日系大手企業のJT(日本たばこ産業)で採用担当を務める、神谷なつ美さんよりご寄稿いただきました。
<目次>
●1. まず、新卒採用は「学生の獲得競争」ではない
●2.「若手のうちから裁量権があります」って、いったいどういう状況だろう?
●3. そもそも私は「圧倒的な先輩社員」でありたい
●4.「仕事ができる人」に共通するものは、貪欲さ
●5. 少しJTの話
●6. もちろん弱みもあります
●7. 人が会社を変えていく
【寄稿者プロフィール】
神谷 なつ美(かみや なつみ):日本たばこ産業株式会社(JT)事業企画室採用研修T次長
農学博士を取得後、2008年に日本たばこ産業株式会社(JT)入社。R&Dグループにてたばこの基礎研究に携わる。その後、人財成長支援、経営企画などの経験を経て、現在に至る。
まず、新卒採用は「学生の獲得競争」ではない
最近、「売り手市場」といわれることもあり、企業間で学生の獲得競争がし烈化している。
この文章はとても変な文章だと思う。学生の獲得競争? 学生は重要なリソースなので、それを手に入れようと躍起になってしまう気持ちは分からなくもない。
けれども、実際には人はリソースではなく、同じ想いを共有する仲間だ。「会社が学生を獲得する」という構図はとてもおかしい。互いに同じ想いを具現化していくために、仲間となるべく信頼関係を築いていくこと、それが企業が採用活動をするにあたって大切なことだと思う。
「若手のうちから裁量権があります」って、いったいどういう状況だろう?
関連して、おかしな広報文言もたくさんある。例えば「若手のうちから裁量権があります」というもの。
若手社員の柔軟な考え方や取り組み方にリスペクトを示してその意見を反映することと、裁量権があることとは違う。また、育成の観点も踏まえて失敗覚悟でチャレンジできる環境があることと、若手社員自身に仕事を進めていくための判断を下させることは違う。
裁量権に関して言えば、「若くても、経験が浅くても、仕事ができれば裁量権があります」ということであれば、理解できる。プライドを持って働いている社員が多い会社であれば、当然実力に対してもフェアなジャッジをする。だから、裁量権は年次にとらわれずに持つべき人が持つし、それこそが魅力的な環境だと思う。
無理やり「若手」という言葉を使って、学生にとって魅力的に思われるワードを多用することで、学生に勘違いをさせるような広報をよく目にする。これはとても残念なことだ。
そもそも私は「圧倒的な先輩社員」でありたい
私は入社11年目。そもそも、もし「1、2年目の若手社員の方が仕事ができる」と感じることがあれば、若手社員に裁量権を与える前に自分自身を省みる。その状況は先輩として情けなさすぎるからだ。
できることならば、私は若手社員に対しては圧倒的な先輩社員でありたい。とは言え、これは簡単ではない。弊社には面白いアイデアを持ち、私には到底まねできないような機動力を持って働く若手社員が多くおり、たびたび感心してしまうからだ。
少し話がそれるうえ、学生には想像がつかないかもしれないけれど、先輩社員と仕事をする時期は会社人生の中で思いの外長くない(自分自身が先輩社員である時期の方が長い)。
さらに、先輩社員の誰と話をするか、仲良くするかは後輩側が自由に決められるが、先輩社員は後輩をえり好みしていては問題がある。つまり、長い会社人生では「後輩がどんなやつか」は結構重要だ。
後輩に面白いやつ・すごいやつがたくさんいると、後ろからの足音に脅威を感じ、何とか前を走っていくためにももがき苦しむことになる。でもそれは実はすごく幸せなことで、仕事が面白くなる。
私は後輩に恵まれていて、日々苦しいが、最高に面白く充実している。
話を少し元に戻してみると、就活において、学生が耳当たりの良い魅力的な条件に惹かれる気持ちはよく分かる。
けれども少し考えてみてほしい。今の学生は最低でも40年以上は働くことになる世代。今日の自分に理解できる範囲の条件や将来の姿は、今日以降に理解できるものの中で、たぶん最も陳腐なものだ。
だからこそ、今の尺度だけで考えず、今はまだ全然見当がつかないほどの成長を、自分自身が信じるところから始めてほしい。
「仕事ができる人」に共通するものは、貪欲さ
私は採用担当として多くの学生に会うが、皆さん成長意欲が高い。「仕事ができる人はどんな人?」、「キャリアを築いていくうえで重要なものは何?」という質問がよく出てくる。
その中には、「キャリアを築くためには経験が重要だと思うから、さまざまな経験を積める環境に身を置きたい」という結論に至っている学生が多い。
実際に、経験は重要だと私も思う。けれども、経験によって違いが出てくるのは、既に仕事ができる人だと感じている。
私には尊敬している先輩社員が数多くいるが、彼らに共通しているのは、どんな経験も自分の力に変えてしまえることだ。じっくりと同じ課題に取り組んでいるように見えても、さまざまな角度からのアプローチを試したり、逆に全然脈絡のないような経験をしているように見えても、共通項を見いだしたり。
どんなことに取り組んでいるときでも、いつでも学び取ってやろうという姿勢があり、さらにはそれを「ありたい姿に近づくための経験」にしてしまおうという意欲が高いのだ。結果としてそういう人は「仕事ができる人になる速度」が速いので、時代のキーとなる仕事を経験するチャンスも回ってくる。好循環にハマるのだ。
自分の成長を考えるにあたって、「やりたいことが決まっていない」と焦ることはない。むしろ、自分がどうありたいかを徹底的に考えることが大切なのではないかと思う。その上で、どんなことでも貪欲に学ぶために、自分が頑張れそうな場や仲間を選んでほしい。
つまり、私は就職活動とは、「自分のありたい姿を実現するために、どこでスタートを切るかを決めることだけ」だと思っている。キャリアは就職後に築いていくものだ。
少しJTの話
私の勤めるJTはメーカーで、たばこ商材については、原料調達、研究開発、製造、販売、物流までをほぼ自前でやっている。商材が独特なゆえに、法務や対話活動にも力を入れている。大企業として、社会と関わる活動にも力を入れている。
一つの会社の中にさまざまな仕事があるが、ある程度の括りで分担しているので、ベンチャー企業のように、若手のうちから幅広い経験ができることはほぼない。スピード感でも、学生からしたら心配に思うことも多いかもしれない。
しかしながら、大企業だからこその良いこともある。
一つは大手だからこその、世の中からの信用。協業してくれる会社を見つけやすい。世の中が多様化する中で最適なチームを作るには、社内だけでは難しい。こういった局面において大手は強い。プロジェクトを立てやすく、本業とは別の枠組みで動きやすいことも強みだ。
さらに社内にさまざまなプロフェッショナルが存在するため、異職種のプロを目のあたりにしやすい環境である。これはキャリアを考えていくうえで大いなるアドバンテージだと思う。
もちろん弱みもあります
良いところを挙げてみた一方、私個人としては、もっとスピード感を出していきたい。何せ関連部署が多いので、面倒はある。
他の会社と比べたことがないので分からないが、私が入社してからの10年間でさまざまな手続きがシステム化され、簡素化された経緯を考えると、まだまだできそうな気がする(単に私がものぐさだから簡素化したい意欲が強いだけかもしれないけれど……)。
上司にはやんちゃな人が多いので、どんどんやっちゃって! と発破をかけられることが多く、意外にも後輩の方が、「本当に大丈夫なのだろうか」、と気を揉んでいたりすることもある。やっていなくて注意されたことはあるが、仮にやりすぎても苦笑いしかされない経験からすると、もっとやんちゃな後輩に増えてほしいとも思う。
「どうやったらクビになるのかといろいろ試している(笑)」と言う、面白いやつがいる。彼女については賛否両論だが、ポイントは賛成派もいることだ。彼女はクビになれそうもない。
会社の規模や業界など、会社の分類の仕方はさまざまにあるが、その分類は一義的なものでしかない。それぞれの会社にカラーがあり、強みもあれば弱みもある。そして、それは外から見ただけでは分からない。
私はいまだに、自分の会社の新たな強みや弱みを頻繁に発見する。例えば、私は異動するたびに「引継ぎで聞いた業務内容説明はいったい何だったのだろうか」と驚く。実際に業務に取り組んでみると、前任者のこだわりや想いがさまざまなところに表れているからだ。そういったものに触れて、少しイラッとするときもあるのだが、大抵は幸せな気持ちになる。さまざまな人のこだわりで会社が回っていると思うと面白みを感じるし、それがJTの強みだと再認識する。
一方で、どうしてこんな資料で引継いだ気になれたのか、とちょっと呆れる。私もきっと、誰かに呆れられているだろう。きっとそこが弱みに違いない。
人が会社を変えていく
私と会社の付き合い、これは友人や夫との人間関係に似ている。全てを知って人生をともにしているわけではないが、付き合っていくうちに思いがけない発見がある。強み弱み、すてきなところ、変な癖など。けれども、いろいろな面があるからこそ面白みがあり、さらにはその面は刻々と変わっていく。
そして、人と同じように、会社も変わっていく。会社の場合は、人が会社を変えていくのだと思う。
私はJTの採用担当なので、JTに合うと感じた学生には入社してほしい。けれど、片思いだけではうまくいかないことを知っている。無理をして取り入ってみたところで、後からボロが出て破談になれば、それが一番双方にとって無駄になる。
だからこそ私たちは、実際に会って、コミュニケーションを取ることを大切にしている。さらに今年からは新たな体制で取り組み、ともにキャリアを築いていく用意をしている。
「情報」だけで判断するのではなく、うまく言葉にできないけれど、「合う」か「合わない」かを互いに見極めていければ良いのだと思う。JTが自分のありたい姿を実現するための場であるか、仲間がいるかを安心して見極めてもらうための取り組みをもっともっと考えていきたい。
そして学生の皆さんにも今一度考えてほしい。皆さんは既に自分自身の友人やパートナーを「感性」によって選んできた実績がある。自分を信じて、今まで大切な人を選んできたように、自分自身の「感性」に今一度目を向けてほしい。
就職活動が、あなたにとってすてきなものになることを切に願っています。
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