こんにちは! 元MBB採用担当のあしながおじさんです。
夏休みシーズンも終わり、本格的に秋の足音が近づいてきました。
就活という観点では、説明会やインターン、選考を受ける中で「志望業界を見直そう」と考える方が増える時期でもあります。
前回の記事では「本当にコンサルはあなたのやりたいことですか?」と問いかけましたが、これはどの業界においても同じ話です。迷った際に「自己分析」に立ち返る人もいるようですが、かえって「迷宮」に迷い込んでしまう人も少なくありません。
「それなら、やりたいことってどう見つけたらいいの?」
今回の記事では、自己分析を使わずにやりたい仕事を見つける方法を、一部コンサル的なアプローチも交えながらご紹介したいと思います。
連載:あしながおじさんのコンサル信仰「七不思議」
元戦略コンサルの採用担当だった筆者が、コンサル人気に対する疑問や戦略コンサルの内情を解き明かしていきます。読者の皆さんがより良いキャリアを歩む一助になれば幸いです。
「Ikigaiフレームワーク」で仕事を捉える──自己分析には「世界」と「未来」の視点が足りない
やりたいことを考えるにあたって、多くの学生が困っているのは「どうすれば見つかるのか、方法がよく分からない」ということ。
私がオススメしているのは「自分と世界」、そして「過去から現在と未来」という2つの軸で情報を整理することです。まずはそれぞれの軸の意味を説明していきましょう。
1つ目の軸である「自分と世界」についてですが、キャリアの観点でこれを非常に良く表しているのが、下記の「Ikigaiフレームワーク」です。
これは日本語特有の表現である「生きがい」について、スペイン人の著者2人が日本在住経験から定義した図です。BBC放送(BBC)やワールドエコノミックフォーラムでも取り上げられ、大きな話題になりました。
「自分の強み」「自分の好み」という内面と、「世界のニーズ」「世界にとっての価値」が重なり合う部分こそ生きがいである、という考えです。確かに好きで得意で、世の中に価値が提供できて稼げる仕事が見つかれば、それは最高ですよね。
※出典:Héctor García, Francesc Miralles『Ikigai: The Japanese Secret to a Long and Happy Life』、Forbes Japanをもとに筆者加工
もう1つの軸は「過去から現在と未来」です。これは特に、就活生にとって大事な観点といえるでしょう。
こと仕事選びという観点では、学生の多くは社会人よりも人生経験や仕事の経験が少なく、「過去から現在」の話だけでは「材料」が足りないのです。それゆえに、自らの「未来」にも積極的に目を向ける必要があります。
さて、この2軸をマトリックス表として、それぞれの要素を考える手段をプロットしたものが以下の図です。いわゆる自己分析や会社説明会だけでは、ほんの一部しかカバーできていないことがよく分かると思います。
やりたいこと探し、というのは極論「未来の自分が好きになりそうなものは何か?」を探求する作業です。Ikigaiフレームワークに当てはめるなら、就活においては「未来」や「世界」を考えることがカギになるといえるでしょう。
では、どのようにすれば、見えていなかった「自分の未来」や「世界のニーズ」「世界にとっての価値」が分かるようになるのか。コンサルタント的なアプローチではありますが、「仮説思考で妄想」して、「業界分析やOB・OG訪問で検証」するのが有効だと考えています。
未来のカギを握るのは「妄想」。「一般化」と「仮説思考」で妄想の精度を高めよう
先ほど挙げたマトリックスでは「自分」×「未来」の部分を「妄想」だと書きました。未来はどうなるか分からないので、確かに妄想するしかないのですが、単なる妄想でなく、具体化、一般化と仮説思考を活用した妄想を試してみてはいかがでしょう。
どういうことかというと、仕事や会社が「面白そう(面白くなさそう)」と感じた際に、まずはそれを一般化して、自らの価値観の仮説を立てます。
例えば「コンサルはクライアントと伴走し、信頼関係を築くところが素敵(すてき)だな」と思ったら、「私は目の前の人と深く関わることが好きなのか?」というように。
そして、今度は逆のシチュエーションを設定し、具体的な仕事をイメージしてみるのです(具体化)。目の前の人ではなく、目に見えない多くの人と関わる──例えば消費財のマスマーケティングの仕事を、楽しんでやっている自分は想像できますか? それが想像できないなら、「目の前の人と深く関わる仕事が向きそうだ」ということになります。
また、上記の例でいえば「目の前の人と深く関わる『別』の仕事」をイメージしてみるのもいい手です。仮にコンサルタントではなく、カウンセラーだとどうでしょうか。
もしもコンサルは面白そうなのに、カウンセラーが面白くなさそうなのであれば、そこには別の切り口(価値観)が潜んでいることになります。それを先ほどの手順を繰り返して、一般化すると、好き嫌いの軸がまた1つ分かることになります。
イメージしやすいよう、他にもいくつか切り口の例を以下に挙げてみました。読者の皆さんはいかがですか?
・より多くの人へのインパクトを感じたい(消費財マーケなど)のか、目の前の人と深く関わってインパクトを感じたい(キャリアコンサルティング、コーチ、プライベートバンカーなど)のか? ・「海外転勤はあるけど、日本的な文化で仕事をする(商社)」がいいのか、「国内勤務だけど、グローバルな文化で仕事をする(外資)」のがいいのか ・(ITをやりたい場合)企業向けの社内システム開発をやりたいのか、個人向けサービスの開発をやりたいのか ・高単価(数千万円〜)のものを売りたいのか、低単価(数百円程度)のものを売りたいのか ・大企業向けの営業がやりたいのか、中小企業向けの営業がやりたいのか、個人向けの営業がやりたいのか
このような極論での思考を繰り返していると、おぼろげでも、自分なりの価値判断の基準が見えてくると思います。そうした基準を構造化して組み合わせると、考えてもいなかったような職種や業界が見えてくるかもしれません。
業界分析とOB・OG訪問 コロナ禍の今、狙い目なのは「無料のWebセミナー」
妄想で自分が好きかもしれない業界や仕事にあたりが付いたら、次はそれを検証するフェーズに入ります。「世界・他人」軸の深掘りです。
それには「業界分析」と「OB・OG訪問」の2つが有効だと考えています。
業界分析については、その業界や職種で働く人の本を読んでみれば、具体的なイメージが付き、楽しめそうかどうかの予測もできると思います。
また、新型コロナウイルスの影響で増えている無料のウェビナー(Webセミナー)も狙い目です。多くは学生向けではありませんが、マーケティングや営業、経営管理など、さまざまな領域で社会人向けのセミナーをやっているので、Peatixなどのイベントプラットフォームを使って、気になる職種のウェビナーに参加すると、仕事のイメージが付くかもしれません。
OB・OG訪問についても、近頃はサービスやプラットフォームが増えました。興味を感じた業界や職種の方と面談し、自分の仮説を検証したり、その仮説が当てはまる他の仕事がないか質問したりするとよいでしょう。また、その方が重視している価値観を聞いて自分と比べることで、新たな自分を知るきっかけにもなるはずです。
世界が変わればキャリアは変わる。キャリアプランニングは「終わりなき旅」なのだ
このように、妄想し仮説を立て、世界・他人を知って検証すると、仮説の確からしさが分かり、また新たな切り口が出てくることもあります。その新たな仮説を基に妄想に戻り、次の社会人と話す、本を読む……と繰り返していくと、だんだんと筋の良いキャリア観に結びついていくと思います。
さらにいえば、これは社会人になった後も定期的に(1年に1回程度)実施することをお勧めします。
なぜなら、先ほどの図の通り「自分」や「世界・他人」が変われば(ライフイベントや世の中のイノベーションなど)、生きがいも変わるからです。私自身も、根本的な価値観はほぼ変わりませんが、自身の成長や世の中の変化に伴い、その手段は少しずつ変わってきています(大企業×経営→スタートアップ×経営、など)。
逆にいえば「どうせ数年後には変わる」くらいの気軽さを持ちながら、今(就活)の時点ではベストな判断だった、というところまでこのサイクルを回せれば、自分としても納得のいく決断や結果となるでしょう。
ぜひお試しいただいて、1人でも多くの方のより良いキャリアにつながれば幸いです。
【連載:あしながおじさんのコンサル信仰「七不思議」】
・「成長したい」だけでは働き続けられない──元MBB採用担当が明かした「コンサル人気、2つの誤解」
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