事業再生を祖業に成長を続けてきた山田コンサルティンググループ。近年、学生たちから人気の高いコンサルティング業界の中でも「事業再生」という仕事はあまり耳なじみがないかもしれません。
経営のプロとして企業を支援する仕事に変わりありませんが、事業再生コンサルティングで相手にするのは、倒産が間近に迫った危機的状況に陥った会社。場合によっては数カ月後には倒産する懸念のある会社を立て直す仕事です。
「会社を立て直す」といえば聞こえはいいですが、切羽詰まった経営者に寄り添うのは並大抵の覚悟ではできません。今回は、同社で採用を担当する増田祥人氏にインタビューを実施し、事業再生のリアルと、仕事を通して得られる成長について語ってもらいました。
<目次>
●目の前の困っている人のために。山田コンサルティングを選んだ理由
●危機的状況に置かれたオーナー社長の非情な現実
●時には一緒に頭を下げて回ることも。事業再生の過酷な現場
●コンサルティング業界を踏み台にしないでほしい
増田 祥人
2010年に楽天株式会社に新卒入社。同年、山田コンサルティンググループ株式会社に転職。コンサルタントとして、4年間の経営者支援を経験し、その後は人事を担当。
目の前の困っている人のために。山田コンサルティングを選んだ理由
──まずは増田さんのキャリアについて教えてください。
増田:私は2010年に新卒で楽天に入社したものの、半年で会社を辞めて山田コンサルティングに転職しました。4年ほどコンサルタントとして働いた後は、今に至るまで人事として働いています。
半年で楽天を辞めてしまったのは、会社の方向性と自分のやりたいことのズレを感じたから。私が楽天に入社したのは、地方に貢献したいと思ったためです。ECを普及させれば物理的な距離に関係なくビジネスを展開できるため、地方に貢献できると思っていました。
しかし、私が入社した年に社内の公用語が英語になるなど、会社は本格的にグローバル展開にかじを切ったのです。グローバルよりも、目の前の困っている人に価値を提供したいと思っていた私は、会社を飛び出しました。
──なぜ次のチャレンジの場として、山田コンサルティングを選んだのでしょうか?
増田:目の前の困った人に手を差し伸べる仕事がしたかったからです。今でこそ幅広い支援をしている山田コンサルティングですが、当時は事業再生がそのサービスの中心でした。事業が振るわず追い詰められた中堅中小企業のオーナー経営者に伴走するのは、まさに私がやりたかった仕事です。
実は、この事業再生の仕事をしてきたことが、今の山田コンサルティングの礎を築いていると言っても過言ではありません。今、当社が幅広い仕事をしているのも、過去に事業再生をしてきたクライアントが、その後もさまざまな相談をくださったからです。会社の最もつらい時期に寄り添ってきたからこそ、揺るぎない信頼を勝ち取り、経営が回復した後も頼っていただけるようになりました。
危機的状況に置かれたオーナー社長の非情な現実
──事業再生コンサルティングでは、どのような企業を支援するのか聞かせてください。
増田:事業再生コンサルティングのクライアントは、経営状況がひっ迫している企業です。そのような企業からは「4種類の人たち」が離れていきます。
まずは「従業員」。会社で働く社員にも自分の生活があり、守るべき家族がいるため、会社が危なくなれば次の会社を探し始めます。次に離れていくのが「取引先」。経営が傾いてお金が回収できなくなると自社も危なくなるため、一斉に取引先が離れていきます。
そして、「金融機関」も離れていきます。再生状況のクライアントに追加の融資は難しく、また金融商品を買っていただく余力もありません。法人担当としてのビジネスチャンスがなかなか得られません。そして最後が「親戚」です。お金を貸してほしいと言われるのを避けるため、親戚たちも距離を置くようになります。
私たちが支援するのは、そのような崖っぷちのオーナー経営者です。
──難しい案件も多いと思いますが、必ず再生できるのでしょうか?
増田:もちろん、全ての案件が無事に再生できるわけではありません。再生ができないケースもあります。ただし、きれいに会社を畳むのもコンサルティングの一つ。外部の弁護士と連携しながら、法律にのっとってサポートします。
会社の畳み方の仕方次第で、その後の経営者の人生も大きく変わるため、再生ができないとしても寄り添いながら支援する必要があるのです。
──現在は幅広いサービスを展開していますが、どのようにサービスを広げてきたのか聞かせてください。
増田:再生を果たした会社の中には、その後も「2週間に1度の経営会議に出席してくれないか」というように頼ってくださる会社も少なくありません。そのようにしてお客さまと関わっていくと、組織面の課題や事業承継の話などが出てきます。
そのようなお話をいただくたびに、私たちに何ができるかを考え動いてきた結果、幅広いサービスを展開することになりました。お客さまを中心に置いて、お客さまが抱えている課題を解決するために、必然的に提供する価値も広がっていったのです。
──今でも事業再生の案件が多いのでしょうか。
増田:いえ、今は事業再生の案件は2割ほどです。もともと山田コンサルティングは税理士法人の1部隊がスピンアウトして立ち上がった会社だったため、起業当初は9割が事業再生案件でした。それが、先程述べた理由で他の案件が増えたため、相対的に事業再生案件の割合が減ってきたのです。
最近は持続的な成長コンサルティングの案件が増えてきました。今の日本の状態が続けば、将来的に人口が減少し内需は小さくなっていきます。そのような未来に向けていかに事業を持続的な成長につなげるのか。中長期的な事業展開の構想が必要ですし、最近では国内に限らず、海外進出やクロスボーダーM&Aなどグローバルなご相談も増えています。
──幅広い案件をしているということですが、特に強みのある分野を教えてください。
増田:私たちは税理士法人から立ち上がった企業なので、財務は強いです。ただし、決して数字だけを見ているわけではなく、財務と事業の両輪を見ながら支援しています。
財務と聞くと「難しそう」「自分にはできないかも」と思われる学生も多いかもしれませんが、財務諸表が読めなければ経営者とは話せません。なぜ若手のコンサルタントが、その道のベテランである社長と対等に話せるのか。それは共通言語である簿記の知識を持っているからです。
財務諸表が読めるからこそ、事業を深く理解でき、経営課題を浮き彫りにしていけます。これはコンサルティングの基本で、ITコンサルティングにしても、戦略立案をするにしても、欠かせない知識になるでしょう。
時には一緒に頭を下げて回ることも。事業再生の過酷な現場
──大手のコンサルティング会社とは、どのような点で差別化しているのでしょう。
増田:そもそも顧客層が違います。大手のコンサルティング会社に依頼するのは大企業ですし、私たちに依頼してくださるのは主に中堅中小企業です。そして、大企業と中堅中小企業では、コンサルティング会社の使い方も違います。
大企業がコンサルティング会社に依頼するのは、端的にいえば意思決定の精度を上げるための情報がほしいからです。一方で、私たちに依頼してくださる中堅中小企業が求めているのは情報ではありません。一緒に泥をかぶって、どうにか窮地を脱するために動いてくれる存在です。
窮地に陥った理由はふたを開けてみなければ分かりません。そのため、枠にはまったサービスを提供するのではなく、その時に必要な支援を提供する必要があるのです。
──そのような窮地に陥った企業からは、どのような流れで依頼が来るのでしょう。
増田:多くは銀行などの金融機関からの紹介です。銀行としても、企業に破産されると債権が回収できなくなるため、私たちを紹介して事業再生をしてほしいと考えています。つまり事業再生という点で、私たちと金融機関はWin-Winの関係を築いているのです。
残りの案件はセミナー経由です。定期的に海外進出やM&Aのセミナーを開いており、参加者の中から実際に案件が生まれています。
──紹介された事業再生の案件は、具体的にどのような支援をするのでしょうか?
増田:まずは会社の状況を詳細に把握します。会社としてのリミットが1カ月後なのか、半年後なのか1年後なのかで、銀行に依頼する内容も変わってくるからです。特に事業再生が必要になっている段階では、財務諸表もうのみにはできません。在庫や現金も確認しながら、本当の財務諸表を作るところから始めます。
もしも粉飾があろうものなら、融資をしてくれている方々に対して、私たちも一緒に回って頭を下げていきます。これが事業再生のスタートです。
そこから再生計画をまとめあげ、会社の膿(うみ)を出し切り、望むものではないですが、場合によっては従業員向けに厳しい内容の説明会もしなければなりません。この説明会も社長に伴奏し私たちも一緒に行いますし、取引先にも一緒に説明しに回ることもあり得ます。そこまで伴走して、初めて価値ある事業再生が可能になるのです。
──最近ではM&Aをサポートする会社も増えていますが、そのような他業種との違いも教えてください。
増田:私たちのメインサービスがM&Aではないことです。M&Aの専業のファームはM&Aが唯一のサービスとなり、真にM&Aが最適解か否かの議論が不足する可能性があります。
しかし当社はまず、事業を継続するのか廃業するのか、という点から議論を始めます。なぜなら廃業した方が幸せなケースもあるからです。事業を継続するとなっても、まずは親族内承継があり、MBO(マネジメントバイアウト)があり、M&Aと幅広な選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットを説明しながら、経営陣とどの選択肢が最適なのか話せるのが私たちの強みです。
コンサルティング業界を踏み台にしないでほしい
──とても大変な仕事だと思いますが、学生にはどのような意識でエントリーしてほしいですか?
増田:たしかに、この仕事は決して楽ではありません。だからこそコンサルタント志望の学生には「コンサルタントになりたい」のか「コンサルティング会社に入りたい」のか、自問してほしいと思っています。
特に自分自身を研さんし続けられない人は、コンサルタントには向きません。間違って、そのような方がコンサルティング業界に足を踏み入れてしまうと、お互いに不幸になってしまうので、覚悟のある方だけ志望してほしいと思います。
──どのような学生からの志望が多いのでしょうか。
増田:「目の前の困っている人に何かしてあげたい」という気持ちが強い人です。当社に入社する学生の中で、学生時代にしていたアルバイトの割合が最も高いのが家庭教師。目の前の生徒に真剣に向き合い、合格したら自分のことのように喜べる人が向いていると思います。
また、意外に理系出身の学生からの応募も多く、その理由を聞くと「手触り感がほしい」という答えが返ってきます。研究をして論文を書くだけでなく、実際にお客さまを目の前にして価値を提供したいと思う学生が応募してくれます。たしかに、当社ほど手触り感を持って働ける会社はそうないように感じます。
──入社した後のフローについても教えてください。
増田:入社したら研修を受けてもらいますが、早ければ1カ月後には現場に出ます。先輩に同行して、お客さまとの打ち合わせの議事録をとってもらうのです。今どき議事録なんてAI(人工知能)が文字起こししてくれるため、わざわざ人が作る必要はありません。
それでも若手に議事録を作ってもらうのは、「無知」を知ってもらうためです。最初は先輩たちが経営者と何を話しているか、ほとんど分からないでしょう。そこで「悔しい、成長したい」と思えるメンバーは成長していけます。
私たちが研修を1カ月ほどしか設けていないのも、そこに理由があります。当然ながらOJT以外にも多くの研修を柔軟に受講できるように整備しております。しかし、どんなに机上の研修を続けても、前述の「悔しい、成長したい」という気持ちがなければ勉強に身が入りません。研修のための研修にしないため、いち早く現場に出て、悔しいと思って勉強するからこそ成長するのです。
──そんな経験を5年もしたら一人前になりそうですね。増田さんが考える理想のコンサルテタント像とはどのようなものでしょうか。
増田:コンサルタントに完成形はありません。なぜなら、時代が変われば必要な支援も変わるからです。例えば5年前には生成AIという概念すら世に広がっていませんでしたよね。今なら、その生成AIを使う必要もあるかもしれません。常に学び続ける必要があるからこそ、コンサルタントは立ち止まってはいけないのです。
コンサルタントに求められる素養を上げるとするなら「自己信頼性」と「謙虚さ」です。一見、相反するにも見えますが、この2つを兼ね備えていなければ、いいコンサルタントにはなれません。自己信頼性をもちながらも、自分に足りない部分を認められるからこそ、常に成長していけますし周りに感謝できます。
──最後にコンサルティング業界を志望している学生たちにメッセージをお願いします。
増田:私が学生向けの説明会でよく言うのが「コンサルティングを踏み台にしてほしくない」ということです。これは採用する側のメッセージも悪いと思うのですが、学生に対して「コンサルティングで5年も修行すれば、その後はどこでも活躍できるし、起業もできるよ」と誘うケースもあります。
たしかにチャレンジングなコンサルタントという職業はキャリアに大きな広がりの可能性があるかもしれませんが、まるでコンサルタントをステップのように表現するのが許せません。「やりたいことがないから、とりあえずコンサルティング」ではなく「コンサルティングを通じてお客さまのお役に立ちたい」と思う学生に話を聞きにきてほしいと思います。
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