こんにちは、ワンキャリ編集部です。総合商社が高い人気を根強く誇る一方、見落とされがちなのが専門商社という選択肢。漠然と、「総合商社の方が大きな仕事ができそう」というイメージを持っている学生も多いのではないでしょうか。
そんなイメージを覆すのが、住友商事グローバルメタルズです。住友商事から金属事業を受け継いだ同社の事業は、総合商社に匹敵するスケールを誇ります。総合商社志望者にこそ知ってほしいその魅力を、取締役の秋田さんに伺いました。
住友商事の事業を受け継ぎ独立。金属を世界の隅々まで送り届け、社会の発展を支えたい
──本日はよろしくお願いします。まず、住友商事グローバルメタルズ(以下、SCGM)の事業内容を教えてください。
秋田:金属ビジネスに特化した専門商社として、あらゆる鉄鋼製品のトレードと、鉄鋼業界における事業投資を行っています。鉄鋼業界と聞いてもイメージしにくいかもしれませんが、ビルや自動車、電化製品など、身近なものに使われる鉄を取り扱う企業と捉えてもらえれば、分かりやすいと思います。
──鉄鋼業界といえば、近年は事業再編やM&Aが活発化しています。市場動向をどのように捉えていますか?
秋田:こうした動きの背景にある内需の縮小やグローバル化は、われわれにとって決して新しい課題ではなく、長年取り組んできたことなんですよ。現在、社員の約9割が海外取引に携わっています。外的要因は変化していくものですから、組織変更などによって、いかに変化に対応していくかが重要と捉えています。
──2016年に前身の住商スチール株式会社から商号を変更し、さらに2018年4月に住友商事から金属事業を移管されていますね。その背景を教えてください。
秋田:市場変化への対応はもちろん、会社の知名度を上げていく狙いもありました。SCGMは、前身を含めると約15年にわたり住友商事の金属事業を受託してきた実績を持ちます。企業規模の拡大に伴い、業務受託ではなく独立した企業として存在感を示していくことにしたんです。
新社名は社内公募とし、「住友商事グループの総合力を発揮して、人々の生活に欠かせない金属を世界の隅々まで送り届け、社会の発展を支える存在でありたい」という思いを込めています。
「大きな仕事ができない?」「下積みが長い?」専門商社への疑問に答えます
──ここからは、学生が専門商社に抱く先入観について伺います。専門商社に対して、「総合商社に比べ、大きな仕事ができないのでは?」というイメージを持つ学生もいるようです。実態を教えてください。
秋田:SCGMでは、総合商社の鉄鋼部門に匹敵するスケールの取引に携わることが可能です。確かに、専門商社と総合商社では、資本力の差が取引規模の差として表れることもあります。ですが、当社は例外です。住友商事の100%事業会社として、住友商事のアセットが利用できるためそうした差が生まれないんですよ。
秋田康弘(あきた やすひろ):住友商事グローバルメタルズ株式会社 取締役 コーポレート部門担当役員 兼 業務企画グループ長
神戸大学経済学部卒業後、1991年に住友商事へ入社。鉄鋼関連部門にて営業および管理職経験を積み、2012年に関西ブロック中国支社長付に就任。その後、旧住商スチールへの出向を経て、現職。
──住友商事の事業会社である強みが、会社の体力として表れるのですね。「商社の仕事は泥臭いらしい。下積みが長いのでは?」と心配する声もあるようですが、こちらはいかがですか?
秋田:下積みが「先輩の補助的な仕事をする」という意味なら、全く当てはまりませんね。SCGMでは、基幹職は入社1年目から顧客を持ち、現場で経験を積みますから。入社後1年間は先輩(指導員)から1対1の指導を受けながら仕事を進めますが、その間も自分で業績に責任を持ち、案件の受注から最後の代金回収まで担当します。
一方、時には顧客の現場にまで入り込むので、泥臭い部分はあると思います。私は新人の頃に納入トラブルがあり、自動車の部品工場で作業着を着て部品の選別作業をしたことがありました。でも、おかげで自分が納入した商品がどう使われているかイメージできるようになりましたし、現場に入り込めるというのは、むしろこの仕事の面白いところだと思います。
1年目で海外を相手にトレードを担当。10年目までに全員が海外へ
──学生が持つもう一つの先入観として、「グローバルに活躍するなら総合商社」というイメージがあります。専門商社であるSCGMでは、グローバルに活躍できる環境はあるのでしょうか?
秋田:海外志向を強く持つ人ほど、活躍できる環境だと思います。SCGMの事業は海外比率が非常に高く、基幹職として入社すると、1年目でも海外の顧客を相手に取引を担当します。また、1年目の終わりから2年目の初めごろに、初めての海外出張を経験するケースが多いですね。
──入社して間もないうちから海外取引に携われるのは魅力的ですね。海外赴任の機会については、いかがでしょうか?
秋田:もちろんあります。一律に入社何年目にとはいきませんが、遅くとも入社後10年以内には基幹職の全員が海外赴任を経験できるよう、制度化を進めています。また、トレーニーや駐在員として、住友商事の海外支店・事業会社に出向するケースや、グローバル・インターンシップ研修生として鉄鋼ビジネスとは異なる業種の海外企業へ派遣されるケースもあります。
──海外赴任も経験しながらステップアップしていくんですね。基幹職の一般的なキャリアパスを教えてください。
秋田:営業職として貿易事業に携わった後、海外へ赴任して支店・事業会社で経験を積みながら経営のスキルを磨き、最終的には事業会社の経営者になるというケースが多いですね。
ちなみに、人材育成制度は住友商事と同様に手厚くしています。国内MBAや、公認会計士などの公的資格の取得費用を補助する制度や、語学研修生として海外派遣を行う制度もあります。
一方、当社独自の研修としては、「事業会社派遣要員養成講座」という階層別の鉄鋼プロ育成講座を設けています。部下マネジメントや不測の事態への対応など、厳しい経験談を社内講師が後輩に伝承するオリジナルの研修プログラムです。
「商社らしい商売」をするなら専門商社? 総合商社は投資にシフトしている
──続いて、事業や組織面でのSCGMの強みを明らかにしていきたいと思います。先ほど「総合商社の鉄鋼部門とは、取引規模の違いはない」と伺いましたが、違いを挙げるとしたらどのような点がありますか?
秋田: (1)意思決定のスピード(2)トレードに重点を置くか否か(3)配属リスクの3点です。まず意思決定のスピードですが、総合商社の場合は企業規模が大きいですから、組織の構成上、当社のほうが機動力を生かして迅速に意思決定を行うことが可能です。
2つ目について、総合商社はトレードの実務を外部に出し、本体は投資や管理に集中する方向へシフトしつつあります。いわゆる「商社らしい商売」がしたい人は、専門商社を選ぶべき時代になっているように思います。
3つ目は、総合商社に比べて商品分野が限定されているため、基幹職の場合は原則、鉄鋼の営業に配属されるという点です。この点は、初めから鉄鋼業界に狙いを定めたい学生に向いていますね。
──商品分野が絞られるので、配属面のリスクを回避できると。ですが、経営リスクが分散できる分、総合商社のほうが安定しているということはないのでしょうか?
秋田:一般的には、そうだと思います。ですが、当社は鉄を介してあらゆる産業分野に携わっているため、鉄鋼のみを取り扱うといっても、リスク分散はできています。さらに、鉄は埋蔵量や価格の面で非常に安定しているため、資源としての不安定性も当てはまりません。これが金属ビジネスならではの強みです。
意思決定の速さ、住友商事グループの総合力が強み
──鉄鋼専門商社には、総合商社系の合弁企業もありますよね。そうした企業とSCGMとの違いはどこにあるとお考えですか?
秋田:合弁企業とは株主の構成が違うため、重要な決定を下す際の意思決定のスピードには違いが出るでしょうね。SCGMの株主は住友商事のみですから、意思決定の仕組み自体が異なります。
──なるほど。複数の株主の利害が絡めば、意思決定のスピードに差が出るのはうなずけます。では、メーカー系や独立系の専門商社との違いはいかがでしょうか?
秋田:メーカー系は、主に親会社である鉄鋼メーカーにひもづいた商品を取り扱うことになるので、商材の幅に違いが出ます。独立系の場合は、資本力の差からくる取引規模の違いの他、グループのシナジーという面でも差が出ると考えています。
やはり、住友商事グループにいることで、入手できる情報量や顧客ニーズへの対応力、海外組織の充実などの面において、競合とは差がつくと感じます。SCGMは住友商事の財務や法務など、コーポレート機能が利用できるという点も強みとしていますし、専門商社という枠組みの中ではユニークな存在なのではないでしょうか。
住友商事から受け継いだ信用を重んじる社風、人材育成の手厚さ
──企業風土についてもお聞きします。住友商事をルーツに持つSCGMですが、社風においても共通する部分があるのでしょうか?
秋田:住友の事業精神は受け継いでいますね。「我住友の営業は信用を重んじ確実を旨とし以て其の鞏固隆盛を期すべし。」といった「営業の要旨」は、そのまま当社の社風として根付いています。たとえば取引においては、自社の利益だけでなくステークホルダーや社会全体の利益まで考えます。諸先輩方が積み上げてきた信用の上に仕事ができているわけですから、その信用をさらに大きくして次の代に渡していかなければなりません。
SCGMでは、住友の事業精神にじかに触れてもらうための研修も行っています。住友のルーツである愛媛県新居浜市の別子銅山に登るんです。ここから住友が始まったのだという感動、自分たちが受け継いでいくべき歴史を肌で感じてもらっています。
辞めたくなったことは「あります」顧客と仕入先の板挟みに
──ここまでSCGMの魅力を伺ってきましたが、秋田さんはこれまでに「会社を辞めたい」と思ったことはなかったのでしょうか?
秋田:あります(笑)。入社後、最初に担当した顧客の納期管理が厳しく、上手く対処できなかったんですよ。もう、顧客と仕入先との板挟みになってしまって。プレッシャーから気持ちが落ち込んでしまい、納期トラブルの翌日は会社までの道順を変えてみたり、靴下を履く順番を変えてみたり……。恥ずかしい話ですが、月曜日に会社に行きたくなくて、風邪をひこうと薄着で寝たことさえありました。
──精神的に追い詰められてしまったのですね。それでも続けられた理由は、どういったところにあったのでしょうか?
秋田:2~3歳年上の先輩が、本当にかわいがってくれて。仕事の後、一緒に飲みに行っては愚痴を聞いてもらったりしていました。それがストレス発散になっていたんだと思います。今振り返ると、先輩にはすごく恵まれましたね。
仕事の構造上、私のように板挟みになる現場社員は今もいます。先輩がフォローすることも大切ですが、今の立場で思うのは、そういう人たちにきちんと評価で報いていきたいということです。
「鉄を売る」から「鉄を使う」へ。視点の切り替えでチャンスを拓(ひら)く
──このタイミングでSCGMに入る醍醐味(だいごみ)を知るために、今後の事業展開について教えてください。
秋田:SCGMのビジネスの視点は「鉄を売る」から「鉄を使う」に変わっていこうとしています。これまでと視点を変えて業界・顧客を見ることで、違った切り口の提案や事業展開をしようとしています。バリューチェーンを一直線に眺めるのではなく、その厚みも見ることで、別業界への横展開が生まれる可能性もあります。この先2~3年間は、こうした取り組みを続けていく予定です。
──最近では、メーカーが「モノ」から「コト」へと事業をシフトさせる動きがあります。SCGMにとってどのような影響があると捉えていますか?
秋田:チャンスだと思っています。われわれが持つネットワークやプラットフォームを活用して顧客に価値を提供することで、顧客は新たな事業に参入する機会を増やすことができます。あるいは、当社がファシリテーターとして関与していく可能性も考えられますね。より付加価値が求められる時代は、当社にとってビジネス拡大につながると思います。
──最後に、こうした変化の中で若手社員に求められる要素を教えてください。
秋田:素人の視点を失わないでほしいですね。「熱心な素人は玄人に優る」という言葉がありますよね。素人の視点だからこそ、業界の根本的な問題に気付くということもあるでしょう。入社後はさまざまなことを学んでもらいますが、そういう素人感覚を大切にし、物怖じせずに発言していってほしいですね。
──秋田さん、ありがとうございました。
▼住友商事グローバルメタルズの企業情報はこちら
【ライター:福田さや香/カメラマン:保田敬介】