※こちらは2021年3月に公開された記事の再掲です。
新型コロナウイルスの影響もあり、説明会や面接だけでなく、グループディスカッション(GD)もオンラインで実施することが一般的になってきました。
発言が被らないように気をつけたり、相手の感情が読み取りづらかったり。また、合否の理由が分かりにくく、対策もしにくい。そんな理由から、オンラインGDに苦手意識を持つ学生は多いのではないでしょうか。
そんな中、発言量や感情値といった音声情報を使って、GDを「分析」することに挑戦している企業があるのをご存じですか? 電子部品メーカーの「村田製作所」です。
議論の様子を解析し、学生にアドバイスもしてくれる。そんなアプリを開発しているのは、もともと同社で人事をしていたという中島彰さん。「コロナ禍で苦しむ学生を助けたい」。そんな思いで開発を進めているこのアプリ、一体どのようなものなのでしょうか。
村田製作所IoT事業推進部データソリューション企画開発課 中島 彰さん(所属部署はインタビュー当時のものです)
「あなたは何%話したか、得意な振る舞いは何か?」を教えてくれる新サービス
村田製作所が開発しているGD分析アプリは、同社の音声コミュニケーション解析ツール「NAONA」の技術が使われており、「自分がいつ話したか」や「発言にどれだけ感情が乗っているか」といったデータを分析します。
「NAONAグループディスカッション(仮)アプリ」を起動し、Web会議システムで15分以上の議論をすると、GD全体を通して自分がどれだけ発言をしたか(発言比率)という数値や、発言の傾向である「コミュニケーションスタイル」を示してくれるのです。
議論を分析し、発言比率やコミュニケーションのスタイルといった情報を示してくれる
自分がどれだけ話していたかは、自分自身では振り返りづらいもの。数値を見るだけで、明らかにしゃべりすぎている人と議論に参加していない人が見えてきます。
特にコミュニケーションスタイルについては、「自己主張(ここでは発言比率)」と「言葉への感情のこもり具合」という2つの要素で人を4タイプに分ける考え方で、自身がGD内で得意とする立ち回りを教えてくれることもあり、GDでの振る舞いに悩む学生にアドバイスしやすいそう。
アプリの体験会を行ったところ、「学生からは『客観的なデータに基づいたアドバイスが役に立った』と好評です」と中島さん。性格のような変えられない部分ではなく、発言の長さなど、自力で改善できるポイントを分析するようにしているといいます。
「あの子はよかった」あいまいな評価をなくし、学生にアドバイスできる基準に
このGD分析アプリは、10年以上人事を務めていたという中島さんの経験から生まれました。もともとは自社の中途面接を使って実証実験を行う(※)など、面接用に開発を進めていたものの、新型コロナウイルスの影響で状況が一変。当時、増えつつあったオンラインGDの分析へと舵(かじ)を切ります。
もともと、NAONAが会議などの多人数での会話分析に強いツールで、GDとの相性が良かったというのもありますが、中島さん自身、採用人事をしていた時期もあり、以前からGDには課題を感じていたそうです。
「今、自分が就活生だったら『オンラインGDなんてやりたくない』って言っているはずですよ(笑)。難しいことを要求していると思っています。学生からすると、合否の基準も分かりにくいですよね。
人事が『あの人は良かったよね』『元気だったよね』という感じで合格にするのではなく、もう少し定量的な基準にして、学生にもフィードバックできないかと考えていました。人事としても、GDって見る項目は毎回同じなので、効率化できる部分があるはず。両者がWin-Winになると思いました」(中島さん)
「人事としては、GDの様子を見ているだけで人となりや地頭の良さ、議論への貢献度などは分かる」と中島さん。だからこそ、学生へのアドバイスもできるのではないか、と考えていたと言います。
(※)参考:村田製作所「『NAONA x Interview』の活用により採用面接でのコミュニケーション傾向と入社意欲の関係を分析」
GDは明るい子が通りやすい? 「NAONA」は人事の「バイアス」を排除する切り札になるか
GD分析アプリで示してくれるのは、NAONAが分析したデータだけではありません。参加学生同士が相互に評価する項目もあります。「リーダーシップ」「フォロワーシップ」「クリエイティビティ」という3つの項目を評価しますが、これはアプリを改善する中で生まれたアイデアだったと言います。
リーダーシップやフォロワーシップといった観点の採点は、学生による相互評価で行われる。「責任を持ってやり切ろうとしたメンバーは?」「本質を突いた発言をしていたメンバーは?」といった質問を基に投票する仕組みだ
「現状、このGD分析アプリでは話の長さなどの『非言語情報』は分析できますが、言語情報、つまり話の内容については分析できません。やはりGDの合否という点では、何を話したかが重要ですから。学生同士の相互評価という手法に、僕も最初、懐疑的でしたが、試してみると自分の評価とほぼ同じで驚きました」(中島さん)
中島さんの感覚では、GDの合否に影響する割合は非言語情報が2割で、言語情報が8割ほど。積極的に相づちを打つ人はフォロワーシップの評価が上がり、議論が沈黙した時に話を動かす人はリーダーシップの評価が上がるなど、自分以外の全員が評価するということで客観性も保たれ、有意義なフィードバックになるそう。
そして、人事1人での採点では、どうしても自分自身のバイアスがかかってしまうことも分かったといいます。
「元気で明るい方の点を高くつけてしまうなど、評価が印象に左右されてしまうと改めて認識できました。人は自分と似たタイプや真逆のタイプは高く評価しがちです。最近は自分の評価が信用できなくなってしまったくらいです」(中島さん)
同様に、「GDの後半に発言を固めた方が人事の印象に残りやすい」という定説もあるが、この分析ツールであれば、全体を通しての発言量を確認でき、安定的に発言していたか、という指標も入れているそうです。
「3回試して指摘を改善したら、GDが得意になっているツール」を目指したい
2020年11月以降、のべ100人くらいの学生にGD分析アプリを体験してもらったが、中島さんの手応えは上々だといいます。
「体験イベントは学生にフィードバックをしてGDの改善を促すことを目的にしていたので、それについては果たせました。データを見ながら、あなたは発言が多すぎるとか少なすぎるとか、1回当たりの発言はもう少し端的にとか、後半失速しているから最後まで頑張って、といった具体的なアドバイスができました」(中島さん)
さまざまな分析の最後には総合スコアも表示される。「後半尻上がり」タイプなど、発言頻度の推移についても教えてくれる
データで示されれば言い訳はできません。また、人事が見ているポイント(評価軸)も分かるため、改善しようという行動につながったとのこと。フィードバックを受けて、再びGDにチャレンジした学生も、2回目の方が点数が上がったそうです。「改善を繰り返して3回くらいやったら、GDが得意になっているという状態を目指したい」と中島さん。
今後は企業向け、そして大学のキャリアセンター向けにサービスを展開しようと目指しているとのこと。データから導かれるスコアと合否の相関を高めるなどの改善も重ね、今年3月以降に商品化をする予定です。こうした取り組みは、就活における不透明な情報を公開していく、良い事例になりそうです。
インタビューの後編では、GD分析ツールの結果から見えてきた「オンラインGD」のコツについて、中島さんに伺います。