくの思いつきで作られてそう」というものがあります。私は、本当に賢い人の1つのパターンって「アホっぽいことをしているけど、実はめちゃくちゃ考え抜いている人」だと感じます。山本さんのCM、例えばダイハツ「WAKE」も、パッと見ただけだと「なんか思いつきで考えてそうだな」と感じる人もいそうですよね(笑)。
山本:そうなんです(笑)。私はよく「小5が考えそうなことが得意」と言われます。
——小5ですか(笑)。でも本当は考え抜いてますよね? きっと。
山本:もちろんです。例えば、ダイハツのWAKE(ウェイク)のCMには「あんちゃん」という玉山鉄二さんが演じるキャラクターが出てきます。一見すると「なんとなく生まれたキャラっぽい」のですが、徹底して考え抜き生まれています。
20枚の設計図「クリエーティブの憲法」の有効性
——愛されキャラですよね、僕も好きです(笑)。
山本:ありがとうございます。作成した際、クライアントに20枚くらいの「設計図」を作ってディスカッションをしました。これは「あんちゃん」が普段どんな生活をしていて、どんなことを考え、何を食べるのかまで書かれている「キャラクターの設計図」です。例えば、彼は服にワッペンをつけた方がいいか? というレベルの詳細まで決めます。憲法みたいなものです。
——「クリエーティブの憲法」だと。その効用はどこにあるのでしょうか?
山本:憲法を作るメリットは、クライアントとの共通の議論ができるようになることです。 WAKEの例だと、このキャラクターは「こういう言葉、使うよね?」とか「反対にこういうことは言わないよね?」とかを議論できます。
「クリエーティブの憲法」で、メッセージを逆算し絞り込む
——理系的にいうと、基礎研究に基づいて「共通言語ができる」ということですね。この点、理系の研究と広告は似ています。一方で、両者の違いは「1つしか言えないこと」だと感じます。
研究論文は、言いたいことを割とたくさん言える。でもCMは15秒か、30秒しかない。クライアントが「言いたいことがたくさんある」となったときはどうされているのでしょうか。
山本:私はいつも、「読後感」の話をします。見終わった後にどういう気持ちになるか、そこから逆算してメッセージを絞り込みます。
例えばWAKEなら、「愛される車にしたい」。あとは、構造と仕掛けを考え、メッセージを作り込んでいきます。
・読後感:受け手が、どう感じるかを指す
・構造:表現する方法を指す。擬人化、対比、ストレートトークなど
・仕掛け:自分ごと化させる仕掛け。ギャグ、好きなタレントなど
「パンティー」CMの誕生秘話
——フレームに基づき、優先度をつけていくわけですね。山本さんの「小5っぽさ」でいうと、他にも午後の紅茶の「パンティー」の CMも衝撃的です(笑)。
山本:CMで「パンティー」は言ってないんですけどね(笑)。午後の紅茶のCMを作った時、クライアントは「どんな食事にも合う無糖ですっきりとした味」を訴求したいと要望されていたので、他の紅茶というよりも緑茶やミネラルウォーターを購入する層にPRする必要がありました。
どうやったらお茶や水と差別化できるか考えて、ひねり出したアイデアのとっかかりが、「パンと紅茶で『パンティー』」というだじゃれでした(笑)。
出演タレントは松本潤さんになり、最終的には松本さんがパンティーと言おうとする人をとがめる部分がCMのフックになりました。このCMによって以前よりも高いブランド認知を達成しましたし、売り上げにも貢献しました。
電通は特殊な経験をしてきたマイノリティが活躍できる。理文も問わない
——多くの人に読んでもらうためには、アウトプットから逆算するということも大事なわけですね。
もう1つ「電通の理系化」を語る上で、どうしても論じざるを得ないのが、「メディアの変化」です。ネット広告は成果が定量的に見えるので、仮説検証を繰り返しやすくなる環境となりました。
山本:それに加えて、考えるべき要素が増えてきたというのもあります。以前は日本における広告=テレビCMでした。でも今はデジタル、特にパソコンやスマホに割く時間が多い。拡散の仕方も多様です。例えば「人に共有したい」と思った時、SNSを使って拡散する人もいれば、近くにいる友人にスマホの画面を物理的に見せる人もいます。最終的なアウトプットを考える際は「近くにいる友人にスマホでシェアしてくれるかな?」というところまで考え尽くします。
——なるほど、考えるべき「変数」が増えてきたと。メディアの変化に応じて電通で活躍されている方も変わってきていますか?
山本:変わってきた部分と、変わらない部分があると思います。電通は特殊な経験をしてきたマイノリティが活躍できる領域です。例えば、私は熊本出身なのですが、地方で研究していた経験が今、すごく生きていると感じます。「高性能爆薬でつくる野菜ジュースのCM」もその経験が生きています。この技術は熊本大学が開発し、野菜の外見や表皮はそのままで、中身だけ液状化できる爆薬です。私は大学時代にまさにこの高性能爆薬を研究していました。マイノリティが活躍できるという意味では、今も昔も変わらないと思いますが、その形が変わってきたと思います。
クリエーティブは感性が消費者に近い若い人こそ勝てる領域
——確かにクリエーティブ領域の面白いポイントは、「若い人が勝てる数少ない領域」だからだと思います。例えば、今から商社を立ち上げようと思っても、誰も財閥系商社に勝てないですよね? ですが、コンテンツは若い人こそ勝てる可能性がある。感性が消費者に近いからです。
山本:私もそう思います。「WAKE」の時も「トマトの爆破」の時も、常に先輩方にぼろぼろに言われました。「車が走らないCMとか、ありえない」とか。でも、時にはその人たちの尺度と世の中の尺度が全然違ったりしていて、それは認知度の向上や、売り上げの上昇などで現れてきます。世の中の感情を補正していく感じでしょうか。若い人にもっと勇気を持ってほしいと感じます。
——先ほどの「捨てる」にも似ていますが、高学歴な人ほど「不安だから、あれもこれも言いたい癖」があると思います。論理的に100%ではないことを言うには、ある部分を捨てる勇気が必要ですよね。
最後に就活生に対して何かメッセージはありますか?
山本:私が就活していて心掛けていたのは「相手のフィールドで話をせず、なんでも自分のフィールドで話をすること」でした。理系院生なら、無理に広告や文系的なフィールドの話をせずに自分の研究の話を面白おかしく話した方がいい。自分の経験にないもの、聞きかじったこととかは話さない方がいいと思います。
——ありがとうございました。
編集後記:クリエーティブは理系も活躍できる場に変化しつつある
クリエーティブというと感性や発想といった「文系職」のイメージを持つ学生も多いかもしれない。しかし、今回の山本さんのお話で、理系にも理系なりの活躍方法があると気づいたのではないだろうか。
さらに、WEBメデイアの成果は定量的に見えるために、数字に強い理系が重宝される余地はさらに増えると予測できる。種々な方法で収集されたデータをどう読み解き、どうクリエーティブへつなげるのかというところは、論理的に考え、「分かりやすく表現できる人物」こそ輝ける領域だといえるかもしれない。
クリエーティブに文理は関係ない。マイノリティ、彼らが持つ共通点を1つだけ挙げるならそれは「好奇心」だ。