みなさん、はじめまして。クライス&カンパニーでコンサルタントをしている山本 航(やまもと わたる)と申します。
私は新卒入社した野村総合研究所(NRI)で戦略立案や業務コンサルを経験した後、採用担当者として主に新卒採用の企画や面接を行いました。
過去にはワンキャリアの記事(「なぜ商社や広告代理店を抜いて、NRIが就活ランキング3位なんですか?」)や動画コンテンツ(NRI LIVE!)にも登場しています。
NRI時代には難関企業や人気企業を目指す多くの就活生と話しましたが、現在は人材紹介会社の転職コンサルタントとしてそういった人気企業の若手社員のキャリア相談に乗っています。
誰もが憧れる人気企業に入社したはずの彼らは、何に悩み、なぜ転職しようと思うのでしょうか。
今回、私がお届けするのは、ある商社マンとコンサルタントのキャリア相談事例です。すべての人にそのまま当てはまるわけではありませんが、少しでも就活生のキャリア選択の参考になればと思います。
商社編:「営業はつぶしがきく」の落とし穴! キャリアチェンジに苦戦する商社マンAさん
Aさんは総合商社に勤務する20代後半の営業マン。就活の時は「海外で活躍したい」「事業投資がしたい」と総合商社を第一志望にしていました。入社後の具体的なことはあまり考えていませんでしたが、頭の回転の速さ、コミュニケーション力、そして持ち前のパッションで見事第一志望の総合商社から内定を獲得します。
意気揚々と入社したAさんは、配属先の事業部で投資先事業の営業ポジションにまずアサインされました。
「いつか事業投資や子会社の経営に携わりたい」「商社の営業を経験していればどこでもつぶしはきくだろう」「力をつけた後はベンチャーに転職。ストックオプションをもらってCxOとしてキャリアアップ!」と、思い描くはバラ色の将来。
そんなある日、Aさんは同期入社した仲間の一部が、事業投資やコーポレート部門のような企画系部署に異動になっていることに気付きます。営業に日々邁進(まいしん)し、社内外の関係各所との調整に追われる自分とは違い、事業投資や企画に携わる同期たち。そこでAさんはふと、「自分がやりたかった商社の仕事はこれではない……」と考えるようになりました。
30歳が近くなったこともあり、このままグループ会社の一営業マンとして働くことへの不安を感じたAさんは、私のところへ相談にやってきました。「本当にやりたいのは、事業投資や企画系の仕事だった。転職するならコンサルか事業会社の企画職かなあ」と話すAさん。
さあ、Aさんにどのような転職先を紹介できるでしょうか。
営業職と企画職の間には大きな壁がある
正直なところ、Aさんがコンサルに転職するのは簡単ではないでしょう。コンサルティングファームを紹介できますが、コンサルへの未経験転職は一般的に30歳がめどと言われています。そんな中、企画職ではなく、営業としてのキャリアを築いてきたきた方だと、面接で落ちてしまうことは珍しくありません。
この背景には、営業職と企画職では働き方や頭の使い方がそもそも違うということが挙げられます。
コンサルも商社出身者を受け入れていますが、そこで求められているのは営業力ではなく企画力。就活で大人気の総合商社の営業マンでさえ、企画系人材を求めるコンサルへの転職は簡単ではないのです。
総合商社から転職する人の多くは「年収や社格を落とさずに転職すること」を希望されます。もちろん今の暮らしや家族のことがあるため仕方がないのですが、コンサルティングファームが難しくなると、その条件に見合う転職先を紹介するのは難しくなります。30歳前後で1,000万円+福利厚生のある業界なんて、コンサル業界か金融業界くらいしか存在しないためです。
一方、年収にこだわらない転職ができるのであれば、大企業かベンチャーかを問わず、営業としてキャリアアップすることも、新たに企画職にチャレンジすることも可能です。
ただし、総合商社は給与がどんどん上昇していくため、年齢を重ねるほど他業界との給与ギャップが大きくなり、転職への障壁が高くなってしまうことも頭に入れておいてください。
もし営業としてのキャリアアップを希望せず、企画職や未経験の職種にチャレンジするのであれば、まだ年収が低い若手のうちにポテンシャル採用を狙って転職市場に出てしまうことがオススメです。
キャリアチェンジに求められるのは「肩書とプライドを捨てる覚悟」
上記の通り、もし営業職ではなく企画職にこだわるのであれば、大企業やベンチャーの企画職もご紹介することはできますが、年収が大きく下がることは避けられません。
しかも、いきなりベンチャーのCxOポジションへ転職できるのは、限られた優秀な人だけ。一般的にはメンバーポジションから新しいキャリアを始めることになります。
厳しい言い方ですが、キャリアチェンジにはそれだけの覚悟が求められるのです。
ちなみに、ベンチャーではビジョンやミッションへの共感性が必須です。役職や年収、ストックオプションといった「自己の利益や名誉のみ」を得ようとしている人の選考通過は難しいでしょう。
以前、ベンチャー投資家の方の話を伺ったことがあるのですが、「最初からストックオプションや年収にこだわっている候補者は採用しない」とおっしゃっていました。
また「自分で会社の業績を上げてみせるので、それが実現できたら年収を上げてほしい」と言って覚悟を決めて入社する、本当に優秀で人間力の高い方もいるようです。
社内でキャリアチェンジという選択肢もアリ
最終的に、私はAさんに「転職ではなく、社内で営業から企画へのキャリアチェンジを狙うこと」を勧めました。
人材紹介会社が転職を勧めないのは意外かもしれませんが、本人の希望をかなえるための最適なキャリアを紹介することが私の仕事ですから、こういった提案をすることもあるのです。
Aさんが企画系の業務に移るためには「企画職に行きたい」と周囲へ積極的に発信しつつ、まずは目の前の営業の仕事で圧倒的な成果を出し、上司の目に留まることが最短の道です。もし目の前の業務の不満ばかりを漏らしていては、誰の目にも留まらず異動の可能性もなくなってしまうでしょう。
ちなみにNRI人事時代、学生から「どうやったらNRIに入れますか? 何を勉強しておくと良いですか?」とよく聞かれましたが、「目の前の研究や課題、ゼミをとにかく一生懸命頑張り、そこで成果を出すことが一番大事」と同じ言葉をかけていました。
「目の前のことを頑張り、どんな環境であってもそこで成果を出す人が評価される」という事実は、就活にも転職にも等しく当てはまるのです。
【山本からのアドバイス】
・営業出身者のキャリアパスは、営業に限定されがち(これは総合商社に限らず、大手企業の法人営業や個人営業も同様)
・大幅なキャリアチェンジを望むならば、年収が低く、専門性が固定されない20代のうちに転職市場に出ることを検討すべし
・キャリアチェンジを狙うならば、現状に嘆いて腐るのではなく、まずは目の前の業務で結果を出そう!
コンサル編:企業参謀になれると思ったらITコンサルになっていたBさん
将来は経営者になりたいと思っていたBさんは、新卒で総合系コンサルティングファームに入社しました。経営者の近くで働き、多様なプロジェクトをこなす中で、経営視点が身につくと思ったためです。
しかし、入社して数年がたち、振り返ってみればBさんが経験していたのはIT案件のプロジェクトマネジメントやシステムの要件定義ばかり。かつて目指したのは、企業参謀としての戦略立案やM&A支援でしたが、気がつけばBさんはITコンサルタントになっていたのです。
自分のキャリアに疑問を感じ、私のもとに相談にやってきたBさんは「経営に携われる非ITの戦略コンサルに行きたい……」と繰り返し漏らしていました。
「気づいたらITコンサル」は「総合系ファームあるある」
コンサルを目指す就活生にまず知っておいてほしいのは、近年コンサルでIT案件にアサインされる可能性が高まっているという事実です。日系・外資を問わず多くの総合系ファームは業務コンサルやそれに付随するIT案件に注力しており、最近では戦略系ファームの代表であるBCGもその傾向を強めています。
総合系ファームにおいて、ポジションの名称が「コンサルタント」であってもIT案件を担当することは決して珍しくありません。コンサルタント職の業務範囲は主に非ITも含めた実行支援からITコンサルティングにまたがっており、ときにはSIerに近い仕事まで担当することもあります。
説明会などでその旨を説明されていても、戦略案件をやれるもんだと思い込んで入社し、入社後にその実態を知るケースも少なくありません。Bさんの悩みは典型的な「総合系ファームあるある」だと思います。
コンサル志望の学生は、自分が受ける職種が戦略からITシステム導入のどの部分を担当しているのか、事前にしっかりと確認することをオススメします。
もちろん、決してIT案件が悪いという意味ではありません。
就活生は「戦略>業務・実行支援・IT」と考えがちですが、私自身現場でコンサルタントをしていた頃は、戦略案件よりも、手触り感の強さやスピーディに結果がでる業務コンサル案件を好んでいました。
今回は「戦略をやりたかったのに、ITばかりになってしまった」という不幸なミスマッチケースでしたが、やはり仕事が楽しいか楽しくないかを判断するのは自分の価値観次第なのです。
基本的にコンサルタントの転職は有利
では、Bさんのキャリアチェンジが難しいかというと、決してそうではありません。
コンサルが身につける論理的思考力、コミュニケーション力、資料作成能力、データ分析力といったビジネスマンの基礎スキルは、コンサル以外の業界へ転職する際に非常に有利にはたらきます。また、IT系で高い成果を出した人が、戦略系ファームにキャリアチェンジするケースも珍しくありません。経営者を目指す上で、戦略コンサルを経験することはキャリアに箔(はく)をつけ、独立後の人脈を得る上で有効なのは間違いありません。ITコンサルから戦略コンサルへのキャリアアップを希望するならば、商社編でもお伝えした通り、まずは目の前の仕事で高い成果を出すことを目指しましょう。
経営者へのキャリアパスは戦略系だけではない! コンサル×エンジニアリングで経営人材を目指す
「経営を学ぶ」という目的を掲げ、ビジネスの上流に位置する戦略コンサルを目指す人は多いですが、経営者へのキャリアパスはそれだけではありません。ITコンサルという上流工程だけではなく、より下流の要件定義やコーディングといったエンジニア領域にまで下り、「ITコンサル×エンジニア」の掛け算によって人材の稀少(きしょう)性を高めるというのも一つの選択肢です。エンジニア領域の分かるコンサルタントになった後、事業会社のIT系事業責任者(CIO)に転職し、その後に非ITも含めたジェネラルな事業責任者になるというキャリアがこれに当たります。
また、ベンチャー企業の多くはテクノロジー事業と切り離せないため、事業とITの双方が分かる人材は大変重宝されます。特に、ベンチャーのCTO(最高技術責任者)はエンジニアのトップと見られがちですが、実際は「テクノロジーが分かる経営陣の一人」です。ベンチャー企業への転職を考えているならば、ITコンサルやPMO(プロジェクトマネジメント業務の支援)だけでなく、プログラミングのようなエンジニア領域を学ぶことも有効な選択肢といえるでしょう。
【山本からのアドバイス】
・多くのコンサルティングファームがIT案件を増やしており、気づいたらITコンサルタントになっているケースが増加中
・とはいえ、コンサル出身者は転職マーケットでは売り手市場。より好みしなければ、転職に困ることは少ない
・経営に近づく方法は戦略コンサルへの転職だけではない。ITも事業も分かる希少性の高い人材を目指すことも検討してみよう!
いかがでしたでしょうか。
冒頭でもご説明したように、今回の話はあくまでも相談者の事例であり、全ての商社マンやコンサルタントに当てはまるものではありません。
しかし、入社前にキャリアの落とし穴を知っておけば、うまく立ち振る舞えるのも事実。
私の話が少しでもみなさんの就活に役立てばうれしいです。
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【執筆協力:スギモトアイ】
(Photo:Altitude Visual/Shutterstock.com)