ここは日本有数の歓楽街。Googleにさえも載っていない、とある会員制バー。ある時には政治家が選挙対策を、ある時には一流企業の社長たちが非公式な会合を、ある時には芸能人がデートに訪れる。今夜も、多くの人々が憧れる会社のバッジを付けた男たちが酒を求める。社会的地位、年収、やりがい。世間から「勝者」と呼ばれる彼らの「真理」を探るべく、僕はシェイカーを握りしめた。
今夜のお客様:テレビ局員
<今宵の7杯はこちら>
・そもそもどんな人が多い?
・芸能人に会える?
・給料は高い?
・激務って聞くけど、実際は?
・入社するのはどれくらい難しい?
・テレビ業界の改善点、あまり知られていない問題は?
・女子アナになりたいです。なにかいい情報知ってませんか?
ライター紹介:アサキヒロシ
知る人ぞ知る某会員制バーに勤務する大学生。学生ながら、政財界の大物や芸能文化人たちに今夜もお酒を注ぎ続ける。
「テレビ」
私たちが普段何気なく毎日目に触れているモノだ。
しかし、それを作っている「テレビマン」について、知っている人は少ないのではないか。
それも当然、なにせ数が少ない。採用が縮小気味のメガバンクが合計数千人採用する中、キー局(日本テレビ、テレビ朝日、フジテレビ、TBS、テレビ東京)の採用数は数十人程度と言われている。
しかし採用人数と反比例するように、その人気は非常に高い。
この連載では、一流と呼ばれるビジネスマンたちの知られざる苦悩、アルコールなしに話せない内容を紹介してきた。
ありがたいことに、芸能人が多く出入りする当店では多くのテレビ局員も出入りする。
今回は謎に包まれたテレビ局、テレビマンたちの知られざる姿をお伝えしたい。
なお自分の周囲にテレビ志望の学生が多く、彼ら就活生と筆者アサキヒロシとのQ&Aという形でざっくばらんにお答えしたい。
当店に来られる方でスーツを着ている方を見たことはない。
みんなオフィスカジュアルというよりかは、好きな服を着ているようだ。女性であれば髪の毛が茶色は言わずもながら、青や金の方も目にする。
誤解を恐れず言えば、大学生の「ウェイウェイ系」のイメージが強い。上司と部下が社内恋愛について話し合っているのを見て、隣の銀行員のお客さんが信じられないと言っていた(笑)。金融機関であれば、社内の人間関係がつまびらかになると命取りになるらしい。
あるプロデューサーの方からパーティーに招待してもらったが、一介のサラリーマンでパーティーを開催する人脈、社交性、金銭的余裕があるというのは驚きだった。
自分から見ると、カッコイイ、キレイ、カワイイといった要素を持った派手な方が多いイメージだが、人事の方曰(いわ)く、部署によるだけであって、報道などの部署では、全く雰囲気が異なるそうだ。
これは選考で社員の方に絶対聞けないと思うので、筆者・アサキヒロシの出番だろう(笑)。
芸能人とは、会えるどころか、友達関係の人が多いなというイメージがある。仕事の際は分からないが、酒席では互いにタメ口で、連絡はLINEなどの個人の連絡先で取っている。中には旅行に同伴している人もいるそうで、関係性は強いと感じた。なんと、恋人として付き合っている方もいるのだ。一方、近い業界である代理店の方々は、芸能人に対して、どこかビジネスライクな対応をしている気がする。
具体的な額は聞けないが、領収書を書いた実感として「羽振りはいいな」という印象だ。
おそらく他の会社より経費や福利厚生でカバーできる範囲が広いからではないだろうか。ちなみに某大手広告代理店を辞退して、準キー局に入社した方は、理由として「テレビのほうが収入高いから」と言っていた。ご参考までに。
キー局社員が最も年収が高いと思われがちだが、一部のローカル局や準キー局のほうが高い場合もあるとのことで、かなり謎が多いのが実態だ。
話を聞く限り、激務だと感じてしまう。
まずテレビ局は会社のシステムとして、社内に24時間365日誰かがいるシステムになっている。特に報道局では、災害や事故に対応する必要があるため、現場責任者であるデスクをはじめ、記者や、映像の編集者、AD、雑務をするアルバイトを含め相当な人数が待機しているようだ。
またスポーツ局ではアスリートに密着しなくてはならず、バラエティーやドラマの制作局では限られた予算と時間に追われて徹夜三昧という話も。
特に若手は、急な取材や撮り直しなどで休日がつぶれ、平日は深夜寝ていても「いつ電話で呼び出されるかわからない」プレッシャーもあるらしく、大変そうだと感じた。
私の周りでもテレビ局でアルバイトをしている友人がいるが、断りなしにトイレにも行けないほど忙しい人が多いらしい。
ただ、宴会などの付き合いのしんどさは他業界と比べて落ち着いている。例えば金融や商社では、上司の一声でキープボトルを飲み干したり、裸になったり、芸をしたりと大変そうな一方、放送関係者の方々は「みんなで盛り上がる」というよりかは、参加者の中で気の合う者同士で盛り上がる、という雰囲気だ。そのような点で、いわゆる「体育会」チックな部分は少ない印象がある。ちなみに僕はテレビマンの介抱をしたことは今まで一度もない(商社や証券の人たちは数知れず)。詳細を知りたい方は、ぜひ前記事を参照いただきたい。
入社5年目以内のNHK、民放キー、準キー局の社員の方30人に「学歴・学生時代に頑張っていたこと・他社で受かったところ」を聞いてみた。
ーテレビ局員の学歴は?
お客さんに学歴を聞くという、バーテンダーとしてあるまじき行為の上、苦心して得たデータを以下に記す。
まず、キー局と準キー局では、都内の大学出身者の割合が違う印象を受けた。
簡単に言えば、キー局では地方大学の出身者が極端に少ない。逆に関西や東海地方を受け持つ準キー局・基幹局では、都内の大学出身者がそこまで多くないということである。キー局であれば、東大や京大、一橋大などの国立難関大、加えて早慶上智などを加えると7、8割を占めている印象がある。そこに地方の難関国立大(地方旧帝大、横国、神戸大など)、MARCH、関関同立が数人入って定員に達する印象だ。
一方で、準キー局では、都内の国立大や私立大の代わりに、地元の国立大や私立大が多い印象を受ける。某在阪局では、僕の聞いた限りでは、地元の私立大学の出身者が一番数が多く驚いた。地方の学生は、その地域のローカル局を選択肢として考えるのも有効だろう。とはいえ、ローカル局でも学歴フィルターはあるらしく、ある九州の局では社長が「MARCH以下は書類ではねて!」と人事に指示しているとも聞いた。
テレビ局で唯一全国規模のNHKは、キー局ほど学歴が強く求められていなさそうだが、知識量や体力、バイタリティが一線を画している印象がある。NHK志望者はテレビ局より新聞社を併願することが多いらしく、別の業界からの視点で分析することが大事そうだ。
ー学生時代に頑張った事は?
実に多種多様だ。
海外の大学院に進学、部活動でインカレ優勝、プロのお笑い芸人、有名女性誌の読者モデル、ミスユニバース出場、自分で居酒屋経営、元アイドルなど、それぞれ興味の持ったことにまい進している印象。しかし、サークルやアルバイト、学業に打ち込んできた、いわゆる「一般的な」大学生だった方も約半数いる。この点を某局の社員に質問してみると、「どこも共通しているのは、何かしらおもしろみのある子を採用する方針だと思う。だからきっと、何をしたかよりも、自分の体験をどう面白く感じたかを人事は重視しているんじゃないかなぁ」との答えが返ってきた。
ー他社で受かったところは?
他社で受かったところだと、やはり同業界の他のテレビ局、芸能プロダクション、音楽レーベルが多かった。
他にも業務が隣接している広告代理店、映画配給会社、映像制作会社、新聞社、全く異なる業種のメーカーや金融機関も一定数見かけた。意外だったのが、総合商社を辞退した方が数人いたことだ。この点からもレベルの高さを感じられる。
一番多いのは、全国のテレビ局を片っ端から受けて、その中から選ぶというパターンだった。各局の採用人数は少ないため、「テレビマンになれるなら企業を選んでいられない!」という考えが強いらしい。前記事にもあるように、地方のある局でも内定者全員が東京出身だったということもある。それだけ、熱意のある学生が多く、簡単には受からない業界であることがおわかりいただけただろうか。
筆者の印象に残っているのは、AbemaTVなどのインターネットテレビ、Netflix、Hulu、Amazonプライム・ビデオなどの映像配信事業についての見解だ。
社員の方から聞いた話では、テレビ局では常に他局も含めたさまざまな番組を局内の何百もあるテレビでモニターしているらしい。そのモニター対象に、ついにAbemaTVが導入されたそう。会社から特に説明があったわけではないが、社員の間では「ついに新たな敵がここまで来たか」と緊張感が走ったらしい。AbemaTVは玄人好みの番組であり、テレビとは違った立ち位置と認識していたものの、テレビ局も意識せざるをえない存在感にまでなったことが衝撃だと言っていた。実際、元SMAPメンバーの出演番組などでAbemaTVは話題をさらった。ますます看過できない存在と警戒している部分もあるのではないだろうか。
また、あるディレクターが、合コンにて「こないだ始まった大物芸能人の冠番組を担当している」と自慢した。しかし、返ってきた反応は「そんな番組始まっていたなんて知りませんでした!」。愕然(がくぜん)としながら、「こんなに有名な芸能人の番組を見ていないなら、何を見ているの?」と聞くと、上記の定額見放題サービスの海外ドラマ! と言われたそうだ。この話から、今の若者のカルチャーの中心がテレビではないと実感したとのこと。
さらにその社員は、仲のいい芸人から「ネット配信サービスの出現で、テレビに固執しない若手芸人も出てきている。彼らが中心世代になったときのテレビはどうなるんだろう」と言われたこともショッキングだったと語っていた。
話を聞く限り、テレビ局は激動のまっただ中にいるようだと感じた。
あまり知られていない問題としては、テレビ局は新聞社との関係性が強い局が多く、福利厚生制度が一緒だったり、親子関係が強い場合が多いことが挙げられる。局によっては新聞社の意向を受けた人事や報道をすることが多く、自社にプライドを持った社員の方々にとっては苦しいことだという話も。
お話を聞くと、多種多様だなと感じた。
実際に仕事をされている姿は分からないが、酔いが回っているところを見ると、全員が特別垢抜(あかぬ)けているようにも見えず、一般の社員の方のほうが女子アナっぽいなと思うことも多々ある。一般の社員の方と一緒に来店することがほとんどだが、特別扱いされている印象もない。ある程度キャリアを積むと、アナウンサーから記者やデスクを担当するようにもなるそうだ。
大学時代も、サークルに入ってなかったり、有名なミスコン出身者でもなく地元の観光大使くらいが多い印象を抱いた。ちなみにそのような○○大使、ミス○○の肩書は、志望者のほぼ全員が持っているとのこと。
ただ、大きい局ほど容姿や、何かを成し遂げた方が多い印象。アナウンサースクールや女子大生キャスター、事務所所属歴はそんなに多くないと感じた。地方の局になると、「大学4年間ずっとスクールに行っていた」、ウグイス嬢のアルバイトをしていたなど、実践的なことをしていた印象がある。
アナウンサー自体、人気で採用数もごくわずかなため、全国各地どこでもアナウンサー専願で受ける方が多い。そのため、愛媛出身の人が宮城県のアナウンサーに、兵庫出身の人が秋田県のアナウンサーになった事例も。逆に、地域の出身者しか採用しないという暗黙のルールがある局もあるとのことなので、なれたらラッキー程度で考えるのがよいのではないだろうか。アナウンサー志望で記者やプロデューサーになって活躍している方も多々いる。
今回は一般的な就活サイトでは出回らないであろう、テレビ局員の姿をお伝えしてきた。志望者の皆さんが当店の取材に訪れることを期待してやまない。
▼アサキヒロシの他の記事はこちら
・【OB訪問前は閲覧禁止】バーテンダーは見た!商社、広告、金融…エリートビジネスマンのホンネと悲哀
・外銀MD編:「年収5000万なんて誰も貰えなくなるよ」重役が語る外銀AtoZ
・修羅場、激務、宴会芸。エリートビジネスマン夜の苦悩
・大手証券に3月内定、そこから2度の内定辞退。回り道の先に見つけた「やりたいこと」【番外編】
・合説は「人生最後の社会見学」【バーテンダーは見た:番外編】
・テレビ局員編:「芸能人と会える?激務ってホント??」知られざる実態に迫る
・【前編】大手かベンチャーか?成長か安定か?新人からオジサンまで、6人がバーで大激論した結果
・【後編】朝まで生激論!「学生のうちは遊んどけ」でも「即戦力が欲しい」。それって矛盾してるでしょ?
・【前編】「内定ブルー」に陥った学生はどうなるのか?6つのパターンに分類してみた
・【後編】「内定ブルー」でやりたいことを諦めた学生 「後悔はしていない」その理由とは
・地方大から外資金融に内定。エリート就活生が語った外資系就活、そして選抜コミュニティの世界
・【実録】たまたま戦略コンサルに受かってしまった人の「末路」
・メーカーなのに30半ばで年収1250万円、タワマン住まいの「勝ち組」 それでも彼が転職したいワケ
・激務に就く学生に届け。それでも「仕事は楽しい」と思える未来のために書いた、アサキヒロシからの手紙
・傷だらけの就活エリートたちと、コンサルおじさんの憂鬱。「コンサル最強」は三日天下だったのか
(Photo:Sinngern/Shutterstock.com)