スマートフォンをはじめとする電化製品や自動車、医療機器。私たちの日常を支えている身近な機器が動くために必要な部品の素となっているのが、半導体です。その市場規模は年々拡大しており、エレクトロニクス産業全体では約310兆円の規模になっています。(2021年度時点)
ワンキャリ編集部では過去に、半導体の製造装置を手がけるメーカー「東京エレクトロン(TEL)」を取材。世界トップクラスのシェアを誇るグローバルメーカーとしての秘密に迫りました。
・売上高2兆円に迫り、時価総額は日本トップ10以内──世界のイノベーションを支える「東京エレクトロン」とは?(※1)(※1)……タイトルの売上高、時価総額は取材当時のものです。2022年3月期の売上高は2兆円を超えています。また、2023年1月4日現在の時価総額は日本トップ20以内に入っています
今回は東京エレクトロンで「フィールドエンジニア」として活躍する栗原隆幸さんにインタビュー。聞きなれない職種ですが、「『黒子感』にカッコ良さを感じた」と、この道を極めてきたそうです。
フィールドエンジニアの仕事に、栗原さんはどのような魅力を感じたのでしょうか。見えてきたのは、現場でしか味わえない濃密な体験でした。
<目次>
●顧客のフィールドに入り込み「共に戦う」ホームドクター
●半導体業界の「黒子」として、海外にまで活躍のチャンスがある
●「技術力=営業力」。現場での仕事ぶりがビジネスに直結する
●装置トラブルは「対処する」から「未然に防ぐ」時代へ。データ活用と発想力が活躍の鍵に
●フィールドエンジニアから広がるキャリアの可能性。他職種でも生きる強みとは?
顧客のフィールドに入り込み「共に戦う」ホームドクター
──まずは栗原さんのお仕事についてお聞きします。フィールドエンジニアとは、どのような仕事なのでしょうか?
栗原:フィールドエンジニアの「フィールド」は、お客さまの工場です。実際に現場に足を運び、半導体製造装置の保守・点検や修理などの作業をするのが主な仕事です。世界中の半導体工場に、フィールドエンジニアが多数いるとお考えいただいていいでしょう。
東京エレクトロンは半導体製造装置のメーカーですが、「半導体製造装置を作って納入したら、それで終わり」とはまったく考えていません。むしろ、お客さまに半導体製造装置を納入した後に「本当の仕事が始まる」と考えています。半導体製造装置をいかに安心して長く使っていただくかが重要で、そこでフィールドエンジニアの出番です。半導体製造装置に異常がないかを確認するため、お客さまの工場まで足を運ぶ「ホームドクター」のような存在ですね。
栗原 隆幸(くりはら たかゆき):東京エレクトロンFE 九州FE部長
1995年に東京エレクトロン九州に入社。半導体製造装置の製造部門に従事した後、2001年にアメリカの東海岸に駐在するフィールドエンジニアの社内募集に手を挙げ、職種を転向。アメリカでの勤務後は、三重県四日市、台湾の台南市などの顧客の担当として勤務。九州支社を経て2017年から4年間は中国サービスを担当し、現職。
──顧客との関係性がかなり深いのですね。栗原さんがやりがいを感じた具体的な仕事はありますか?
栗原:印象に残っている仕事は、熊本地震の復旧作業です。2016年の熊本地震発生時、私は熊本のお客さまの担当をしていました。お客さまの半導体工場はほぼすべてが被災し、設置していた装置がずれたり、装置の中の部品が壊れて生産が止まったりしました。
1分でも1秒でも早い復旧を望むお客さまの要望に応えようと、全力で取り組みました。約3カ月もの間、お客さまと、全国から応援で駆けつけてくれた当社のフィールドエンジニアが文字通り不眠不休で取り組み、なんとか復旧にこぎつけました。
そして、最後の復旧作業が終わったときに、お客さまから「復旧作業の中で東京エレクトロンの働きがもっとも素晴らしかった」といった言葉をいただきました。古いタイプの「仕事人間」と思われるかもしれませんが(笑)、素直に感動しました。その言葉をお客さまからいただき、心も体も震えたのを鮮明に覚えています。
──それはやりがいを実感できる瞬間ですね。
栗原:もちろん、フィールドエンジニアとして、そして仕事として当然のことをしたのですが、やはり、とにかく工場を早く復旧させたい」という強い気持ちを持ち、お客さまと仲間になってワンチームで突き進んだ日々です。結局、「お客さまと同じ方向を向いて一緒に取り組める」という、この仕事の根本にある魅力を肌で感じられたときに、技術者としてもやりがいを感じるのでしょうね。
半導体業界の「黒子」として、海外にまで活躍のチャンスがある
──熊本地震のお話は緊急時の業務だと思います。平時はどのような業務が多いのでしょうか?
栗原:お客さまである半導体メーカーの製造現場、例えばクリーンルームなどに直接入って、お客さまの現場にいるエンジニアとコミュニケーションを取りながら、製造装置の保守・点検や修理をします。お客さまと一体となって現場を技術で支え、品質向上や装置の稼動率向上に取り組む。決して派手な仕事ではないと思いますが、その「黒子感」にカッコ良さを感じ、フィールドエンジニアの仕事に興味を持ちました。
また、お客さまで製造拠点の統廃合があった場合、ある工場から別の工場に製造装置を移設しなければなりません。新しい工場に設備を移設して、新工場の立ち上げをサポートするのもフィールドエンジニアの大切な仕事です。移設や新工場の立ち上げ支援では、通常は1〜2カ月程度、装置によっては3カ月、長い場合には半年ほどもかかることがあります。その間、お客さまとワンチームで、密度の濃い時間を共有しながら仕事にあたります。
──やはり顧客とは長い付き合いになる仕事なのですね。
栗原:そうですね。お客さまの中には20〜30年前に納入した半導体製造装置を現在でも大切に使われている場合もあります。定期的なメンテナンスをはじめ「製造するスピードをアップさせたい」というようなご要望があったときに、アップグレードの改造作業をするのも、フィールドエンジニアの仕事です。
──栗原さんがフィールドエンジニアになったのはどういった経緯だったのですか?
栗原:1995年に東京エレクトロン九州に入社しました。そこから7年近くは製造部に所属して、半導体製造装置の製造をおこなっていました。2001年にアメリカの東海岸にできた拠点でフィールドエンジニアとして駐在する人員を募集していると聞き、自ら手を挙げました。それがフィールドエジニアとしての第一歩です。もともと東京エレクトロンを選んだのも、海外勤務に漠然とした憧れがありましたし、自分自身、新しいことにチャレンジすることに喜びを感じる人間なので(笑)。
アメリカでは、約8年間フィールドエンジニアとして現地の半導体メーカーを中心にお客さまをサポートしました。本来であれば、アメリカ駐在が終わったら九州の工場に戻り、システム設計や開発などの道に進むのですが、私はフィールドエンジニアに魅力を感じ、以来、ずっとフィールドエンジニアです。国内だけでなく、台湾や中国でも勤務しました。
──海外勤務の経験ができることもフィールドエンジニアの魅力といえますね。
栗原:現在、東京エレクトロンの売上の約90%は海外市場です。世界中のいたるところの工場に当社の半導体製造装置が納入されているので、それだけ海外に赴任する機会は多くなります。現在、フィールドエンジニアのうち200名以上が海外に駐在しています。まったく海外に行ったことがないフィールドエンジニアは少ないと思います。海外志向の学生には、チャンスがある職場だと思います。
ただし、入社してすぐに海外勤務のチャンスが巡ってくるかというとそうではありません。東京エレクトロンの半導体製造装置はほとんどが国内生産です。入社後、まずは国内で装置の勉強をしながら、経験を積んだ上で希望すれば海外駐在の道があります。
──実際にフィールドエンジニアとして働き始めて、いかがでしたか? 「顧客とワンチームで取り組む」以外に感じたやりがいはありましたか?
栗原:お客さまの工場には東京エレクトロンの製造装置のほか、他のメーカーのさまざまな装置が設置されています。そこで東京エレクトロンのロゴが入ったクリーンスーツを着て、装置の保守・点検や修理などの作業をするということは、お客さまからも他社のエンジニアからも「東京エレクトロンのフィールドエンジニア」として仕事ぶりを見られます。
下手な仕事はできないし、プレッシャーもありますが、良い仕事をすれば「あのフィールドエンジニアはいいぞ」と評判になり、東京エレクトロンの価値も高まります。そこにワクワクを感じました。
「技術力=営業力」。現場での仕事ぶりがビジネスに直結する
──半導体製造装置は「お客さまに納入してからが重要」とのことですが、保守・点検、メンテナスなどが主な仕事なのでしょうか。
栗原:確かにそれらも大切な仕事ですが、同等かそれ以上に重要な仕事があります。まずは、自社の売上への貢献です。フィールドエンジニアは営業職などと同様に、売上拡大に大きく貢献できる仕事なのです。
──どういうことでしょうか?
栗原:お客さまである半導体メーカーは、自社の事業の根幹を握る半導体製造装置をなぜ東京エレクトロンから買うのでしょうか? もちろん価格も判断基準の一つにはなりますが、それよりも重視しているのが「技術力」です。東京エレクトロンには最先端の半導体製造装置を作る技術力があるか、そして最先端の半導体製造装置をサポートする技術力があるか、そこをお客さまは見ているのです。
お客さまは、現場に「いつもいる」東京エレクトロンのフィールドエンジニアの仕事ぶりから技術力の高さを肌で感じとっています。フィールドエンジニアは「サポートを通じて技術力を売り」、お客さまが次に半導体製造装置を購入しようとするときには「技術力もサービスも素晴らしいから東京エレクトロンから買おう」と決断していただけるようにする、それもフィールドエンジニアとしての大きな仕事です。
──なるほど、技術力が営業力に直結するわけですね。
装置トラブルは「対処する」から「未然に防ぐ」時代へ。データ活用と発想力が活躍の鍵に
栗原:さらに、もう一つ、お客さまである半導体メーカーの品質向上や装置の稼動率向上に貢献する、それもフィールドエンジニアにとってとても重要な仕事です。東京エレクトロンの半導体製造装置にはとてもたくさんのセンサーが組み込まれていて、そこから製造に関するデータを常に収集しています。いわば「製造ビッグデータ」です。
そのビッグデータを分析・解析して、不良品の発生率を徹底的に下げるための取り組みをご提案したり、稼動率のさらなる向上につながる工夫をしたりするのも、フィールドエンジニアに求められる大切な仕事です。
──いわば半導体における製造DX(デジタルトランスフォーメーション)につながるような取り組みですね。
栗原:現場で装置をメンテナンスするだけでなく、半導体製造装置からの製造ビッグデータを分析・解析し、レポーティングと同時に問題点や課題を明確化して改善提案をするなど、フィールドエンジニアの仕事は多岐にわたります。データの処理能力や活用能力、改善アイデアの発想力と提案力、お客さまにきちんと分かるようにお伝えするコミュニケーション能力、技術はもちろん、それだけではないさまざまな技量や能力が求められます。
半導体製造装置から収集されるデータを分析すると、装置の挙動が見える化できます。だんだんと部品の劣化が進んでいる様子などが見えてくるのです。それをいち早く把握し、トラブルが発生する前にアラートを出して対応していくような取り組みを進めています。
──保守・点検の仕事から、時代に合わせて変化しているのですね。
栗原:半導体の世界は、お客さまが最先端を求められているので技術もどんどん進んでいきます。そういったときに、新しい技術、お客さまの新しい製造技術や製造プロセスを理解し、その進歩についていくことでフィールドエンジニアの仕事も進化していくでしょう。ずっと学び続けていかなければいけない仕事がフィールドエンジニアだといえます。
半導体製造装置そのものもどんどん進化しています。現在は、装置のいたるところにセンサーが組み込まれ、稼動状況など含めてすべてが数値化され、いわば装置が見える化されています。これまでは手動で調整していたところが自動化され、ボタン1つで調整できるようにもなりました。新しい技術を貪欲に学び、その技術を活用することで新たなきづきをお客さまにご提示していく。フィールドエンジニアは、そんな仕事へと進化していくでしょう。
フィールドエンジニアから広がるキャリアの可能性。他職種でも生きる強みとは?
──栗原さんから見て、フィールドエンジニアにはどのような人が向いていると思いますか。
栗原:分かりやすくいうと、プラモデルやラジコンが好きで、「この機械はどんな仕掛けで動いているのか」が知りたくなってしまう人です。子どもの頃にラジオでもリモコンでも機械のカバーを外してみたり、ドライバーで分解してみたりといった経験がある人は向いているかもしれません。機械いじりが好きな人ですね。
ただし、半導体製造装置など「機械が相手」の仕事ではありますが、実はコミュニケーション能力が極めて重要です。というのも、フィールドエンジニアはいつもお客さまの現場に入り込み、お客さまの現場のエンジニアの人たちと一緒になって仕事をするからです。その仕事の中では、自分だけ、つまりフィールドエンジニアだけで解決できない問題やトラブルもたくさんでてきます。
その場合、東京エレクトロンの他の部門、お客さまの現場以外の他の部門からの協力が必要なケースもあります。それらを調整できる人間力も必要です。いかに関係者を巻き込んでゴールに向かって進むことができるのか、機械をいじっているだけではなく、人をまとめて動かすというコミュニケーション能力も求められます。
──専門性だけでなく、幅広い能力を求められるのですね。
栗原:そうですね。「機械や技術のことを知っていて、コミュニケーション能力も」というように、フィールドエンジニアはある一つの専門領域を突き詰めるのではなく、幅広い知識や経験を備えたオールラウンダーというイメージに近いと思います。
現場で装置に何らかのトラブルが発生した場合も、装置だけに原因があるとは限らず、ネットワーク、設置環境、周囲の振動、温度や湿度、薬液・ガスなどいろいろな要因が考えられるでしょう。深い部分は、その領域の専門家に協力してもらえばいいのです。そういう意味では、さまざまなことに興味がある人に向いているともいえます。
──「幅広さ」を身に着けるための新人育成はどのように進められるのでしょうか。
栗原:新人育成プログラム・装置トレーニングが用意されています。入社したばかりの新人は不安だと思います。いきなり1人でお客さまのところに行って対応できるかといえばそうではありません。先輩社員に同行しながら、OJT(※2)を通じてさまざまなことを経験して学んでいきます。そうしたときに海外に応援に行くようなケースもありますので、さまざまな異文化に接しさまざまな外国の方と接する中で、コミュニケーションの重要性というのを肌で感じていくことができるでしょう。
(※2)……On the Job Training (オンザジョブトレーニング)の略。職場で実践的に業務知識を身につけさせる育成手法のこと
──ありがとうございます。最後に、フィールドエンジニアに興味を持った学生に向けて、キャリアにおける魅力をお話しいただけますか?
栗原:東京エレクトロンでフィールドエンジニアを経験した後に、開発や営業、マーケティングなど他の領域で活躍している人材は数多くいます。フィールドエンジニアとして最前線でお客さまに接し、その声をダイレクトに聞き、実際に装置に触れながら一緒に仕事をしてきた経験は、開発や営業、マーケティングなどの領域でも生かせるのです。
また、例えば営業部門に異動した場合でも、お客さまに半導体製造装置について詳細に説明できることは武器になります。「私は実際にさわってみて、装置の良さがよく分かっています」と説明すると、説得力があります。
フィールドエンジニアの経験は、他の職種でも存分に生かせると思っています。最初のキャリアとしてフィールドエンジニアを選ぶことで、その後の道を考えるときの選択肢も広がっていくので、ぜひ興味を持ってもらいたいですね。
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