「商社へ優秀な人は来ていないし、来てほしくもない」
衝撃的な発言だ。この発言の主は、『総合商社の中の人』(@shukatsushosha)。Twitterでフォロワー数2.4万人を誇る、商社業界では知る人ぞ知る有名人だ。
先日、「ゴールドマン・サックスに行く理由が、僕には見当たらなかった」という記事は、ネットを中心に話題となった。特に、就活生の中でも上位校(東大・早慶、一橋・東工大、京大・阪大・神大)の間で話題になり、多くの賛同・批判のコメントをいただいた。
が、その中でも、われわれに衝撃を与えた一言があった。『総合商社の中の人』からのリアクションだ。
「読んでて恥ずかしくなったわ。GSに行っておけば後で総合商社に中途で入れるのに。」(※)
われわれは思った。
「あの記事は、本当に商社の実態をフェアにあらわしていたのか?」
「偏った情報だけを提示していないか?」
『追加で調べる必要がある……』
ワンキャリ編集部・商社担当チームは、編集長KENから緊急招集をかけられた。
現役商社マン計5名(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅社員)への匿名インタビューを行うためだ。
今回は、このインタビューで出た、「なぜ、今、優秀な学生は、商社に行くべきではないか」という人たちの意見を取り上げ、『商社の実態』に迫っていきたいと思う。
(※)……@shukatsushosha 「7:11 - 2016年1月24日」のツイートより
外銀・外コンの業務は、商社でもできるが『どれだけ短期間で習得できるか?』が全然違う
前回の記事の1つ目の主張はこうだった。
「外資コンサルや、外資系投資銀行でできる仕事は、商社でもできるようになっている。だから商社の方がいい」ということ。これは確かに正しい。
だが、決定的に両者では違う点がある。それは、「習得するための期間の長さ」だ。
そもそも、外資コンサルと外資系投資銀行は『専門職』に近い。
外資コンサルは一般的には、『ジェネラリスト(幅広い領域の業務を担当する人)』として認識されることが多い。しかし、私自身、外コンで働いた経験から言えるのは、「コンサルは、コンサルという専門職である」ということだ。それは決して、ジェネラリストではない。
ある時、私はマッキンゼー出身者で、メガベンチャーを経営する経営者に話を聞く機会があった。
私は聞いた。
「マッキンゼー時代の経験で、今活きていることはなにか?」
彼は即答した。
「まったくないですね(笑)」
しばしば言われる言葉がある。それは、マッキンゼーや、ボストン コンサルティング グループといった華々しい会社を出た人が、必ずしも優れた起業家になるとは限らない、と。
マッキンゼー、ボストン コンサルティング グループ出身者が必ずしも『起業』で成功しない、2つの理由
なぜなのか? その理由はシンプルだ。戦略コンサルの仕事は、「『大企業』が意思決定するための判断材料を作り続けること。そして、会社の意思決定を促すこと」だ。
一方、この技術は、必ずしもベンチャーの経営では役に立つとは限らない。なぜなら、
- ベンチャーと大企業では意思決定におけるプロセスが大きく違う
- ベンチャーでは、正しい意思決定をすることよりも、それを実行することの方が遥かに難しい
という2つの違いがあるからだ。
よって必ずしも、戦略コンサル出身者が、そのまますぐに『優れたベンチャー経営者』になれるとは限らないのである。
付加価値の低い業務は外注し、『専門職』となるための最短ルートをたどるのが外資系企業
外資コンサル、外資系投資銀行では特定の業務を永遠と繰り返す。いわば、『専門職』。さらに社内には、専門的な技術を効率的に高める仕組みが存在する。
例えば、『付加価値の低い』といわれる雑務・調整業務は、社内のスタッフ部門へ完全に外注を行い、付加価値の高い業務にフォーカスさせるのだ。むしろ『誰でもできる業務』を正社員が行うと、以下のように怒られる。
「誰でもできる業務をやってもらうために、そんな高い給料を君に払っているわけではありません。もっと付加価値の高い業務に集中してください。」
商社の1~3年目が、雑務や飲み会のセッティング、社内接待に追われる中、外資コンサル・外資金融の若手達は、この専門職のトレーニングを何十回も実践し続ける。専門職としての技術が、どちらが早く身につくかは明確だろう。
現役商社マン達が、外資系金融機関・外資系コンサルティングファームを推奨した1つ目の理由は、この「習得するための期間の長さ」にある。
商社には『日本のために』と考えている社員など、ほとんどいない
「金儲けがしたくて商社に入りました。今は金融をやっていますが、正直、日本のためにとか、どうでもいいです」
こう語るのは5大商社に勤める中堅社員だ。ガッカリするだろうか? だが、インタビューしたところ、実態はそれをサポートしているようだ。
確認したい。ゴールドマン・サックスの記事での2つ目の論点はこうだった。「外資系企業同士はあくまでライバルであり、より高い大志のために協力することはない。しかし商社は大志のために、協同して働くことがある。その経験は最高に素晴らしい」と。
確かに商社の中のいくらかの人は、本当に『日本のために』と思って働いている。私の知り合いにもいる。しかし、実際のところ、ほとんどの社員は「そんなこと意識して働いていない」というのだ。
とある商社では、「朝から新聞だけ読んで、ヤフーニュース見て、何もせずに帰っていくオッサンがたくさんいる。ハッキリ言って、この人、なんのために働いているんだろう? と思う」という声もあるほどだ。
非トップの本音は、「仕事は真面目にするが、モテたいから商社に入った」
あるいは、違う声もある。
「仕事に対しては真面目なのは間違いないが、正直、モテたいから商社に入っただけ。日本のためにとか読んでいて恥ずかしかった。」
そう語るのは、有名私立大学を卒業した、とある若手社員だ。
前回のゴールドマン・サックスの記事でインタビューしたのは『トップ』の就活生だった。一方、今回インタビューをした現役商社マンが学生時代、『トップ就活生』だったかはわからない。
かつては、『日本のために』と大志を抱いていたのかもしれないし、もともとそんなことを考えてなかったかも知れない。いずれにせよ、今回のインタビューから見えてきた主張はわかりやすい。それは『日本のためにと考えながら働いている人は、大多数ではない』ということ。外資でも、日系でも大差はないということだ。
商社が40年かけて人材を育成できたのは、高度経済成長期だったからできただけ
最後の論点は、「環境認識の変化」だ。
確認しよう。最後の主張はこうだった。「商社は40年かけて人材を育成する。だから、商社の人事は本気で学生に向き合い、一生かけて人を育てようとしている。それぐらい責任感がある」と。
これは確かにその通りだ。しかし、今は、大きく状況が変わってきている。日本全体の経済成長が鈍化する中、どの商社も利益を上げるために人事制度にもメスを入れ始めている。
例えば、とある商社では成果主義に基づき、大幅な人事制度の見直しを行った。今まで年功序列で自分の位置を脅かされることがなかったが、最近は自分より年下が上司になる「逆転人事」が生まれはじめた。
後輩に教えるのは『損』という文化が生まれはじめた
その結果、どういうことが起きているか?
ワンキャリ編集部・トイアンナは、自身のブログで下記のようにまとめている。
「後輩に教えるのは『損』という文化が生まれた」
逆転人事によって、パワハラに近いことをやっているとうまく指導しているといわれ、部下へ寄り添って指導すると、『もっとビシバシやれ』と言われるようになったと。
「器の小さい大人だな」
とあなたは思うだろうか。しかし、私は彼らの気持ちが少しわかる。彼らの立場に立ってみてほしい。20~30年前に入社した彼らは、40年スパンで経営人材になるはずだった。そのために、下積み時代も過ごしてきた。辛いことも乗り越えてきただろう。しかし、ここへ来ての『逆転人事』。マクロ経済が不況な中、企業に取っては合理的な決断だということはわかっているのだが、どうしても心では納得いかないのだ。
何が言いたいか?
商社といえども、40年先に何が起こるかは全く予測できない時代となっている。そんな環境の中では、早いスパンで成長できる外資系企業の方が、時代に合っているのではないか、ということだ。
「商社を絶対におすすめしない」4つの理由とは
「ここまでのインタビュー結果をまとめよう」
深夜12時になっていた。渋谷オフィスに集結したワンキャリ編集部チームは、ようやくここまではたどり着いていた。しかし、われわれは気づいていた。
ここまでは「なぜ、商社ではなく、外資コンサル・外資金融なのか?」という問いには答えているが、商社に行くべきではない理由としては弱い、と。
総合商社の中の人からトイアンナが聞いていた論旨は、以下の4つだった。
- 今の商社は、表面上のダイバーシティに苦しむ若手が多く幸せな環境とは言えない
- 後輩に教えるのは損という文化が生まれ、育成の仕組みが弱体化している
- 資源ビジネスの限界が近づいている
- 元々、総合商社は凡庸な学生がいく場所だったため、優秀でない上層部も多い
※参考:トイアンナのぐだぐだ
この情報は「果たして本当なのか……?」
われわれは手元にあるデータによって、これらの検証作業を始めようとしていた……。
【後編へ続く】
──ワンキャリ編集長KEN @yuigak
※こちらは2016年2月に公開された記事の再掲です。