はじめまして。バフェット・コード(@buffett_code)と申します。
まずは自己紹介を。
私は京都大学を卒業後に某投資銀行に新卒で入社し、テクノロジーセクターや消費財セクターのM&Aと資金調達のアドバイザリーを担当しておりました。
毎日激務でしたが、シビれるような刺激的な日々を送っていました。
当時の記憶があまりないのは楽しかったからか、上司に詰められすぎて海馬が壊れたからか、定かではありませんがきっと前者でしょう。
そしてひょんなことからネットの世界へ飛び出し、とある上場企業の経営企画部にて素敵サラリーマンをしております。
出資を請うてきたスタートアップをけちょんけちょんにしたり、予実差異のことで社長からけちょんけちょんにされる日々に勤しんでおります。
そして本業の傍ら、同名のウェブサービスを有志で開発しており、個人投資家やビジネスパーソンに向けて企業分析のためのツールを無料で提供しています。
▼企業分析ツール「バフェット・コード」▼
今回思いがけず寄稿の機会を賜り、金融出身の堅い文章しか書けない身ではギャグのひとつも書けませんと固辞したものの、はたと懐かしい学生時代を思い出しながら当時の自分に何をか言ってやれるのではないかと想像していたら駄文もまた経験だよし筆をとってみようと思い立った次第です。
本稿は学生、とりわけ就活生、その中でも特に、人材価値を高めたいと本気で思っている人に、今の時期一番知っておいてもらいたい「株主目線」についてお話したいと思います。
<今回の見どころはコチラ>
●人材価値を高めたいなら「株主目線」こそ持つべき視点
●企業価値思考ってなんだろう?
●企業価値思考ってどうやったら身につくのさ
・株式投資を始めるならば学生のうちに
・経済学部生が株式投資をしなくて一体誰が投資をするんだい?
・学生時代に始めない人は社会人になっても始めない
●まとめ
人材価値を高めたいなら「株主目線」こそ持つべき視点
さて、社会人になって両手を使う程度の回数の春を迎え、社会についてしたり顔で話しては後で赤面したことも今は昔。
そこそこ中堅になってきた頃合で殊更に感じますのが、「株主目線で仕事が出来ていない人ってたくさんいるんだなぁ」ということです。
株主目線ってなんぞ⁉ ってことで、ストーリー形式で例を挙げてみたいと思います。
どうぞお付き合いください。
あなたは経営企画部のひとり。
M&Aや提携、予算編成、中期経営計画の策定、組織再編など、社内のあらゆる戦略案件に関わる重要なポジション。いわゆる社内エリートの一人です。
ときは期末も近づく真冬。来期に向けた予算編成がはじまりました。全社の業績予想を作るため、各事業部に計画をヒアリングしに回っています。
まずはA事業部の本部長との折衝。
A部長:ウチは成熟市場だから、このままだとジリ貧なんだよね。だから来期はシステムにドカッと投資したいと思ってる。規模感? ドカッとだよ。とりあえず100億円くらいかな。投資対効果? ないよ、そんなシミュレーション。システムだから売上に直結しないしね。良いじゃない、将来のためなんだから。ということで予算積んどいて。よろしく~
あなたの心の中(以下あなた):シミュレーションがない……だと……? 投資判断できないじゃないか。WACC(※1)を超えるIRR(※2)を出せない案件は企業価値を毀損(きそん)するんだぞ。でも確かに当社にはハードルレートすら設定されてないからなぁ。
などと頭を悩ませながら次はB事業部へ。
B部長:来期の成長は厳しいね。普通にやってたらそろそろ踊り場だよ。でも伸びてる絵は描かなきゃと思うんだ。決算説明会でもアナリストからは成長率ばかり質問されるしさ。だから来期予定していた投資を全部キャンセルしようと思って。その分いい感じに利益出てる風にしといてよ。よろしく~
あなた:投資キャンセルってなんぞww どれも去年、将来の成長に必要だからってごり押しで稟議(りんぎ)を通した案件じゃないか。たとえばこれ、カスタマーサポートの人員増の案件! 確かに来期は採用コストがなくなるから一見成長しているように見せられるけど、2~3年したらサポート体制が不十分になって解約率が高まるんじゃないか。こりゃ中長期ではどん詰まりになって企業価値を毀損する判断じゃないかなぁ。
そしてあなたはなんとかA事業部とB事業部のヒアリング結果を元にモデルを組み、経営会議で披露するところまできました。
その席上でのこと。
X役員:計画に含まれている「新規事業」というものはなんだ? やけに利益率が低いな。当社は高利益率でやってきた会社だから、利益率を下げる案件はまかりならんぞ!
あなた:企業価値と利益率に因果関係はないんだけどな……。少しはファイナンスを勉強しr(ゴフンゴフン)。こりゃ経営陣の間で全社のKPIの認識を合わせるところからやる必要があるぞ……。
あなたが青白い顔をしていると、口をつぐんでいた社長の重い口が開きます。
社長:ところで配布されている借入れのシミュレーション表はなんだね? ……A事業部のシステム投資の原資として一部借入れをするだって? ならん! 借金は悪だ。健全な財務がウリのわが社だぞ、創業以来銀行の世話になったことはない!
あなた:確かに財務健全性を考えれば無借金が良いということになるんだよね。調達コストを無視すれば、だけど! 銀行の利子よりも株主から調達したお金の方が高くつくということを理解してほしいなぁ。それに借入れをしないなら、魅力的な案件が出てきてもみすみす逃すことにも繋がるぞ。あ、でもそもそもA事業部は投資対効果をシミュレーションしていないんだっけ(白目)
(※1)……Weighted Average Cost of Capital(加重平均資本コスト)の略。株主資本コストと負債資本コストの加重平均で、企業が達成すべき投資利回りの基準になる数値
(※2)……Internal Rate of Return(内部収益率)の略。正味現在価値がゼロとなる割引率を指す
実はこうした例は枚挙に暇がありません。
部長や役員になっても、株主目線のない人はいくらでもいるのです。
どうしてそういう議論になっちゃうんだろうと思案していて、あるときひとつの考えに至りました。
そうか、株主の目線で考えていないのだなぁ、と。
株主目線がないということを簡単に表すならば、「近視眼的、どんぶり勘定的、縦割り的、定性的」などという言葉がぴったりです。
あなたが株主目線に欠ける経営者だったなら、今年や来年は乗り切れても10年後に会社が成長しているか分かりません。
あなたが株主目線に欠ける従業員だったなら、会社のために何をすべきかの判断がことごとく芯を外し、上司の言うとおりの作業はできるけれど、なぜかいつまで経っても評価されないということになります。
本稿では、株主目線になること──すなわち「企業価値思考こそビジネスマンが持つべき視点で、5年後10年後のキャリアを考える上ではあなたの人材価値を大きく左右するものだ」「新卒の今だからこそ身につけておこうよ」ということを、紙幅を費やしてつらつらと書いてみたいと思います。
企業価値思考ってなんだろう?
会社員になるにしろ、起業するにしろ、あなたがビジネスパーソンになるならば企業に所属することになります。
ちょっと堅い話になりますが、株式会社は一義的には株主のものです。
株主は自分の会社の価値を上げたくて上げたくて仕方がありません。
そして、経営者はその株主から企業価値を最大化するために雇われ、送り込まれた人材であり、従業員はその達成のために勤労します。
つまり、ビジネスパーソンと企業価値は切っても切れないものだということです。
企業価値とはざっくり、「その会社を買おうと思ったときに払わないといけない金額」だとお考えください。
「その会社がいくらなら買えるか」なんて、いかにも株主っぽい視点ですよね。
時価総額に近いですが、他人資本である銀行融資なども考慮する点で異なります。
※企業価値について細かい定義は書籍に譲り、本項ではあくまでも株主の考え方、すなわち企業価値思考を身につけることの重要性を話していきたいと思っています。
企業価値とは、コーポレートファイナンス的には株主価値と純有利子負債の合計と定義するのですが、ここではそんな瑣末(さまつ)な話はやめて、もっとシンプルに考えていただこうと思います。
その企業価値に基づく企業価値思考とは、先ほどの例をまとめるとこういう視点を持つことです。
■具体的な投資対効果を示さずに「必要な投資だ」と予算に投資枠を積んでくるA事業部
→その投資って企業価値高めるの? そのプロジェクトの収益率は当社のハードルレートを超えてる?
■予算を達成するため将来への投資を抑制して短期利益を優先するB事業部
→設備投資の先延ばしは短期的には収益を改善するけれど、長期的には企業価値を毀損するんじゃない?
■「利益率の維持こそ肝要だ」と低利益率高収益案件を否決するX役員
→利益率と企業価値は必ずしもリンクしない。今の当社は成長ステージなのだから利益率を多少犠牲にしてでも売上の成長性を示すべきでは?
■「借金は悪だ」と無借金を貫く社長
→当社は無借金だから倒産リスクは低めだけど、その分資本コストが高くなってない?
そういった目線で意思決定を出来るのが本来のビジネスパーソンなのです。
人材価値の高い人、すなわち転職市場においてオファー金額が高い人というのは、端的に言ってしまうとこうした「企業価値思考」ができる人のことです。
ちなみに、外資系投資銀行や外資系コンサル出身者の転職市場における人材価値が高いのは、徹底的にクライアントの企業価値に向き合う仕事だからです(外銀や外コンがキャリアとして良いかどうかはまた別のお話)
さらに重要なことに、そこには「平社員」や「新卒」だからという甘えはありません。
あとで話しますが、企業価値思考は通常業務をしていれば身につく類いのものではなく、特別な環境で日々意識をしていなければ身につかないものです。
すなわち、新卒であっても基礎が身に付いている人はいるし、ベテランでも感度が鈍い人は「最終日のコミケの人混み」くらいたくさんいます。
きちんとした会社への就職活動であれば、あなたが企業価値思考ができる人材か否かを面接官はすぐに嗅ぎ分けます。
夢と幻想しか持っていない学生よりも、地に足が付いてる学生の方に惹(ひ)かれるのは当然といえます。
そして入社して3ヶ月も経てば、新入社員の中で誰が優秀で、誰が仕事を出来ないかは分かるようになります。いえ、分かってしまうのです。
就職活動というフィルターを通す以上、新入社員の凹凸なんて僅差でしかありません。
しかしその差は広がる一方です。
その大きな要因のひとつが、まさに企業価値思考ができるか否か。
あなたの手札にそのカードはありますか?
企業価値思考ってどうやったら身につくのさ
先述しましたが、残念ながら企業価値思考は、一部の特殊な環境(※)を除いて通常業務で身に付くものではありません。
営業職でも、財務経理でも、企画職でも、普段の業務に「企業価値」という概念は出てこないからです。
※例えば経営企画部は経営陣と企業価値に対するディスカッションを日ごろ行なうので、そこなら身に付くはずです。
ただし、そもそも経営企画部に配属されるのに「企業価値思考」が出来ていないと声がかかりませんので、タマゴが先かニワトリが先かという問題にはなってしまいますが。
ではどうすれば企業価値思考を日頃から意識することができるのでしょうか?
結論から申し上げると、一番の近道は株主になること。
すなわち株式投資をしてみることです。
なぜならば、株主になれば否が応でも「企業価値の最大化」が最大の関心事になるからです。
※投資をすれば、みな例外なくそうなります。
少額でも自費で投資をすると、ROI(投資対効果)最大化の強烈なインセンティブが発生するからです(ニッコリ
株式投資を始めるならば学生のうちに
私は株式投資に関しては珍しく一家言を持っております。
それは、
株式投資を始めるならば学生のうちに。
できれば小学生から。
というもの。
学生時代というものは人生の中で一番時間が取れますし、死ぬこと以外はかすり傷です。
時間とリスクを背負う株式投資において、失敗できる期間というものは大変貴重です。
元来投資は「失敗できない」状態で行うものではなく、常に「安全余裕度の範囲内」で行うものですから。
どう考えても、学生時代ほど株式投資をはじめるのに適した時期はありません。
経済学部生が株式投資をしなくて一体誰が投資をするんだい?
私は在学中に勉強の延長で自然と株式投資にも関心を持つようになり、誰に言われたわけでもなく株式投資をはじめていました。
運が良かったのが、最初に読んだ本がウォーレン・バフェットに関する書籍だったこと。
一番最初に何を読んだかが株式投資では大きく影響します。
不運にもギャンブル色の強い書籍がきっかけで投資をはじめたならば、株式投資がギャンブルではないと理解するまでに多くの時間を浪費することになります。
その点私は「きちんと企業価値を評価して、割安に放置されている企業を買いましょう」という王道のバフェット本だったので、正しい入り方が出来たことは幸運だったと思っています。
一方、驚くことに、当時まわりで株式投資をしている学生は皆無でした。
そして何よりも、経済を学んでいるはずの経済学部生のほとんどが株式投資をしない・興味がない・ギャンブルだと思っているという事実には閉口しました。
おそらく今でもその状況は大きくは変わっていないことでしょう。
しかし、ミクロ経済学、マクロ経済学、行動経済学、証券投資論、コーポレートファイナンスなど、経済学部で学ぶことをダイレクトに生かせるのが株式投資です。
いわば経済の総合格闘技です。
自分の力を試したくなるのは自然なことのはず。
経済学部生ですら株式投資に興味を持たないのなら、他にいったい誰が興味を持つのだという話です。
本稿で私が伝えたいことのひとつは、
経済学部生こそ株式投資をしようぜ
経済学部生が投資をしないでいったい誰が株式投資をするのさ
ということです。
学生時代に始めない人は社会人になっても始めない
そうは言ってもお金もない、授業や就職活動や遊びに夢中で時間もない、とても株式投資なんて始めていられない!
そういった気持ちがムクムクと湧き上がってくるのも理解できます。
私も株式投資に興味のない人、金銭的・時間的に余裕がない(と思い込んでいる)人、実は単に面倒だと思っているだけの人に「就職活動のためにも絶対に投資をすべきだよ」と薦めるつもりは毛頭ありません。
やってみたい! やならきゃ! やる必要がある!
そういう人だけ取り組めば良いと思います。
ただ、これだけは覚えておいてほしい。
学生時代にアレコレと理由をつけて投資をはじめなかった人が、社会人になったら「株式投資をやろう!」となることはありません。
そうした方は社会に出れば「手間」や「お金」の代わりに「仕事」や「家族」という免罪符を使うようになるだけです。
社会に出てしまったら、株式投資をはじめるきっかけになるイベントなんてありませんからね。
結婚や出産のタイミングで検討する生命保険などとは違うのです。学生の皆さんには是非このタイミングで真剣に検討してほしいと思います。
まとめ
以上、株主目線をもったビジネスマンになろうという話をしてきましたが、いかがだったでしょうか。
では本稿のまとめに入りたいと思います。
・ビジネスパーソンには株主の視点、すなわち企業価値思考が求められる
・企業価値思考は社長であれ新卒であれ普遍的に必要であり、人材価値を左右する
・企業価値思考は自然に身につくものではなく、意識づけと訓練が必要である
・意識づけに最適で一番の近道は株式投資をすること(株主になる)
・株式投資は、しない理由をウダウダ言わずにさっさと始めるのが吉
会社がコストを支払ってあなたを雇うのは、それ以上のリターンを見越しているからです。
そのリターンは、最終的に企業価値に組み入れられるものです。
それを意識できる人と出来ない人で5年後、10年後の人材価値が決まります。
企業価値を高めるために、自分にはいったい何が出来るだろうかと常に考えることが大切ですね。
ぜひ制約の少ない学生時代に、株式投資を通じてこの企業価値思考に触れてみてはいかがでしょうか?
(Photo:Phongphan/Shutterstock.com)
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※こちらは2018年9月に公開された記事の再掲です。