本当は言いたいことがあったけど、発言内容を評価されるのが不安で言えなかった。
本当は聞きたいことがあったけど、ズレた質問をするのが怖くて聞けなかった。
説明会や面接の場で、そのような経験をしたことはありませんか?
就活生の最大の関心ごとといえば、やはり自分が行きたい企業から内定をもらうこと。「選んでもらいたい」という一心で、ホンネを隠してしまうのは自然なことかもしれません。
ですが、その気持ちは人事だって一緒。学生に悪い印象を与えないよう、都合の悪いことは隠してしまうこともあるかもしれません。
学生と人事がホンネで話せる場を作りたい。そんな思いで、ワンキャリアと立教大学キャリアセンターが協力し、「リアルな学生の声に向き合う」をテーマにしたイベントを企画しました。
当日は、人事に声を届けたいという1人の学生、そして学生に向き合うために頑張っている三井物産・電通国際情報サービス(ISID)の人事の話を聞きに、300人もの人事が集まりました。
このイベントは人事向けに開催されたものですが、学生の皆さんが人事の思いや新しい取り組みを知ることで、きっと就活を進めるヒントになると思っています。
<目次>
●学生にホンネで話してもらいたい。三井物産が導入したのは「匿名質問アプリ」
●受けにきた学生は、みんなOpenWorkを見ていた
●説明会ではWebにある情報は不要。リアルならではの価値を提供できているか?
●学生から人事に伝えたいこと。私たちは「リアル」を知りたい
●「学生や社員に向き合わなければ、採用がうまくいかない時代」がやってきた
学生にホンネで話してもらいたい。三井物産が導入したのは「匿名質問アプリ」
イベントでは、立教大学キャリアセンターの林 良知さんがモデレーターとなり、立教大学4年生の山本 奈々さん、三井物産の人事・古川 智章さん、ISIDの人事・今西 裕之さんでパネルディスカッションを実施しました。
学生と人事がホンネでぶつかり合い、納得のいくマッチングが生まれるためにはどうすれば良いのか。就活を終えた山本さんと、採用の新たな形を模索する2社の古川さん、今西さんの間で対話がなされました。
林(立教大):実際のところ、就職活動において、学生は企業に対してホンネを言えているのでしょうか?
立教大学 キャリアセンター 林 良知
山本(学生):企業の方にホンネはあまり話せない、というのがリアルな温度感かなと思います。例えば説明会のアンケートでは、基本的に褒めて褒めて、最後に少しだけ、もう少しこういう話も聞きたかったと書く。私自身もそうですし、周りと話してもこういう人が多いと感じています。質問をしてもぼかした回答をされることが多く、学生がホンネをぶつけても、企業はなかなかホンネで返してくれないという印象を持っています。
立教大学経営学部経営学科4年 山本奈々
林(立教大):三井物産では、学生にホンネで話してもらうためにどんな工夫をしていますか?
古川(三井物産):当社は説明会などで、参加者からの質問を匿名で集められるアプリを使っています。そのおかげで直接では聞きにくいような質問も、拾えているのかなと思います。もちろん答えにくい質問もありますが、その回答によって「自分には合わないかもしれないな」と学生さんに思われてしまうのは、むしろ良いことなのかなと考えています。「入社してみたら、思っていたのと違った」というミスマッチが一番怖いですから。また、採用の場では「名前を覚えられているかもしれない」と思われないよう、学生さんに名札をつけてもらうことはありません。加えて、社員も肩書が見えないように名札を外し、お互いに話しやすい環境を作ろうとしています。
三井物産株式会社 人事総務部 人材開発室 室長 古川 智章
受けにきた学生は、みんなOpenWorkを見ていた
林(立教大):ISIDでは、どんな取り組みをしていますか?
今西(ISID):当社では、採用現場に出る社員に「嘘(うそ)をつかず、ホンネで話してほしい」と伝えています。質問されれば、会社の悪いことも正直に話します。「悪い点もある、にもかかわらず働き続けている魅力」に、学生さんが自然に目を向けてくれるようになってきたと思います。オープンに伝えるという姿勢を大切にするようになってからは、聞きにくいことも含めて聞いてもらえるようになってきました。
林(立教大):なぜ都合の悪いことも含めて、正直に話すのでしょうか?
今西(ISID):嘘をついてもバレるからです。以前、学生さんに「就活の情報収集で何を使っていますか?」と聞いたことがあるのですが、みんなOpenWorkを見ると答えました。われわれが言ったことが本当かどうか、自分で確認する術(すべ)を持っていて、事実と違うことを言うとむしろエンゲージメントが下がってしまいます。
株式会社電通国際情報サービス 管理本部 人事部 採用グループ 今西 裕之
山本(学生):私も残業時間や待遇など、直接聞きづらいことはOpenWorkで調べていましたね。他にも、「仕事でミスをした時はどうなりますか?」と社員の方に聞いても、「みんなフォローしてくれるよ」くらいしか言ってくれないので、組織文化のこともクチコミで調べていました。
林(立教大):確かにOpenWorkを見て「ミスをしたら激しく詰められる、ミスが許されない会社」など書いてあると、すぐに嘘だとわかってしまいますね。
説明会ではWebにある情報は不要。リアルならではの価値を提供できているか?
林(立教大):SNSやクチコミサイトなど、学生の情報収集の手段が増えている中で、会社説明会とはどういう立ち位置になるのでしょうか?
山本(学生):もはや、説明会は学生に「スタンプラリー」だと思われています。わざわざ聞きに言ったのに、Web上にあるような情報ばかり説明されることが多いので、とりあえず出席することに重きを置いていました。
林(立教大):説明会は面白くないと言われることが多いですよね。古川さんと今西さんは、学生に興味を持ってもらうために、どのような工夫をされていますか?
古川(三井物産):当社では、採用ページを見れば分かるような会社の基礎情報は話しません。社員が三井物産に入ってから経験してきたこと、良いことや不満に思っていることなどを話しています。珍しいものだと、配属希望がどの程度通るのかといったデータも出していますよ。結果的に、ワンキャリアのクチコミでも高く評価いただいていますね。
今西(ISID):今の学生さんは情報収集能力が高いので、山本さんがおっしゃる通り、Web上で得られないものがなければわざわざ足を運んではくれません。そこで当社の採用イベントでは、現場社員との接点を作ることに重きを置いています。説明会でもインターンでも座談会でも、毎回異なる現場社員に出てもらい、それぞれ好きなことを話してもらっています。こうなると、学生さんに「スタンプラリー」とは思われません。
学生から人事に伝えたいこと。私たちは「リアル」を知りたい
林(立教大):この会場には、学生の声を聞きたいという人事の皆さんが集まっています。最後に、学生の声に向き合うために、まず人事がすべきことを教えてください。
山本(学生):私はとにかくリアルな情報を知りたい、と思っています。良いところだけでなく、悪いところも包み隠さずお話しいただけると信頼できますし、働くイメージをより具体的に持つことができると思います。
今西(ISID):2つあります。1つ目はとにかく自社の情報をオープンにすることです。嘘をつくことなく、ギブ&ギブの精神を持って自社のリアルを学生さんに伝えてください。2つ目は、「私たちもあなたのことを知りたい」という姿勢をとることです。時代はどんどん変わりますから、今の学生さんが何を考えているのか、本人たちに教えてもらうことが一番大切だと思います。
古川(三井物産):新卒採用は若い社員に任せ、自由にやってもらうのがいいでしょう。当社の採用チームは20代の社員が中心ですが、学生さんと年齢や立場が近いからこそ分かることがあると思っています。それに学生は採用チームを見て会社を判断しますから、エース級の若手が表に出ることで入社後に活躍するイメージを持ってもらえれば、採用力の向上につながるでしょう。
「学生や社員に向き合わなければ、採用がうまくいかない時代」がやってきた
イベントでは、ワンキャリアで取締役を務める北野も講演を行いました。実は、企業が学生に本気で向き合うようになったのは、社会に大きな変化が起こっているから。時代の変化に適応し、「採用に強い会社」になるにはどうすれば良いのか、会場の人事に向けて熱弁を振るいました。
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近年、有効求人倍率は上がり続けており、2018年は1.61倍(※1)と、1975年以来の極めて高い数値になっています。採用マーケットでは学生が優位になりやすい環境と言えます。
さらに、2018年の総務省の統計(※2)では、20〜24歳の世代の人数が633万人であるのに対し、4歳以下の人口は484万人。20年後には、新卒採用のターゲットが現在より約20%減ってしまうのです。つまりこれから先、企業にとって「新卒採用の状況が自然に良くなる」とは考えにくいでしょう。
そんな状況でも、変わらず人が集まりやすい会社になるための条件として、北野は「卒業生たちも活躍する会社」「居場所と役割がある会社」「生き方改革を行った会社」の3つを挙げました。
これらは一見すると、社風や制度の話であり、採用とは関係がなさそうに思うかもしれません。その背景として、北野は「単なる認知率向上だけでは、採用がうまくいかなくなってきたため」だと指摘します。
これまで、学生が知ることができる情報の多くは、企業が発信するものだけでした。一方で、昨今はSNSやクチコミサイトの台頭により、学生は多様な情報収集の手段を持つようになりました。
それによって、たとえ有名企業でも「面接の評判が良くない」「社員の働きがいがない」といった評判が可視化され、採用現場で取りつくろうだけでは良い人材を集められなくなりつつあります。
だからこそ、採用を成功させるには、企業が学生や社員の声に真摯(しんし)に耳を傾け、そして「事業の方向性」と「働く人の方向性」を一致させるべきだと北野は言います。
株式会社ワンキャリア 最高戦略責任者 北野 唯我
採用に強い会社の1つ目の条件は、「卒業生が活躍すること」。最近では、メガバンクや総合商社をはじめとして退社した人=卒業生(アルムナイ)のコミュニティを作る企業も増えてきています。
学生のキャリア観が転職前提へと変化してきている今、「あの会社に行くと活躍できる人材になれる』」というイメージが採用において有利になります。「退職者=裏切り者」という考えはもう昔のもの。今では「卒業生=最大のPRパーソン」と捉え、大切に扱うことが重要だといいます。
2つ目の条件は、年齢に関わらず居場所と役割を与えられることです。森下仁丹やパソナなどの「シニア採用」の成功から分かるように、人はいくつになっても、居場所と役割を再定義すれば活躍できます。
しかし、人材育成に見切りをつけて、社員から居場所と役割を奪ってしまうような事例も少なくありません。「これは人間の尊厳を傷つけてしまう、最もやってはいけない行為だ」と北野は警告します。
そして、最後に挙げた条件は「働き方改革を、生き方改革に落とし込むこと」です。昨今、多くの企業が「働き方改革」に注力していますが、その目的は生産性を上げること。あくまでも会社視点の発想です。
例えば、「社員の残業時間を月20時間減らす」にとどまらず、その20時間を自己研鑽(けんさん)や家族との時間などに使ってもらう。このように社員に生き生きとした人生を送ってもらう部分までを設計する。それこそが生き方改革なのです。
これらの3条件を実現し、社員に良い体験をしてもらえれば、会社の評判も高まります。単に採用マーケットで認知率を高めるだけではなく、クチコミの蓄積を通じてブランドを打ち立てること。これが採用を強化する最善の方法であるとして、北野は講演を締めくくりました。
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企業と学生がホンネで向き合えば、双方が幸せになる出会いが生まれる──そうは理解していながらも、現実はお互いが嘘をついてしまっている。しかし、社会の変化によって「企業が学生を一方的に選ぶ」というスタイルは、時代に合わなくなりつつあります。企業側もそれに気付きつつあるからこそ、このイベントに300人もの人事が集まったのだとワンキャリアは考えています。
企業側も変わりつつある今、学生の皆さんも「本気で自分と向き合ってくれる会社」を探してみませんか。その先に、納得のいく就職先を見つけられるよう、これからもワンキャリアは皆さんのキャリア作りをサポートしていきます。
(※1)出典:PSRnetwork「2018(平成30)年の有効求人倍率1.61倍 完全失業率は2.4%」
(※2)出典:総務省統計局「人口推計(2018年(平成30年)10月1日現在)‐全国:年齢(各歳),男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級),男女別人口‐」