総合商社はいま、大きな転換期を迎えています。それは「資源から非資源へ」というビジネスモデルの大きな転換です。
今回は商社志望なら絶対に知っておきたいこのトレンドをザックリ解説します。
一体、何が起きているのか。
大手商社が資源から非資源の分野へ、ビジネスモデルの転換を加速させています。そうなった理由は、去年の日本経済に衝撃が走った「総合商社の下克上」です。
転換点となったのは2016年3月期。資源エネルギー市況の低迷が続いたことで、収益における資源分野の割合が高い三井物産と三菱商事が創業以来の赤字を出しました。一方、繊維や食品、機械など非資源分野に強い伊藤忠商事は初の業界首位に君臨し、総合商社業界のパワーバランスを大きく塗り替えました。
結果的に2016年3月期の連結純利益による5大商社ランキングは前年と大きく順位が変動した。三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、丸紅、住友商事という順だったのが、伊藤忠商事、住友商事、丸紅、双日、三井物産、三菱商事という並びに。
2017年度3月期に三菱商事が首位を奪還するも、市況に左右されない非資源分野の強化を目指す全体のトレンドは、この一件で大きく広がりました。
資源ってどれくらい不安定なの?
「なんとなく資源価格の変化は激しいと聞いたことはあるけど、実際に総合商社が大ダメージ受けるレベルなの?」と思う人もいるかもしれません。それでは実際に、資源価格ってどれだけ激しく値動きしているのでしょうか。
総合商社が取り扱う商品は主に原油や天然ガスのエネルギー資源、鉄鉱石や石炭などの鉱物資源に大きく分けられます。その中でも代表的な原油と鉄鉱石に関して見てみましょう。
グラフから、原油も鉄鉱石もたった2年間で価格が3分の1にまで下落してしまっていることがわかります。300万円で販売していた商品が2年後には100万円でしか販売できないという恐ろしい世界。しかもこの価格変化の原因は大体の場合は世界的なものなので、企業努力ではどうしようもありません。
総合商社は今まで、海外の資源ビジネスに大量に投資し、その資源を世界中に販売することで巨額の利益を上げてきました。ゆえに、売り物である資源の価格が大暴落してしまったら、大きな痛手をこうむることになります。つまり、資源分野の収益は資源価格の市況次第で大きく変動するので、収益がコントロールできないという危険な側面があります。
大手三社の非資源ビジネス
それでは、具体的に総合商社はどのような非資源ビジネスを展開しているのでしょうか。ここでは5大商社の中でも伊藤忠商事、三菱商事、三井物産の3社に絞って紹介していきます。
【伊藤忠商事】
伊藤忠商事は繊維や食品、機械などの非資源分野に圧倒的な強みを持っており、「非資源商社No.1」の地位を築いています。2016年度の非資源分野の連結純利益は3137億円。伊藤忠が生み出した利益全体の9割以上を占め、非資源分野に絞って言えば5大商社で他の追随を許しません。
今年度は悲願である連結純利益4000億円を達成できる見込みであり、岡藤社長は「4000億円というのは(三菱商事と伊藤忠商事という)商社2強時代にふさわしい水準だ」と語るなど、商社の新時代の幕開けに自信を深めています。
主な非資源ビジネスとしては、私たちのなじみのある分野ではこのようなものがあります。
繊維分野……国内最大手のジーンズメーカー「エドウイングループ」の子会社化
食品分野……アメリカの青果物大手「ドール・フード・カンパニー」の買収
小売分野……コンビニ大手「ユニー・ファミリーマートホールディングス」との経営統合
機械分野……外車ディーラー「ヤナセ(ベンツ、アウディ、BMWなどの代理店)」の子会社化
【三菱商事】
三菱商事は2016年3月期の当期損益が赤字に転落したことを受け、資源分野の資産を増やさず、非資源分野の資産を拡大する方針を打ち出しています。
抜本的な改革として、三菱商事は2017年4月から事業の分類を、「資源・非資源」から「事業系・市況系」に変更しました。要するに「その事業の収益がマーケットに左右されるかどうか」で分類したということです。2019年3月期までに、事業系・市況系の資産を7対3の割合に組み替えていく方針で、垣内威彦社長は「最適なバランスの実現を目指す」と述べています。市況が下がっても赤字を回避できる体制を構築に向けて、小売りなどの事業系に注力していくでしょう。
その一環として注目されたのが、今年2月に約1500億円を投入して行ったローソン子会社化です。もともと三菱商事はローソンの大株主であったものの、完全に傘下に入れることで非資源ビジネスの中核にコンビニ事業を組み込みました。6月にはローソンの社長に三菱商事出身の竹増氏が就任し、三菱商事との連携を強化しています。
【三井物産】
三菱商事と同じく2016年3月期の当期損益が創業以来初の赤字となった三井物産も、機械・インフラ、化学品などの非資源分野に1兆円以上を投じる予定です。過去最高だった2012年度は9割以上が資源エネルギーの利益であった三井物産ですが、2020年度までに全体の45%の利益を非資源ビジネスから生み出す方針です。
非資源を伸ばしていくうえで重視するのが、新たな成長分野と位置付けた自動車・交通、ヘルスケア、食・農業関連、リテール・サービスの4事業。2016年9月には、自動車向けプレス部品の世界最大手であるスペインのゲスタンプ・オートモシオンに470億円を出資し、自動車・交通の柱に育てようとしています。
ヘルスケア部門では、すでにアジアを中心に10カ国で50超の病院を展開しており、アジアのヘルスケア事業に強みを持っています。病院だけでなく次は医療用機械にも注目し、今年3月には血糖値自己測定器で世界3位のパナソニックヘルスケアに出資しました。
いかがでしたでしょうか。「資源から非資源へ」というビジネスモデルの大転換。
商社の選考に臨むうえで、商社業界の長期的トレンドは頭に入れておいて損はありません。
Presented by POTETO / Writer Kensho KUREMOTO