こんにちは、ワンキャリア執行役員の北野唯我です。
みなさんは「最強のWebサービスはなにか」と、聞かれたら何と答えるでしょうか。
今回、日本で最も注目されるサービスの1つ「クラシル」を率いる、若手経営者dely株式会社 代表取締役 堀江裕介氏に、「経営に近づくキャリア論」という大きなテーマのもと、さまざまな観点から話を伺う機会を得ました。
キラーワード連発の対談をお楽しみください。
<目次>
・未上場のベンチャーは、紙切れになるか札束になるか
・「将来に迷いがある=天才ではない」ことに気付け。天才ではない人間がどうやったら勝つかを考えろ
・コンサル、外銀、商社──今、人気企業を志望するのは、ビットコインに皆が群がりはじめてから買うようなもの
・P&Gで気付いた。大企業にいると実力を錯覚してしまうな、と
・頭と足を使ってとにかく行動し、多くの挑戦と失敗をした人間が勝つ
・今、孫正義と働こうとするな。未来の孫正義になる人と働け
・「社長、この会社死ぬまでやる覚悟ありますか?」を聞け
・FacebookやAmazonのCEOたちだって同じ人間だ
未上場のベンチャーというものは、紙切れになるか札束になるか
堀江 裕介(ほりえ ゆうすけ)(写真右)
1992年生まれ。2014年4月、慶應義塾大学環境情報学部在学中にdelyを創業。現在dely株式会社 代表取締役で、日本で最も注目される20代経営者の一人。2017年、Forbesによる「アジアを代表する30才未満の30人」に選出
柴田 快(しばた かい)(写真中央)
1991年生まれ。2015年、早稲田大学商学部卒。在学中に2つのサービス立ち上げを経験し、新卒でP&G Japanにて経営管理を経験。2016年1月に3人目の社員としてdelyにジョインし、動画制作チームや営業部立ち上げを経験し、現在は資本提携やM&A、人事などを管轄するコーポレート部責任者であり同社の執行役員
北野:アプリダウンロード数1,700万の最強サービス・クラシルを率いる、dely株式会社。今、最も「ホット」なベンチャーの1つです。注目の理由は、巨人レシピサービス、クックパッドの時価総額を10分の1にした一因ともいわれる「大胆な投資戦略」。あらためてなぜ、そんな大胆な投資ができたのでしょうか。
堀江:端的に言えば「ぶっ込まない意味が分からなかった」からです。普通に考えてみてください、未上場のベンチャーって、紙切れになるか札束になるかどちらかじゃないですか。例えばCMやマーケティング費用に中途半端に投資して、クックパッドの10分の1のユーザー規模のサービスができあがろうとも、クックパッドの10分の1の株価はつかない可能性もある。中途半端なことをしても、資金調達がうまくいかなかったり、採用に苦戦したりで、結局大成しないケースが大半。
北野:確かに。
堀江:つまり、ベンチャーなんていうのは0か、1か、勝つか負けるかなんです。だから勝つしかない。勝つしかないという選択肢の中でビビって、「10億だけ投資して何とか黒字にしよう」みたいな発想をする理由がないわけです。極めて合理的に考えて「ぶっこまない理由がない」んですよ。
北野:「死ぬか、No.1か」だと。
堀江:そう。ベンチャーは、到達地点をここと決めたら行くしかない。半分の成功はもう成功じゃない、失敗になる。そして、普通と僕らは違う。だから、その高さに行かないともう死亡なんです。
北野:のっけから「堀江節」が炸裂(さくれつ)しますね。
「将来に迷いがある=天才ではない」ことに気付け。天才ではない人間がどうやったら勝つかを考えろ
北野:堀江さんは「天才起業家」という表現もされますよね。ご自身ではどう思いますか?
堀江:違和感しかない。正直に言いますが、僕は天才ではないです。ただ、生きるセンスはある。例えば、無人島に行ったら生き残る自信はあります。
北野:確かに。生き残りそうです(笑)。
堀江:自分より強い人を何人も見てきた北野さんだったら分かるでしょうけど、いわゆる「強い人」の99.9%の人たちはいわゆる「天才」ではないわけです。だからこそ天才ではない人間が、天才にどうやったら勝てるかをひたすら考える。僕の場合はそれが起業すること、世界で勝てる企業を作ると言い続け夢をデカくすること、ウソをつかないで頑張り続けることだった。
でもラッキーですよ。この記事を読んで進路を考えている人たちは。
北野:ラッキー? なぜですか?
堀江:いわゆる「優秀な人」って例えば理系だと東大医学部から医者になったり、文系だと東大法学部から官僚になったり、勝ち続けているからエリート街道をそのまま走っていく。つまり、頭がいいやつはまっすぐ正しいルートを行ってくれるので、自分のような人間が天才に勝とうと思うと、みんなと同じことをしていても勝てない。その天才達が行くような王道のルートから外れて、自分の希少性やオリジナリティで勝てるルートを探さなければいけません。
北野:とは言いつつ、みんな、やはりレールを外れたくないなとか思っちゃったりするじゃないですか。この話を聞いたら、学生は一応「分かりました!」「なるほど!」などと表では言うけど、家に帰ったら「とは言えな〜」と思うと感じます。その人に対しては何と言いますか?
堀江:そういう人生を歩みたいならそうすべきだし、僕は否定しないけど、「人が一生をかけてやり遂げるようなことを20代で成し遂げたい、あるいは漫画のような人生を歩んでみたいなら、踏み出さないといけない」と言いたいです。だって僕らは天才じゃないんだから。君が天才だったら今ここにいないよ。官僚か医者になってる。正しい道を分かっている人、明らかなエリートというのは、目の前に道があるはずなんです。
北野:つまり「おまえ、道に迷っている時点で、天才じゃねえよ」と。
コンサル、外銀、商社──今、人気企業を志望するのは、ビットコインに皆が群がりはじめてから買うようなもの
北野:ただ、さらに突っ込みますが、実際、今、東大や京大の就職ランキングを見ると、コンサルが圧倒的に人気なんですよ。この理由の1つは「モラトリアムの延長」だと言われている。どう思いますか?
堀江:「みんながおいしいと思っている道を選ぶ」のは簡単に言うと、ビットコインが高騰して世の中が騒ぎに騒いでいるときに買うようなものです。本当に賢い人は、まだ誰もビットコインなんか信じていないときに買いますよ。
北野:コンサル人気の1つは、ゲームへの幻想もありますね。「誰もが解ける、正解のあるゲーム」への幻想。コンサルって、面接とかも特殊で、フェルミ推定とかあるんですよ。
堀江:僕らの場合、答えのない問題が多いのでフェルミ推定を使う感覚はほぼないですね。ただ、体系的に学ばなくてもマーケットリサーチなどはガシガシ自分でやる能力は付いていると思います。
P&Gで気付いた。大企業にいると実力を錯覚してしまうな、と
北野:一方で、柴田さんはまさに、エリートっぽいキャリアです。新卒でP&G Japanに入社されている。あの時と今で違いは何がありますか?
柴田:「リアルさ」が全然違いますね。
北野:リアルさ?
柴田:正直エリートの人って、残酷なリアルを体験することがないんですよね。仕事は仕組みで進んでいくし、「きれいごと」で全部塗り重ねられていて。実際のビジネスの最前線では、計算するより早く動く方が多いんです。
例えば、「スクランブル交差点のカフェで100席ある店舗の売り上げを考えよ」みたいな話だと、リアルなビジネスの場面だと自分で真面目に計算することなんて、まずない。「聞きに行った方が早いじゃん」と実際に足を運んでヒアリングをかけたりすると思います。
北野:まさに、リアルビジネスですね。
柴田:そう、僕、結構言ってるのは、大企業に入った人って、その鎧(よろい)みたいな強さを全く理解していないんですよね。企業名やブランドが与えてくれる鎧の強さを。で、いざその鎧がなくなってしまったときに何もできない自分に絶望すると思っています。
北野:つまり「鎧の中にある、自分の実力」を錯覚しがちだと。
柴田:僕は学生のときに起業してビジネスの泥臭さを体感していたので、新卒で急に結構な給与をもらえる環境になって、周りにアシスタントもいるみたいな環境になったときに、めちゃくちゃ違和感を感じたんです。この違和感はなんだろう、とずっと思っていました。
その「違和感」の正体は、分厚い鎧のある状態にみんな慣れちゃって、中ひょろひょろのまま何年か経って、気付いたらどこにも動けなくなることかなと思うようになったんです。
北野:グサッときますね(笑)。
頭と足を使ってとにかく行動し、多くの挑戦と失敗をした人間が勝つ
北野:私も、大企業の経営企画、そして、外資系戦略コンサルにいたからこそ分かりますが、結局、論理的なものって「コモディティ」ですよね。コモディティを貫くことも、価値があるとは思いますが、唯一無二でエキサイティングな人生とは遠い。人は皆、偉大な物語の中に生きていますから。
堀江:本当にそう。論理に縛られて批評家みたいになっても意味がない。勝てるのは、とにかく行動が早く、多くの失敗をし、そこから素早く立ち上がって何度も挑戦している人間ですよ。
北野:学生は「努力するもの」が、決まっています。
堀江:そう、大事なのは、「あなたにとって希少性とは何か」を考え続けることと思っていて。単語を覚えるとかやっていても、大人になった瞬間に「努力すべきもの」が見つからなくなる。これをやれば勝てるという参考書がない。参考書があったら誰でも成功できますから。
人生は超アンフェアな中での戦いだ
北野:お二人と話していて思うのは「極めて現実的に、世界を見ている」ということです。1つ疑問なのは、なぜ、20代と若くして、今の思考にたどり着いたんですか。
堀江:僕、高校野球のときに死ぬほど努力して負けた経験があるんです。ドラフト1位の対戦相手がいて、僕の高校はあっさり負けたんです。「この3年間は何だったんだろう」と思うレベルで圧倒的な差があった。そのとき気付いた。人生超アンフェアだと。アンフェアな中で、今後、「超努力して負けました、悲しいです」みたいな人生、全然歩みたくないなと思った。
日本では、これが感動体験みたいに語られますが、超ダサい負け犬の遠吠(とおぼ)えだなと。
今、孫正義と働こうとするな。未来の孫正義になる人と働け
北野:柴田さんはまさに、何もないdelyに入るという「希少なキャリア」を選んだ。なぜですか?
柴田: 昔見たアリババのジャック・マーの動画で、「20代は会社ではなく、誰と働くかで進路を選ぶべき」と言っていたんですよね。会社で決めても結局、会社自体と仕事するわけではないので、大したことない人間と仕事することになり得る。じゃあ、本質的に何で選ぶべきかというと「隣で働く人から学べるもの」なんですよね。
北野:隣で働く人から学べるもの?
柴田:動画の続きで、「大企業はプロセスを教えてくれる。一方で、僕らみたいなサイズのベンチャーは、夢と情熱を持つ方法を教えてくれる」と言っている。超正しいなと思っていて。じゃあ、僕らの同世代の中で、何割が夢と情熱を持っているかというと、相当少ないはずです。
もちろん、大企業に行っている人にも「夢と情熱を持っている人」はいる。だけど、その人の隣で働けることはほぼないんです。計算してみてくださいよ。何千の中の一人とかだから。
北野:なるほど。採用説明会で出て来るカッコいい人は、何千分の一の人材だったりしますからね。
柴田:逆にそういう人の隣で働かない限りは「夢と情熱を持つ方法」を教えてもらえる機会は、多分ほぼなくなっていく。僕らみたいに夢を持ち続けられていること自体が希少性が高くて、価値があることなんだなと痛感します。
北野:ソフトバンクのような会社はどうですか? トップが情熱的な会社。
堀江:「孫さんと働きたい!」という気持ちは分かりますが、今孫さんと働くためにソフトバンクに入社するのではなく、未来の孫さんになるような人を探して、その人のもとで働く方がよっぽどいいと思っています。だって、孫さんもう引退してるかもしれないよ、あなたが上に行くころには、みたいな。それよりは、これからの孫さんになり得るような人の近くで働いた方がリアルにいろいろなものを見られるしいいよねと。
北野:「今の孫正義じゃなく、未来の孫正義になるやつを探して働け」と。
偽物の起業家を殺す質問、「社長、この会社死ぬまでやる覚悟ありますか?」
北野:一方で、ベンチャーって山ほどありますよね。自分も経営しているからこそ分かりますが、短い採用面接で学生をだますことはそれほど難しくないじゃないですか。ウソつけば。どう見分ければいいと思いますか。
堀江:「私の人生背負ってくれるか?」という類の質問をすることですよ。
「僕が仮に本気でこの会社にコミットした場合に、あなたは私の人生を背負ってくれますか」と聞いてみてください。多分、うっとなると思います。例えば大企業の人事担当とかに聞いてみてください。あなたの会社は、私の人生に責任を持てますか、と。
北野:確かに即答できなさそうですね。
堀江:小さい会社の価値というのは、目の前の一人の学生の人生を、本気で良くするために責任を持てること。
仮に優秀な学生が全力でコミットしてくれた場合、僕はその学生の人生を誰よりも高いところまで持っていくってことに責任を持ちたい。なぜかというと、その学生が成長して日本一にならないと、採用した僕も日本一になれないわけだから。それくらいの覚悟を経営者が持っているか、見極めた方がいい。
僕が学生だったら、「この会社死ぬまでやる覚悟ありますか?」って経営者に聞くと思います。
北野:「社長、この会社死ぬまでやる覚悟ありますか?」すごいキラークエスチョンだ(笑)。堀江さんはやはり死ぬまでやろうと?
堀江: 死ぬまで自分がぎりぎり生きていられるレベルの挑戦をし続けますよ。
大人になってから人生つまらなくなる人が多すぎる。その会社はまだ夢から覚めていないかを見ろ
北野:インタビューも最後に近付いてきましたが、お二人がめちゃくちゃ面白いのは分かりました。その中で、なぜ、今のdelyに入るべきなのか、あらためて理由を教えてください。
堀江:僕たちはまだ夢から覚めていない。それが最大の魅力だと思います。
北野:と言いますと?
堀江:やはり、大人になってから人生つまらなくなる人が多すぎますよね。小さい頃は、誰もが漫画みたいな人生を期待する。でも、その夢は覚める。僕たちはそんな夢をまだ見続けている、という話です。
柴田:もちろん、みんな心の底では夢を見続けていたいって思っているはずですが、現実には夢から覚めてしまっている。社会人になって子供の頃よりワクワクしている人が何人いるでしょうか。
堀江:若い頃は夢がまだ夢であるのでいいんですが、大人になったときに夢から覚めてしまうわけです。プロ野球選手になれなかった瞬間「人生詰んだ」みたいになるわけです。でも、僕たちはまだ夢から覚めていない。
北野:「夢から覚めていない場所で20代に働けること」。最大の報酬の1つかもしれませんね。
FacebookやAmazonのCEOたちだって同じ人間だ
北野:最後に何かありますか。
堀江:昔有名な起業家が慶應大学に初めて授業に来ていたときにばったりトイレで会ったんです。テレビとかにも結構出ていた人だから雲の上の人みたいな感覚があったけど、実際にトイレで見てみると「なんだ、この人も当たり前にトイレするのか、同じ人間じゃん」と思ったんです(笑)。
そう思えた瞬間に、何か追いつけそうな気がして。でも今僕が、やはりザッカーバーグに届かない気がするのは、あまりにも遠すぎる気がするから。アメリカというフィールドで、カッコいいスピーチしてて。それでも、会ってみたら印象が変わるかもしれない。
北野:確かに。
堀江:すごそうに見えている人も人間だし、弱みだってある。
正直「憧れてます、学びたいです」みたいなマインドで連絡いただくこともあるんですが、そのマインドの人たちに僕たちは何も与えられない。でも僕らの仲間になって一緒のチームとして必死に努力して一緒に失敗を犯して戦ったとき、あなたも多分、同じフィールドに立てていると思うんです。
僕らはウソつきたくないんですよ。「うちってめっちゃ学べるよ」みたいな。だってインターンに来てそんな急激に学べます? そんな数日で学べないですよ。
北野:そうですね。ビジネスのリアルは「ぐちゃぐちゃ」ですからね。
堀江:そう。ぶっちゃけ、ぐちゃぐちゃですよ、でも、だからこそ、面白いと思います。伝説が伝説になった後に見た景色と、なる前に見る景色は大きく違いますよね。僕らは美味しいところだけを見せるつもりはない、僕らが非常に優れているとか、頭がいいなんてことは見せたいわけじゃないと。
毎日葛藤して死に物狂いでやっていて、これだけ失敗する姿とかを見せられるのが何よりも価値です。
編集後記:将来、巨大な成功をつかみ得る彼らと今働けるチャンスを見逃すな
インタビューを担当した、北野唯我です。
「いいインタビュー」とは、話す前と後で、インタビュー対象の印象が180度変わるものです。インタビュー前は、堀江裕介氏はどちらかというと、ビックマウスで冷たい印象を抱いていました。
ただ、実際に話を聞いてみて感じたのは、その逆。
確かに極めて合理的で現実的だが、それに勝るほどの情熱があふれ出ている。そういう人物でした。
楽天、ソフトバンクといった今は誰もが知る超メガIT企業も、数十年前は「ただの小さなベンチャー」でした。そして、その創業期にいたメンバーは皆、各界を代表するビジネスパーソンになっています。
それだけ、「いずれ、日本を代表し得る企業で働ける機会」はレアであり、人の可能性を広げるということです。dely株式会社、僕が学生なら絶対に見に行くだろうな、と思うだけの魅力がありました。おすすめです。
【執筆協力:yalesna、瀬野はるか/カメラマン:塩川雄也】