こんにちは、ワンキャリ編集部です。
日本を代表する総合商社7社が一堂に会する特別企画「総合商社の採用戦略」。
今回は伊藤忠商事で採用責任者を務める、人事・総務部長代行 兼 採用・人材マネジメント室長 澤瀉(おもだか)さんにお話を伺いました。
伊藤忠商事の採用戦略 押さえるポイントはここ!
・好決算の背景は強みの「非資源」「中国・アジア」。コンビニなどリテール分野に勝機あり
・脱スーツや朝型勤務、制度の狙いは「働きやすさ」ではなく「お客様目線」
・見たいのはキラリと光る個性。面接では「好きなこと・自信のあること」を堂々と語ろう
「社員1人あたり純利益1位」の実力。代名詞の非資源事業と中国・アジア展開はさらなる高みへ
——澤瀉(おもだか)さん、本日はよろしくお願いします。伊藤忠商事は総合商社の中でも「社員1人あたりの純利益No.1」として知られています。19卒の就職人気ランキングでも、上位に位置していますが、この背景には(1)好調な業績 に加え、(2)働き方改革や人事制度などの特徴的な施策 の2点があるのではと思っております。
澤瀉 久修 (おもだか ひさなが):伊藤忠商事 人事・総務部長代行 兼 採用・人材マネジメント室長。1991年入社。一貫して人事業務、特に海外処遇、人事制度構築、労務厚生関連に従事(ニューヨーク実務研修、ロンドン駐在の経験有り)。2013年から4年半、機械カンパニーの人事・総務担当を経て、2017年8月より現職。
——最初の質問として、それぞれの要因を詳しく教えてください。まず、業績面についてです。中期経営計画で掲げた「純利益4,000億円」は、2016年度の史上最高益(3,522億円)を上回る挑戦的な目標ですが、2017年度第3四半期(4月〜12月)決算をみると、前年同期比19%増の3,571億円と過去最高益を更新、通期見通しに対する進捗率も89%と、計画の達成はほぼ間違いないようです。この好決算の背景を伺えますか。
澤瀉:大きな要因は、伊藤忠商事の強みとする「非資源分野」と「中国・アジア分野」の高い成長性にあります。まず非資源分野でのホットトピックとしては、2016年9月の「ファミリーマートとユニーグループ・ホールディングスの経営統合」が挙げられます。ファミリーマートは伊藤忠商事の生活消費関連分野のバリューチェーンの頂点に立つ存在です。伊藤忠グループの総合力を発揮し、ファミリーマートの競争力向上に貢献するだけでなく、新たな動きとしてフィットネスジムやコインランドリーとの併設店のオープンなど、新しい取り組みにも挑戦していきます。コンビニをはじめ、消費者に近いリテール分野には、まだまだ「ビジネスの種」が転がっています。今回の統合で新たに伊藤忠グループの一員となったスーパーなどの総合小売(GMS)事業においては、ドンキホーテHDとの資本業務提携で、多様化する消費者ニーズへの対応や、より効率的な経営を目指します。これは社員の私から見ても「思い切ったな」と感じていますが、「新しいものが好きで、まずはやってみようという伊藤忠商事らしさ」の表れである気がしています。
——今年2月下旬から、傘下のスーパーマーケットの数店舗を、「MEGAドン・キホーテ UNY(ユニー)」というダブルネームの店舗として業態転換していくそうですね。タイムリーなニュースをありがとうございます。では、もう一つの「中国・アジア展開」についてはいかがですか?
澤瀉:2015年のCITIC・CPグループとの戦略的業務・資本提携をきっかけに、伊藤忠商事は従来から強みを持っていた中国でのプレゼンスを更に高めてきました。2017年11月には、中国消費者向け唯一の日本商品特化型越境EC(Electronic Commerce:電子商取引)サイトを運営するInagora(インアゴーラ)社に対し戦略的事業投資を実施しています。
中国のEC市場は情報化などインフラ整備の充実、政府による大々的な産業発展支援などを背景に世界最大の市場に成長し、中国向けの消費者に販売する越境EC取引市場も、2020年には約4兆円規模への拡大が見込まれています。一方で消費者にとっては模倣品、粗悪品の流通など品質の課題、また、日本の販売者にとっては決済・物流・言語・マーケティングなどの対応が難しく、消費者、販売者をよりスムーズにかつ安全に繋げられる仕組みが求められています。
「爆買い」という言葉に代表されるように、中国では日本製品に対して大きな需要があります。我々の強みとする中国でプラットフォームを構築し、需要の大きな日本製品を展開することで、新たな価値を提供できるのではないかと考えています。
——現在は好調な中国ビジネスですが、就活生の間にはチャイナリスクを心配する声もあります。その点、懸念はないのでしょうか?
澤瀉:確かに、チャイナリスクが全くないとは言い切れませんが、圧倒的な需要を持つ中国市場が引き続き成長市場であることは間違いありません。それに、私たちはCITICを中心に、地元企業と緊密に連携し、現地の情報をタイムリーに入手することができる。現地を知る事こそがリスク回避につながるのです。
現在、中国の政治体制は安定しており、国営企業であるCITICとしても、思い切って色々な協業に取り組もうという段階に入りました。かねてからCITIC/CPとの間で温めていた協業プロジェクトについても色々な手を打ち、障害を解決できる目途が立ったため、いよいよ始めるタイミングになりました。ぜひ皆さんにも、今後の動向に注目してほしいですね。
働き方改革は「働きやすさ」ではなく「お客様目線」「厳しくとも働きがいのある会社」の実現のため
——では、就活生の注目を集めるもう一つの理由である、各種制度についても伺います。伊藤忠商事では、特色ある取り組みがたびたび話題となり、昨年のインタビューでは「働き方改革」が大きなトピックとなりました。これらの施策には、どのような狙いがあるのでしょうか?
<伊藤忠商事 近年の制度・取り組み>
・朝型勤務制度:20時以降の勤務を原則禁止、朝8時以前の勤務は割増賃金と無料軽食を支給
→残業時間15%減少、電力使用量6%削減、温暖化ガス排出量8%削減
・会議削減:他社に先駆けて長時間の会議や資料の削減を実施
→会議回数は41%減、総会議時間は50%減
・健康経営:社員が健康状態を把握できるアプリを提供、専門家が生活習慣をアドバイス
・「脱スーツ・デー」:毎週金曜日をジーンズやスニーカー、ポロシャツなどの軽装で勤務可能に
澤瀉:そもそも、各種制度や取り組みの前提にあるのは「お客様目線」です。伊藤忠商事は同業他社に比べ少人数の会社(※)ですから、社員一人ひとりが若いうちから実力をつけ、成果を出す必要があります。経費削減や社員の働きやすさが第一の目的なのではなく、少人数でもお客様のニーズにしっかりと応えていく環境を整えるために、こうした取り組みを行っています。無駄な業務や会議を削るのは現場でお客様と話す時間を増やすため、朝型勤務や健康経営は持続的に社員の生産性を高めるためです。社員にとって「働きやすい会社」よりも「厳しくとも働きがいのある会社」「お客様や社会から必要とされる会社」を目指しています。
(※)三菱商事・三井物産比、約30%社員数が少ない
——顧客に喜ばれるよう、商人として高いパフォーマンスを発揮するための施策なのですね。一見すると意図がつかみにくい「脱スーツ・デー」も、同じような狙いがあるのですか?
澤瀉:ご認識の通りです。ジーンズやスニーカーでの勤務も可能になる「脱スーツ・デー」ですが、ただ社員に好きな服を着てもらうためではなく、お客様目線でTPOをわきまえながら、新鮮で柔軟な発想力、流行やニーズに対する情報感度を高めるために実施しています。こうした行動が、最後には仕事に、そしてお客様の満足度につながっていくと考えています。
——なるほど、興味深いです。目新しく感じられる制度や取り組みも、目的は商売の本質を追求することにあると。
澤瀉:そうですね。単なる利益目標ではなく、成長の質やお客様目線を軸とした働き方を重視することで、総合的な企業価値を上げることが大切だと私たちは考えています。その結果、厚生労働省の「働きやすく生産性の高い企業表彰」の受賞や東京都における「働き方改革ベストプラクティス企業」への選定につながりました。さらに、経済産業省と東京証券取引所が選定する「健康経営銘柄」に2016年、2017年と総合商社で初めて2年連続で選ばれています。
——企業価値の向上にさまざまな角度から取り組んできたことが、成果につながったのですね。
「早く一人前になってほしい」 採用担当は1〜3年目わずか5人
——観点を変え、そのような企業風土の中で活躍する人材像についてお聞きします。まず、若手の成長機会について、会社としてどのような体制が整っているか伺えますか。
澤瀉:先ほども申し上げた通り、伊藤忠商事は少数精鋭の組織です。そのため、新入社員や若手社員には「商人として早く一人前になってほしい」というのが会社としての想いです。業務の主導権もどんどん握ってほしいですし、海外出張や研修にも積極的に派遣していきます。
——具体的に、若手の活躍ぶりが伝わるエピソードはありますか。
澤瀉:例として、当社の新卒採用を主導しているのは1〜3年目の社員5名です。総合職の3人(1年目、2年目、3年目が各1人ずつ)と、事務職の2人(1年目、3年目)で、新卒・中途どちらも担当しています。今冬のインターンシップは、入社1年目社員を主担当として、企画の立案に始まり、当日の司会進行や協力社員への説明・準備なども含め、全て任せています。もちろん、わからないところや、手が回らないところには先輩や上司のサポートがありますが、基本的には新入社員が主体となっています。こうした経験を重ねていますので、成長スピードはかなり速いと思いますね。「これはダメ」「あれはダメ」ではなく、若手に挑戦する機会を与え、自由闊達に仕事ができる、これが伊藤忠の良い伝統だとつくづく思います。ただ、他商社さんが豊富な人員で採用活動をされている話を聞くと時々うらやましいと思ってしまいますが(笑)。
——採用の現場もまた、少数精鋭ということですね。では、その中で活躍できる社員像についても教えてください。入社27年目になる澤瀉さんから見て、「伊藤忠パーソン」に共通する資質は何だと思われますか?
澤瀉:新しいものが好きで、未開のものにチャレンジする気持ちを備えていることです。そして、たとえ失敗をしたとしても「何が失敗の原因だったのか」「どうすれば次は成功するのか」と考え続け、めげずにチャレンジしていく人が活躍していると思いますね。こうしたマインドが、今までお伝えしてきた事業や社内制度につながっていると感じます。私は一貫して人事畑を歩み、30年近く働いてきましたが、「惰性で働いている」と思ったことは今まで一度もありません。人事の仕事を通して、お客様と直接関わる商人(社員)たちを支える環境を提供していると自負しています。営業の最前線で活躍する社員たちの熱意を感じ、その働きをサポートしている点で、私も伊藤忠商事の「商人」の一人なのです。
——部署や部門を問わず、「商人」としての使命感や気概をもつ社員が成長を支えているのですね。
これまでの人生で培ってきた「あなたならではの個性」を思う存分語って欲しい
——インタビューも終盤です。伊藤忠商事の新卒採用についても教えてください。19卒の採用にあたり、求める人材像はありますか?
澤瀉:伝えたいことは今も昔も変わりません。伊藤忠商事が求めるのは、「現状に満足せず、壁にぶつかっても一度や二度の失敗では諦めずに前に進むことができる人」です。困難にも屈しない、強い気持ちを持った人と働きたいと思います。あとは、「とにかく個性に尽きる!」と思います。何か一つでもキラリと光るものを持っている人に来てほしいですね。面接では、気概や個性を見極めるため、自分が好きなことや自信を持っていることを堂々と発信できるかどうかを重視しています。ワンキャリアさんにも、弊社の選考体験談やハウツーが掲載されていますが、「書いてある通りに話せば内定できる」訳では決してありません。あくまで「自分らしさとは何だろう」と考えてもらいたいですね。
——個性という点では、内定者の具体的なバックグラウンドも気になるところです。
澤瀉:体育会出身、帰国子女で語学堪能などの学生の皆さんがイメージする総合商社っぽいバックグラウンドを持った内定者ももちろんいます。しかし、サークルやアルバイトなどの課外活動にのめり込んでいた内定者も多いですね。珍しいところだと、本気で歌手を目指して歌手育成学校に通っていたり、アイドル活動や模擬国連、英語ディベートに全力を注いでいたり、プロボクサーの資格を持っていたり。「◯◯さんといえば、◯◯をしていた学生だよね」とすぐにその人らしさが思い浮かぶ内定者が多いと思います。ちなみに先ほどお話しした3人の総合職採用担当のバックグラウンドはフィギュアスケーター、球場のビールの売り子、給食を食べたことのない帰国子女です(笑)。
——最後に一言、学生の皆さんへメッセージをいただけますか。
澤瀉:学業や部活など忙しいとは思いますが、「食わず嫌い」にならず、様々な業界のセミナーやイベントに、ぜひ多く参加してください。それぞれの会社の社員と接点を持つことによって、一人ひとりがどれだけ働きがいを感じて仕事をしているのかを、まずは自分の目で見て、耳で聞いて、感じ取ってみることです。その中で、「どのような人たちと一緒に働きたいか」、「どのような会社で働きたいか」を、悔いのないように選択してほしいと思います。就職活動を通して、マッチする分野や業界が見つかったのなら、そこで頑張ろうという「確固たる決意」につながるはずです。
その結果、弊社を志望して内定を掴み、そして入社後その決意を胸にイキイキと働いてくれたら、こんなにうれしいことはないですね。
——27年もの間人事に携わるプロとして、説得力のあるコメントをいただきました。澤瀉さん、本日ありがとうございました。
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