就活界難易度の頂点──それこそが外資金融、コンサルだ。
東大生や京大生といった国内最高峰のエリートだけでなく、海外の有名大や大学院生まで巻き込む苛烈極まる戦い。
しかし、その中に一部ではあるが、首都圏以外の大学にもかかわらず内定を勝ち得ている就活生がいた。
今回は、この珍しく貴重な学生の話から「地方勢の外資就活の戦い方、そして外資系企業の基本事項」を伝えていこう。もちろん、「何となく外資行きたいけど、何すればいいのか分からない」という学生も必見だ。
<この記事の見どころ>
・外資系企業の内定者に、地方大生はいるのか?
・外資就活の必須条件「就活塾」──地方学生は身銭を削って東京へ行け
・外資系でも「ワークライフバランス」が重視される時代──GS、モルスタ、ベインも人気
・外資就活生の頂点、よくしゃべり、明るく社交的な「TMI」の正体
・外資系の人は学生のことを「馬鹿を見る目」で話している(いい意味で)
・賢さだけでない「イケメン美女パラダイス」がそこにある
地方大から複数の外資企業に内定した「マイケル君」
取材場所の喫茶店に現れたのは、学生ながらスリーピースのスーツを着こなす若い男性。爽やかな笑顔を浮かべる男性は、まるでマイケル富岡だった。この記事では、彼をマイケル君と呼ぶことにしよう。
この学生こそ、地方の某大学在学中に複数の外資金融、コンサルから内定をもらったエリート君だ。
やはり、地方で外資系の内定を決めると、学内では相当有名になるらしい。マイケルくんは、社会人の僕から見ると、うれしさや自信がみなぎっているように見えた。
<マイケル君のプロフィール>
・小学校、中学校、高校は全国偏差値ランキング全て5位以内の学校
・東大文一に3度挑戦するも涙を飲む。「東大生じゃないなら恥ずかしくて友達に会えない」という謎の理由(当時は本気だったらしい。難関校あるある)で地方旧帝大に進学。
・洋服に対する愛が強く、某雑誌の読者モデル経験
・同じくらい女性が大好き。そしてモテる
・父と祖父はともに日経の1面に名前が出てきたレベルの要人
・ヨーロッパの血が入っているクォーター
彼の大体の人柄は分かっただろうか。そして皆さんはこう思ったはず。
「地方大の人だけど、普通の人じゃないな……」
そう。よくある一般的な平凡な田舎の学生が簡単に一発逆転をするマンガのような甘い話はない。それでも、各地で高い志を持って頑張る人にこそ続きを読んでほしい。
外資系企業の内定者に、地方大生はいるのか?
彼が外資系企業を志望する理由は、完結に言うとこの4つだ。
(1)お金が欲しい:自分の価値が可視化できる
(2)承認欲求:大学受験のレッテルもあり、周囲から羨望のまなざしが欲しい
(3)知的水準が同一の人といる楽しさ:インターンに来た学生の知性が自分と同等、もしくはそれより高く、楽しいし、尊敬もできる
(4)専門性が欲しい:外資に専門性があるかは分からないが、少なくとも学生にはそう見えるようだ
では、内定者に実際に彼のような地方の学生はいるのか?
答えは「いるけれど、めちゃくちゃ少ない」とのこと。マイケル君いわく、関東と関西の大学以外だと、今年、名古屋大からマッキンゼーの内定者が初めて出たくらいだという。
それはなぜなのか。学生のキャリア志向などもあるだろうが、最も大きいのは恐らく「情報量の差」だ。
外資就活の必須条件「就活塾」──地方学生は身銭を削って東京へ行け
マイケル君いわく、外資系トップティア企業の就活では昨今、YC塾のようないわゆる「就活塾」、「選抜コミュニティ」のような団体の存在感が高まっているという。
こうした団体では、メンターがついたり、GD、ケース面接、ジョブといった選考対策の講義が行われたりするのだが、学生から支持されているのは、講義や対策などではない。
「同じ外資系企業を本気で目指していて、なおかつ受かる余地がある人」が集まるサロンのような、コミュニティになっていることだ。そのため、コミュニティ内で濃密な情報が共有され、必然的に余裕が出てくる。
彼の話によると、実際、外資内定者の3分の2が、何かしらの就活塾のようなコミュニティに所属していたという。
地方の学生であれば、身銭を削って東京に行き、彼らと親しくなって同じ量の情報を得ることがスタートラインというわけだ。
これらの就活塾で最も人気を集めるコンテンツは、内定者がメンターになってくれるサービスと、コミュニティ所属者への特別選考だ。真偽は不明だが、ローランド・ベルガー、UBSグループ、A.T. カーニーが特定の就活塾に対する特別な先行フローを用意していると、複数の内定者から聞いた。
企業としても、単なる憧れだけで実力が伴わずに受ける学生ではなく、確実に優秀な層にリーチできる点がいいのだろう。
ちなみに、外資系企業の内定者や就活塾のメンバーには慶應生が非常に多く、ライバル校である早稲田のそれを圧倒し、なおかつ学力で上位の京大生より多いという。それは、頭の良さや貪欲な点に加え、情報量や人脈などの環境が大きいようだ。
外資系でも「ワークライフバランス」が重視される時代──GS、モルスタ、ベインも人気
さて、外資系とひとくくりにしても、コンサル、マーケティング、金融など職種はさまざまなものがある。マイケル君に自身が所属するコミュニティにおけるスタンダードな価値観を聞いてみた。
一番人気は「ゴールドマン・サックス(GS)」と「モルガン・スタンレー」だという。
マイケル君はGSのインターンは落選しているので、詳細は不明だが、モルガン・スタンレーは初任給で1000万円、30歳で5000万円、40歳で1億円という外資らしい高収入に加えて、「絵に描いたようなエリート感」が社員からあふれ出ているという。
そんな「THE外資系」の雰囲気に学生は酔わされるのだろう。逆に彼らの中で「滑り止め」とされるのは、国内証券のIBDや国内大手コンサル。
野村証券のIBDや野村総合研究所でも、初任給500万円と一般的な感覚から言えば高収入だが、外資系を目指すような学生からすると物足りないようだ。
「国内企業とアクセンチュアは、鼻高々に自慢はできないですね」そんな共通認識が外資志望者の中にはあるという。
意外なのは、外資系志望者の中でも、ワーク比重高めの「ワークライフバランス」を重視する学生が多くいるということだ。そんな志望者たちから、ベイン・アンド・カンパニー(ベイン)は人気を集めている。
真夜中、明け方まで働くことはないものの、初任給で650万円、10年目で2000万円を稼げる環境は、彼らからすれば「ホワイト」極まりないのだという。
外資就活生の頂点、よくしゃべり、明るく社交的な「TMI」の正体
ここまでは、彼らの志望企業をカテゴライズしてきたが、逆に就活生側にはどんな人がいるのだろうか。
体育会? 院生? 帰国子女? はたまた、一般的なサークルに勤しむ学生?
多種多様な人がいる中で、「就活塾カースト」の頂点に君臨するのは、東大の理系学生だという。特にその中でもエスタブリッシュとされるのは「TMI」と略される、東大工学研究科技術経営戦略学専攻の学生だという。外資系就活生の中では、体育会でも帰国子女でもなく、彼らこそが「最もイケてる」とされる。その生態はステレオタイプな「ガリ勉」ではなく、よくしゃべり、明るく社交的な「超賢い」学生たちだ。
外資系を受験する学生たちは、今までは総合商社や広告代理店などの花形企業を目指していたはず。そう思ってマイケル君に聞くと「バブルの時代ですか」と一笑に付された。
彼らにとって、これらの企業は「稼げるわけでもなく、スキルに汎用性もない、まるで公務員のような仕事」だという。
余談だが、モルガン・スタンレーは今年からインターン採用を始めており、最終的に内定するのはインターン合格者のうち10人以内とのこと。ベインも同程度だという。
外資系の人は学生のことを「馬鹿を見る目」で話している(いい意味で)
TMIのような、モンスター級のエリート以外の学生はどんな子なのか。
1社も受けていない筆者としては、正直に言ってトリリンガルのイケメンとか、数学オリンピックの有名選手とかなのかなというイメージしかない。しかし、マイケル君から話を聞くと、実際、語学が必須条件でない企業もあり、いわゆる「ガリ勉」では通過できない対人折衝能力も求められていると感じた。
マイケル君が周囲を見て受かる共通点と感じたのは、「素直に意見を変える修正力」と「自信」だという。
前者については、さまざまな就活サイトでも言われているが、後者は初耳だった。やはりバイタリティーあふれる外国人と勝負するには、自信から出てくるオーラが必要なのか。彼いわく、「いい意味で、外資系の人って僕ら学生のことを『馬鹿を見る目』で話しているんですよね」と笑顔で語る。
確かに、自分が就職活動で某国内ファームの説明会に行った時、2年目社員が質問コーナーで志望理由を聞かれた際に、「頭の悪いやつばかり働く会社が多い中で、うちは俺より賢いと思える人ばかりで入ろうと思った」と話しているのを聞いて驚いたことがある。
社会人になってからなおさらそう思うが、そんな自信を持つことも、人前で言うこともできる人はなかなかいない。ハードな戦いが求められる「戦士」に自信は必須のようだ。
外資系企業特有、「知性」のみに基づいた圧倒的な自信
自信というのは、確かに商社や広告代理店やメガベンチャーに勤める若い社員であれば、共通して持っているパーソナリティーだと個人的には思う。
しかし、マイケル君いわく、外資系のそれは他と違う点があるという。それは「知性」に圧倒的な比重をかけているところだ。
飲み会を盛り上げるスキル、体力、社交性、身なりや美容。さまざまなものが複雑に絡み合って構成されるのが前述した自信なのだとすれば、外資系会社員たちは「インテリジェンス」の一点突破であるとのこと。そこに強烈な魅力を感じる人間が、同じようになりたいと門をたたくようだ。
筆者が以前、記事でも取り上げた、某大手外資系銀行の部長クラスを務めた人は、我が子を最高級ホテルのスイートルームに年末呼び寄せて夜景を見せ、「お前はここから見える馬鹿どものおかげで、こうやって豊かな生活をしているんだ」と話していると聞いた。その「馬鹿ども」としては、強烈な価値観にとにかく驚くばかりだ。
賢さだけでない「イケメン美女パラダイス」がそこにある
知性に重きを置いていると言ったものの、自信が容姿も磨くのか、いわゆる「イケメン」、「美女」も多いという。
特に女性はミスコン経験者がアナウンサーと並ぶほど多く、最近はその傾向が強いという。多くは語らないが、「自分より稼がない男は……」という理由で、女医が医者としか結婚しないのと似ているように、外資金融同士で付き合って世帯収入ウン億円もよくあるケースとのこと。
選考も社員もエレガントと、自分の経験を楽しげに話すマイケル君。東京出身、ヨーロッパの血を受け継ぐクォーター、名門校出身。そんな彼でもやっとこさ内定をもらえたと考えると、地方大からの外資系金融はやはり厳しいと言える。
しかし、かつて外資系企業は新卒ではなく中途採用メインだった。今や新卒のほうが比重が高い企業もあるくらいだ。何がスタンダードになるかは分からない。
高いハードルだが、かつて地方大にいた一人としても、くすぶる秀才たちにはぜひ外資系という難しい道のりに挑んでほしい。就活生よ、マイケル君の後に続け……!
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