「応募者総数からステップごとの合格者数、選考基準を徹底解説」
「応募時に性別記載や写真貼付は不要」
これらは、ワンキャリアが経済誌『Forbes JAPAN』と共に取り組む「Great Company for Students」を受賞した2社が実際に行っている採用手法です。
1社目は腕時計メーカー・セイコーウオッチ。学生が気になる選考基準を解説する「選考解説セミナー」で採用の透明性にこだわりました。もう1社は「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げるLITALICO。性別記入・写真添付不要の応募書類を受け付け、社会課題の解決を志す学生を引き付けています。
「異例」とも言える手法を取った両社の狙いはどこにあったのか──。
特集「採用の新常識」。第2回はセイコーウオッチの花村翔太郎さんとLITALICOの本郷純さん、金井敦司さんと、学生に支持される秘訣(ひけつ)に迫ります。
あなたの業界に興味がない原因は伝え方? セイコーウオッチが考えた秘策
──「Great Company for Students」の受賞、おめでとうございます! まずは受賞の感想をお聞かせください。
セイコーウオッチ 花村(以下、花村):若干いけると思っていました(笑)。セイコーウオッチは学生の応募自体が多くはないので、いわゆる就職人気企業ランキングとは無縁です。でも、この「Great Company for Students」は学生に真摯(しんし)に向き合えているかがテーマだったので、いけるかなと。実際に選ばれて、めちゃくちゃうれしかったです。
セイコーウオッチ 元総務人事部(現マーケティング1部)の花村翔太郎さん
──セイコーウオッチには「業界や競合についての情報もフラットに教えてくれたのが良かった」という学生の声が寄せられました。どういう経緯から、そのスタンスが生まれたのでしょうか?
花村:僕が採用担当を始めたのは2012年ごろです。まず考えたのは、腕時計メーカーに興味を持った学生さんたちが、どれくらい自力で業界について調べられるかということです。業界で強いのはほとんどがスイスの会社です。しかも有名メーカーであるロレックスは非上場ですから、情報はほとんど表に出ていません。
学生さん自らが本気で調べるのはかなり難しい状態だと思いました。「学生が調べてなんぼでしょ?」という考え方もあるとは思いますが、それを言い出したら私たちに興味を持ってくれる学生さんは増えません。だから企業側がなるべく情報を教えて、そこから先は学生さんたち自らが考えてほしいという意識を持ちました。
──セイコーウオッチという会社は知っていても、「腕時計業界に勤めたい!」と言う学生はそんなにたくさんいるわけではないですものね。同じような悩みを持っている企業はたくさんいると思いますが、模倣できるようなポイントはありますか?
花村:意識して変えたのは、説明会で専門用語を使わないということです。セイコーウオッチは技術を売りにしている会社なので、説明会でもつい技術的なことを解説したくなってしまいます。そこを封印して、プレゼントとしてのメモリアルな需要があることや、ステータスやファッションアイテムとして役立っているというようなことを説明するようにしました。腕時計業界を見ていない学生さんに少しでも興味を持ってもらえるようなトピックを意図的に増やし、専門用語は使わずできるだけ平易な言葉で説明するようにしています。
社会課題を自分事に捉えてもらうLITALICO流の対話
──LITALICOも自社のアピールをすることだけでなく、学生さんたちのキャリアにプラスになるようなコンテンツを提供されています。
LITALICO 金井(以下、金井):僕も受賞はうれしかったですね。学生のさんのファーストキャリアという人生の一つの大きな岐路に関わることに責任を感じていますし、だからこそ一人一人と向き合うことを大切にしています。
LITALICO 本郷(以下、本郷):学生さんたちの声を拾って選考された結果、受賞したのがうれしいですね。
LITALICO 人材開発部の本郷純さん
──「障害のない社会をつくる」というビジョンに合致するような採用活動をされていますが、そうは言っても学生さんたちには「社会課題はお金にならない」というイメージがあるのではないでしょうか。
金井:確かに不安の声は聞きます。「利益は大丈夫なのか?」や「ファーストキャリアに選んでいいのか?」という葛藤を抱える学生さんたちが多いのは事実です。でも僕は葛藤を抱えているということは、考えが深まっているタイミングだと思っています。
そして葛藤に対して、少しでも役に立ちたいと思います。例えば、一緒に社会の課題を考えてもらい、学生さんの考えの幅が広がったなら、仮にLITALICOに入ってもらえなくても、学生さんのお役に立てたのではないかと思っています。
本郷:私たちに興味のある学生さんだけではなく、もともと興味のない学生さんたちにも興味を持ってもらい、幅広い人材を集める必要があります。興味のない学生さんには、これまでの経験で培われた価値観や強み、もしくはやりたいこと、ビジョンといった自分自身の可能性を広げてもらい、LITALICOのビジョンや活動とのつながりを見出してもらう。その中で、この分野の社会課題解決に当事者性を持ってもらうかが課題ですね。
──当事者性ですか? LITALICOが掲げる「障害は人ではなく、社会の側にある」にも通じそうですね。
本郷:障害を「生きづらさ」と言い換えてもらうと分かりやすいと思います。私たちはこの社会で生きていく中で、直面する生きづらさや困難の原因は、個人側にではなく、社会側にあると考えています。
社会側にある原因を取り除くことを通して、生きづらさや困難をより多く抱えている方々の暮らしや学び、働き方の選択肢を増やしていけるよう、事業を展開しています。その生きづらさや困難は、捉え方を広げると身近なものとして感じていただけるかもしれません。
例えば、家庭や学校や地域などの社会の中で、これまで自分自身も感じていたり、まわりの大切な人が辛い状況に陥ってたりした生きづらさや困難もあれば、よりよい社会の実現を本気で目指していて、テーマを探しているなかでつながったものもあると思います。このように自分とLITALICOとの接点を見出し、自分事としてこの分野の課題解決を自然に熱中できるものとして据えられるか、が大事だと思ってます。そのため、自己理解の促進や自分自身とLITALICOの接点を探す機会としても、面談・面接・ワークを位置づけています。
──確かLITALICOは、現場社員の面接回数を以前の5倍以上にされましたよね? ビジョンやミッションを実現するために、そうなったとは思うのですが、とはいえ現場は通常の仕事もあり「面倒だな」と思われる可能性もあります。一般的な企業の採用活動でありがちな「現場面倒くさい問題」はどう思いますか?
現場と経営の「面倒くさい問題」には「日本初」「世界初」で振り向いてもらう
金井:「LITALICOの事業をより加速するには採用が大切だ」ということを各事業部門と合意形成をしています。また、採用だけでなく入社をされる方々の育成など長期的な人材開発を含め、議論を深めています。
本郷:新卒が入社後、どれだけ活躍しているかを事業部側にも年次毎に取りまとめて定期的に共有しています。事業部側は入社後に一緒に仕事をしているので、採用担当からの共有は不要かと思ってましたが、特定の人物の印象で活躍イメージが決まってしまうこともあります。新卒採用の場合、事業側としては結構リターンが見えづらいことから、より短期的な労力に目が向くこともあります。そのため、新卒活躍の全体感を採用担当から提示することで、確実に新卒が事業を牽引して、貢献していることが可視化され、事業部側も新卒採用に積極的に取り組む動機が醸成できると思っています。
──セイコーウオッチは何かを変えようとしたときに、どうやって経営層や現場を説得しているのですか。
花村:セイコーウオッチは、腕時計に関しては「日本初」や「世界初」のものがたくさんあります。でも人事や採用について新しい施策をしようとすると「君のアイデアは前例があるのか?」「他社の事例は?」と聞かれがちです。だから僕は「製品で日本初や世界初をやっているなら、人事でもやりたい」と普段から言うようにしました。もちろん、リスクやトラブルの検討はした上で説得、納得してもらいました。
──それは良い持っていき方ですね。
花村:これは僕が人事をやりたいから入社したわけではなく、「セイコーで新しいことをやりたい」と入社したからこそ持てた視点だと思います。そこに聞く耳を持ってくれるのは、世界初、日本初をやって来たセイコーの風土かなと。
──花村さんが始めた、新卒選考過程の全てを明かす「選考解説セミナー」もそういう視点から生まれたのですか?
「服装自由」「優秀な学生」……。マジックワードで逃げていませんか?
花村:始めたのは2016年ごろですが、当時はインターンシップがはやり始めていました。私たちもやりたいと思いましたが、人もお金も時間も限られていました。外部からワークの課題を借りて来てやり過ごすこともできたとは思いますが、それはやりたくなかった。せっかく学生さんが来てくれるなら、最終的にうちを受けるかは別にして「来てよかった」と思ってもらえるものにしたい。そこで始めたのが「選考解説セミナー」です。
当時のリクルートキャリアの調査で、学生が「就職活動中に知りたかった」と「知ることができた」の乖離(かいり)が一番大きかったのが「選考基準」でした。だからセイコーウオッチの選考基準を徹底的に解説するというセミナーをやりました。会社の事業の話は一切せず、冒頭から「何月何日にどこの大学に説明会に行って、応募者総数がこれだけで、エントリーシートでこれだけの数に絞られ、適性検査ではオールB以上を合格ラインに……」と、内々定までを順を追って説明しました。
──「服装自由」の定義まで、めちゃめちゃ細かく説明されていましたよね?
花村:あれはインターンシップの時に「服装自由」と書いたのに、当初はスーツが9割だったからです。服装自由と書いたのにと学生さんに聞いたら「私服でいって落とされたら」とか「私服でもビジネスカジュアルなのか、本当に普通の私服でいいのか迷う」とかと言われました。だから髪の毛を染めてOK、デニムOK、アクセサリーOK、部活があるならジャージでもOKと、とにかく細かく書きました。かつ、それでも私服が不安ならスーツでもいいと(笑)。
──「最終面接はジャケットを持って来てください、ただし控室では脱いでいい」などもありましたよね? そこまで言えば、学生も分かるだろうと(笑)。人事には「自主性のある」「優秀な学生」というような曖昧な概念でやり過ごせるマジックワードがたくさんあります。それを定義できるかどうかは採用力という観点で極めて重要だと思います。
オンライン面接は「個」が見えやすい
──LITALICOはオンライン面接も積極的に活用され、海外大学からの内定者が3倍に増えていますよね。オンライン面接を導入したい企業や、実際導入する企業は増えていると感じますが、うまくやれている企業はまだ少ないと思います。うまく使うために意識していることはありますか。
金井:まず人に会いたいという前提があります。でも地方や海外にいて物理的に無理な場合は、電話よりもお互いに顔が見えたほうが気楽ですし、同じ1分でも深まりがありますよね。「時差どれくらいですか」とか、福岡の人に「もうそっちは日が暮れていますか」とかと聞くのも好きです。
LITALICO 人材開発部の金井敦司さん
──Webは、意外に素が出ますよね。
金井:そうですね。その人らしさが見えて、逆に質問しやすくなります。
──履歴書に性別記入しない、写真を貼らないというのはどうしてでしょうか?
金井:なんのために使っているかわからない項目を省いた結果です。性別や写真を選考に使うことがない。それなら省いてしまおうと。
本郷:ビジョンを僕ら自身が実践していかなくてはいけないと思っている部分もあります。性別を聞かなかったり、オンライン面接をしたりすることで、より「個」を見ようとします。
「建前」を重ね続けるのは耐えられない。互いに評価しあえる世界へ
──最近、Uberを使うんですけど、あの世界観が好きなんですよね。サービスする側にも受ける側にも点数が付いて、互いを評価し合う対等な関係があります。ワンキャリアは採用でも同じような世界観をつくりたくて、学生の声、従業員の声、人事の声がブランドにたまっていくようにしたいと思っています。でも、その一方で 「一回限りだし」とか「面倒だし」とか言う人事もいるわけで、「前年踏襲でいいや」と言う人もいます。
花村:面接や説明会はその場限りかもしれません。でも合否を出した理由を5年後や10年後に言える状態にしておきたいと思っています。他人に言えないような理由で合否を決めて、それを何年も積み重ねるというのは僕には耐えられません。
本音と建前があることは分かっていても、僕は一致している状態に近づけることをあきらめたくない。5年後、10年後に当時の就活生に会っても「あの時はこういう理由で」と正々堂々と話ができるようにしておきたい。これは組織としてというより、個人の願望に近いです。
本郷:もったいないですよね。本当はいい人材なのに、その場で向き合わなかったことで見過ごしてしまうし、学生もそれを見抜いてその瞬間にだけ合ったような振る舞いをしてしまいます。採用担当の人が、ただ人を採用するという機能を果たすだけでいいのかなと。自分なりの意義・意味を持った方が楽しめるでしょうし。
金井:僕は人とコミュニケーションが好きで、語弊があるかもしれないけれど、ちょっと趣味みたいになってきています(笑)。LITALICOのビジョン、価値観、世界観についてを、学生さんとのコミュニケーションを踏まえて、深め合うということをよくしています。
「それでも新卒採用やりますか?」
──最近では転職が当たり前の時代です。その中で新卒、中途の役割が変わってきたなと思うことはありますか。すなわち「それでも新卒採用をやりますか?」ということです。
本郷:新卒と中途の境はなくなってきているように思います。だからこそ新卒が大事なのかなと。新卒で活躍できる場は広がっていますし、会社の中でリーダーシップを発揮してもらう機会も増えています。ファーストキャリア=最初の人生の柱ですから、とても大きい意味があると思います。
花村:新卒にもダイレクト・リクルーティングが増えてきて、個にフォーカスするので中途採用の手法が入ってきているのは感じますね。ただドライに見てしまうと、新卒は採用コストが抑えられます。僕個人はスペックという言葉は大嫌いですが、それでも語学力や資格のある人を新卒で採用するのと、2年目以降に採用するのとはコストが違います。コスト面で中途と変わらなくなれば新卒採用を止めるところも出てくるかもしれませんね。
──新卒採用の位置付けが変わる中で、人事に置くべき人ってどんな人なんでしょうか。
花村:会社は好きだけど、満足していない人です。僕自身もセイコーウオッチは好きだけど、完全無欠の会社だとは思っていません。それでも、課題のあるこの会社と付き合っていきたい。逆に会社の現状に満足しすぎていると「こういう人を採るべきだ」という発想は生まれないと思います。
採用が強い=やわらかい。人事が、未来にワクワクできる状態を
──ではあらためて、最後の質問です。学生に支持される採用の強い会社とは?
花村:僕自身は「採用が強い」という言葉には違和感があります。競合に勝てたとか、目標人数を確保できたとかは、実は意味がありません。採用活動が終わった時点では判断できず、その人が活躍できて初めて判断できることです。だから、採用が強い=事業が強く、かつ採用が柔らかい状態と捉えています。
──どういうことでしょうか?
花村:競合と比べて事業が優れていることは必要です。その上で、採用は柔らかい状態でないといけません。組織や担当者が臨機応変に対応できることが一番です。
金井:自分のいる会社一番良いと言い切るのは難しいと思っています。一人一人に合う合わないもありますし、組織の課題も探せば出てきます。現状だけでなく未来を見据えた上で、採用担当者も学生さんも一緒にワクワクできるような未来が描けるのか、そこまで対話を進められるかが採用力につながると考えています。
面接で会った学生が「この会社で働くと、自分のこういう良さが伸びそう、こういう未来がありそう」とイメージできる状態まで語れることが、採用の強さなんじゃないでしょうか。そういう状態に向かって自分なりの言葉で語ることが、人を引きつけることにつながると思います。
【ライター:山下由美/撮影:塩川雄也】
【特集:ワンキャリア × Forbes JAPAN「Great Company for Students」】
<三井物産×野村総合研究所>
・「人気ランキング=学生の評価」ではない。三井物産と野村総合研究所が考える「学生に選ばれる企業」とは?
<セイコーウオッチ×LITALICO>
・事業は強く、採用は柔らかく。あなた自身がワクワクできる会社が、学生に選ばれる
<コーポレイト ディレクション×キュービック×アトラエ>
・もはや「選ばれる」という感覚も古いのかもしれない。「匂い」のする会社には自然と学生が集まる