新型コロナウイルスの感染拡大で大きなダメージを負った日本企業。総合商社も例外ではありません。
消費の停滞、資源・エネルギー価格の下落などにより、各社の業績は悪化。また「冬の時代」に突入か──各種メディアには、さまざまな予測が飛び交っています。
「アフターコロナの環境をどう先読みしてチャンスに変えるか。激動の時代こそ、双日の存在感をアピールするチャンスです」
こう話すのは、双日で人事部長を務める岡田勝紀さん。1991年に前身の日商岩井に入社後、一貫して金属資源分野に在籍し、トレーディングや事業開発業務に従事。中国駐在も経験し、石炭・鉄鉱石部部長を務めた生粋の商社パーソンです。双日一筋30年、商社の良いときも厳しいときも見てきたと言います。
そんな岡田さんが見据えるのは、アフターコロナを生き抜く商社の形。変化をチャンスへ、変革に挑戦する、双日の最前線に迫りました。
双日一筋30年、中国を舞台にビジネスモデルの大転換を経験した
──岡田さん、本日はよろしくお願いします。最初に自己紹介として、これまでどんなプロジェクトに携わってきたのか教えていただけますか。
岡田:30年のキャリアを振り返ると、大体3つくらいに分けられると思います。エネルギー技術開発PJ、資源ビジネス(トレーディング、事業開発)、海外駐在です。
入社2年目から5年間、石炭から石油や水素を製造する技術開発プロジェクト(神戸製鋼所、三菱ケミカル、出光興産、コスモ石油販売、日商岩井による合弁事業)に参加しました。当時はオイルショックをきっかけとするエネルギー危機を経験した直後で、本事業が国家プロジェクトとして採択され大規模な技術開発が行われました。その後は、ずっと営業畑でエネルギー・金属資源分野を中心に、トレードと事業開発に関わっていました。その間に6年ほど中国駐在もしましたね。
岡田 勝紀(おかだ かつのり):双日株式会社 人事部部長
1991年、新卒で日商岩井に入社し主にエネルギー・金属資源関連のトレーディング、事業開発を担当。2003年より北京駐在。駐在先で現地企業との合弁会社を立ち上げ社長も経験。2009年よりエネルギー・金属資源本部石炭部コモディティトレーディング課課長を務める。2015年より石炭・鉄鉱石部部長を務め、2020年より現職。
──中国にいたときは、どんな仕事をしていたのでしょうか。
岡田:ここでもエネルギー・金属資源のトレードと事業開発がメインです。ちょうど北京オリンピックが開催された2008年前後の6年間、北京にいました。その頃の中国は、国内総生産(GDP)で日本を抜き米国に次ぐ世界第2位となるなど、破竹の勢いで経済成長を遂げており、商社の資源ビジネスも中国を軸としたモデル変革が迫られました。世界のライバル企業に先んじて、いろいろな仕掛けをしてやろうとエキサイティングな日々を過ごしましたね。
──いろいろな仕掛け、とは何でしょう?
岡田:日本商社の資源ビジネスは元来、海外で鉱山を開発し、そこで採掘した資源を日本に供給するのが典型的なビジネスモデルでしたが、2008年の北京オリンピック前後から、海外資源の最大消費国は日本から中国にシフトしました。
われわれは、この動きに備えて2年くらい前から中国のパートナー企業と合弁会社を設立し、中国市場開拓の準備を行いました。ブーム到来前の2年間は大した商売もなく、中国のお客さんを連れて海外鉱山視察、商品サンプルの評価試験、白酒を酌み交わしての関係構築、現地スタッフの補充……とひたすら準備に明け暮れておりました。
──準備だけで2年ですか……ビジネスのスケールの大きさを感じるエピソードですね。
岡田:その後、2009年にリーマンショックで世界経済が停滞する中、中国は政府による経済刺激策により、いわゆる「爆買い」が起こりました。われわれはうまくその波に乗り、ライバル企業を寄せ付けない強さでシェアを拡大し、新たな商権を確立できました。
2年かけて準備をして、ビジネスモデルの転換を進められたことは、商社パーソンの醍醐味(だいごみ)でした。あらためて、商社には変化をチャンスに変えられる力があること、それを具現化するにあたり「現場力」「先を読む力」「アイデア・発想力」が大事だと思いました。
コロナ禍でも新たなサービスや価値を提供し続けるのが、総合商社の使命
──最近は新型コロナウイルスの影響で、多くの企業が大きな打撃を受けています。双日はこの世界的な危機にどのように対応しているのでしょうか。
岡田:商社は新たな価値やサービスを提供するのが使命。日本もそうですが、コロナ禍において、自分たちの医療体制の脆弱(ぜいじゃく)さを痛感した国も多かったでしょう。
当社は、日系企業が携わる世界最大規模の官民連携型の病院事業をトルコで推進していましたが、感染患者の増加による病床不足を解消するため、竣工予定日を4カ月前倒しし、2020年5月に正式開院しました(※)。地域で足りない医療サービスがあれば、われわれが提供していく。グローバルな社会ニーズにスピード感をもって対応していく。まさに、総合商社らしいビジネスではないでしょうか。社会課題を解決する事業というのが、次の時代を生き抜くカギになると考えています。
(※)参考:双日「双日、トルコ共和国内最大規模の総合病院を開院」
双日がプロジェクトに携わった「バシャクシェヒール チャムアンドサクラ シティー病院」
──社会課題の解決ですか。確かにセグメント別で見ても、今は医療やエネルギー、食料といった分野が非常に伸びていますよね。
岡田:そうですね。事業価値は、社会課題の解決と収益の両面を満たして初めて評価されると考えます。また、単一セグメントでの事業展開で終わることなく、例えば「太陽光発電→水素製造→自動車燃料サービス」など複数機能を掛け合わせてサプライチェーン全般にわたる事業モデルの創造を行うなども、総合商社だからこそ、実現可能な取り組みでしょう。
双日は、他商社に比べて規模が小さいがゆえに、組織間の協働や連携が密で、このような機能融合のアプローチが得意です。フットワーク軽く新たなビジネスモデルを構築できると思っています。
事業を興す発想力や実現力はジョブローテーションでこそ磨かれる──双日の人材戦略に迫る
──岡田さんは今、人事部長という立場にいます。これだけビジネスの状況が変わると、「こんなふうに若手に育ってほしい」という要件も変わったのではないでしょうか。
岡田:いつの時代も、双日の若者には、グローバルスタンダードで通用するたくましい「起業人材、経営人材」に育ってほしいと強く思っています。今後、ますますニーズが多様化する中でも「環境、デジタル、新技術」は、どんな事業にも必ず組み込まれてくる要素です。常に未来の事業環境をイメージして、現在開発中の技術がどのように応用されていくのか、アンテナを高くして発想力を高める訓練をしておけば、同世代のライバルと大きな差がつくと思います。
──若手としては、昔よりも期待値や難度が高くなっているように思います。若手に求められる能力が変わる中、双日ではどのように人材を育成しているのですか?
岡田:双日は発想力×実現力で勝負です。そのためには個々人のビジネスセンスに加えて、経験や人脈がものを言います。「若手のうちから複数の分野・環境で経験を積ませるべきだ」と考えており、入社3年目からジョブローテーションを積極的に行います。
特に女性社員については「ライフイベントも考慮し、できるだけ早いタイミングで海外研修や駐在経験をさせてあげたい」と考えています。若くして、豊富な経験やスキルを磨く機会を与えることは、うちの特徴であり、強みなのです。
──学生の立場からすると、ジョブローテーションがキャリアにどういうメリットをもたらすのか想像し難い部分があると思います。
岡田:双日は、今まで以上に「起業人材、経営人材」の輩出を意識して育成に力を入れていきます。多様なニーズ、スピーディーな変化に敏感に適応していくには、本質を素早く見抜き、固定観念に囚われない柔軟な発想が大事になるでしょう。たった1つの分野しか知らない人は、どんなに成功していても、逆にその成功体験が邪魔して変革のタイミングを逸することもあります。
発想力、実現力はやはり多種多様な経験がないと、養われないと思っています。働く環境・場所が異なる状況に身を置き経験値を上げ、若くしても世界で戦える人材に育てていくのが双日のやり方です。
新人をチームリーダーに抜擢。全社横断で事業創造に挑むHassojitzプロジェクト
──育成に注力しているのは分かりましたが、商社はビジネス規模が大きく、扱う商材が多様なゆえに縦割りや年功序列の組織で若手が活躍しにくいと思う学生も少なくありません。
岡田:確かに古い業態もあるため、そのイメージは残っていると感じています。しかし、双日はさまざまな分野から集まった社員でチームを組み、新しいものをどんどん作ってもらおうという試みも同時に行っています。
その一例が「Hassojitzプロジェクト」です。これは組織をまたいだ全社横断的なチームで事業創造を行うビジネスプロジェクトで、昨年は「将来を見据えた新しいビジネス分野」というテーマで、バックキャスティング思考を基に管理職から新人まで、ほぼ全社員を対象に事業アイデアの公募を行いました。
──実際、どのような新規事業のアイデアが出てきたのでしょうか。
岡田:経営陣も交えて事業の種となるアイデアを吟味した結果、アートや森林資源、FemTech(女性特有の健康問題を解決するテクノロジー)、eスポーツといった8つのテーマに絞り、メンバーを募集しました。それぞれ5〜7人ほどのチームになりましたが、これも所属や年齢はバラバラです。新人がリーダーをやっているチームもありますよ。彼らは1年かけて、アイデアの実現に向かって動いていきます。
──それは面白いですね! 従来の組織体制ではあり得ない、全社横断的なチームを作ったということですか。これはプロジェクトとして、普段の仕事に加えて行うことになるんですよね?
岡田:業務の20~50%を割き、会社が認めたものについては投資を行い、場合によっては組織や社内ベンチャーを立ち上げます。会社として全力でバックアップしていくわけです。
──勤務時間の半分ですか!? 力の入れ具合が伝わってきます。
岡田:早速、eスポーツチームは部として発足し、部活でこれから大会に出たり、スポンサーとして参加したりしております。体験して学び、ビジネスでの関わり方を考えようと。やる気満々です。面白いなと思いました。
新しいことに挑戦するのですから、ここでは年齢やスキル、キャリアは関係ありません。「アイデアとやる気」が一番大事な要素です。このHassojitzプロジェクトは、人事部と経営企画部の共同事務局で進めている企画で、経営陣も積極的にサポートしてくれています。「若い力で事業を起こす」を口だけではなく、会社としてやっていくということなんですよ。つい最近まで学生だった人でもチームリーダーになれる。そういう動きに寛大で、応援する会社だと思っています。
常に機会を与え、成長を止めない。優秀な若手にこそ「成長実感」を
──若手にさまざまな機会を提供し、チャレンジさせる。その風土を生かして、双日の中で活躍するのはどういう方なのでしょうか。
岡田:成長に貪欲な人、ではないでしょうか。私自身は、社員には絶えずチャレンジングな機会を与え続け、成長実感を満たしてあげないといけない、そうでないと退屈してしまうと思っています!
それがひいては会社の発展につながってくるわけですから。そういう企業でなければいけないと思っています。私自身も、入社30年目にいきなり人事部長にさせられたわけで、この年でさらなる成長を求められていますよ(笑)。
──確かに岡田さんがまさにそうですね。30年続けてきて、辞めようとかキャリアを変えようとか思ったことはなかったんですか?
岡田:今振り返れば、常にチャレンジングな機会を与えてもらったと思います。中国駐在も激動のタイミングで行けて本当にラッキーでした。事業会社の社長ポストも任せてもらったし、駐在から帰ってきたときも、新たなビジネスを進める課長のポストを用意してもらいました。「好きなようにやっていい」と。逆に言えば、メンバーもリソースも自分でそろえなければならない環境に放り込まれたわけですが(笑)。
人事部長への異動もそうです。営業部長を5年やって、人脈もできたし少しは楽ができる……と思ったころでした。常に何となく慣れてくると異動させられた気がします。今思えばありがたい話ですよ。新たな挑戦を続けられてきたので。それと似たような楽しさを今の人たちに味わってほしいし、そのための環境を提供したい。若手には早いうちからいろいろな経験を積ませ、能力があれば抜擢(ばってき)する、という双日の良さを、自分ならどんどん引き出せると思っています。
──ちなみに今、自分が就活生だったとしても商社を選ぶと思いますか?
岡田:はい。商社の醍醐味は個々人が持つアイデアをベースに「実現してやる」という気持ちと行動次第で事業を興すことが可能だからですね。
商社は他の業界と全く性質が違うんですよね。われわれが持っているのは、アイデア(発想)力とネットワーク。これに熱意を組み合わせて、その時代のニーズにあったものを作っていく。自分のアイデア次第で社会を変え、貢献できる。入社から30年経って、今改めてそれを実感しています。
──ありがとうございました。最後にこの記事を読んでくれた就活生にメッセージをお願いします。
岡田:商社は先を見据えて、新しい価値を創造し社会に貢献していくことが役割──この事実は今もこれからも変わりません。これができなくなれば商社は不要でしょう。だから、常に商社は時代の先頭を走らなくてはいけないんです。
双日はもともと合併を繰り返して生まれた企業です。鈴木商店を源流とする日商と、岩井商店を源流とする岩井産業が一緒になって日商岩井に。そしてニチメンと日商岩井が一緒になり、双日株式会社となりました。その歴史の中で多様性を受け入れ、レジリエンスを向上させてきたのです。そのようなDNAがあるので変化への適応力は高いはず。コロナをきっかけに世界がどんどん変わっていっても、今後どのような社会の変革を迎えようとも、また新しいモデルを作れると確信しています。
私自身は「世の中をあっと言わせてやりたい」という人に魅力を感じるところがあります。その熱意で世の中を動かしてくれるんじゃないかと、期待してしまうんですよ。双日は大手にはない、若手が活躍できる土壌があります。私自身、双日は「成長スピードNo.1商社」という自負があるんですよね。さまざまな事業に挑戦して、大手でやっている人たちをあっと言わせてやりたい。そういう挑戦的な人に、ぜひうちの会社で暴れてほしいですね。
双日