日本の転職者数は、2013年から数えて5年連続で増加し続け、2018年には329万人に達しました。これは、1年間に労働力人口の20人に1人が転職していることを示しています(※)。
日本社会で長らくタブーとされてきた転職は一般化しつつあり、これからもますます増えていくでしょう。
これまで終身雇用を守ってきた日本の大企業もそのスタンスを変え始めており、トヨタの豊田社長、経団連の中西会長が「終身雇用を守れない」と発言したことは大きな話題になりました。企業が社員のキャリアを一生保証できない以上、これからのビジネスパーソンは自らのキャリアを自らの手で作っていく必要に迫られているといえます。
そして、この波は社会人だけでなく就活にも押し寄せています。ワンキャリアの調査では、転職やセカンドキャリアを意識して就活する学生は54.4%。入社する企業を決める際に重視する要素として、「年収」や「安定性」よりも「スキル・経験」を求めている学生の方が多いという結果になりました。たとえ業績が安定していても、どんな経験やスキルを得られるかを明確にできない企業に入社することが「リスク」と見られる時代が来ているのです。
(※)参考:総務省統計局「労働力調査(詳細集計) 2019年(令和元年)7~9月期平均(速報)結果」
転職時代に、なぜ商社?
東大・京大生の就職人気ランキング上位をコンサルが占めている現状は、このような世相を反映していると言えます。若手のうちに転職で有利なスキルを身につけられるコンサルは、個の力が求められる転職時代では魅力的なファーストキャリアと捉えられています。
このコンサル人気に押される形で、相対的に順位が下がっているのが総合商社。今もなお人気業界である一方、商社に対して「ジェネラリスト的で専門性が身につかない」「配属リスクがあって何を経験できるか分からない」といったネガティブイメージを持つ学生も少なくありません。また、人材育成が長期的で手厚い分、若手の育成期間は「下積み」と言われ、これを忌避する学生もいるでしょう。
このように、転職ありきでキャリアを作っていくという時代の流れがある中、あえてファーストキャリアに総合商社を選ぶ理由はあるのかを問いたい。それがこの特集を企画した理由です。
一人前の商社パーソンとはどんな人材なのか? ビジネスの世界でどんな価値があるのか?
「下積み」への否定的な意見が目立つ中、それでも長い目で人材を育て続けるのか?
そして、「転職ありき」の就活生をどう見ているのか?
各社のキーパーソンに率直に質問をぶつけると、意外な答えが返ってきました。
【1月27日(月)公開】【三井物産】毎日転職を考えている私が、それでも働き続ける理由。モザンビークとマラッカ海峡で見つけた「商社パーソンのやりがい」
「会社を辞めるかどうか、毎日考えていますよ」
強い口調でそう語ったのは、三井物産の若手社員・谷内愛さん。想定外の言葉に、現場には緊張が走りました。しかし、彼女が会社を辞めるか考える理由は「もっと裁量権が欲しい」「専門性を身につけたい」といった理由ではありませんでした。
変わりゆく三井物産の姿を、人事のブラウン・ジェーソンさんと谷内さんが語ります。
【1月28日(火)公開】【住友商事】私自身、最初の会社を辞めていますから──中途採用の人材開発トップが考える、「1社で働き続ける意味」
「転職ありきで就活をする学生も増えています。そんな時代に、1社で長く働く意味とは何なのでしょうか?」
「正直、それは非常に困る質問です。私自身、最初の会社を辞めていますから」
新卒入社の社員が活躍するイメージもある総合商社ですが、近年は中途採用にも積極的です。前職の政府系金融機関で人事を経験した井上さんは、「自分の実力を試したい」という想いで住友商事に中途入社。今は人材開発チーム長として住友商事グループ全体の人材育成に取り組んでいます。
そんな井上さんに、1社で長く働くことの意味、そして、全ての商社パーソンが経験する「下積み」の本質を伺いました。
【1月29日(水)公開】【伊藤忠商事】「下積み」は2年だけ?採用責任者が語る「裁量が現場の若手にある理由」
「下積みは2年です。基礎作りに10年なんて長すぎます」
総合商社といえば、「下積み」が長く、若手の成長が遅いというイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。しかし、伊藤忠商事の採用・人材マネジメント室長である梅本さんは「若手には早く成長してもらわねば困る」と力説します。梅本さんが考える「新卒で商社・伊藤忠商事を選ぶ意味」。そして、上司から「会社を辞めた方がいい」と言われても、梅本さんが伊藤忠商事に残ることを選んだ理由にも注目です。
【2月28日(金)公開】【三菱商事】君に業界を背負う覚悟はあるか?「業界をリードして産業を変革する経営人材」の姿
「一企業の社長に留まらず、業界全体を引っ張って社会的意義を高めていけるのが真の経営人材であり、三菱商事が考える一人前の商社パーソンです」
総合商社各社が掲げる「経営人材」という育成方針。その中でも三菱商事を際立たせるのは、「業界をリードして産業を変革する」という覚悟です。三菱商事が時間をかけてでも育てたい真の経営人材の姿。そして、今進みつつある人事制度の大改革の内幕を、その仕掛け人が語ります。
【3月10日(火)公開】【丸紅】実績こそがあなたの市場価値を高める──異端の人事が語る「キャリアパスとしての丸紅論」
「転職前提のキャリアは世界では当たり前。変わるべきは会社側です」
トレーディングや事業案件開発の最前線から、社内公募で人事に転身した丸紅の矢野さんは、かつて仕事で葛藤を抱き転職を考えたと言います。転職を前提に就活する学生をどう思うか尋ねると、「全く問題ありません」と意外な答え。その真意を伺っていくと、丸紅が目指す会社としてのあり方が見えてきました。転職時代のキャリアに不可欠な「実績」の作り方、そして、総合商社の本質的な価値である「実行」の意味に迫ります。
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