コンサルタントのコモディティ化。コンサル業界を志望する学生の中には、この言葉を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。
コンサル市場の規模拡大に伴い、業界全体の採用人数は右肩上がりです。結果的にコンサルタントの人数はこの数年で急増しており、「労働市場でのコンサルタントの価値は下がりつつある」との見方も出ています。「コンサルは尖(とが)った人材が行く場所」というのは、過去の話なのかもしれません。
こうした状況下で、ドイツ発祥のコンサルティングファーム、ローランド・ベルガーは100人の組織規模を貫いています。40〜50人を抱える部門が多数存在する他のファームと比べると、少数精鋭と言えるでしょう。
日々、100人の仲間と切磋琢磨(せっさたくま)する。組織の熱量なら他のファームには負けません──。
そう語るのは、プリンシパルの徳本直紀さん。大学時代はバイオエタノールの研究をしていた彼は、新卒入社から半年後に、クライアントに事業撤退を迫るプレゼンを担当。若いうちから熱い思いをぶつける場を手に入れ、「尖ったコンサルタント」へと成長していきました。
今回はコンサルタントのコモディティ化が進む業界で成長するヒントを、徳本さんとともに探ります。
<目次>
●クライアントだけを見る戦略コンサルはもう終わり。消費者と対話し、業界を変え続けろ
●痛みを伴う覚悟はあるか。「絵に描いた餅」しか作れないコンサルにならない方法
●入社半年後に事業撤退のプレゼンを経験させる。熱い思いを持つ若手を資料作りだけで終わらせない
●ハードワークは過去の話。21時までオフィスにいると「今日は遅いね」
●組織からはみ出してしまうくらいがちょうど良い。求めるのは「尖った生意気」な学生
クライアントだけを見る戦略コンサルはもう終わり。消費者と対話し、業界を変え続けろ
徳本 直紀(とくもと なおき):ローランド・ベルガー プリンシパル。京都大学大学院農学研究科修士課程終了後、ローランド・ベルガー入社。自動車、ヘルスケア分野を中心に、全社戦略、M&A/PMI、デジタル化、オペレーション改革を担当している。
──徳本さんは自動車業界のプロジェクトに長く携わってきたと聞いています。現在、業界が直面する課題や展望を教えていただけますか?
徳本:自動車業界はこの10年でビジネス環境が大きく変化しています。かつて自動車メーカーにとって最も重要だったのは販売台数でした。「いかに良い部品を安く調達して、早く製品を作って、多くディーラーに販売してもらうか」を同業者で競い合っていました。
しかし、現在はUberなどに代表されるように、移動を単なる手段ではなくサービスと捉えた、新たなビジネスが生まれています。つまり、「エンドユーザーにいかに便利な移動を提供できるか」が鍵になっているのです。
今、自動車メーカーが一番恐れているのは、カーシェアリングサービスです。メーカーとエンドユーザーの間にカーシェアリング事業者が現れ、従来のバリューチェーンが通用しなくなっているのです。競争原理自体が、「エンドユーザーの情報を素早くキャッチし、利便性の高いソリューションを提供できる事業者が勝つ」というものに変わってきたということです。
──自動車メーカーはエンドユーザーの情報に詳しくないのでしょうか?
徳本:エンドユーザーを理解する、ということは自動車業界だけではなく、製造業全般に共通する課題です。特にBtoBの領域では、直接の取引先のことしか知らない企業や、QCD(Quality、Cost、Delivery)の磨き込みだけでビジネスをしてきた企業も多いのが事実です。そういう企業は、ユーザーの趣味嗜好(しこう)がどのように変化してきているのかをよく理解していない傾向にあります。そういう時は、われわれコンサルタントがエンドユーザーの声を集め、企業に提示することで戦い方の変革を促す必要があります。
──確かに、トヨタ自動車が静岡にコネクティッド・シティ建設を計画するなど、自動車メーカー各社は事業環境の変化に適応するために努力していますよね。しかし、大企業がこれまでの常識を否定してビジネスを転換させるのは、なかなか難しいのではないでしょうか。
徳本:はい、大企業がトランスフォーメーションを実現するのは簡単ではありません。
大企業によくある課題が、「意思決定に到るまでの階層が多い」ということと、「合意形成に向けて巻き込まないといけないステークホルダーが多い」ということです。
私は入社2年目の時にあるメーカーに常駐し、新規ビジネスを担う子会社設立のプロジェクトに関わっていましたが、戦略策定から会社設立まで、最終的に2年かかりました。2年も経つとビジネス環境が変化してしまいますし、その頃にはすっかり周回遅れのビジネスになっていまいますよね(笑)。
このように、既存の考え方や意思決定方法で時代に対応するのが難しいからこそ、私たちコンサルティングファームは事業内容のみならず、ビジネスの枠組みにまで踏み込んで提案するようになってきています。
──ということは、私たちが「コンサルティング」と聞いてイメージをする仕事内容も変化してきているということでしょうか? 戦略コンサルと聞くと、例えばどこの国に進出しようといった事業戦略を担うイメージですが。
徳本:そうですね。戦略を描くだけではなく、一緒にビジネスをする相手を見つける、あるいは私たちも事業に共同参画するなど、ソリューションの幅は広がっています。逆にいうと、学生の皆さんがイメージするような戦略案件は、コンサルティングファーム間での差別化が難しくなってきていますね。
それに、最近は戦略系ファームが得意としていた領域に、総合系ファームも乗り込んでくるようになりました。ローランド・ベルガーは社員数100人程度と総合系ファームと比べて規模が大きくないため、同じことをしていては勝てません。だからこそ、クライアントの一歩先を行く提案をしたり、プランを描いて終わりではなく実行支援まで行ったりと、提案の質で勝負しています。
痛みを伴う覚悟はあるか。「絵に描いた餅」しか作れないコンサルにならない方法
──コンサル業界を志望する学生からは、ファームの違いが分からない、どのファームが自分に合うのか分からないという声も聞きます。ここからはそのような学生のために、ローランド・ベルガーならではの特徴をお聞きします。
高度なビジネス戦略は実行につながりにくく「絵に描いた餅」になりがちとも言われますが、御社はクライアントが実際に「動く戦略」を大切にしていると聞いています。それは具体的にどういうものなのでしょうか?
徳本:「動く戦略」とは、クライアントの実情を理解したうえで提案をするということです。私たちは、クライアントの組織の力量を見極めた上で、実現できるような戦略を描くことが重要だと考えています。例えば中小企業に対して、「御社に必要なのは、GAFA(※)のようなプラットフォーマーになることです」と言っても仕方がありませんよね。きっと「面白い提案ですね」と言われるだけで、実行されずに終わるでしょう。
逆に、社長から「痛みを伴ってでも会社を変えたい」といった相談をいただいた場合は、「M&Aで組織の血を入れ替えましょう」といった思い切った提案をします。時には、私たちがいなくなった後でもプロジェクトを回せるよう、クライアントのコア人材育成まで行うこともあります。
(※)……米国のGoogle、Amazon、Facebook、Appleの4社のことをいう
──「クライアントが実行しやすい提案」「実行できる組織づくり」にこだわっているんですね。また、ローランド・ベルガーはスタートアップとの協業も盛んだと聞いています。
徳本:スタートアップと組んでいる理由は、彼らがコンサルとは異質な能力を持っているからです。例えば、私たちは「アスタミューゼ」という会社と協業しているのですが、彼らは特許・論文・ファンディングなど世界80カ国、1億件を超える「イノベーションデータベース」を持っています。彼らのデータベースを使うことで、特許を持つクライアントに対し、クライアント自身も想像していなかった分野への参入を提案できます。
こうすることでソリューションの幅は広がりますし、プロジェクト受注段階で一緒にチームを組み、企業に提案することもあります。
──御社は「アントレプレナーシップ」を掲げていますが、徳本さんはこの言葉をどのような意味だと捉えていますか?
徳本:直訳すると企業家精神ですが、私は「プロフェッショナリズム」だと捉えています。ローランド・ベルガーでは、上から降ってくる仕事を待っているようなスタンスは好まれません。自分でゴールを決める。他責にしない。自分で感じたこと、思ったこと、考えたことを、自分でリスクを取ってでもお客様に伝えることが重要です。
だからこそ、「こういうプロジェクトがやりたい」「こういう提案がしたい」という希望に、社内からNOと言われることはほとんどありません。
入社半年後に事業撤退のプレゼンを経験させる。熱い思いを持つ若手を資料作りだけで終わらせない
──徳本さんが思う、「ここは他のファームに負けない」という御社の強みはなんでしょうか?
徳本:1つは「組織の熱量」ですね。多くのファームでは業界ごとに20〜50人程度のチームに分かれていますが、ローランド・ベルガーの場合は全員同じプールにいます。組織全体の人数は100人程度と少数ながら、業務で接する人数は他ファームと比較すると圧倒的に多いと思います。組織の壁もなく、さまざまな業界に強みを持つ同僚から刺激を受けて、何かしらの発見があるので、社内のエネルギー総量は高いと感じます。
──特に、若手から熱量を感じる瞬間はありますか?
徳本:うちの若手は上の人に対して忖度(そんたく)しません。年次が低くても「それは違うと思います」「ここはこうだと思います」と堂々と言える組織文化が根付いています。私もこの前、若手から「徳本さん、仕事してくださいよ!」と言われました(笑)。そういう時は「おお、ローランド・ベルガーらしいな」と思いますね。
──もし目の前に、ローランド・ベルガーと他ファームの内定を持っていて、入社先を検討している学生がいるとしたら、どうやって御社の良さを伝えますか?
徳本:もちろんその学生の志向にもよりますが、1つ言えることは若手に活躍の場があるということです。同級生で他ファームに行った人からよく聞くのは、入社1〜2年目はチャートを作るだけとか、リサーチばかりで実際にプレゼンする機会がないということです。でも、本当はチャートを作った本人が一番熱い思いを持っているんですよね。ローランド・ベルガーには、1年目でもプレゼンするチャンスがあります。
──徳本さんも入社1年目からクライアントにプレゼンをされていたのでしょうか?
徳本:入社して半年ほどで、クライアントの社長に対して事業撤退を迫るプレゼンをしたことがあります。相当綿密に準備しましたが、非常に緊張しました。そういう経験を早い段階で積めると、何事にも動じない自信がつきます。若いうちから場数を踏むことは、キャリアを高めていく上で重要だと思いますね。
──大きな仕事を若手に任せることはリスクを伴うと思います。ローランド・ベルガーはどのような考えで、若手に仕事を任せているのでしょう?
徳本:もちろんクライアントと信頼関係ができていて、リスクをとっても大丈夫だと思えるときにしか任せません。ただ、クライアントに若手を売りこみ、個人の名前で仕事をもらえるようにするというのはベテランの大切な仕事です。「次の案件では、この若手を指名してもらおう」と売り込む際には、積極的にリスクを取ります。
ハードワークは過去の話。21時までオフィスにいると「今日は遅いね」
──ここからは、学生がローランド・ベルガーに抱くイメージの真偽について聞いていきます。「自動車業界のクライアントが多い」というイメージを持つ学生は多いようですが、実際はいかがでしょうか。
徳本:弊社はドイツ発祥ということもあり、自動車業界を始めとする製造業に強いというのは事実です。しかし、製造業のプロジェクトは全体の3割前後。入社後はさまざまな業界のプロジェクトを経験できます。
やはりコンサルというキャリアのメリットは、さまざまな業界に関わる中で成長できることです。プロジェクトのアサイン期間も最大で半年までと決めており、若手にはできるだけ幅広い経験を積んでほしいと思っています。
──「ローランド・ベルガーはハードワークなのでは」という不安の声も学生から聞きました。働き方についてはいかがでしょうか?
徳本:働き方については、私もよく学生から聞かれます。ハードワークをこなしていた時期があったのは本当ですが、2012年ごろから事情は変わってきています。今は勤怠をしっかり管理していますし、土日出社はほとんどありません。リモートワークなど、フレキシブルな働き方も推進しています。残業もかなり減っていて、21時までオフィスにいると「今日は遅いね」と言われるほどです。
──やはり、働き方改革が推進されているからでしょうか?
徳本:それもありますが、業務内容自体が変わってきているのが最大の理由だと思います。昔はクライアントに「コンサルって、めちゃくちゃ働くし、何でも聞いてくれるんでしょ」と、契約のスコープに入っていないことまで頼まれることがありました。ですが今は、最初にプロジェクトのゴールや仕事の範囲を先方と握って、タスク管理をするようになっています。受け身にならずこちらから一歩先を行く提案をすることで、仕事をコントロールできるのです。
また、リサーチツールが充実してきたことも大きいですね。昔はどうしても足で情報を稼がねばならない部分が多く、そこに長い時間を費やしていました。リサーチの時間が減ったことで、働く時間は短くなり、一方で頭を使う時間を長くできている印象です。
──それほど労働環境が改善されているとは意外でした。
徳本:うちがハードワークだった頃のクチコミがWeb上に残っていることもあり、そのような誤解をされるのだと思います。先ほど「学生がイメージしている戦略案件はすでにコモディティ」という話をしましたが、学生の耳に届く情報は古くなっていることはしばしばあります。ネットの話を鵜呑(うの)みにせず、ぜひ一次情報を取りに来てください。
組織からはみ出してしまうくらいがちょうど良い。求めるのは「尖った生意気」な学生
──ローランド・ベルガーだからこそ輝けるのは、どういう人材でしょうか?
徳本:まず、コンサルタントとして活躍できるのは、自分で何かをどんどんやりたい人、誰かのために自分の力を生かしたいという人ですね。指示を待ってしまうような人や自分の成長が第一と思っている人は、たとえ頭が良くてもコンサル業界に向かないかもしれません。
そして、ローランド・ベルガーだからこそ活躍できるのは「尖っている人」です。整った組織にいるとはみ出てしまうような熱量を持った人、いい意味で生意気な人はローランド・ベルガーで活躍できると思います。
──昨今、コンサル業界の人気が高まりや採用人数の増加により、「コンサルは尖った優秀な人材が行く場所ではなくなった」という声もあります。その意見について、どう思われますか?
徳本:確かに業界全体の人数は増えていますが、他業界に比べれば今も尖った優秀な人材が集まりやすい業界だと思います。それに「最近は尖った若手が少ない」というのは、いろんな業界のお客さまから良く聞く話ですよ(笑)。
私は尖った人材を集めることよりも、「その人の尖りを見つけること」の方がずっと重要だと思っています。ローランド・ベルガーの人事評価体系は、その人の得意な領域を見つけ出して積極的に評価するというものです。若いうちに自分の得意領域を見つけたい方は、ぜひうちを受けにきてほしいです。
──では、最後に就活生に向けてメッセージをお願いします。
徳本:これから社会に出る学生は、不安定な世界に飛び込むことになります。今の時代、組織に属することで得られる安定はありません。だからこそ、自分で仲間を増やし、自分でキャリアを形成する「個の力」を高めることが重要です。その意味で、ローランド・ベルガーはぴったりの環境だと思います。個の力を高め、それをお客さまや社会のために使いたいという人をお待ちしています。
▼企業ページはこちら
ローランド・ベルガー
【ライター:yalesna/編集:辻竜太郎/カメラマン:保田敬介】