※本記事は、2016年1月公開の記事を再掲しており、当時最新の業績データを使用しています。
こんにちは、ワンキャリ編集部です。今回は、大手監査法人 フィナンシャルアドバイザリー部門 元パートナー 夏目さんに【データから見る商社】と題して、商社ビジネスの特徴(前編)、そして5大商社の事業分析(後編)をテーマとした記事をご寄稿いただきました。
後編では、5大商社の事業について分析していきます。※前編はコチラ
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7. 各社、資源・エネルギーの影響で減益へ~5大商社の業績概況~
5大商社の事業領域は多岐にわたるということは、前編にてお伝えいたしました。そのために5大商社の業績は、国内外のマクロ景気の影響を大きく受けます。
以下のグラフを見てください。直近期(2015/3期)では、減益となっている企業の方が多いことが読み取れます。
※出典:各社有価証券報告書。また決算数値は以下の会計基準により作成されています
三菱商事・三井物産・伊藤忠商事:2013/3月期まで米国会計基準、2014/3月期以降は国際会計基準
丸紅:2012/3月期まで米国会計基準、2013/3月期以降は国際会計基準
住友商事:全て国際会計基準
減益が大きく出た背景には、新興国経済の減速に伴う天然資源価格の下落の影響があります。近年は、各社、資源・エネルギー分野の権益投資の利益貢献が大きかったため、減損損失を計上するなどして、減益となっている企業も多いのです。
8. 各社概況
ひと括りに5大商社といいますが、事業の強みは、各社異なります。
各社の事業セグメント別の資産と純利益の対前期比較図を参照しつつ、「利益の源泉」を見ていきましょう。
- 資産:各事業セグメント別の投資額。ここでは横軸にあたります。
- 純利益とは、稼ぎを示し、ここでは縦軸にあたります。
- 横軸は「その事業にどれだけのお金を投資したか」を指します。
- 縦軸は「その事業がどれだけ利益を生み出したか」を指します。
(※)事業セグメント分析図の読み方:
図2-1~5は、全て各社の有価証券報告書において開示されている事業セグメント情報に基づき作成されています。
そして、「この2つがこの2年でどう変化したか?」が線で描かれています。利益額が表示されているのが当期の水準なので、この実線の方向を見ることで、その事業の業績が改善傾向にあるのか、悪化傾向にあるのかが、読み取れるようになっています。また、グラフにおける各事業セグメントの実績値と原点を結んだ線を引き、この傾きを計算すれば、純利益/投資額となることから、事業セグメント間の経営効率についても比較することができます。
三菱商事:総合力No.1、事業バランスが良く、当面は死角が見当たらない
三菱商事の主な事業一覧
以下は、三菱グループの中核企業である三菱商事の手掛ける事業とその具体例です。
- エネルギー:原油・天然ガス等の権益投資、取引仲介
- 金属:鉄鋼製品の取引仲介、鉄鉱石、石炭、非鉄金属の権益投資、取引仲介
- 機械:工作機械、農業機械、建機、自動車の輸出入など
- 地球環境インフラ:プラント、エンジニアリング、交通、など
- 産業金融:リース、パイアウト投資、不動産など
- 化学品石油化学製品、合成繊維原料、農薬などの取引仲介
- 生活産業:食料、生活物資、ヘルスケア、流通小売など
このように幅広い領域でバランス良く事業展開を行っており、どの分野でも総合商社業界のなかでは抜きんでた規模と収益性を誇ります。
三菱商事、最近の動向
2015年3月期決算の全社業績は、前期と比べ増益になりました。
資源・エネルギー価格の下落で、オセアニア、北米、欧州でのガス・石油開発事業において減損損失を計上し、「エネルギー」は大幅な減益となりました。
しかし、ローソンの株価回復による減損損失の振り戻しなどによる「生活産業」に助けられ、全社業績が対前期比で392億円の増益となりました(当期純利益:【14/3】3,614億円→【15/3】4,006億円)。
直近期では、「生活産業」において、ノルウェーの鮭鱒養殖事業者を買収し、食料事業の強化を図っています。
三菱商事の事業の幅広さは、チャレンジの豊富さに通じる
三菱商事は、エネルギー・金属などの資源分野において、国内におけるリーディングカンパニーの1つであるといえますが、非資源分野の事業基盤も厚いです。
- 「機械」におけるいすゞ自動車の海外展開事業
- 「地球環境インフラ」における空港等の交通インフラ運営事業
- 「新産業金融」におけるプライベート・エクイティ
- 「生活産業」における食品卸No.1の三菱食品、ローソン、ケンタッキーフライドチキン
など各分野に魅力的な事業や企業を多数保有しています。これにより、三菱商事の入社希望者は、どの事業領域で働くことになったとしても、チャレンジの機会は豊富にあるといえるでしょう。
三菱商事の参考記事
三菱商事に興味を持った方は、三菱商事を別の視点から描いた記事をご覧ください。
三井物産:資源・エネルギー分野でNo.1、インフラ事業も強い
三井物産の事業展開、強みはエネルギー・資源分野
以下は、三井グループの中核企業である三井物産の手掛ける事業とその具体例です。
- エネルギー:原油・天然ガス開発、取引仲介
- 金属資源:鉄鉱石、石炭、銅、ニッケル、アルミの権益投資、仲介
- 鉄鋼製品:鉄鋼製品の取引仲介
- 機械・インフラ:自動車・建設機械販売、物流、発電・港湾など
- 化学品:石油化学製品、農薬肥料など
- 生活産業:食品、物流、ヘルスケア、アウトソーシングなど
- 次世代機能推進:通信・インターネットなど
このように幅広い領域で事業展開を行っています。とりわけ、エネルギー・資源分野では総合商社業界随一の権益量、事業基盤を誇ります。
三井物産、最近の動向
2015年3月期全社業績は、前期と比べ大幅な減益となりました。
資源・エネルギー価格の下落で、米国シェールガス開発事業や北海油田・ガス田事業における減損損失、チリ銅鉱山事業における損失計上等により、「エネルギー」「金属資源」が大幅な減益となりました。
これに対し「機械・インフラ」は、物流インフラ事業や、ブラジルのガス配給事業が堅調であったことなどから増益となりました。
しかし、全社業績を補完するまでには至らず、対前期比で436億円の減益となりました(当期純利益:【14/3】3,501億円→【15/3】3,065億円)。
「人の三井」にふさわしい、チャレンジ・鍛錬の機会が得られる環境
三井物産は、エネルギー・金属などの資源分野において、欧米メジャーとの取引関係も深く、総合商社の中では圧倒的な地位を築いています。また、
- 「機械・インフラ」では、新興国の港湾事業、電力、水道など当該国の国造りに貢献できる事業
- 「生活産業」では、アジア最大の病院運営会社、IHHヘルスケアとの連携や、TV通販のQVCジャパン
など、ユニークな事業も多数傘下に抱えています。
三井物産入社希望者は、「人の三井」の名にふさわしい、チャレンジ・鍛錬の機会が得られることでしょう。
三井物産の参考記事
三井物産に興味を持った方は、三井物産を別の視点から描いた記事をご覧ください。
伊藤忠商事:繊維、食料、住生活・情報、機械といった非資源分野に強い
伊藤忠商事の事業展開、強みは非資源分野
伊藤忠商事は、非財閥系の雄として繊維に強みを持ちます。以下は、伊藤忠商事の手掛ける事業とその具体例です。
- 繊維:繊維原料、衣料品、服飾雑貨など祖業であり業界随一の規模を誇る
- 食品:原料調達から小売まで関わる
- 住生活・情報:紙パルプ流通、ITサービス、携帯電話販売など
- 機械:プラント、インフラ関連プロジェクト、船舶、航空機、自動車流通等を手掛ける
- 金属:金属鉱山資源開発、鉄鋼製品加工事業
- エネルギー・化学:原油・天然ガス開発プロジェクト、取引仲介、化学品、合成樹脂などの取引仲介
このように伊藤忠商事は幅広い領域で事業展開を行っておりますが、その強みは非資源分野です。
伊藤忠商事、最近の動向
2015年3月期全社業績は、前期と比べ増益となりました。
競合他社同様、資源・エネルギー価格の下落の影響があったものの、「金属」「エネルギー・化学品」への利益依存度が、比較的低いことが幸いしました。
- ジーンズのエドウィン買収による「繊維」の増益、生鮮食品子会社の増益
- コンビニエンス事業における株式売却益計上による「食料」の大幅増益
- プラント関連事業、自動車関連事業が好調な「機械」の増益
など、増益が重なり、全社業績は対前期比で553億円の増益となりました(当期純利益:【14/3】2,453億円→【15/3】3,006億円)。
非資源ならやっぱり伊藤忠商事
「ブランドビジネスを知りたかったら、伊藤忠商事に行って学べ」といわれる伊藤忠。「繊維」は有名ですし、果物ブランドのDoleや飲料のEvian、コンビニのファミリーマートといった消費者によく知られたブランドの使用権・企業も保有しています。伊藤忠テクノソリューションやコネクシオといった国内ICT分野の大手上場企業も傘下に抱えています。
加えて、伊藤忠商事のアジア、特に中国でのビジネスプレゼンスは高い評価を得ていることも、大きな強みといえます。特に中国における評価は高く、伊藤忠商事の元会長が、政府に乞われて中国大使に就任したというのがその証左でしょう。
資源やインフラではなく、消費者にとってより身近な非資源の分野で、グローバルに活躍したいと願う学生にとって、伊藤忠商事への入社は、最良の環境を与えてくれることと思います。
伊藤忠商事の参考記事
伊藤忠商事に興味を持った方は、伊藤忠商事を別の視点から描いた記事をご覧ください。
住友商事:金属、輸送機・建機、メディア・生活関連事業に強み
住友商事の事業展開、強みは金属、輸送機・建機、メディア・生活関連
以下は、住友グループの中核企業である住友商事の手掛ける事業とその具体例です。
- 金属:鋼材・鋼管、アルミ精錬
- 輸送機・建機:船舶、自動車、建設機械等の取引仲介
- メディア・生活関連:ケーブルテレビ、情報システム、食料、不動産
- 環境・インフラ:発電事業、プラント建設
- 資源・化学品:石炭、鉄鉱石、非鉄金属、原油、天然ガス開発・取引仲介
このように住友商事は幅広い領域で事業展開を行っています。とりわけ住友系企業との関連性が高い「金属」や「輸送機・建機」、国内で安定した事業基盤を有する「メディア・生活関連」などが、その強みです。
住友商事、最近の動向
2015年3月期全社業績は、前期と比べ減益となりました。
資源・エネルギー価格の下落により、米国タイトオイル・シェールガス開発、ブラジル鉄鉱石開発事業等において巨額の減損損失を計上し、「資源・化学品」が大幅な赤字となりました。
この赤字を非資源分野で補うことはできず、全社業績は対前期比で2,962億円の減益。赤字転落となりました(当期純損益:【14/3】2,231億円→【15/3】△732億円)。
他で得がたい「商いの基本」を学ぶ機会も
住友商事は、資源関連分野での巨額の減損損失計上を受け、当該分野でのリスク管理体制の再構築を図るとともに、非資源分野において着実に稼ぎを増やすことを重要方針としています。
このときに、住友系企業との協業をベースにした事業の存在は、強みとなるでしょう。三井住友銀行との航空機リース業、新日鉄住金との油井管事業などがこれにあたります。
また、「メディア・生活関連」には、ケーブルテレビのジュピターテレコム、情報システム大手のSCSK、TV通販のジュピターショップチャンネル、食品スーパーのサミットなど国内の有力企業も多く有しています。
このため、住友商事では、グローバルな視点での商社ビジネスのみならず、配属部署によっては、国内事業で「商いの基本」をみっちり学ぶ機会も得られることと思います。
住友商事の参考記事
住友商事に興味を持った方は、住友商事を別の視点から描いた記事をご覧ください。
丸紅:食料、電力事業に強み
丸紅の事業展開、強みは食料、電力・インフラ
以下は、丸紅の手掛ける事業とその具体例です。
- 食料:飼料穀物、大豆、小麦の貿易など
- 電力・インフラ:海外独立系発電事業(Independent Power Producer:IPP)など
- 輸送機:航空機、自動車、建設機械等の取引仲介など
- 金属:非鉄金属の原料開発、取引仲介など
- エネルギー:原油、ガス開発、取引仲介
- 情報・金融・不動産:通信・システム開発から携帯電話販売までカバー
このように丸紅は幅広い領域で事業展開を行っています。とりわけ総合商社で最大の穀物取扱量を誇る「食料」、日本最大のIPPである「電力・インフラ」の領域が、その強みです。
丸紅、最近の動向
2015年3月期全社業績は、前期と比べ減益となりました。
資源・エネルギー価格の下落の影響から、「エネルギー」、「金属」は赤字に転落しました。具体的には、北海やメキシコ湾での原油開発、カナダの炭鉱運営事業持分の減損損失が発生したことが影響しました。加えて、食料事業における大型買収案件であった穀物商社ガビロンに関する減損損失も計上され「食料」も大幅減益。
これに対し、設備稼働増となった「電力・インフラ」、携帯販売会社買収が寄与した「情報・金融・不動産」などが増益となりました。
しかし、全社業績を補完するまでには至らず、対前期比で1,053億円の減益となりました(当期純利益:【14/3】2,109億円→【15/3】1,056億円)。
丸紅スピリッツにみえる「泥臭さ」という肌感覚
ブランド志向が強い商社志望の学生は財閥系3社を、ファッションやアパレル、生活関連分野の事業開発に興味を持つ学生は伊藤忠を、第一志望として選ぶのかもしれません。しかし、どちらとも肌が合わない方もいるでしょう。
現場で皆を巻き込んで泥臭く仕事をやりたい、常にチャレンジャーでありたいと願うなら丸紅へ。「丸紅スピリッツ」が標榜する「大きな志で未来を描け」「挑戦者たれ」「自由闊達に議論を尽くせ」「困難をしたたかに突破せよ」「常に迷わず正義を貫け」のメッセージが心に響くのではないでしょうか。
丸紅の参考記事
丸紅に興味を持った方は、丸紅を別の視点から描いた記事をご覧ください。
9. 企業研究の第一歩は「その会社がどうやって稼いでいるか」を把握すること
総合商社を志望する学生であれば、「5大商社であれば、どこでも良いので入りたい」という方もいれば、「やはり財閥系が良いのではないか」と漠然と思っていた方もいると思います。
しかし、ここまで読んで5大商社それぞれの事業や、その強みが異なることを理解してもらえたのではないでしょうか。
- 三菱商事 :事業の幅広さは、チャレンジの豊富さに通じる
- 三井物産 :「人の三井」にふさわしい、チャレンジ・鍛錬の機会が得られる環境
- 伊藤忠商事:非資源ならやっぱり伊藤忠商事
- 住友商事 :他で得がたい「商いの基本」を学ぶ機会も
- 丸紅 :丸紅スピリッツにみえる「泥臭さ」という肌感覚
このように、今回は数字から読み取れる5大商社の違いを見てきました。
企業研究とは、理解して、考えること
企業研究の第一歩は、「その会社がどうやって稼いでいるか」をきちんと理解し、「その稼ぐしくみ(ビジネスモデル)の優位性が今後どのくらい長く続きそうか」を常に自分の頭で考えることにあります。
1社1社の数字を拾いながら、丹念に会社を研究する大切さを感じてもらえたでしょうか。
最後に、図3は株式市場における5大商社の評価額(株式時価総額)の推移です。直近3年程度の推移をみると、伊藤忠商事の躍進ぶりが目立ちます。これはなぜなのか? 是非考えてみてください。
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