こんにちは、ワンキャリアの多田薫平です。
ワンキャリアに1人目の新卒として入社し、今は事業企画や採用コンサルティング、キャリアアドバイザーなどをやっています。曲がりなりにも4年間、1年に1,000人以上の就職活動生と会って相談に乗り、さまざまな「悩み」を聞く生活を続けてきました。
特集「就活の羅針盤」は、今まで聞いてきた就活生の悩みを元に始まりました。悩んだところで絶対に答えが出ないことを考えていたり、本当に考えるべきは別の問題だったりする。そうならないための思考法を提示しています。
第2回は、「情報整理」の話です。「企業研究をしていると、どこもいい会社に見える」という人は、ぜひ読んでみてください。
「いい会社ばかりで絞れない」は悩む土台に立てていない
多田:何も情報がないところから、情報を集めて受ける会社を取捨選択する。下の図の「選ぶ問題」の最初のステップに当たる話でした。
──でも、実際にここから志望企業をどう絞ればいいんでしょう。簡単に志望業界は決められないような気がします。
多田:そうですね。実際に「興味がある会社、興味がない会社は分かるのですが、その次にどうやって絞ったらいいか分かりません」「サマーインターンに行ったけど、全部楽しかったです。だから絞れません……」という相談を受けることは多いです。
──これは、前回で話した「情報がなさすぎて意思決定できない」とは違う悩みなのですよね。
多田:そうですね。今回は、情報が集まったがために判断できない状況です。
──前回は「情報不足の砂漠」と表現していましたけど、今回の悩みを表現するなら「情報の海でおぼれている」ということですね。具体的にどうすればいいでしょう。
多田:まず、志望企業を決める土台に立てていないことを認識することですね。
7割を合理的に語ることが、企業を絞るためのスタート
──土台ですか。どんな状況になれば、「土台に立てた」と言えるのでしょう?
多田:意思決定に必要な「7割の要素を合理的に語れる状態」になることです。
──7割の要素とは、何でしょう?
多田:そもそも、すべての物事に対してロジカルに根拠立てた意思決定ができるわけではありません。これは、就活でもビジネスでも同じです。実際に、ビジネスでは「7割の要素を合理的に語れるようになった段階で、意思決定すべきだ」という論があります。「7割の確実性と、3割の不確実性」とイメージしてください。
──7割を合理的に語れるようになれば、意思決定していいと。これが7割の要素ということですね。
多田:そして、就活生が「志望企業を絞る」という意思決定をする際、7割の要素を合理的に語れる状態にないことが悩みを深くしているのだと思います。多くの就活生は情報整理ができておらず、根拠を立てて7割を積み上げることができない……そのような状態なのでしょう。
──確かに「土台」や「7割の要素」を意識して志望企業を考える就活生は少ないでしょう。
多田:それは仕方のないことだと思います。ビジネスでは、情報整理をするためのフレームワークがいくつか存在します。3C分析にPEST分析、アンゾフの成長マトリクス、ファイブ・フォース分析、SWOT分析……。それに対して、就活にはフレームワークはない状態です。
──だとすると、就活での情報整理はどんな思考法で進めればいいですか。
「若手から新規事業ができる」は事実ではなく解釈
多田:前提として、就活生は事実と解釈が混同していることが多いです。
──具体的に言うと、どういうことでしょうか?
多田:例えば、OB・OG訪問で出会ったAさんが、「うちは仕事とプライベートの両立ができるし、若手でも新規事業にも携われる」と発言していたとします。これは、事実でしょうか? 解釈でしょうか?
正解は、Aさんの解釈です。ところが、OB・OG訪問などでこのような話を聞くと、就活生はこれをそのまま、素直に事実として受け止めてしまうことがあります。
──確かに就活生からすれば、社会人の話を「事実」と受け止めるのも仕方ないかもしれないです。スーツを着ているだけで、何か説得力が出ますものね。
多田:でも、Aさんが独身なのか家庭も子どももあるのかで、「仕事とプライベートの両立」の定義は変わりますよね。この場合、「なぜそんなふうに言っているのか?」の根拠となる事実を拾いに行くことが大切です。
例えば「仕事とプライベートが両立できる」「新規事業に携われる」の場合、次のような事実を確認した方がいいかもしれません。
──なるほど。こうやって具体例や数字を導き出せれば、事実が分かってくるわけですね。
多田:さらに、上の図の(1)の回答が「定時には半分の社員が帰っていて、残りも22時までには帰っている。イベントなどで月に2回休日出勤する部署もある」だったとしましょう。この回答をさらに深く考えると、次のような結論も出せると思いませんか。
これが事実に基づいた解釈です。
ここまでのことを「当たり前」と思う人もいると思います。でも、情報整理の対象が20社〜30社になると、事実と解釈が混じってくることがあります。
──確かに、就活生は一度に多くの情報を受け取るので、意識しないと事実と解釈がごちゃ混ぜになるかもしれません。前提は分かりましたが、就活で情報整理をするための具体的なフレームワークも教えてほしいです。
まずは、4つの「P」を言語化する
多田:「企業の魅力因子4P」という考え方があります。これは、モチベーションに特化した経営コンサルティング会社「リンクアンドモチベーション」が提唱した考えで、企業の魅力をつくる要素を説明しています。そして、これは就活で企業を調べるときにも使えます。
──どういう考え方なのでしょうか。
多田:4PとはPhilosophy(理念・目的)、Profession(仕事・事業)、People(人材・風土)、Privilege(特権・待遇)です。つまり、この4つがそろっていると、人はその企業を魅力的に感じ、働くモチベーションが高まる、という考え方です。具体的には、次の要素で考えます。
・People(人/風土):どんな社員と働けるのか? どんな組織風土なのか?
・Profession(仕事/事業):どんな業務があるのか? どんな事業なのか?
・Philosophy(理念/目標):どんなビジョンや目標を持っている会社なのか?
・Privilege(制度/待遇):どんな制度があるのか? どんな待遇があるのか?
──就活で企業を見るときも、この4つのPで考えるということですか。
多田:そうです。各社の事実を4Pの観点から「合う」、「合わない」に整理し、解釈は別にまとめます。図で示すとこうなります。
──この方法なら、かなり整理できますね。事実の項目はあくまでも一例だとは思うのですが、特に就活生に参考にしてほしい点はありますか。
多田:「理念/組織風土」部分の事実を確認する方法ですね。理念や企業風土はそもそも言語化されていないことも多く、どのように事実を取りに行くのか難しい内容です。
この図では、「企業文化がもたらす恩恵の6要素(※)」という考え方を元に、事実を確認する質問をまとめています。6要素はこちらです。
・First Principles:最初の行動規範となる
・Alignment:組織を一つの方向に
・Stability:安定性を作り出す
・Trust:信頼を生む
・Exclusion:必要としない人を排除し
・Retention:必要な人をとどめる
※引用:Kenji Tomita / Runtrip取締役「なぜ「企業文化」が大切なのか?|カルチャーデザイン」
(※)……アメリカのベンチャーキャピタリスト アルフレッド・リンが提唱する考え方。企業文化を明確にすることで、実際に会社にもたらされる恩恵を提示している。
──こうやって見ていくと、ビジネスのフレームワークはかなり就活に応用できるのですね。一人で思い悩まずに、解決する考え方をインストールすることが就活では重要なのかもしれませんね。
多田:理念/組織風土については結論がなかなか出ない分野ではあるので、完璧とは言い難いですが、有効ではあると思います。
事実を並べたら、次に自分がその事実について思うことを書き出してみてください。そう思った理由を、自身の過去の環境と照らし合わせて、理由も書いていくことが重要です。
この作業を各社で行うと、次のような図になると思います。
共通項を見つけると、企業選びがシャープになる
──事実と解釈を分けた上で、比較できますね。でも、「この図からどうやって意思決定するのか」という問題が残りますよね。これは結局、自分の中に判断軸がないとできないのではないですか。
多田:同じ内容の言葉を抽出してください。同じ内容の言葉=共通項が、志望企業を絞る判断軸となっていくと私は考えています。
解釈について各社で整理していくと、同じ内容の言葉が必ず出てきます。情報を整理して事実と解釈に分け、共通項を見いだす。ここまでやると7割の状態になります。
──ようやく悩む土台に立てる、ということですね。
多田:ここまで読んで、「大変そうだ」と思った方も多いと思います。ただ、志望企業選びは「急がば回れ」だと私は思っています。とにかく「志望企業を決めないと」と焦っても、本当に行きたかった会社に後で気が付くこともあるかもれません。
今回の思考法については、別の記事でも解説しています。興味のある人はこちらも読んでもらえるとうれしいです。
【特集:就活の羅針盤】
・【新特集スタート】就活生の悩むべき問題は5つだけ。モヤモヤした視界を切り開く「就活の羅針盤」
・「何していいか分からない。だけど就活しなきゃ……」。そんなあなたは「情報不足の砂漠」をさまよっている
・「どこもいい会社に見えるから、決められない」。そんなあなたは「情報の海」でおぼれているのかもしれない。
・「この会社でいいのかな」と悩むあなたへ。最後の分岐点に立ったときに考えるべき唯一のデメリットとは?
・ESも面接もポイントは同じ。乗り越えるために大事な「優秀なビジネスパーソンの視点」とは?
・突破法は2通り。就活の悩みを複雑化しないための自己分析術
・【新企画:絵で分かる就活】就活の「5大悩み」と対処法を、図とイラストで解明
(illustration:rudall30/Shutterstock.com)
※こちらは2019年12月に公開された記事の再掲です。
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