今回の見所はコチラ
・僕は就活を証明しようと思う。
・就活生よ! メルカリを褒めるな! むしろ正しくディスれ!!
└メルカリのビジネスモデル
└市場の成長性とメルカリのシェア
└国内市場の伸びしろはどこにある?
└メルカリを「正しく」ディスれ!!
└IPO資金は米国での広告に全力投資
└Winner takes all、米国での1人勝ちをつかむのは誰だ
・メルカリはどんな人材が欲しいのか? ディスの先にある「愛」
・ここまでできない? 餌をもらうのではなく、魚の釣り方を知ろう
・メルカリの美しすぎる採用戦略にくぎ付け
僕は就活を証明しようと思う。
時は2008年、時代はリーマンショック。そんな真っただ中に就職活動をしていた私は、人生で最大の壁にぶちあたった。結論から言ってしまうと、大手企業しかエントリーしなかった上に、ことごとく落とされた。
そんな私がめでたく社会に出た後、人事を経験したり、藤沢数希氏が提唱する恋愛工学で「モテる男」のテクノロジーを研究する中で、あることに気がついた。
それは「企業にモテる学生」と「女性にモテる男性」のメカニズムが、ほぼ同じであることだ。
この恋愛工学ならぬ「就活工学」については、私のブログやTwitter(@skogaku)に詳しい。
ライター紹介:ワタナベカズキ
某R社新卒入社後、ITベンチャー企業の人事責任者として5,000人ほどの学生と出会う。その後、事業部の責任者として新規事業を構築中。
就活市場にあふれるちまたの情報を、事業家と恋愛工学の観点で編集するブログ「僕は就活を証明しようと思う。」を運営。
例えば企業研究とは共感点を探すことではないのだ→「就活生よ!ZOZOを褒めるな! むしろ正しくディスれ!けなせ!」ワンキャリアライターとして就活という幻想を解き明かそう。
就活生よ! 企業を褒めるな! むしろディスれ!!
さて、「就活工学」の中で就活美談軍が吹き込む一般的なハウツーと最も異なるのがこれだ。
就活生よ! 企業を褒めるな! むしろディスれ!!
ディスる? 何故か? そもそも就活では、企業が出せる内定数よりも学生のエントリー数のほうがはるかに多い。そのため需給バランスの観点から、企業のほうが学生よりも「相対的に価値の高い=モテる」状態だ。ならば、志望動機によくある
「幼少期から御社のサービスをずっと使っていて」
「お会いした社員さんに憧れて」
「企業文化が素敵で」
などと企業を褒めても、就活市場において学生と企業の価値は釣り合わない。むしろ、企業を褒めることは両者の価値の差をさらに広げることに他ならない。極端な例を出すと、芸能人を一般男性が「かわいいですね」と褒めて口説けるか? という話である。
ちなみに、エクストリームサラリーマンのZOZOTOWN田端氏もnoteに同様の趣旨で記事を書いている(この記事のタイトルも、勝手ながら田端氏のnoteから拝借している)。
就活生よ!会社を褒めるな! むしろ正しくディスれ!けなせ!(著:田端 信太郎 氏)
詳しくはぜひnoteを購入して読んでほしいが、簡単に言うと「企業をIR(投資家向け情報提供)を元にディスれ、そして自分という商品でソリューションを提供しろ」という主旨だ。
ただ、IRを読んで企業の課題を深く把握するのはそれほど簡単ではない(文字面だけ理解するのは簡単だが)。
そこで今回は、上場で大きな話題を呼んでいるメルカリを題材に「ディスる技術」を紹介しよう。これを就活生のボキャブラリーに落とし込むなら本当の意味での「企業研究」となる。
就活生よ! メルカリを褒めるな! むしろ正しくディスれ!!
さて、メルカリである。くどいようだが、「御社のメルカンという人事制度に共感して」「時価総額3,000億円のユニコーン企業を僕も作りたい」「小泉さん(取締役社長兼COO)のようになりたい」という発言は最悪の一手だ。正しくディスるのだ。
メルカリのビジネスモデル
まずはメルカリのビジネスモデルを正しく理解しよう。
※著者作成
図のように、メルカリは出品者と購入者をつなぐC2C(一般消費者同士の取引)プラットフォームだ。売上金額の10%を出品者からもらい、1%を決済手数料として代行業者に支払うという単純な構造だ。
市場の成長性とメルカリのシェア
続いて、フリマビジネスにおけるC2C市場の規模とメルカリのシェアを見てみよう。
※株式会社メルカリ「新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)」を基に著者作成。C2C市場の集計期間と同社の集計期間が厳密には異なる。
2017年のデータを見ると、C2C市場の規模は4,835億円で、そのうちメルカリのシェアは既に70%を超えている(メルカリの売上は、2017年7月〜2018年6月の筆者予想)。またC2C市場が昨年比160%近い成長を見せており、メルカリがC2C市場そのものを牽引している状態といえる。また同社発表の資料によると、2017年の中古品全体(自動車、バイクを除く)の市場規模は2.1兆円を超えるとされていることから、市場そのもののポテンシャルは依然として大きいといえる。例えば、ブックオフやブランド買取店の市場をメルカリが奪う可能性は想像しやすい。
国内市場の伸びしろはどこにある?
もう少し具体的に、中古品市場のシェアをさらに奪うための勝ち筋を探ってみよう。まず、年間流通総額を因数分解すると、次のように表される。
年間流通総額 = 平均MAU(※) × 年間平均購入単価/MAU
※MAU=Monthly Active User(1ヶ月に1度以上メルカリを利用したユーザー)
※引用:株式会社メルカリ「新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)」
詳細な計算は省くが、発表資料を読み解くと
・平均MAUは1,030万人
・ユーザーの年間平均購入単価は約38,400円ほど
と試算できる。
では伸びしろはどこにあるか? 筆者は国内の伸びしろはMAU(月間の利用者数)を増やすことにあると考えている。
まず、年間平均購入単価についてはある程度上限に達しているように思う。例えば、やや強引だがZOZOTOWNの年間平均購入金額が65,000円をピークに頭打ちになり、現在は60,000円で推移していることを考慮しても、単価がそれよりも低い中古品市場では妥当な数値ではないだろうか。また完全に主観になるが、筆者自身の年間利用額はそれくらいで、これ以上大幅には増えないという感覚もある。
だとすると、伸びしろがあるのはMAUのほうである。MAUは1,030万人と資料で発表されているが、単純に考えると日本人の10人に1人も使っていない(もちろんターゲット外の年齢層も含んだどんぶり勘定だが)。またInstagramの国内MAUが2,000万人であることを考慮しても、まだ伸びしろがあると見える。
メルカリを「正しく」ディスれ!!
ただし、上記のMAUのポイントはディスるには不向きだ。彼らが目指しているのは日本での成功ではないし、日本でMAUを伸ばしていくのは遅かれ早かれ実現される。ここをディスったとしても、「考え方はいいけど、大局が見えてない学生」という見られ方をするだけだろう。大事なのは冒頭から述べているように「正しく」ディスることだ。
ディスのポイントは、メルカリの世界企業になるという目標に対し、世界ではまだビジネスが成立していないという点だ。
※引用:株式会社メルカリ「新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)」
もう一度見てみると、米国でのダウンロード数は平成30年6月期3Q時点で3,700万あるにもかかわらず、流通総額は60億円ほどしかない。日本で同じくらいのダウンロード数であった時期(平成29年6月期1Q時点)で流通総額は420億円だったことを考えると、「ダウンロードはされている割に取引が活性化していない」ことがわかる。
IPO資金は米国での広告に全力投資
この理由は、日米の人口の違いによる「ネットワーク外部性」にあると想像できる。ネットワーク外部性というのは、簡単に言うと利用者が増えれば増えるほど、そのサービスの価値が高まるということだ。メルカリの場合は「利用者が増える→出品が増える→購入者が増える→出品者がさらに増える……」と、自己増殖していくサービスとしての性質をもっている。
人口が米国の1/3の日本では3,000万ダウンロード時点で取引が活性化しているようだが、米国においては、この外部性がまだ十分に働いていないようだ。
(2)資金使途について
株式上場時の公募増資による調達資金の使途につきましては、当社グループのサービスを効果的に拡大していくための広告宣伝費及び借入金の返済等に充当する予定です。しかし、当社グループが属する業界は急速に事業環境が変化することも考えられ、当初の計画に沿って資金を使用した場合においても想定した投資効果が得られない可能性があります。
※引用:株式会社メルカリ「新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)」P.27
そのため同社のIR上も、今回の資金調達の目的は「広告宣伝費」と明言されている。(その他、就活生にはあまり関係がないが160億の借入金の返済)
Winner takes all、米国での1人勝ちを掴むのは誰だ
ネットワーク外部性が強く働くサービスにおいては、例えばFacebookと同様のSNSが他にないように、トップシェアの会社が市場を独占する。メルカリは日本でサービスを開始した際に、スマホ対応とC2Cに特化し、TVCM等の広告宣伝に一気にアクセルを踏み込んで他サービスを引き離したのだ。だから仮に、メルカリがのんびりしている間に、ヤフオクがフリマ機能も備えて広告投下していたら、今の状況とは少し異なっているかもしれない。
メルカリはどんな人材が欲しいのか? ディスの先にある「愛」
さて、ここまででメルカリをディスるポイント(課題点の把握)は掴めた。面接での志望動機は「御社の米国市場には十分拡大の余地があると見ています」とディスることから始まる。(このくらいオブラートにつつまないと元も子もないので要注意)
しかし、ディスりっぱなしは最悪だ。企業研究により相手の課題点を深く理解し、その上でそのソリューションとしての「自己PR」を伝えることが本当の「愛」だ。ひとりよがりの「自己PR」は誰にも求められていない。例えば、この課題点を理解せずに「自分は居酒屋のアルバイトでホスピタリティーを学びました」と自己PRをされても、人事は「良い居酒屋だな、今晩飲みにいこうかな」という感想しか抱きようがない。
では、どのようなソリューション、つまり人材をメルカリ社は求めているか。それは、ここまでにしてきた企業研究からほぼ答えは出ているように、米国市場のWinnerになるための下記のような人材要件だろう。
・米国のマーケットニーズに敏感(「あのタレントをCMに使うといい」等)
・WEBリテラシー(WEBへの興味)が高く、米国での競合や他支持されているサービスを把握した上で、自社サービスに反映できる
・米国人のユーザー体験への造詣が深く、事業課題とも合わせて適確なUI/UX改善ができる
・英語ができるとベター
また、本論とは少し話がそれるがメルペイの存在も当然興味深い。決済手数料が流通額の1%かかっているため、同社の売上からみると10%の割合を決済手数料がしめている。例えば、H29年6月期だと220億の売上で27億円の原価がかかっているため、メルペイの成長により、粗利率改善のアップサイドがある。さらに、メルカリ通貨まで誕生すれば、メルカリがインフラとなる経済圏が誕生する。この「メルカリ経済圏」への興味を語るのも面白いだろう。
ここまでできない? 餌をもらうのではなく、魚の釣り方を知ろう
今回はメルカリの上場を記念し(もといブームにのっかるために笑)、メルカリを題材にした。しかし、もちろん筆者は、メルカリに受かる方法をレクチャーしたいわけではなく、汎用性のある就活工学のテクノロジーを紹介したいのだ。そのための「企業をディスる技術」である。ただし、本稿においては、IRを本格的に分析したので、社会人でも難しい部分があるかもしれない。
どうか就活生は安心してほしい、IRを元に分析せずとも就活生には下記のやり方を推奨する。
1)説明会に参加し、その企業のビジネスモデル、目指しているところと課題点を正確に把握する
2)上場企業であれば有価証券報告書があがっているので、その「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」(※1)を熟読して深く理解する
※1…例えばメルカリならば「新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)」のP.15
3)その解決方法をユーザー調査やOB・OG訪問をしながら考える
※1…例えばメルカリの改善点なら、使っている友達に聞く(アメリカの友人に聞ければ最高だ。)
4)面接で課題(企業研究の成果)と解決策(自己PR)を語る
就活生には企業説明会やOB・OG訪問という貴重な特権が用意されている。そこで質問してしまえば、難しい分析を1からする必要はない。
メルカリの美しすぎる採用戦略にくぎ付け
ここからは余談だが、このような事業戦略を受けて、メルカリがどんな採用戦略や選考プロセスにしているか見てみると、ほれぼれするくらい美しい採用戦略を描いている。上記に記載した4点を持つ学生が欲しいという仮説が、ここで美しく証明される。最後にそのESを貼っておくので見てみてほしい。
●基本事項
1. 自己紹介と経歴
(インターン経験、アルバイト経験、サークル、NPO等団体含む)
2. プログラミング経験
(エンジニアはGitHub等のアカウント、デザイナーはポートフォリオのURLを記載ください※お持ちでない方は結構です)
3. PowerPoint、Excel、Wordの経験
4. 語学スキル(TOEIC、TOEFL等の点数があれば)
●課題
下記について、ご回答ください。
5. USでのメルカリの競合を3社ピックアップしてください
6. 半年以内でこれは良い!と思ったインターネットサービスとその理由を教えてください
7. メルカリを使ってみて改善した方が良い点を教えてください
※引用:メルカリ採用ページ「プロダクトマネージャー(新卒)募集要項」
▼参考資料
・東洋経済ONLINE「メルカリの全米制覇が「夢物語でもない」理由」
・note「メルカリが上場。想定公募時時価総額3,600億円。国内単体は2017年営業利益44億円」(梅木 雄平氏)