※こちらは2018年3月に公開された記事の再掲です。
こんにちは、ワンキャリ編集部です。
今回はDBJ(日本政策投資銀行)にて人財育成・採用担当を務める篠崎(しのざき)さんにお話をお伺いしました。
「人財開発銀行」を目指し、国家規模のビッグプロジェクトに青臭く打ち込める事業環境・風土と、政府系機関の「縦割り」「年功序列」「薄給激務」のイメージを裏切る実態を語っていただきました。投資や事業経営については、メガバンク・商社と比較しながらその魅力に迫ります。
31歳で大手電機メーカーの事業再編をリード、経営支援のために事業会社へ単騎出向
──篠崎さん、本日はよろしくお願いします。日本政策投資銀行(以下、DBJ)は財務省所管の政府系金融機関として知られています。しかしその一方で、「政府系機関」というイメージから、縦割りで意思決定が遅い、年功序列で若手の成長機会が少ないといった先入観を持つ学生もいます。投資部門、支店などの現場でさまざまな業務に携わってきた篠崎さんのご経験から、実情を伺えますか?
篠崎:DBJは、20代から大小問わず「意義がある案件」に携われる組織です。
例えば、私が担当したある大型投資案件においては、主担当としてM&Aを通じた事業再編を進めました。私は当時31歳でしたが、投資の検討・実行だけでなく、事業譲渡後の経営支援のためにその会社の経営管理部門へ「単騎」で出向もしました。DBJにおいて、この若さで出向先などの経営に関わる事例は決して珍しくありません。出向先の企業規模にもよりますが、20代で取締役に就任するケースもあります。
篠崎 晋一郎(しのざき しんいちろう):DBJ(日本政策投資銀行) 人事部 人事課 調査役 2005年入行。キャリアの約半分は投資業務に携わる一方、東北支店(仙台)勤務や英国留学(ケンブリッジ大学でMBA修了)なども経験をしている。現在は、人財育成・採用等のコーポレート業務に従事。プライベートでは、シテ方観世流能楽師の武田文志(たけだ ふみゆき)氏に師事し、能楽の稽古に日々励む。(所属部署はインタビュー当時のものです)
──そもそもDBJがこの投資案件に関わるようになったのは、どのような経緯からでしょうか?
篠崎: DBJは、第二次世界大戦後に日本開発銀行として設立された当初から、日本の産業支援に強い「志」を持った組織です。今回のような事業再編においても、経営者・従業員の方々も含めた「人」への支援も重要なテーマとして掲げていました。その中で、投資案件の協働パートナーとして、『産業を支援し、人を大切にする』というメッセージを標榜する、DBJに白羽の矢が立ったのではないでしょうか。この事業再編で投資先となったデクセリアルズ株式会社は、親会社である日本の大手電機メーカーが構造改革の一環で事業売却を決断した会社ですが、最終的にはIPO(株式上場)を実現し、親会社からの独立を果たすことができました。
──デクセリアルズ株式会社への出向中は、いろいろな体験ができたのではないかと思いますが、特に印象的だったエピソードはありますか?
篠崎:今回のインタビューでは語りきれない程ですが(笑)、現在も同社で社長を務めていらっしゃる、一ノ瀬 隆(いちのせ たかし)代表取締役社長などの経営陣と意見を交わした日々が特に印象的です。親会社の大手電機メーカーから独立を果たすべく、DBJは協働パートナーとしてあらゆる支援をしたわけですが、そこには多くの試練がありました。その過程で、一ノ瀬社長とは意見交換を兼ねて毎日のように話をさせて頂き、経営に携わり、「人」を大切にすることの重要さを学んだのです。
── 一ノ瀬氏は大手電機メーカーで長年キャリアを積んだ一流の経営人財です。篠崎さんは30代前半でこうした経営層と膝を突き合わせて働く中で、様々なことを学べたのですね。
篠崎:そうですね。経営層との日々の議論の中で、「経営者はどういった思考プロセスを持っているのか、その中でいかに意思決定を行っていくのか」を間近で見ることができました。また、私はそれこそが、経営人財として成長する上で重要な過程だと思います。学生の皆さんは、就職活動で「自分の会社は経営人財を育成する」という言葉を耳にするかもしれませんが、受け身でいるだけでは難しいと思います。実際に経営者の方のお話を真摯に聞き、自分が企業価値の最大化に貢献できることをやりつくす他に、経営人財に近づく道はありません。
「商社やメガバンクにできない仕事」インパクトとイノベーションの二軸で産業を強くする
──とはいえ、大規模な投資や経営陣と渡り合えるキャリアという面では、総合商社やメガバンクと同じような役割という印象を受ける学生もいるのではないでしょうか。「DBJにできて、商社やメガバンクにできないこと」という観点で違いを教えていただけますか。
篠崎:DBJは投資のスケールやインパクトはもとより、政府系金融機関として「中立性・公共性」を持ち、「イノベーション」を起こしていく点で、商社やメガバンクとは一線を画すると思います。例えば、大規模なプロジェクトにおいて、商社は『Same boat』と称するように投資から経営まで一貫してコミットできますが、企業として相手方をグループ傘下に取り込む買収形態も多く、結果として元々の企業・人が財閥グループの色に染まっていくことがあります。
メガバンクはスケールの大きなファイナンス案件が多いものの、案件組成の過程において収益最大化が重視される傾向は強いかもしれません。その点、DBJは収益面でも結果を残すことは当然ですが、組織の有する中立性に基づき、幅広く多様な企業と取り組みをしていきます。この特色は、パートナー企業を巻き込んだ新規プロジェクト案件などにおいて、色濃く現れていると感じています。
──なるほど。最近の事例では、燃料電池自動車(FCV)向けの水素ステーション整備を目的とした新会社設立が代表例ですね。パートナー企業には、大手自動車メーカーや大手エネルギー企業などがそろい、DBJは業界内の競合他社同士を結びつけたプロジェクトの旗振り役となっています。では、公共性の観点ではいかがでしょうか。
篠崎:DBJは、企業支援への社会的な意義を考えた上で『公共性』と『収益性』の両輪を同時に検討・追究する組織です。一方の商社やメガバンクは、収益性を確保した上で公共性の担保を考えるアプローチが多いかもしれません。DBJでも『収益性』の実現は重要ですが、同時に『公共性』も模索し続ける組織です。そのため、案件の検討を通じ、今まで予想し得なかった「イノベーション」も生みやすいのです。実は、日本において、『事業再生』や『PFI(※)』などの先進的な金融アプローチを最初に導入・具現化していった組織がDBJです。業界の先駆者としてもDBJの存在は大切であり、常に「イノベーション」を起こしうる組織であるとも言えます。
(※)PFI……「国や地方公共団体等が直接実施するのではなく、民間の資金・経営能力を活用することにより、効率的かつ効果的に公共サービスを提供する事業(参考:内閣府)」
──それは興味深いです。案件によっては、公共性を模索することでイノベーションが生まれることもあると。では、公共性の特色がある具体例を教えていただけますか。
篠崎:地方での案件は、公共性を大切にするDBJの特色が現れている事例だと思います。例えば、DBJは地方で行われる花火事業に対して投資を実行しています。案件規模こそは決して大きくありませんが、ソフト面の投資効果が非常に大きいと判断し、支援をしています。この投資によって地域では、国内外からの花火による観光客の増加、地域経済の活性化などの恩恵を受け続けることが可能でしょう。自治体や企業との調整は大変ですが、『産業・地域をより良くしたい』というDBJの精神のもと、理解を得られるまで粘り強く交渉を続けた結果がこうした形で生まれていきます。
投資に関わる以上は収益を実現することは必要ですが、こうした投資リターンに関する哲学の違いも、商社やメガバンクと異なるポイントでしょう。我々は、『公共性』と『収益性』の両立のために、質の高い議論をいとわない組織です。そこには、「縦割り」も「年功序列」もなく、自由闊達な風土があります。
──DBJにおいては、事業を成功させた上での公共性の実現も、投資におけるリターンと捉えているのですね。
「薄給激務」とは言わせない環境がDBJにはある
──ここからはDBJでの働き方、具体的には若手社員のキャリアパスや給与・福利厚生に切り込んでいきたいと思います。政府系機関の働き方に対して、一部の学生は「薄給激務」「ビジネスパーソンとしての成長速度が遅そう」という印象を持っているようです。実際に働くお立場から、それぞれの論点についてご意見をお聞きします。まず率直に、給与面などの待遇について伺えますか。
篠崎:DBJは「人財開発銀行」となることを目指し、『人への投資を惜しまないこと』をモットーにしています。給与面の待遇を十分な水準にすることは言うまでもなく、近年では人財開発投資にも注力し、職員一人当たりの研修費用を日本国内において最高水準に引き上げようとしています。
ここまで来ると、激務なのではと思われるかもしれませんが、同時にワークライフバランスへの支援も充実させています。私自身も二人の子供がいますが、妻の出産には二回とも立ち合っていますし、育児休暇も取得しています。
──行員の働く環境や制度を整えていくこともまた、一つの『投資』ということですね。ビジネスパーソンとしての成長についてはいかがでしょうか。DBJではジョブローテーションを実施していますが、近年「ジョブローテーションは専門的なスキルが身に付きにくい」と敬遠される傾向もあります。
篠崎:まずジョブローテーションに関しては、私も最初は身につくスキルを重視していたので、学生の皆さんの気持ちはよく分かります。しかし、スキルは目に見えやすい反面、陳腐化しやすいものです。そのため、例えば現在の投資分野であっても、主流となるフレームワークや実務スキルは数年単位で移り変わっていきます。
今後はその変化スピードも一層早くなるでしょう。自身の可能性を広げるためにも、焦って小手先のスキル習得に走ることはおすすめしません。むしろ、事業のトレンドが変遷しても必ず役に立つ「基本」を大切にしてほしいですね。例えば、融資で必要となる審査力──「企業・人を見る力」はその一つです。今回は投資業務の話題が多くなりましたが、DBJで多くの若手行員が経験する融資業務には、「企業・人を見る力」を養える「生きたケーススタディ」が山ほどあります。
──DBJでさまざまな「イノベーション」に触れてこられた篠崎さんならではのご意見ですね。近年のスキル志向の高まりに対する一つのアンサーだと感じます。
篠崎:ジョブローテーションの恩恵はそれだけではありません。DBJがいわゆる「縦割り組織」にならず、スピーディーかつ柔軟に案件を進められるのも、少人数かつ部門横断的な組織体制の中で「戦略的」にローテーションが行われるからです。DBJは数万人の社員を抱えるメガバンクや商社とは異なり、行員数が1,200名前後と少数精鋭の組織です。その中でそれぞれの人財が数年おきに多様な部署を経験することで、各部署の動きを把握したり、仕事をする上で必要となる人脈・ネットワークを形成できます。
私も入行10年間で5つの部署を経験しました。毎回新しいことの勉強から始まりますが、結果として組織の動きが体系的に把握しやすくなり、仕事も進めやすくなります。最近では、Engagementという言葉をよく耳にする方もいるかもしれませんが、戦略と組織をAlignment(合致・調和)の度合いを高める(Saïd Business School, University of Oxford Jonathan Trevor教授・Barry Varcoe研究員による理論)、というアプローチも重要であり、その為に戦略的なジョブローテーションが機能する、ということになります。
メーカーの再編、AIの台頭、Fintechの隆盛……。DBJが欲しいのは、「このままでは世界・日本が危ない」と思う君だ
──インタビューも終盤に入りましたので、DBJの新卒採用についても教えてください。19年卒の採用にあたり、求める学生像はありますか?
篠崎:昨今の大手家電メーカーの再編、AIの台頭、Fintechの隆盛などに触れて、「今こそ世界・日本の産業を変革しなければいけない」という強い思いを持っている人、何らかの熱い思いが湧いてくる人は、DBJに向いているはずです。
社内では、常に「この事業は世界・日本で本当に必要なのか?」、「DBJが関わることに意義があるのか?」といった、ある意味『青臭い』話を、若手もベテランも関係なく徹底的に議論します。そのために、「問題意識を自分ごととして考え、何とか良くしたいと思える人」がDBJには向いていると思います。そして、これからはそうした「思い」を「行動に移すことができる人」もDBJには必要になっていくのではないでしょうか。
──内定者の内訳についても伺います。グローバルベースでも拠点を持ち、海外案件も多いDBJですが、やはり内定者には語学力や留学経験を持つ学生が多いのでしょうか?
篠崎:そのようなことはありません。総合職の内定者のうち、入行時点における留学経験者は全体の2割にも満たないはずです。私自身も入行するまで海外に縁があったわけではありませんし、当時の総合職同期の中で留学経験は数人程度だったはずです。そのため行員の多くは入行してから、社費留学を含め海外との接点を持つことができます。実際に、私の同期は、現時点で3〜4割程度は海外留学を実現していますが、多くの人間は、入行当初の英語力は高くありませんでした。本人たちの努力とDBJの支援の両面があって、英語力が向上したのだと思います。
また、これからは海外のトップビジネススクールと戦略的に提携しながら、新たな育成プログラムを構築し、可能な限り多くの若手に早いタイミングで海外を経験させていく予定です。
──最後に一言、就活生へのメッセージをいただけますか。
篠崎:未来は皆さん次第です。ぜひ自分で限界を決めずに、いろいろなものを受け取り、感じてください。
私が師事する能楽師の武田文志先生は、多くの大曲に異例の若さで挑戦し続ける方ですが、ご自身の先輩の言葉を引用し、「人生は一生未完なり」とよくおっしゃいます。これは『何歳になっても自分の成長は終わらないと考えるべきであり、修練を止めてはならない』という意味です。武田先生のお言葉のように、DBJという企業も、特定のスキルやキャリアだけを与える場所ではなく、常に行員が成長を止めずにいられる会社であり、自由な発想を発信しながら、世の中に「イノベーション」を起こし続ける組織でありたいと思っています。そのための『自由な議論』が行える環境が現在のDBJにはあることを強調させてください。
次に、私の留学先のケンブリッジ大学MBAの先輩に、岡部恭英(おかべ やすひで)さんという方がいらっしゃいます。この方が常々おっしゃっているのですが、「成長のためには場所を変えることが最も大切」です。あえて、場所を変えて、自分をComfort(安定的)な場所から移すことで、更に大きな成長曲線を実現することができます。会社においては、異動でも出向でもいいし、留学などは特に有用な機会かもしれません。DBJは、戦略的なジョブローテーション、出向などの機会を通じ、皆さんにそうしたチャンスを惜しまずに与える組織です。そして、そのチャンスをつかみ取るのは皆さんです。
ぜひ未来の世界・日本の産業を、一緒により良い方向へ変えていきましょう。イノベーションを実現しながら産業を支援し、地方も日本も、そして世界も良くしたい人をDBJは待っています。
──篠崎さん、本日はありがとうございました。